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82話 陣取り合戦本番前

旗取り合戦と陣取り合戦当日……


「えぇーーーっ!?ロイ……」


「(カター、声が大きいですよ)」


「(あっ、ごめん……ロイワってあの『陣取り合戦』に参加するの!?)」


「(あの、その合戦については姉からの話でしか聞いていないのですが……あれはレベルの高い上級生しか参加出来ない筈では…?)」


休憩室で朝食を終えた直後、私が『陣取り合戦』に参加するとカターとユリコに告げた途端、2人から物凄く驚かれてしまった。


「(うん、ヘル先生から話があってさ……で、折角だから私も参加してみようかと思って…でも大丈夫だよ、参加者全員に身代わりシールドが配られるって話だからさ!)」


「(ロイワ……アンタって本当に凄い奴なんだね。思わず嫉妬しちゃったよ。同級生のロイワが出れるのに、何で私も出れないんだってね。でも……ロイワの腕ならきっと良いトコまで行けるよ。頑張りな、応援するよ)」


「(旗取り合戦と陣取り合戦の時間が被る為、直接見に行けませんが……私も心の中でロイワの事を応援してますから……)」


「(カター、ユリコ……ありがとう!私、頑張ってくるね!!)」


例の魔道具も無事に完成したし、念の為にゴーくんと小鳥、更にミニゴーレム達も改良しといたし…後はベストを尽くすだけだね!





自室でしっかりと身支度を整え、大きなキャスケットをしっかり被ると、両手でゴーくんを抱えながら陣取り合戦の会場である屋上に向かった。(ゴーくんは一応精霊なのであまり重くない)


「此方で合ってる…よね?」


別口にはそれなりに人が居たが、受付付近には全く人が居なかった。


確か陣取り合戦って参加者が30名にも満たないってヘル先生が言っていたし、今此処に人が居なくても何ら不思議ではないかな?


「はーい、陣取り合戦の参加者の受付は此方でーす!」


グラウンド側の出入り口の前に関所のようなものが作られ、其処ではキャビンアテンダントっぽい衣装を着たスザクさんが受付をしていた。


「あっ!スザクさん!おはよう御座います!」


「おっ!ロイワじゃん!おはよう!さあさあ、会場に入る前に合戦に持っていく荷物を全てこの机の上に出しちゃいなさい!」


「はい!」


私は両手で持っていたゴーくん、ベルトにぶら下がっていたミニゴーレム、ポケットから小鳥……合戦に持っていく物を次から次へと受付の机上に置いていった。


「うわぁ!沢山出てくるねぇ!!えーっと、他に道具は……んんん?もしかしてその帽子……」


「はい!この帽子も魔道具なんです!」


手に持っている道具を全て出し終えた後、私はそっとキャスケット帽を外してスザクさんに手渡した。


「おおお…!コレって呪文書だったんだね!随分とコンパクトに纏めて来たじゃん!!」


「えへへ…これ、空中に文字や記号を映し出す仕組みなんですよ。これならわざわざ本を開いたり持ったりしなくて済むので作業も早くなるかと…」


「うん!色んな機能も沢山付いているみたいだし、これは本当に素晴らしい発明だと思うよ!!

はい、これで受付完了だよ!!このチケットを持って元気よく合戦に行ってらっしゃ〜い!!」


「はい!ありがとうございます!!」


私は散らばった道具を持ち直してからスザクさんにお礼を述べると、目の前の大扉からスタジアム内へと足を運んだのだった。





『さあさあ今年もやって参りました!第3回陣取り合戦の開幕です!!今年はどのような攻防を見せてくれるのでしょうか!!』


客がまばらに入っているスタンドに司会の元気なアナウンスが響き渡る。


私は個人用の選手控え室に通され、室内にある『スタジアム内の様子を映す』大型テレボをじっと見つめながら、自分の出番が来るのを今か今かと待ちわびていた。



スタジアムの中心にある、綺麗に芝生が生えたグラウンド上には、この合戦のリーダーを務める4人の生徒が堂々と佇んでいた。



春の旗を持つ、ガタイのいいロン毛の赤獅子族の男。


夏の旗を持つ、青色の短髪に青色の翼を持った翼人の男。


秋の旗を持つ、綺麗な角が4本も生えている角人の女性。


冬の旗を持つ、長い金髪を束ねたエルフの男。



全員、凛とした面持ちで前を向いている。



どうやら今は選手のチーム分けをしているようで、4人のリーダーが順番にクジ…では無くガチャを引いていた。


巨大な装置に付いているハンドルを両手で回し、装置から飛び出して来た丸いカプセルを開けていく。


カプセルの中に入っている『選手の顔と名前が刻まれたプレート』を手に、喜んだり悔しがったりするリーダー達の姿が見えた。




……いやぁ、まさかこの世界でもガチャを回す姿を見る事になるなんてね……



あっ、今技術部の部長のアニーさんが選ばれたのが見えた。


アニーさんを引いた秋チームのリーダーは物凄く嬉しそうで、それを見た他チームのリーダーが秋チームのリーダーを少し恨めしそうに見ていた。



(もし私がガチャから出て、ガッカリされたらどうしよう……)


いや、別にガッカリされようが自分の仕事をこなすだけなんだけどさ!


でも、もし自分がガチャから排出されるなら少しでも喜んで貰いたいって思う気持ちもある訳で……


うーん、少し心配になってきたかも……


少し不安を覚えた私は、そっとテレボの画面を消した。



コンコン!ガチャ…



私の控え室の扉がノックされ、骨人の学生が室内に入ってきた。


「ロイワさん、全員のチーム分けが決まったので集合……あれ?もしかして君はテレボ見てなかったのかな?」


「あっ、すいません…リーダー達の爆死が怖くてよく見れませんでした…」


「爆死!?あんな儀式の何処に爆発する要素が!?」


「いや、何でも無いです…えっと、私は何チームでしたか?」


「ああ、君は春チームになったよ。僕が扉を閉じた後、再びこの扉を開ければ春チームの控え室に行けるからね」


(春チームって事は、あの真面目そうな赤髪の獅子の人が上司になるって事だね…)


「分かりました!」


「よし、じゃあ僕はこれで失礼するよ」



バタン…



……この扉を再び開ければ高レベルの先輩方が…うぅ、緊張してきた…!


「失礼しまーす……!」



ガチャ…



閉じた扉を再び開けると、目の前には『カラフルな花畑』や『綺麗な若木』が生えた広い部屋に囲まれた黄緑色の長机と、その机を取り囲む5人の上級生の姿が見えた。



「初めまして!俺の名前はガードだ!!君がロイワ君だな?」



先程テレビに映っていた『春チーム』のリーダーである赤髪の獅子族の男性『ガード』が、大きな声で挨拶しながら私に近付いて来た。


「はっ、はい!は、初めまして!!私、ロイワって言います!!」


「はっはっはっ!随分と緊張しているようだな!!そんなに畏まらなくて大丈夫だ!!」


「はい…!」


(この人、重々しくて気高い感じの人かと思ったけど……以外とフレンドリーなタイプなんだ……)



「小さくて可愛い〜!初めまして、私はララだよ!こっちのトカゲの人はゲッパって言うのよ!宜しくね!」


「……宜しく」


「はい!宜しくお願いします!」


頭から伸びる長いヒレ(?)が特徴の半魚人の女性『ララ』と、黒い蜥蜴の男性『ゲッパ』も私に挨拶をしてくれた。



「フン。ロイワ…俺達の足を引っ張ったら、例え下級生でも容赦しねぇからな」


椅子に座っていたミノタウロスの男性は、低い声でそう呟くと私をギロリと睨みつけた。


「はい!勿論、全身全霊で出来る限りこのチームに貢献して見せます!!」


「……出来もしねぇ事言ってんじゃねぇよ」



(……?私、この人にまだ私の力を見せていない筈なんだけど……


はっ!もしかして……!既に何処かで私の実力を理解し、その上で『上級生の役には立てない』と判断したのでは……!)



「ねえ、さっきからアンタうるさいよ」


ミノタウロスの隣に座っていた羊のような女性が、分厚い交換手帳を弄りながら(遠くの人と文章でやり取りが出来る道具)唐突にポツリと呟いた。


「アンタさぁ…さっきからこの子に好き放題言ってるケド、アンタはこの子の事何か知ってるワケ?」


「……は?何だお前…?」


「それはこっちのセリフだし。アタシ、何も知らない相手にそう言う事言える奴が1番イヤなんだよね」


「何だと!?お前俺に喧嘩売る気か!?」


「アタシ、1度も喧嘩売るとか言ってないケド?寧ろ喧嘩売ってるのはそっちでしょ?」


「テメェ…!!」


「ストップ!!アラ、一旦落ち着け!今のは先に喧嘩腰で絡んだお前にも非があるぞ!ムヨン、気持ちは分かるがもう少し穏便に頼む!」


「クソッ…」


「はーい、分かりましたー」


ガードさんはミノタウロスの男性と羊の女性の間に割って入り2人を説得し、なんとかこの場は収まったようだ。



「(ロイワ、ごめんね…アラって少しでも気に入らない相手がいると直ぐに暴言吐くタイプでさぁ…周りからも余り良く思われて無いんだよ)」


「(ララさん…いえ、下級生よりも上級生の方が戦い慣れてると思いますし、あの指摘もある意味間違ってはないかと…)」


「(ロイワって優しいんだね〜…いいんだよ、アイツの指摘に価値は無いから、とっとと忘れた方がいいよ)」




私はララさんと会話をしながら適当に近くの椅子に座った。



「さて、合戦が始まるまでまだ時間はあるが…そうだ、確かロイワは技術者で…合戦初心者でもあったな。ロイワはこの合戦において技術者がどう立ち回るのか知っているか?」


やがてこの場に居る全員が椅子に座ると、ガードさんが私に顔を向けて優しく話しかけて来た。


「いえ、陣取り合戦は初めてなので全く分かりません…」


「技術者は基本、仲間を呪文で補助をするのが役目だ。中にはえげつないトラップを作る奴も居るし、錬金術が使える人ならその場で砦やゴーレムを作り出す奴も居るぞ!

凄い人は大きくて頑丈な城を短時間で作り上げてしまうらしい」


「それはつまり…裏方で仲間を支援する感じなんですね?」


「そんな感じだな!で、ロイワはどれくらい呪文が使えるんだ?」


「えーっと…とりあえず色々と使えますが…錬金術で建物作れる程度には…ですかね?」


「ほう…!君は建物を作れるのか!」


「いや、建物作れると言ってもその場ですぐ作れる訳じゃ無いので!設計図を持ち込んでるので!

今日はこの日の為に、このゴーレムに色々と設計図を詰め込んで来たんです!」


そう言いながら私は、床に座り込んでいたゴーくんを机の上に引っ張り出した。


「このゴーレムに?そもそも精霊はパートナーと知識を共有している筈だから設計図など……ん?」


ガードさんは私からゴーくんを受け取ると、ぐるぐると回していろんな角度からゴーくんを観察し始めた。


「このゴーレム…やけに存在感があるな……あっ!?」


「うわっ!?急にどうしたんですか!?」


ゴーレムについてはスザクさんからは特にお咎めなしだった筈なんだけど…何か変な物でも見つけたのかな…?


「このゴーレム……もしかして改造済みなのか?」


ガードさんの一言に周りの上級生が少しざわめいた。


「あっ、はい。このゴーレムは既に改造済みで…まあ、自分で色々改造した結果、自立して自由に動けるようになったって感じです」


「何!?それは凄いな…!これを君が改造したと言う事は……



バァン!!



「いい加減にしろ!自分でゴーレムを改造だと?1年生にんな事出来る訳無ぇだろうが!!もっとマシな嘘つきやがれ!!」


突然、ミノタウロスが机を叩きながら立ち上がり、私に向かってズンズンと歩み寄ると、よく鍛えられた右腕を私の頭上へと大きく振り上げた。


「おい!止めろ!!そんな事をしたら……!」


ミノタウロスはガードさんの制止に一切聞く耳を持たず、私の顔面目掛けて思い切り拳を振り下ろした。



パーーーーーン!!!!



「うわぁーーーーーーーっ!?!?」


ミノタウロスの拳が私に少しだけ触れた瞬間、ミノタウロスは私の居る場所と正反対の方角に向かって勢いよく飛び、遠くの壁に深くめり込んでしまった。



「ああ、やはりこうなってしまったか…一応尋ねるが、アラを壁にめり込ませた元凶は一体何なんだ?」


「ああ、それはこの帽子に付けた『カウンター機能』ですね。これは敵意を持った相手が私に向かって攻撃をすると、その攻撃をそのまま相手に返してしまう効果があるんです。勿論私は無傷のままです」


今は範囲を狭めているから、私に触れたものしか跳ね返せないけどね。


「凄いな…ロイワ、色々と説明してくれてありがとう!」

(精霊の改造、錬金術、そして攻撃を完全反射するカウンター付きの装備……間違い無い!ロイワは技術者では無く技術師だ!今年の陣取り合戦は物凄い事になるぞ…!!)

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