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85話 謎の少女

『えーっと……し、勝負あり!!圧倒的な力により春チームが完全勝利しました!!』


試合が終わるのと同時に、私達『春チーム』はいつの間にかスタジアム内にあるグラウンドへと移動させられていた。



ざわざわ……ざわざわ……



スタジアムの客席に居る数少ない観客達はざわついている。


恐らく、先程行われた合戦の内容があまりにも訳分からな過ぎて困惑しているのだろう。


(そりゃそうだ…敵地に潜り込ませたゴーレム軍団を全部爆発させ、敵チームを陣地ごと消したんだからね…私も想定外だったよ…

あのゴーレムには色んな武器や技能を仕込んでいたのに……殆ど使用されなかった……)


パチパチ……


夏チーム、秋チーム、冬チームは恨めしそうな顔を私達に向けながらも、スタジアムに戻って来た私達に拍手をしてくれていた。




「勝利した春チームの皆様、どうぞこちらへ…」


私達はスタッフの指示に従い、スタジアムの中央にある台座の上へと移動した。


『えー、第3回陣取り合戦の勝者は『春チーム』となりました!おめでとうございます!!


勝利した春チームの皆様には金メダルが譲渡されます!』


「皆様、おめでとうございます!」


スタジアム内に響き渡るアナウンスが私達を祝福する。


私達の前に居たスタッフは掌大の綺麗な金メダルを箱から取り出すと、私達に1つずつ丁寧に手渡してくれた。


『優勝おめでとうございます!!今一度、陣取り合戦の勝者達に大きな拍手を!!』



パチパチパチパチ……!!






「か、勝った…」


表彰式が終わった後、スタジアムの廊下付近に移動した私は、未だに優勝した実感が湧かないまま、じっと手元の金メダルを見つめていた。



「なんだ、まだ此処に居たのか」



上から降って来た声にはっとして顔を上げると、私の目の前にはガードさんの姿が。


「あっ!ガードさん!ちょっと、まだ私が優勝した事が理解出来ていなくて……ボーッとしていました」


「確かに、今回の合戦は一瞬で決着が付いたからなぁ……でもな、こうして優勝出来たのは全てロイワのお陰だからな!」


「そ、そんな……!あの、ありがとうございます…!!」


ガードさんってめちゃくちゃ優しい人だなぁ…この人が今回の合戦のリーダーで本当に良かった…!


「あっ、そうだ。ロイワに少し聞きたい事があるのだが……」


「あっ、はい。何でしょうか」


「実は……アラを縛り上げている縄が外れなくてな……」


「……あっ」


しまった…!アラさんの縄外すのすっかり忘れてた…!


「今、技術部の部長と部員、先生が頑張って縄を解除しようと頑張っているようだが、縄が解除される様子が全く無くてな……あれはどうすれば消えるんだ?」


「分かりました!今すぐ消します!『拘束解除!!』」


パンパンパン!!


私はしっかりと言葉を発すると、その場で3回程大きな拍手をした。


「よし!今呪文を解除しました!これでアラさんを縛っている縄が消えた筈です!」


「何っ!?それだけであの縄が消えるのか!?凄いなぁ……」


「いやぁ…それ程でも……そうだ!そろそろ旗取り合戦の方にも行かなくちゃ!ガードさん、失礼します!」


皆んなを応援しに行かないと!今試合はどうなってるのかなぁ……


「あっ、ロイワ!少し待ってくれ!」


「はい?どうしましたか?」


「改めてお礼を言わせてくれ!今回の陣取り合戦に勝利できたのは、全てロイワのお陰だ!本当にありがとう!!」


「いやぁ…それ程でも……!」


ガードさん、私の事をめちゃくちゃ褒めてくれるなぁ……良い人だぁ……


「で、もしロイワが良かったら……今度俺と一緒に食事でもしないか?技術についてロイワから色々と話を聞いてみたいんだ!」


「ええっ!?」


まさかのお誘い!?まさか上級生からそんな事言われるなんて……!



「いやぁ、私にはそんな……」



と、言いかけた所で私は思わずピタリと言葉を止めてしまった。一瞬、ガードさんの顔に違和感があったからだ。


一体何なんだろう……



「ロイワ、大変だよ」



私が少し当惑していると、カゲリちゃんが私達の元に向かって走り寄って来た。


「あっ、カゲリちゃん。一体どうしたの?」


「1年生の旗取り合戦が大変な事になってるよ。ロイワ、早く会場に行ってあげて」


えっ!?会場で一体何があったの!?


「分かった!ガードさんごめんなさい!さようなら!」


私はガードさんに軽く別れの挨拶をすると、カゲリちゃんと一緒に旗取り合戦の会場へと向かった。






「此処まで来れば一安心」


カゲリちゃんと一緒にスタジアムから離れ、下級生の旗取り合戦の会場である第二体育館が見えた辺りで一旦歩みを止めた。


「カゲリちゃん、一体会場で何があったの?」


「喧嘩だよ。それも結構大きなやつ。それよりも、ロイワはガード先輩に何かされなかった?」


「いや、何も……ただ食事に誘われただけだよ。でも、食事のお誘いを断れて良かったかも。

よく考えたら先輩と2人きりで食事するのはちょっと怖いし……」


「そっか。ロイワ、ガード先輩には気を付けてね」


「……?ガード先輩に何かあるの?」


「まあ、色々とね……じゃあ、私は他に用事があるから一旦此処で別れよっか」


「うん!カゲリちゃん、またね!」


「うん、もし覚えていたら……」


「……カゲリちゃん?」


「ううん、何でもない。じゃあね」


「じゃーねー!カゲリちゃん、教えてくれてありがとう!」


会場に背を向けて走り去るカゲリちゃんに手を振った私は、目の前に見える第二体育館に向かって再び歩き始めた。



いやぁ、危ない危ない……もしあの場でカゲリちゃんが現れてくれなかったら、あのままガードさんと2人きりで食事をする約束をしてしまう所だった。


先輩と一緒に食事なんて…緊張しまくって碌に喋れなくて恥かくてだけだったよ……


良かったぁ、カゲリちゃんのお陰で……






………カゲリちゃんって誰?






ミディアムショートの黒髪に真っ白な肌、私より少し背の低い黒いロングスカートの女の子……



私にこんな友達は居なかった筈だ。



よく考えたらあの子とは初対面の筈だったのに、何故私はあの子の名前を知っていたんだろう……?


「………!?………!」


先程現れた少女について色々と考えながらも第二体育館の前まで移動すると、出入り口付近でぶつぶつと何かを呟くヘル先生の姿が見えた。


「くそっ!また彼奴は……!?」


「ヘル先生!!」


「……ん?おお、ロイワか。報道部から既に話は聞いているぞ、陣取り合戦では大活躍したそうだな」


「あっ、ありがとうございます…!って、今はそれ所じゃ無いです!!さっき旗取り合戦の会場で喧嘩が起こったって聞いたのですが…!!」


「会場?いや、会場では何も起こってないが……」


「あれ?」


何も無いの?おかしいなぁ……


でも、さっきの女の子は嘘ついているようにも見えなかったし……



「ヘル先生!大変です!!」



ヘル先生と会話をしていたら突然、第二体育館から物凄く慌てた様子のルーサがヘル先生の元に走って来た。


「ん?ルーサか、どうかしたのか?」


「実は……旗取り合戦が終わった瞬間、レストとリオが喧嘩を始めてしまって…!余りにも激し過ぎて僕達では止められないんです!!」


「何っ!?分かった、急いで会場に向かおう!」


「はいっ!」

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