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81話 陣取り合戦

少し長い休暇がようやく終わった。


「あっという間だったなぁ…」


自宅の扉から学校の自室へと(学校から支給された『扉と扉を繋げる鍵』を使用した)移動した私は、手に持っていた鞄を全てベッドの上に乗せ、中から荷物を取り出して周りに設置した。


ドササッ!


私の腰のベルトに丸まってぶら下がっていたミニゴーレム達が、ベルトから離れて床に着地すると、室内に散らばって簡単な掃除をし始めた。


テクテクテク……


私の後に遅れて自室にやって来たゴーレムのゴーくんは、車のラジコンと一緒に自室にある庭へ移動した。

多分、ラジコンを広い庭で走らせるつもりなのだろう。


(ゴーくん、すっかりラジコンにハマったなぁ……)




休暇中はいろんな事があったが、いい事も沢山あった。


私が初めて作成した人工精霊の小鳥を『最上級者向けデュラハンストア』で新たに購入した道具や部品を交えて改造した結果、小鳥が私の仕事を手伝えるようになった。これで更に私の仕事が捗るだろう。



更に、光妖精達が準備していた情報網インターネットが使用出来るようになった。


この情報網は主に、ありとあらゆるニュースをテレボやラジオよりも早くお伝えしてくれる。


だが、この情報網に寄せられる情報は『光妖精達の独断と偏見』によるものなので、情報を完全に鵜呑みにするのはあまりおすすめしない。


(美味しい料理店の情報や最近の流行も教えてくれるので、暇つぶしに見ているとあっという間に時が流れてしまう)




そして、光妖精やミュラー達の家であるタブレットを『呪文書』として使用出来るようになった。


光妖精達がタブレットに呪文書の中身をタブレットにインストールしてくれたらしいが…私はこれ以上に軽くて持ち運びが簡単な呪文書を開発している為、あまり使用する機会は無いだろう。



「さてと、午後の授業が始まるまで時間があるし、仕事でも……」

私が呪文書とタブレットを持って技術室へ向かおうとすると…


バササッ!


1体のミニゴーレムが私の足元に2枚の手紙を置いた。どうやらこの自室に手紙が届いていたようだ。


「手紙届けてくれてありがとう!えーと……」


1枚目の封筒の表紙には何も書かれていなかった。正体不明の封筒に警戒しつつ、呪文書を用いて中身を確認すると、中には怪盗部部長が書いたと思われる暗号が書かれていた。


どうやら5日後の夜5時に、ダンジョンの中にある怪盗部の部室へと来るように指示されているようだ。



2枚目の封筒の差出人はヘル先生からだ、手紙には「話がある。特に外せない用事が無ければ、直ぐに職員室に来るように」と書かれていた。


……私、ヘル先生に呼び出し食らってる?


何か職員室に呼ばれるような事をしたかなぁ……?


まあ、とりあえず先に職員室に行ってみようか…





「失礼します」


「おお、ロイワか。よく来てくれたな、とりあえず私のそばに来てくれ」


職員室に入ると、大きな机で作業をしていたヘル先生が私を手招きして呼び寄せた。


「そうそう、センチのデパートでは随分と世話になった、改めて礼を言わせてもらう。ロイワ、あの時は本当にありがとう」


「いえ、それ程…いや、ありがとうございます」


あの後、センチのデパートで起こった出来事はニュースで流れたし、これで周りのお店もしっかりと警戒してくれるよね!


「それで…ヘル先生、御用は何ですか?」


「ああ、ロイワ。実はな……いや、単刀直入に言おう。ロイワ……



今年の旗取り合戦は欠席してくれないか?」



「……欠席?」


えーっと、確か旗取り合戦は参加不参加を個人で自由に決められて……で、私は勿論参加する事にしていたんだけど……欠席って……



……えっ?私、今回の旗取り合戦に出ちゃダメって事?



「そう、欠席だ。ロイワは既にレベル10の技術師だ、そんな高レベルの学生が入学したばかりの1年生と戦ったらどうなるか……ロイワなら分かるな?」


あっ……


「後、1年生全員グローブ所持のロイワだけ装備無しで、1年生全クラス対ロイワで戦ったらどうなるかを占いの先生に占ってもらった所……ロイワが勝利する結果が見えたそうだ」


何なのそのメチャクチャな設定……


かと言って、参加する為に手加減するのも何か違うし……


「とにかく…ロイワは今年の旗取り合戦を欠席して欲しいんだ。その代わり……レベルの高いロイワには『陣取り合戦』に出場する権利が与えられるそうだ」


「はい、分かりまし……えっ?陣取り合戦?」


何それ?私、初めて聞いたんだけど……


「ああ。陣取り合戦とは、旗取り合戦より合戦色の濃い上級者向けの競技だ。


参加者を4つのチームに分け、4つに区切られた土地にそれぞれ配置し、敵チームと全力で勝負して貰う。合戦に持ち込む道具はある程度自由で、勝利条件は敵チームの大将を倒す事だ。


基本は4年生から7年生までの上級生の中から、戦闘関連のレベルが特に高い者が参加出来る。ロイワは1年生だがレベル10なので、特別に参加出来るそうだ」


「ええっ!?大将を倒すって…それ大丈夫なんですか!?」


「大丈夫だ。参加者全員に『ダメージを数値化する身代わりシールド』を装着してもらい、ダメージが1万を超えた参加者は強制的にリタイアになる仕組みになっているからな。攻撃は全てシールドが受けるから、余程の事が無い限りは安全だ」


「良かった……あの、持ち込む道具が自由って言うのは…?」


「手に持てるだけで、常識の範囲内の道具なら何を持ってきても大丈夫なのだそうだ。

これについてはルールブックを見た方が早いな。もしこの競技に参加するのなら、後でロイワの自室に送ろう。で、ロイワはどうするんだ?」


「私……参加します!私の力が上級生にどれだけ通用するのか試してみたいんです!」


いくら私がレベル10だったとしても、1年生と上級生とでは知識も実力も何もかもが遥かに違う筈……


それに、上級生相手なら私も心置きなく全力を出せるからね!逆に油断してたらあっという間にやられるだろうし……


「そうか…分かった。では、上には私から話をつけておこう。大会は旗取り合戦と同じ3日後だ、後で参加証とルールブックを送っておくからしっかり確認しておくように。話は以上だ」


「分かりました!では失礼しました!」


私はヘル先生にお礼を述べ、一礼してから職員室から出た。



陣取り合戦かぁ…何だか凄い競技に参加する事になっちゃったなぁ……不安なような楽しみなような……




………でも、初めての学校行事は同級生と一緒に参加したかったなぁ……




「ロイワ……話は聞いたぜ……!」


「うわーーっ!?!?」


驚いて背後を振り返ると、そこには真剣な表情を私に向けるリオの姿が。


「びっくりした……リオ、一体どうしたの?」


「俺はヘル先生とは別の先生に職員室に呼び出されてたんだ。だが、職員室に入る前にロイワと先生の会話を偶然聞いちまってな……

くそっ!俺もロイワみたいに旗取り合戦を欠席したかったぜ…!」


そこ張り合う所じゃ無いでしょ…



「でも、初めての学校行事だよ?私もみんなと一緒に参加したかったよ……」


「……」


「そうだ、リオはもう用事は済んだの?もし良かったら途中まで一緒に……」




「……ロイワ、一緒に学校のダンジョンに挑戦してみるか?」




「……えっ?」


「旗取り合戦の後日辺りに他の奴等も誘ってさ、みんなで博物館のダンジョンを攻略するんだ!

レベルの事もあるだろうから皆んな参加出来るか分からないし、学校行事よりは劣るかもしれないけどよ…それでも中々楽しいと思うぜ!!」


「リオ……」


もしかして、私を心配してくれてるの?


「まあ、俺も小学生の頃にちょっとトラブルを起こした所為で、一時期学校行事に参加出来なかった事があったからな、ロイワの気持ちは何となく分かるぜ」


そうだったんだ…でも、まさかリオがそんな提案をしてくれるなんて…!


「リオ、ありがとう…!」


「別にいいって!ライバルには常に元気でいてもらわないとな!」


「あはは…それでも十分嬉しいよ、ありがとう」


「……そうだ、俺も丁度話が終わった所だし、途中まで一緒に行こうぜ!俺は尞の自室まで行くけど、ロイワはどこ行くんだ?」


「私も自室に行くよ、じゃあ一緒に行こっか!」


こうして私とリオは、色々と会話をしながら一緒に尞へと移動したのだった。




「さて、3日後の陣取り合戦に備えて色々と完成させないとね!」

リオと別れて自分の自室に戻った私は、技術部屋に移動して作りかけの道具を完成させる作業を始めたのであった。

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