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86話 口の悪い少年

旗取り合戦の会場である第二体育館の中へ移動した。


木製の広過ぎる会場の中央に目をやると、そこには『透明なドーム型の防壁』が出来ており、その周りにはほぼ1年生のみで構成された人だかりが出来ている。


「これは何の騒ぎだ」


「ヘル先生!」「それが……」「リオが…!」


ヘル先生に気付いた生徒達は次々と防壁から離れていき、ようやく防壁の中身を捉える事が出来た。



「リオ!!」


そこには、うつ伏せのまま床に倒れるリオの姿があった。怪我を負ってはいないが、服や髪が随分と汚れているようだ。


そのリオの前には、水色の髪に青白い肌をした顔の整った少年が、手に真っ白な剣を構えながら鋭い視線をリオに向けていた。こちらは汚れ所かシミ一つすら付いていない。



「残念だけど、僕には絶対に敵わないよ」


「くそぉ…!」


リオは顔を顰め、恨めしい視線を青白い少年に向けている。


「お前達!!何をしている!?」


「ああ、ヘル先生。僕は先程リオに勝負を申し込まれたので、素直に受け入れただけですよ」


謎の少年はヘル先生に微笑みを見せながら静かに剣を下ろした。


サァァ……


「壁が消えた!」「リオ!大丈夫か!!」

「ヘル先生!実はさっき…!」「レストが…!」


それと同時にドーム型の防壁が消え、周りに居た生徒達が口々言葉を発しながらリオの周りを取り囲んだり、ヘル先生に事情を説明しようとする生徒達で周りが更に騒がしくなった。



「ねえルーサ、物凄い騒ぎだけど一体何があったの?」


私は混乱する会場内を眺めつつ、隣にいたルーサにこの騒ぎの原因について尋ねてみた。


「うーん…これは何処から話せばいいのやら……ええと……休憩中に突然、何者かにリオの髪が切られたのが原因だよ」


「えっ!?髪を!?」


私はルーサの発言に驚き、クラスメイトに介抱されているリオの頭に視線をパッと向けた。


確かにルーサの言う通り、リオの長かった筈の髪がザックリと雑に切られていた。一部だけ切られた所為でかなり不格好になっている。


(獅子族の男は確か、髪が長い方が男らしいって認識があったような……)



「酷い……それはリオじゃなくてもめちゃくちゃ怒りそうだね……もしかしてあの、リオの前に居た青白い人がリオの髪を切ったから喧嘩になったの?」


「いや、本人は……レストさんは髪を切った事に関しては否定してるよ」


「え?否定したのに喧嘩が起きたの?」


「いや、否定だけならこんな事にはならなかったんだろうけどね……レストさんは否定と同時にリオを煽る発言をしたんだよ。リオ自身や、他のクラスメイトを悪く言ってね…で、その所為でリオが完全に切れちゃって…」


(もしかしてレストさんって人、あまり性格が良くないのかな……)


「僕達は必死に2人の喧嘩を止めようとしたんだけど、トス先生は『寧ろ今此処でやらせた方がいい』って言って、シールド有りで2人の喧嘩を認めて……」


「えっ!?美術担当のトス先生が!?」


(トス先生…あの優しそうな見た目に反して大胆な事するなぁ……)



「あれ?ロイワじゃん」


「陣取り合戦は済んだのですか?」


ルーサと今の状況についてあれこれ会話をしていたら、背後から現れたカターとユリコが私に話しかけて来た。


「あっ!カター!ユリコ!えーと……陣取り合戦は……とりあえず、3人ともこっち来て……」


私はルーサ、カター、ユリコを人目のつかない小さな道具部屋にこっそり誘い込むと、先程私が陣取り合戦で手に入れた金メダルを3人にそっと見せた。(私が金メダルを見せている間、私の隣に立っているゴーくんは3人に向かって誇らしげに胸を張って見せた)


「うわぁ!金メダルだ!!」


「紛れもなく本物ですね……綺麗……」


「ロイワ!まさか陣取り合戦に優勝したの!?」


「うん!今回の陣取り合戦は意外と早く終わったから、クラスのみんなを応援する為に体育館に来たんだけど……」



本当は旗取り合戦で大変な事になってるって話を聞いて駆けつけたんだけどね……



「そっか……ロイワ、あのレストって奴、めちゃくちゃ強かったよ」


カターは先程見せた笑顔とは打って変わって渋い顔になり、旗取り合戦についてポツポツと語り始めた。



「旗取り合戦の1試合目は1組と2組の試合だったんだけど……ほぼレストの独擅場って感じでさ、アタシら1年1組はあっという間に負けた。手も足も出なかった」


「レストさんはエリート学校出身との事で、この魔法学園に入る前から魔法の基礎を学んでいたらしいんです」


「うん…彼、試合始まる前から自慢していたね」


「だからなのか、レストは私達よりも遥かに魔法のレベルが高くてさ……」


「そうだったんだ……」


レストさん、めちゃくちゃ強い人なんだ……


「で、2回戦目が始まる前にリオとレストが言い争いからの喧嘩を始めてさ」


「リオはもの凄く怒って注意散漫にみえたのですが、綺麗な青い炎を正確に操ってレストにぶつけていましたよ」


「うん、リオの魔法も凄かったけど……アイツとは遥かにレベルが違い過ぎたよ。リオ、レストに為す術もなくコテンパンにやられてた」





「ああ、そうだったね。確かに彼は僕と戦ったが、あれはもはや戦いではなかった」





「誰!?」


突然、道具部屋の出入り口が静かに開かれ、室内に1人の少年が堂々とした立ち振る舞いで入ってきた。


先程リオの前で剣を構えていた、水色の髪に青白い肌をした顔の整った少年。


「あっ、貴方は……レストさん」


「おや、まさか初対面であるロイワさんにまで僕の名前が知られていたなんて……凄く光栄だよ」


レストさんは私に微笑みを向けながらゆっくりと近付いて来た。


「僕も君の事はよく知っているよ、中途半端にレベルが高い所為で周りから想像以上に慕われ、旗取り合戦から尻尾を巻いて逃げ出したロイワさん」


「……?」


中途半端…?逃げた…?レストさんは一体誰と勘違いしているんだ……?



「ん?どうしたんだい?図星を突かれて呆気に取られているのかな?」


「いえ、恐らく相手にされてないだけだと思います」


「それ以前に、憶測でモノを語るのは流石に良くないんじゃないかな…?」


「しかも初対面でそんな台詞吐くとか……アタシだったらとっくに無視してるよ」


ユリコとルーサとカターはレストさんの謎の話を指摘するが……


「フフ…言い訳は見苦しいだけだよ?」


駄目だ…レストさんと会話が通じていないようだ……


「あの……そもそもレストさんは何しに此処に来たんですか?」


「折角ロイワさんが旗取り合戦の会場に来てくれたからね、挨拶でもしようかと………ん?そのメダルは………




まさか、『陣取り合戦』の金メダル?」




レストさんが私の手元にある金メダルを発見した瞬間、明らかにレストさんの目の色が変わった。何だか嫌な予感……


「う、うん……そうだけど……私、旗取り合戦に出れないけど、代わりに陣取り合戦に出てみないかって言われて……」




「は……



はははははははは!!僕は招待されなかったのに君みたいな中途半端な失敗作があの陣取り合戦に呼ばれたって!?馬鹿じゃないのか!?!?」


先程まで余裕綽綽道具していたレストが急に荒ぶり出した。一体どうしたんだろう……


「まさかアンタ……陣取り合戦に呼ばれなかったのを根に持ってるの?」


「煩い!!黙れ!!そんな金メッキのメダルに何の価値がある!!」


荒ぶるレストは何処からともなく剣を取り出し、私に剣先を向けた。どうやらレストは怒りで我を失っているようだ……


勝手に私達の前に現れたかと思ったら暴言を吐きまくり、仕舞いには勝手に切れて私達に危害を加えようとするなんて……



「待って!僕達シールドを装備してないよ!?」


ルーサは慌ててレストに話しかけるが、レストは話を聞く様子は全く無く……



ヒュン!!



私達の前からレストの姿が消えた。



「げっ…アイツ、アタシ達を潰す気じゃん……」


「さっき合戦で見た!これ、急に姿を表して攻撃するやつだ…!これは不味いよ……!」


「怖い……!」


「皆んな!とりあえずゴーくんの側に!」


3人は恐怖に駆られながらも、私の指示通りに私から少し離れて立つゴーくんの周りに素早く集まった。


ゴーくんは両手を広げ、3人の周りに防壁を発動させた。これなら下手な事が無い限り、3人は怪我をしない筈……


「ロイワ、相手は急に姿を現すから気を付けて!」


「うん、確かに今は姿は消えてる……」


でも、私には丸分かりだよ!!


レストの姿は勿論の事、移動予測による先読み、更にレストをロックオンしているから、その気になればいつでもレストを拘束出来る!


更に帽子の魔導具に付いているセキュリティレベルを最小限に下げているから、今ならカウンター機能も働かない!これなら怪我をさせずに安全にレストを……



と、思った次の瞬間



【マスターへの強い敵意を感知しました。セキュリティレベルを引き上げます】



(………あ)


私が頭に乗せていた帽子の魔導具がレストの溢れ出る敵意を読み取り



勝手にセキュリティレベルが引き上がってしまった



(しまった…!!セキュリティが起動したらカウンター機能も自動で起動するんだ……!!しかもレベルがかなり上がっているから私に少しでも近付かれただけでカウンター機能が発動してしまう!!)


今下手に拘束したら、縛られたまま何処かへと飛ばされる可能性もあるし更に危険だから出来ない!!


このままじゃレストが危ない!!



「レスト!!私に近付かないで!!!」



「もう遅いよ!!」



鋭い怒声と共に憎悪で顔を歪ませたレストが私の頭上に現れ、手に持った剣を私に向かって振り下ろした



パーーーーーーーーーーーン!!!!




「うゎあああああああああああああああああ!?!?」



破裂音と共にレストは道具部屋の外まで飛ばされ、錐揉み回転をしながら広い体育館を勢いよく飛び、天井の梁に引っかかってしまったようだ。



少し遅れて、体育館は悲鳴や困惑の声で溢れ返り、再び会場はパニックに包まれた……



「しまった…私の警告が遅かった所為で…!!」


「いえ、今の発言は恐らく別の意味で使われたものだと思いますよ……」

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