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78話 セレセルさんの妹

「まずは、私とリリハとの昔話をしましょう」

セレセルさんは正面にある透明なガラス壁に軽く触れながら目を閉じ、セレセルさんとリリハさんの昔話をそっと語り始めた。


「私の妹であるリリハは、私が生まれてから約1450周後に、枯れた大樹の中から誕生しました…」

「周……?」

「まだ学校で習ってなかったのかヨ?周は昔の年の数え方だヨ」

年……つまり1450年後って事か……

って、セレセルさんとリリハさんって物凄い歳が離れてるんだね…


「リリハと初めて会った瞬間、この子は私と同じ力を持つ大精霊だと理解しました。

既にこの世に存在する大精霊と同じ力を持つ大精霊は滅多に生まれません。そんな中でまさか私と同じ力を持つ大精霊と出会うなんて……この出会いに運命を感じた私は、大樹から生まれた大精霊に『リリハ』と名付け、私の手で大切に育てる事にしました


リリハはとても良い子でした。元気でとても明るくて、とても優しくて思いやりがあって、更に頭も良くて……リリハは本当に素晴らしい大精霊でした……」

「えー……リリハはそんなヤツじゃ

「ミュラー、何か言いましたか?」

「言ったヨ!リリハはそんな可憐な

「そうです!可憐で本当に素晴らしい!何処に出しても恥ずかしくない、リリハは私にとって理想の家族でした」

……色々と言いたい事はあったが、とりあえず最後まで黙って話を聞く事にした。



「ある日、リリハは目を輝かせながら『どの大精霊にも作れないような凄い人間を作りたい!』と言いました。私はリリハと力を合わせ、1体の大きな巨人を作り上げました」


「あっ…その巨人ってまさか……」


「そうです。リリハと共に作り上げた巨人は、此処に飾られている巨人なのですよ。しかし、あまりにも大きく作ってしまった為、この巨人は不完全なものとなってしまいました。


リリハは私に『いつか私1人で、この巨人に命を与えられるまでに成長してみせる』と誓いました。


やがて、旧大陸にカムヤナ人が現れ、カムヤナ人対魔族の大きな戦争が始まりました。


ですが、あまりにも一方的過ぎて最早戦争と呼べるものではありませんでした。


勇者の力は凄まじく、私達大精霊でも太刀打ち出来ない程でした。


私はリリハと共に魔族を安全な土地に避難させた後、私達も旧大陸から離れる為に移動していたのですが……カムヤナ人が旧大陸に何か罠を仕掛けた所為なのか、普段から見慣れている筈の森の中を上手く移動出来ずにいました。


そんな中、運悪く1人の勇者と出逢ってしまったのです……」





『こんなジャングルの中に軽装の女性が2人……いや、レンズの反応からしてお前達は例の大精霊様かな?』


『勇者…!もう此処まで……!?』


『リリハ、勇者1人なら簡単に巻ける筈です。私達も早く避難しましょう』


『うん!お姉ちゃん、分かったよ!!』




『へぇ……アンタ、大精霊様なのに逃げるのか』



『……!!』


『魔王の部下達は他の魔物を守る為に勇猛果敢に俺達にぶつかって来たのに、大精霊様であるアンタは何もせずに俺達から逃げるんだな。大精霊様ってやたら魔物達に慕われてるし……やっぱり魔物の神は魔物って事なんだな』


『……』


『….…リリハ、奴らの戯言に耳を傾けてはいけません。急いで避難を……』


『……貴方。さっきから魔物魔物って、まるで魔物を悪口みたいに使って……貴方は魔族の何を見てきた訳?』


『魔物が悪口みたい?違うな、俺は確かに悪口として使ったんだ。それすら分からねぇのか?いや、分からねぇか。だってお前は魔物の』


『全然分かってない!!アンタ達も魔族達も、何一つ違いは無いのに!!』


『リリハ!これは罠です!奴らと会話をしては……!』


『お姉ちゃん!先に行ってて!!私はコイツを一発ぶん殴ってから行くから!!』




「そう言うとリリハは、大精霊の力の全てを拳に込めて勇者に飛び掛かりました。


次の瞬間、リリハは勇者が持つ剣で真っ二つにされ……


勇者はリリハの姿、形が消えるまで何度も切り刻んだのです……」





「妹は最後まで他人を思いやる優しい妹でした。

そんな可愛い妹を……勇者は……私の目の前で妹を……家族を無残に殺したのです。

だから私は、私の妹の命が失われる切っ掛けを作ったカムヤナの民に復讐をする為に旧大陸に残ったのです……」


「一部の魔族は旧大陸に取り残された訳じゃ無くて、セレセルの側を離れたくないから旧大陸に残ったんだヨ」


「そうだったんだ……」

旧大陸に残された魔族達を心配して残った訳じゃ無かったんだ……



「勇者や謎の兵器を相手に戦う為、私はかつてリリハと共に作り上げた巨人を、長年の月日をかけて改造しました。

やがて改造が終わり、後は巨人に強力な魂を込めるだけとなりました。しかし、旧大陸には強力な魔力を扱える魂を持つ者は1人も居ませんでした。なので、新大陸に居る私の子供達に、強力な魂を持つ本物の魔法使いを旧大陸に送るように指示したのです……」



「そしてヘルとセンチは旧大陸に飛ばされたんですね。でも、巨人はまだ不完全なままですよね……?もしかして、失敗したんですか?」


「違います。私が巨人を……いえ、カムヤナ人に復讐するのをやめたのは……



ロイワ、貴方が現れたからですよ」



「……え?私?」



「はい。貴方は……話し方や仕草があまりにもリリハとそっくりだったのです。他人の為に自分の力を惜し気もなく使ったりする所も……」

「そ、そうですか……?」

私ってそんな良い性格なのかなぁ……?


「全然似てねーヨ」


「ミュラーには分からなかったようですが、私には分かりました。きっと神様がリリハを新しい姿に変えてこの世に送り出してくれたのだと……


この世に現れたロイワは、旧大陸に残った魔族達の境遇に同情し、新しい世界を作ってまで魔族達を助け出そうとしました。


ああ、やはりこの子はリリハの……いえ、例えリリハではなかったとしても、きっとリリハが私の暴走を止める為に使者を送り込んだのだと思い、私は復讐の為に巨人に魂を込めるのはやめたのです……


もし貴方が現れなかったら、私は巨人にヘルの魂を込めて、完全体となった巨人と共に、カムヤナ人が暮らす街や村を憎しみの限り破壊し尽くしていた事でしょう……」


そっか……セレセルさんはずっと私を通してリリハさんを見ていたんだね。


……もし私がこの世に来なかったら、この世界はどうなっていたんだろう。



「……セレセルさん。こんな辛いお話を最後までしてくれて、ありがとうございます」


「!、ロイワ……私の告白を聞いても尚、私を突き放さないのですね……私利私欲の為にロイワの友人の命を奪おうとしたこの私を……」


「いえ、許すって言うか……此処でセレセルさんを怒った所でどうにもならないですし、セレセルさんも大変な思いをしてたんだなって思ったりで……

何というか、色々と話を聞いて考えた結果、怒るのは違うなって思っただけです」


「……ロイワ、ありがとうございます。……私は暫くの間タブレットに戻らず、外の世界で旅をする事にします。では……」


セレセルさんは私達に頭を下げると、目の前からスッと姿を消した。



「……センチはこれを教える為に私を此処に誘ったんだね」


「うん。これだけはどうしても教えたかったからさ」


「……私、やっぱりヘルの為にセレセルさんに怒った方が良かったかな……?」


「いや、それについては気にしてないよ。ロイワってさ、どっちかって言うと結構温厚って言うか、沸点が低いって言うか…別の意味で良い子だよね。何となくこうなるだろうなって事は予想してたよ」


「そうなの?」


「うん。私はそんなロイワが大好きだよ」


「センチ……ありがとう。私もヘルとセンチが大好きだよ」


「……ふふ、ロイワと会話してたら怒りがどっか吹っ飛んじゃったよ。ねえロイワ、今日と明日は暇?もし良かったら今日は久しぶりに私のデパートに泊まってかない?最近私のデパートに豪華なお風呂屋さんが出来てさ、そこでは綺麗な景色を眺めながら優雅に温泉に浸かれるんだよ!!」


「ホント!?行きたい!センチのデパートにお泊まりしたい!!」


「パジャマやお泊り道具も全てデパートで揃えられるし、このままデパートに直行しても大丈夫だよ!そうだ、ダンデはどうする?」


「いえ、吾輩はこの後複数仕事をこなさなくはならないので、残念ですが……」


「そっか〜。分かった!!じゃあロイワ、このまま私と一緒にデパートに行こっか!!」


「うん!!」

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