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72話 続・精霊の世界

暗闇の中から女性の声が聞こえてくる……


〈お前は……この世の者では無い……〉


〈何故……此処に……〉


〈お前さえ……お前さえ……いなければ………〉


ジリジリジリジリジリジリ!!


「朝か………」

寝室内に鳴り響いた目覚まし時計のベルに起こされ、私はベッドから半身を起こした。

窓に掛かる赤色のカーテンを開けると、外から眩しい光が差し込んだ。


(はぁ…また変な夢見ちゃったよ……)


最近作業中に寝てしまい、更に変な夢まで見てしまうので「逆に眠ってしまえば変な夢は見なくなるのでは?」と思った私は、久しぶりにベッドで眠ってみたのだが……


(普通に寝てもダメだった…)


まあ、前に見た夢よりはマシだった……かな?


「もし何度も続くようだったら誰かに相談しないと……あっ!ノームの様子を見なくちゃ!」


『魔法のタブレット』を作成し、ノームをタブレットに入れてから1日が経過した。

もしタブレット内のノームが無事だったのなら、次はゴーくんをタブレットに入れてみるつもりだ。

(ゴーくんについては、私が見ている間だけタブレットに入れるようにしようかな…)


「さてと、ノームはどうなってるかな?」

簡単に身支度をした後、技術室に入り机の上に立て掛けてあった魔法タブレットを覗き込んだ。


『ノーム!もっと気合いを込めてクワを振り下ろすんだヨ!』

『フンッ!フンッ!』

画面にはクワを振り回して地面を耕す魔法の大精霊『ミュラー(幼女の姿)』とノームが映し出されている。



「………」

私は技術室から寝室に戻り、ベッドの中に潜り込んだ。






ジリジリジリジリジリジリ!!


「うん!今日もいい天気!」

寝室内に鳴り響いた目覚まし時計のベルに起こされ、私はベッドから半身を起こした。


「さーて、早く朝食食べに行こっと!」

私服に着替え、上から制服を装着した私は休憩室へと




「現実逃避してんじゃねぇヨ」

「うわぁああああ!?!?」


突然目の前に黒を基調とした最先端ファッションに身を包んだミュラーが現れ、私は思わず尻餅をついてしまった。


「ヤッホー!久しぶりだヨ!写真の仕上がりはどうだヨ?」

「え?」

「あ、間違えた。学校の生活には慣れたかヨ?」

どうやったらそんな間違い方をするの…?


「いや、学校に入ってからまだ数日しか経ってないんだけど……それより、ミュラーはこんな所で何してるの……?」


「ロイワが作った新居に入居しに来たんだヨ!」


新居……?


「ミュラー、私は建築家じゃ無いよ……今度は何と間違えたの?」




「間違いじゃ無いヨ。ロイワが作った新居ってのはタブレットの事だヨ。我はそのタブレットを新しい住処にしたいんだヨ!!」




「……え?えええええ!?!?タブレットの中に住みたいって……えっ?あの魔法タブレットって大精霊も入る事が出来るの!?」

「現に我が入り込んでただろうがヨ」

そうだった……さっきノームと一緒にタブレットに映り込んでたね……


いや、まさかあの小さなタブレットに大精霊も入れるとは……


「あの魔法のみで作成された世界…我にとって非常に快適だったんだヨ!って訳で……


我をそのタブレットの中に住まわせて欲しいんだヨ!


もし我を住まわせてくれたら、ゴーくんのお世話とかタブレット内の中の狂った環境の改善とか、色んな事を家賃代わりに色々やってあげるヨ〜」


「いや、あの……その………まあ、別にタブレット内に住んでもいいけどさ……このタブレットよりも住みやすい世界って他にあるんじゃない?ほら、リュユさんがに私が作ったタブレットの上位互換のやつを既に作ってそうじゃん?」


「あ〜……確かにアイツもロイワと同じヤツを作ってたけどヨ……あっちのは出来過ぎで逆に住み辛かったんだヨ。それよりもロイワが作ったコンパクトで超最先端で魔法のみのシンプルなタブレットの世界の方が遥かに住みやすいんだヨ!!」


「そうなんだ…」


「そう言う事だヨ!ヨシ、ロイワから許可も得られた事だし、我はタブレット内に戻るヨ〜」


「あ!ミュラーちょっと待って!!さっきタブレット内が狂ってるって言わなかった?」


「おう!狂ってたヨ!!環境の事を碌に考えもせずに世界を作った所為で川は氾濫し、植物は根っこから腐り、地面は崩壊したりと、散々な事になってたヨ〜!まあ、世界創造初心者あるあるってやつだから気にしなくてもいいヨ〜」


「いや、めちゃくちゃ気にするんだけど!?」


そもそもゴーくんの新しい住処として作ったのに、たった1日でゴーくんが住み辛い環境になってしまうなんて……


「まあ、言う事を聞いてくれるデカイ四大精霊さえ居れば環境は綺麗に整うヨ!我が精霊をこさえとくから心配する必要は無いヨ!」


「う、うん、ありがとうね……じゃあ、私はこれから学校行くから……」


「おう!気を付けて行ってらっしゃ〜い!だヨ〜!」



………どうしよう。私が作ったタブレット内に物凄いのが住み着いちゃったよ……






数時間後……


全ての授業が何事も無く終わり、自室に帰った私は上機嫌で技術室に向かった。


「よーし!今日は朝まで人工精霊の作業をするぞ〜!」

朝にミュラーがやって来てびっくりはしたけど……今日は本当に平和だったな〜!こんな日がずっと続けば良いのに!


私は上機嫌で技術室の扉を開けた。




「おかえりなさい、栄養価の高い食事を作って待っていましたよ」




??????????


「………セレセル…さん?何故此処に……?」

私の技術室の中で、私服姿の『自然の大精霊セレセル』さんがカラフルなサラダが入ったボウルを両手に抱えて待機していた。ま、まさか……


「私もロイワが作り上げた最先端の世界に住みたいのです」


やっぱり……


「1人で静かに暮らすつもりだったのに……こいつに我の居場所バレちまったヨ……」

技術室の隅にある本棚の上で寝転がっているミュラーが、不服そうな顔でセレセルさんを睨みつけていた。


「……ま、まあ…私の邪魔さえしなければいつまでもそのタブレット内に住んでも大丈夫ですよ……」


「ロイワならそう言ってくれると思ってましたよ。では、私はこれで」


スッ……


セレセルさんは持っていたサラダを机の上に置くと、側に立て掛けていたタブレットの中にあっという間に吸い込まれていった。


私のタブレットの中に大精霊が2人も……ああ、ゴーくんの住処を作っただけなのに、何故こんな事に……


「まあ、我だけの世界じゃ無いし……我もこのまま住み続けるヨ」

ミュラーは本棚からスルリと降りると、セレセルさんと同じようにタブレットの中へ……


「あ、そうだ。ロイワ、カターの念話石に細工をした犯人は捕まったヨ」


「えっ!?」


「どうやらロイワを「カターから情報を盗もうとした犯人」に仕立て上げ、退学に追い込もうとしていたみたいだヨ〜」


「ええっ!?何故そんな事を!?」

私、誰かに恨まれるような事はしてない……よね?


「ロイワを危険な目に合わせる為に、部員争奪戦を激化させた犯人はまだ捕まっていないけど……」

それも私を狙った犯行だったの!?


「大丈夫、相手はロイワの正体に気づいたみたいだし、これでもうロイワがトラブルに巻き込まれる事は無くなったヨ。

自分からトラブルに突っ込まない限りは平和に過ごせるから安心するといいヨ〜。じゃ、我もそろそろ帰るヨ〜!」


言いたい事を全て言い終えたミュラーは、私に背を向けると一瞬でタブレットの中へと消えてしまった。



【ロイワはこの世に居ても良いんだヨ】



ミュラーが去った後、タブレットにミュラーからの一言らしき文が表示され、サッと消えた。



………とりあえず作業開始しよう。

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