表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

94/108

89話 職場体験

カゲリちゃんと初めて出会ってから特に何も事件が起こらないまま数十日が経過した。


怪盗部に呼び出されたかと思えば私と部長の2人だけで私のコードネームを決めたり、度々ガードさんに話しかけられたりとか、あの体育館での事件以降レストをあまり見かけなくなったとか(どうやら2組の生徒達がレストと私を会わせないように動いてくれているらしい)、そんな小さな変化くらいしか無かったかな?


草人に関してはダンデや光妖精達に情報を集めさせてるけど、これと言った情報は中々見つからないし……


とにかく、何の事件も起こらないまま今日まで平和に過ごしてきた訳だけど……


なんと!


ついに!


今日の夜に!


リュユ理事長に頼まれて作っていた悪魔の人工精霊が完成するんだよ!!やったね!!


この人工精霊には学習知能も搭載しているから常に学習して進化し続ける、まさに最先端な精霊だよ!


(だからと言って、人工精霊か良からぬ知識を蓄えまくった結果、魔族と敵対する存在になるなんて事には絶対ならない筈だよ!……多分)


楽しみだなぁ…!ああ、早く今日の授業を終わらせて人工精霊を完成させたい!!名前は何にしようかなぁ…!




……が、朝食後に又々ヘル先生に呼び出しを食らってしまった私なのであった。




「ロイワ、また急に職員室に呼び出して申し訳無い」


「大丈夫ですよ。あの、今回はどういったご用件なのでしょうか…」


「そう畏まらなくて大丈夫だ。実はな……今日は上級生の職場体験の日だ」


「何で祭りは中止したのに職場体験は実施するんですか……?」


いや、それ以前に何故私に職場体験の話を…?


「あっ、もしかして私も上級生の職場体験に参加させられる……とかですか?」


「違う。ロイワには仕事そのものを依頼したいんだ」


仕事……?職場体験の仕事って……?


「この職場体験は文字通り、上級生達に各地の仕事を体験させる行事だ。

体験する職場は受け入れ先から自由に選択する事が出来るのだが、その中で特に技術関係の職場が人気でな」


「技術者の需要が高まるにつれ、技術を学ぶ学生も増えてきたんですね。世間では技術者になっておけば将来安泰、なんて言われていますよね」


一昔前までは技術者よりも魔術者の方が人気だったらしいけど、今の技術者ブームのお陰で一般人も魔法使いの資格を取得する為に塾に通うくらいには大人気になったよね。


「その通りだ。で、その所為で職場体験をする学生の監視や採点をする技術者が不足していてな……」


「……つまり、私に上級生の面倒を見て欲しいと言う事ですか…?」


「その通りだ。急で申し訳ないのだがな……高レベルの魔法使いを側に置いておかないと、例え魔法学校の生徒だろうが今のご時世では何が起こるか分からないからな……だからと言って全ての行事を中止にする訳にも行かないんだ。

因みに採点に関してはそんなに難しいものでは無いから、そんなに気を張らなくて大丈夫だ」


「成る程……」


上級生を監視する経験なんて滅多に出来ないし、折角だからこの仕事受けてみようかな……


「……あれ?今日って下級生は普通に授業ありますよね?私授業受けなくて大丈夫なんですか?」


「大丈夫だ。ロイワの為に今日の1年生の授業は全て魔法座学に変えてもらった」


「今日の授業全部座学なんですか!?」


確かに私は魔法座学を受けなくてもいいとは言われているけれど……私のせいでクラスメイトがとんでもない被害を……皆んなごめん……


「分かりました……その仕事引き受けます……」


授業を変えるにしても、もっと上手い方法があったと思うんだけどなぁ……全部同じ教科とか流石に極端過ぎない?


「ありがとう。では準備が整い次第、校内にある飛行場へ移動してくれ。そこにロイワが面倒を見る生徒が来る筈だ。必要なものは全てこの資料に記載されている、今回の仕事内容や学生のデータ等も記載されているからしっかりと目を通しておくように」


「分かりました!」


まさか1年生の私が先生に仕事を依頼されるとは思わなかった。

この世界では学業に支障を来さない程度なら仕事をしてもいいって話を聞いた事はあったが、まさか子どもに子供のお守りを任せるとは……まあいいか。



私は資料を一通り読み終え準備をしっかりと整えると、ゴーくんと小鳥を引き連れて飛行場へと移動した。




「えーっと、私が管理する人は……あっ、あの人かな?あの〜すいません」


飛行場のエントランスに到着した私は、資料の写真に写っているゴリラに近い猿人の男性を探し出し、目的の人物に向かってそっと話しかけた。


「あっ!初めまして!貴方が今回私達を管理して下さるロイワさんですね!

僕の名前はシダ、5年生で魔法使い検定6レベルです!」


シダさんは私を見た瞬間、私に向かって大声で元気よく自己紹介をしてくれた。元気なのはいい事だね!


「はい!宜しくお願いします!えーっと、今回は我が校から1名、他校の生徒1名、計2名で修理屋のラピスラズリで職業体験…で、シダさんはバイクに乗って職場に向かうんですね?」


「はい!この日の為にバイクの免許と市街地飛行許可証等、必要な免許は粗方取得してきました!」


おお!この人かなり真面目でしっかりしてる!

これならあまり苦労せずに職場体験を過ごせるかもしれない!


「分かりました。では、私はシダさんを後から追いかける事にしますね」


「はい!では行ってまいります!!」


下級生の私に対しても礼儀正しく返事出来るなんて、本当にいい子なんだなぁ……


「すいません、今から職場体験の為にロイヤルタウンのスリーロード方面に向かいたいのですが……」


シダさんは受付を慣れた手つきで済ませ、頼もしい足取りで飛行場へと移動した。


私も飛行する為にポケットからスポーツバイク(座席が付いた乗りやすい棒状のもの)を取り出し、ゴーくんをおんぶしてから軽く座席に座った。


「人よし!進行方向よし!エネルギー残量よし!これより浮上します!!」


バイクを出して一通り安全確認を済ますと、シダさんは全力でアクセルを踏んだ。



グルルルルルルルルルゥ!!!!



バイクから物凄い音がしたがバイク自体はピクリとも動かない。


「あ、あれ!?バイクが飛ばない!?何で!?!?」


「シダさん待って!!バイクのロック解除忘れてます!!」




約1時間後……




「申し訳ございません…僕、緊張すると大事な事が頭から抜けてしまう癖があって……」


紆余曲折あったが無事に目的地付近にある公園へと移動すると、シダさんが申し訳なさそうにしながら私に自分自身の弱点を打ち明けてきた。


「そうなんですね…」


危なかった…どうやらシダさんは安全確認は怠らなかったのだが、肝心な場面でつまづいたりすると軽くパニックを起こしてしまうようで……


(私とゴーくんが居なかったらどうなっていた事やら……まあ、何とか無事に到着出来て良かった……かな?)





「えーと、此処で他校の生徒1人と合流してから職場に行く予定だけど……」


(はぁ、まさか再びあの人と会う事になるなんて……)


私は改めて資料を見返し、その中にある1枚の写真を見つめながら深いため息をついた。



「失礼致します」


丁寧な挨拶と共に、身嗜みを綺麗に整えた白髪エルフの女学生が私達の前に現れた。


……私はこのエルフを嫌と言う程知っていた。


(ライム……!)


魔法使い検定の会場で私に絡んで来たレベル5の魔法使いだ。


技術とは程遠いタイプに見える彼女がこの職場を選んでいたとは…!


(って言うか、何で他校と合同で職場体験するの!?別の日にずらせば人手不足にもならなかったよね!?)



「お初にお目にかかります。『ロイヤル女学院魔法高等学校』から参りました『ライム』と申します。

『魔法使い検定5レベル』で、技術に関してはまだ至らない所も多々あるかと思いますが、本日は宜しくお願い致します」


「はっ、はい!宜しくお願いします!!」


私が心の内で叫ぶ中、ライムさんはシダさんに微笑みを向けながら丁寧で品のある自己紹介をしていた。


「フフ…そう畏まらなくても大丈夫ですわ。……あら?貴方は……ロイワさんではありませんか」


そして、ライムさんは私の元へと歩み寄り


「お久しぶりですわ、魔法使い検定で出会って以来ですわね。分からない事があれば私が先輩として手取り足取りお教えします。共に頑張りましょう?」


「は、はい……」


私に対しても綺麗な笑顔で丁寧に挨拶してくれたが…何か怖い……


いや、今回私は生徒達を評価する側だし、向こうも変な真似は出来ない筈…!


……ん?ライムさん、さっき私に対して『手取り足取り教える』って言わなかった?


「あっ、あの…!すいません!僕、ちょっと近くのミニショ(ミニショップの略)でメモ帳買ってきます!普段から携帯しているのですが、学校に置いて来てしまったみたいで…」


「あっ、それくらいの買い物なら大丈夫ですよ!」


「ええ、構いませんわ」


「ありがとうございます!定時までにはちゃんと戻ります!では!!」


シダさんは私達に丁寧に例を述べると、近くに見えるミニショに向かって足早に駈けていった。


「………ロイワ」


ガシッ!!


「なっ…!?」


シダさんが公園から走り去った途端、ライムさんが私の肩を思い切り掴んできた。


「貴方……もし審査員に真相を告げたら……分かっていますわね?」


「し、審査員……って?」


「先生から『学生の審査員が来る』と告げられた筈ですわよ?それすらも分からないようなポンコツと一緒になるなんて…!!」


えっ!?ひょっとしてライムさん、シダさんの事を審査員だと勘違いしてる!?


「いい?私の評価を下げるような真似をしたら……2度と表を歩けないような姿に変えて差し上げますわよ?」


残念ですが、現在進行形でライムさんの評価が下がりまくっています……


うーん、今此処で正体をバラしてもいいけど、そんな事をしたら今度は私に対してゴマすりを始めるだろうしなぁ……



よし!今回は平等に審査する為に、あえて正体をバラさない方針で行こう!



「返事をなさい。でなければ今此処で貴方を一撃で潰してあげてもよくってよ?」


下級生に対して非常に暴力的な発言、評価マイナス……と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ