87話 謎の少女再び
本来、私が装備していた帽子型の魔導具は相手の魔力に合わせてセキュリティレベルを調節してくれる……筈だった。
だが、レストは『魔力増幅具』と言う、文字通り使用者の魔力を増やす魔導具を所持していたらしく、何と私との戦闘の際に使用してしまったそうだ。
結果、必要以上に警戒してしまった私の魔導具がレストを体育館の梁に引っ掛かってしまい、旗取り合戦は一時中断してしまったのだった。
因みに私は先生方から事件に関して事情聴取を受けたけど特に何も言われなかった。
「あーあ、ついにレストがやらかしたのかよ……」
「最悪だ……レストの奴が他クラス相手にトラブル起こしやがった……」
「はぁ……レストはあの性格さえ無ければねぇ……」
1年2組の生徒達は体育館の隅に集まり、同じクラスのレストについて不満を漏らしていた。
「2組の子からレストの話聞いてきたよ。あいつ、入学する前からよく他の人とトラブル起こす問題児だったみたい。
この学校に入ってからは鳴りを潜めていたみたいだからあまり話題にはならなかったみたいだけど、それでも小さなトラブルはあったみたいだよ」
「寧ろ今までレストの存在を知らなかったのが不思議なくらいだよ……私、今日の今日までレストの事全然知らなかったし……」
「レストさん、ロイワを目の敵にしていたように見えましたね……」
「うーん……私、レストさんに恨まれるような事でもしたのかなぁ……?」
「いや、あれはどう考えても陣取り合戦に出られなかった妬みから来た恨みでしょ……」
「それもあるとは思いますが……」
私はカターとユリコと一緒になってレストについてあれこれ話し合ったが、結局何故レストが私に対して激怒した詳しい理由については最後まで分からず終いだった。
数十分後、リオは復活したがレストが不在のまま旗取り合戦が再会した。
自分の陣地の旗を持って全員で敵地に突っ込んだり(敵に旗を奪われなければ大丈夫らしい)、旗の位置が常に敵に見える事を利用して旗を持たせた囮を作ったりと、色々な戦法があって結構面白かった。
最終的に、1位は2組、2位は1組、3位が3組の結果となって旗取り合戦は幕を閉じたのであった。
「今日は物凄い人に目をつけられちゃったなぁ…」
行事を全て終え夕食も済ませた後、私は自室の技術室でゴーくんと小鳥と共に帽子の魔導具の整備をしていた。
「調節はこれで大丈夫かな……よし、これでもっと安全になった筈!」
また今日みたいにレストと戦う事があっても相手を怪我させずに止められる筈!……いや、出来るだけ戦う状況にはならないようにしたいんだけどさ……
「さて、次はお仕事の方でも……」
と、作業を変更しようと一旦机の上を軽く片付け……する手を止めた。
何かが居る
厳密に言うと此処には居ないようだが、妙な違和感を休憩室の方角に感じた。
「……ゴーくん、ちょっと休憩室行こっか」
私は整備し終えた魔導具を頭に被ると、違和感の正体を確かめるべく、ゴーくんと共に休憩室へと向かった。
「あっ……」
誰も居ない静かな休憩室に入った途端、奥から女性の小さな声が聞こえてきた。
声のした方を向くと、そこには1人の小さな人影が。
ミディアムショートの黒髪に真っ白な肌、私より少し背の低い黒いロングスカートの女の子。
間違いない、この子は私をガードさんから引き離し、喧嘩の事を教えてくれたあのカゲリちゃんだ。
(この子……人間や魔人と違う存在感が……いや、存在感があまり無い……?)
「おかしいなぁ、今人とは会わない筈なんだけど……ごめんね、私道に迷っちゃって……すぐ出てくから……って、これも分かんないか……」
「………カゲリちゃん、だよね?」
「えっ……?」
名前を呼ばれた少女は驚いて目を丸くし、固まったまま私をじっと見つめている……
「私の事が分かるの……?」
分かる……?まさか、この子って……
……いや、それよりもこの子には助けてくれたお礼を言わないと。
「うん、あの……朝の時に私を助けてくれてありがとう。あの時は凄く助かったよ」
私は少女と一定の距離を保ったまま、静かに少女にお礼を述べた。(何故だか分からないが、この少女には無闇に近づいたり急に大声で話し掛けたりするのは良くない気がした。)
「あっ……いや、そんな……ど、どういたしまして……」
少女は驚きながらも、(無表情のまま)照れくさそうに返事を返してくれた。
「あの時声を掛けてくれなかったら私、今頃どうなっていたか……あの、私カゲリちゃんと少しお話ししてみたいんだけど、カゲリちゃんは時間大丈夫かな?」
この子、少し怖いけど色々と気になるんだよね……
「あっ…ほ、本当……!?う、うん……!私も……ロイワとお話ししてみたい……!」
私がお話ししたいと口にした途端、カゲリちゃんは(無表情だったが)嬉しそうな声で誘いに応じ、私の方にスーッと近付いてきた。
(良かった…向こうは私と話をしてくれるみたいだ)
「ありがとう。えっと……立ち話も何だし、とりあえずその辺の椅子に座ろっか?」
「うん」
私に向かって小さく頷いた少女は、相変わらず顔は無表情に見えたのだが優しく微笑んだようにも見えた。




