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88話 カゲリちゃん

私達は近くのテーブルの椅子に向かい合わせに座り、改めてお互いに自己紹介をする事にした。


「私の名前は吸血族のロイワ、1年1組に所属してるよ。気軽にロイワって呼んでね」


「うん。ロイワ、宜しく」


「宜しく!で、私の隣に座っているのはゴーレムのゴーくんだよ。よく仕事とか手伝って貰ってるよ」


「ゴーくん、宜しく」


私の隣の椅子に大人しく座っていたゴーくんは、挨拶するカゲリちゃんに向かって右手を上げて応えた。


「ふふふ…ゴーくんって結構お喋りなんだね」


「えっ!?ゴーくん何か喋ってるの!?」


私ゴーくんが喋るなんて知らなかったんだけど!?


「うん。ゴーくんロイワの話を沢山聞かせてくれたよ」


「マジで…?」


ゴーくん、一体何を言っていたの…?


(いつか精霊の言葉が分かる翻訳機でも作って

みようかな……)


「じゃあ次は私の番だね。私の名前はカゲリ、幽霊族怪異で1年1組の生徒だよ。今まで通りカゲリちゃんって呼んでくれて大丈夫だよ」


「……ん?幽霊族…怪異…?」


「うん。怪異は幽霊に近い種族なんだよ。幽霊に似てるだけで幽霊そのものって訳じゃないから安心してね」


そうだったんだ……私、てっきりこの学校で彷徨っている亡霊なのかと……


「って、1年1組の生徒?カゲリちゃんもこの学校の生徒なの?」


「うん。私は夜の生徒として入学したんだよ。この学校は夜行性の生徒も受け入れているから……」


夜の生徒…確か少し前の朝のホームルームで、『この学校には朝型だけでなく夜型の生徒が居て、朝と夜で生徒が入れ替わっている』って先生が言っていたような……


「私、夜の生徒と友達になるの初めてだよ!」


「私も初めてだよ。寧ろ、ようやく同い年の友達が出来て嬉しいくらいだよ」


「ようやく?」


「うん。私は幽霊より存在感が薄いから、昔から物理的に友達が少なくて……」


「成る程……」


そうだよね……例え見える子が周りに居たからって、その子と友達になれるかもわからないし……


「…って事は、下手したら一部の先生にも認識されていないって事もあるんじゃ…授業は大丈夫なの?」


「大丈夫。私はある程度『精神術』が使えるから、精神術で無理矢理私を認識させてるんだよ」


『精神術』って言うのは、私が元いた世界で言う『妖術』と同じ術の事だよね。(私が元いた世界にあった妖術は架空のものだったけど)


「あっ、それって……もしかして、私と初めて会った時にも使った?」


「使ったよ。精神術はある程度時間が経ったら解けるようになっているから、普通の人は精神術の効果も、私と会った事も忘れちゃうんだよ。でも、ロイワだけは術の事も私の事も忘れなかったみたいだね」


何故忘れなかったんだろう?でも、覚えていたからこそこうやって再びカゲリちゃんと会えたし、友達になる事も出来たんだよね。



それから私達は、昼休み中(?)のカゲリちゃんと色んな話をして時間を潰した。



カゲリちゃんは優しくて良い子で、初めて私の前に現れたのも『困っていた私を助ける為』だったようだ。

だが本人は『偶然近くを通りかかっただけだから』と言って謙遜していた。めちゃくちゃ良い子だ……


で、やがて話題は旗取り合戦が中心となり……


「……で、レストが体育館の上に引っかかっちゃってさ……」


「それは災難だったね……」


「災難だったよ…何故かレストは私を恨んでるみたいだし……」


全く心当たりが無いから対処のしようも無いし……


「私、レストがロイワを恨んでいる理由分かるよ」


「えっ!?」


「何となく分かるんだよ。レストはね、学校で1番の魔法使いとして有名になりたかったみたいだよ」


「……えっ?」


「レストはとにかく有名になる為に『そこそこ有名で自分が1番になれそうな学校』を選んで入学したみたいだね。

だけど、『入学して直ぐに挑まれた精霊バトルでゴーレムに高威力の魔導砲を打たせたり』、『色んな倶楽部から勧誘が来たり』……そして『陣取り合戦にも参加して学園内で有名人になった』ロイワを憎んでいるみたいだね。

『本当は僕が有名になる筈だったのに、ロイワの所為で全て台無しになった』って思っているみたい」


「そこまで分かるの!?」


って言うか、それってただのレストの逆恨みじゃん!!


「うん。でね、今ロイワにはそのレストとの繋がりがややこしく絡まってる状態なんだよ。

この繋がりを切れば、ロイワはレストと一生関わらずに済むけど……どうする?」


「えっ?繋がりって切れるもんなの?」


「うん。私なら切れるよ。どうする?」


精神術、もといカゲリちゃん色々出来て凄いな……


「うーん……確かに切れるなら切りたいけど……でも、だからって険悪なまま終わるのも何かなぁ……って思ってさ……」


「ロイワ…レストの事を心配してるの?」


「心配って言うか……うん、心配だね。あの性格のまま大人になったら、将来大丈夫なのかなって……」


それに、あまり友達が居ないみたいだし……


「ロイワって優しいんだね。じゃあ、レストとの繋がりは切らずに解いておくね」


「うん、カゲリちゃんありがとう」


せめて少しでもレストとの関係が良くなればいいんだけど……


「はい、レストとの絡まった繋がりを解いたよ」


「えっ!?もう出来たの!?」


「物理的に解く訳じゃ無いからね。これでレストとの関係も何とかなると思うよ。さて、話の続きでもしよっか」




やがて、楽しい時間はあっという間に過ぎ……




「あっ、そろそろ休み時間が終わるみたい。ロイワとの話、凄く楽しかったよ。

あの…偶にロイワに会いに来てもいいかな?」


カゲリちゃんは時計と私を交互に見つめ、名残惜しそうにしながらもゆっくりと椅子から立ち上がった。


「いいよ!色んな話が出来て私も楽しかったし!」


カゲリちゃんを見送る為に私も椅子から立ち上がった。


「良かった…じゃあまた会おうね」


「うん!」


カゲリちゃんとの話、本当に面白かったなぁ……

あの世とこの世の境目にある町とか、精神術のコツとか、私の知らない話を色々聞けたし。


「あっ、最後に1つだけ……





ガードさんは草人の息が掛かっているから気をつけてね」




「……えっ?」


私は驚き目を見開いてカゲリちゃんを見つめたのだが、既にカゲリちゃんの姿は何処にも無かった。


「………とりあえず戻ろっか」



私はもやもやする脳内を無理矢理切り替えながら、作業を再開する為にゴーくんの手を引いて自室へと戻ったのであった。

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