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75話 邪神

一方、球体内部にて……



薄暗くて不気味な空間の中央に、植物のみで形成された不気味な祭壇が鎮座している。祭壇の中心には白いローブを身に纏った人物が座り込んでいる。


その白ローブの人物が乗った祭壇の周りを、茶色のローブを纏った緑髪のエルフ達が取り囲んでいた。



「順調にエネルギーが集まっているようだな……」


「恨み、妬み、嫉み…この大陸で生まれた負の感情…今日の今日まで集めたこの負のエネルギーを全てセーラー様に注ぎ終えた瞬間、セーラー様は完全復活なさる……!」



緑髪のエルフ達は、祭壇の中央に居る『セーラー様』が復活する瞬間を今か今かと待ちわびているようだ。



バァン!!



「大変です!!」



突然、奥にある両開きの扉が勢いよく開けられ、緑髪のエルフが大声を上げながら祭壇の周りに居る緑髪のエルフに走り寄った。


「おい、セーラー様の前だぞ!静かにしろ!」

「申し訳ございません…実は……この砦の周りに撒いた結界の要が倒されました…!」

「……ああ、この大陸に蔓延る害獣を模して作成した創造魔獣が潰れたのか。そんな事でいちいち騒ぐな。潰れた分は後でばら撒けば済む話だろう。で、何処の魔獣が倒されたんだ?」



「………全て、消えました」



「………は?」



「各地に配置した創造魔獣が……町ごと消えてしまいました……」



「なっ……!?」

「あっ…ありえないだろ!?」

「この大陸の勇者共や魔族共は今まで一体も創造魔獣を倒してなかった!いや、倒せなかった筈だ!何が起こったんだ!!」


緑髪エルフの報告に、周りのエルフ達はざわめいた。


「奴らが何をしたのかは分からんが…間も無くセーラー様が復活するんだ。もう創造魔獣は必要無い…放っておけ……」


「いえ…しかし……」



ボ ォ オ オ ン !!



緑髪エルフが更に報告をする前に、外から物凄い爆発音が響き渡り、建物内が激しく揺れた。



「なっ…!何だ!?一体何が起きているんだ!?」


「大変です!」


扉の向こうから別個体の緑髪エルフが現れた。


「今度は何だ!?」


「セーラー様へ注ぐ為のエネルギーを貯めているタンクが破壊されました!!」


「何だと!?まずい!このままではセーラー様が…!?」


報告を聞いた茶色ローブの緑髪エルフが慌てて祭壇に目を向けた。


祭壇の上で座っている白ローブの人物の身体がゆらゆらと大きく揺れ始めたかと思うと、白ローブの中にあった筈の人型は消え、白ローブのみが床に落ちてしまった。



「な、中身が…!!」

「ああっ!セーラー様!?」

「何て事だ……セーラー様が……!」

「早く修復を……!」

「無理だ!もうセーラー様は……」

「くそっ!一体誰がこんな事を…!!」







一方、ロイワとミュラーは……


「ヨッシャ!エネルギータンク破壊出来たヨ〜!!」

「ねえミュラー!?大丈夫なの!?これ本当に大丈夫なの!?」

「父さん……母さん……誰か助けて……」

旧大陸に浮かぶ謎の球体の内部にドラゴンと共に侵入した私達は、ミュラーの指示で、周りにある重要そうな魔道具や建造物やらを破壊して回っていた。



「何をする!!」

「これ以上神殿を汚すな!!」

「汚してるのはお前達の方だヨ!行けーっ!」



ゴォオオオオオオオオオ!!



ミュラーの号令と共に闇色ドラゴンが黒い霧を吐き出し、周りにいる緑髪のエルフ達の身体を包み込んでいく。


やがて黒霧が晴れ、先程まで緑髪エルフがいた場所に枯れた雑草の塊が現れた。


「鎧ドラゴン!やっちゃって!!」


バサササササササ!!!


鎧ドラゴンは、前に飛び出した緑髪エルフ達に向かって翼から鋭い刃物を飛ばした。


緑髪エルフ達は無数の刃物に切り刻まれ、体がみるみる内に小さくなっていき、最後には『バラバラに切られたしなびたマンドラゴラ』になってしまった。


「なんじゃこりゃ……植物?」



「うわーーーーっ!?!?!」



突然、背後から悲鳴が聞こえた。急いで振り返ると、サンナの首に太い木の根のようなものが巻きついていた。


木の根の正体は緑髪エルフの変形した両腕だった。緑髪エルフは鎧ドラゴンに乗っているサンナの首に必死にしがみついているようだ。


「くそっ!このっ!」


サンナは手に持っている黒いナイフで根っこを必死に切りつけているが、鈍い音が鳴るだけで、根っこには傷一つ付いていない。



「サンナさん!根っこから手を離して!!」


私はサンナさんの首元目掛けて剣を思い切り振り下ろした。


スパァン!!


首に巻きついていた根っこは綺麗に切れ、緑髪エルフは悲鳴を上げながら床に倒れ込んだ。


「サンナさん!大丈夫ですか!?」

「は……はい……だ、大丈夫……!っス……!」

「良かった……ねえミュラー、この緑髪エルフ達ってその辺の雑草から作られたものだったりするの…?」

「そうだヨ。この球体を作った奴がこのエルフ共を作ったんだヨ」

元があるとは言え新種のエルフを作り上げるなんて……それってまるで……



「さて、そろそろ探検ごっこも終わりにするヨ!総員、前方に向けて発射用意!!」


ミュラーが指示を出すと、闇色ドラゴンと鎧ドラゴンは前方に見える煌びやかな大扉に顔を向け、顔が裂けそうな程に口を開けた。



「総員、撃てーーーーっ!!」



ボ  ォ   ン  !  !



闇色ドラゴンの口から真っ黒な闇、鎧ドラゴンの口からは眩しい光が吹き出し、前方の扉を粉々に吹き飛ばした。2体のドラゴンが放ったブレスは部屋の内部にまで入ったようだ。


やがてブレスの勢いは弱まり、辺りは静寂に包まれた。周りを見回すと、先程まで大量にいた筈の緑髪エルフ達は何故か全て消え去っていた。



「よし!もう大丈夫だヨ!」

ミュラーはドラゴンを停止させると、少しヒビが入った床の上に思い切り飛び降りた。


私達もドラゴンを止めて砂埃だらけの床の上に降りた。


「雑草だらけ…さっきまで沢山あった魔道具も消えてるっス……」

「全部雑草に戻ったんだ……それにしても、此処にいたエルフ達は一体何をしていたんだろう……」

「申し訳無いっ…です……私も流石にそこまでは理解していなくて……この球体が生まれてから害獣が強くなったって事しか……」



「違うヨ。この球体は害獣と共に強くなったんだヨ」



「えっ!?」

球体が害獣を強くしたんじゃなかったの?

「ミュラー、そもそもこの球体を作った人は誰なの?」


「邪神だヨ」


「邪神がこの球体を作り、緑髪のエルフ共を生み出したんだヨ。邪神は別次元からやって来たばっかりで非常に力が弱まっていたけど、この大陸に蔓延る呪いをエネルギーに変え、やがて邪神はこんな球体を作り上げて宙に浮かべてしまうまでに強くなっていったんだヨ」


「そもそも、何故邪神がこの世界に来たの?」


「本来の世界に戻す為だヨ」

本来の世界……この邪神は植物を扱っていたし、自然溢れる世界に戻す為だったりするのかなぁ……


「……邪神はどうなったの?」

「完全復活は免れたヨ」

「そっか、良かった……でもさ、ミュラーがこんなに邪神に詳しいのならサンナさんを説明係として連れて来る意味は無かったんじゃないの……?」


「いや、サンナを連れてきた意味はあるヨ。サンナ!」


「はっ!はい!?」


「サンナはこの2体のドラゴンと共に魔王軍参謀本部に行き、『このドラゴンと一緒に邪神神殿を撃ち落とした』と報告するんだヨ」


私達のした事をその辺にいた軍人に押し付けたーーーーーっ!?!?



「……えええええっ!?!?そ、それって…!?わ、私なんかがそんな役割を……!?」


「ミュラー、やめてあげなよ……サンナさんが困ってるでしょ……」


「もし我々がした事だと思われたら後々面倒だからヨ、折角だからサンナに邪神神殿討伐の名誉をプレゼントするんだヨ」


面倒だからってその辺にいた軍の人に……サンナさん大丈夫かな……


「まあ、どう報告するかはサンナに任せるヨ。結末がどうなるかはサンナ次第だヨ〜♪」


「ひ、ひぃい……」


……ミュラー、サンナさんの反応を見て楽しんでない?


「……いや、やっぱり正直に言います!!他人の名誉を掠め取るような真似は自分のポリシーに反するっス!!ロイワ様だって自分の偉業を他人に取られるなんて嫌ですよね!?」

「いや、私は大自然感謝祭が再開してくれるのであれば名誉なんてどうでもいいけど……」

「そ、そんな……ロイワ様……」

「まあ、これは本人に任せるヨ。だが、もし此処である程度の成果を持ち帰らなかったら、後にどんなに努力をしようがお前は一生二等兵のままだヨ」

「えっ?それって……」

「じゃあ、我々はもう行くから後は自分で決めるといいヨ」



ガシッ!!



「……えっ?」

私はミュラーに力強く首根っこを掴まれた。

ま、まさか……


「次の目的地に向かってレッツゴーだヨ!!」



ビ ュ ン ! ! 



ミュラーは私を掴んだまま物凄い速さで飛んだ。



「うわぁああああああああ!?!?やっぱりぃいいいいいいいいい!?!?」



物凄い速さで神殿から飛び出すと、遠くに見える真っ白なお城目掛けて飛び去ったのだった……

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