71話 精霊の世界
カターとリオが無事に合流し、仲良くなった2人にもっと試練を与えようとしたのだが……
「そろそろ授業が終わる時間だし?授業が終わっても1年1組の生徒が庭から帰ってこないって事態になったら色々と大事になるでしょ?」
とスザクさんに言われた為、残念だがリオ達には何もせずにそのまま森の奥に進ませ、無事に私とヘル先生の元まで辿り着かせて救出させ、授業も時間ぴったりに終わらせたのだった。(因みに、トレビアさんは「また何かあった時に役立ちそうだから」って理由でスザクさんに引き取られた)
まあ、簡単に説明すると『仲良し大作戦は時間に押されて終了した』と言う訳だ。
あの後、カターとリオは普通にお喋りしていたし…また何かトラブルが起きない限り、あの2人が喧嘩する事は無いだろう。
………………………………
小さくて小汚い料理店…ボロボロの裏口から料理店のアルバイトらしき獣人の男が、燻んだ灰色の髪を揺らしながらゆっくりと姿を現した。
獣人のアルバイトは、裏道で気怠そうに煙草をふかしている…
コツ……コツ……
そんなくたびれた獣人の背後に忍び寄る、身なりの良さそうな謎の白ローブの男が1人……
獣人が背後の気配に気付き、振り返った瞬間
ド ン ! !
謎の男から一本の触手のようなものが飛び出し、獣人の胴体を
「うわーーーーーっ!?!?」
私は自分の叫び声で目を覚ました。
………はっ!一体私は何を……!?
そうだ、確かあの後は普通に授業を終えて、晩御飯も終え、自室に戻って技術室に閉じ籠り、ゴーくんに手伝って貰いながら頑張って仕事をしていたんだった…(本当は私が作った人工精霊の小鳥も手伝わせる予定だったけど……上手くいかなかった。もっと人工精霊を上手く作れるようにして、いつか超高性能な人工精霊に改造するつもりだ)
って事は……成る程、私はまた作業中に寝てしまったようだ……
時計を見ると、時計の針は夜の8時丁度を指していた。
……途中で終わっちゃったけど、何か妙にリアルで嫌な夢だったなぁ…いや、夢ってたまにリアルな時はあるけどさ……
……そもそも何故私は大事な仕事の作業中に寝てしまったんだ……
ガチャガチャ……トコトコ……
私の周りでは掌サイズの銀色ゴーレム5体が、辺りに散らばっている金属片や小さなゴミを片付けている。
この小さなゴーレム達は、今日の授業でカターを足止めしてくれたあのゴーレム達だ。
授業が終わった後、こっそりと回収して小さな体を作ってあげたら物凄く大喜びしてくれた。
このゴーレム達は頑張って手加減しながらカターの相手をしてくれたからね!でも……
じーっ………
私はゴーくんの顔をじっと見つめた。ゴーくんも私の顔を無表情で見つめ返している……
ゴーくんは私の仕事を無料で手伝ってくれる。
(でも、ゴーくんにも何かしら仕事を手伝ってくれたご褒美をあげたいんだよねぇ……)
ゴーくんは唯の精霊だし、ご褒美が欲しいなんて考えないとは思うけど……でも、何もあげないのもなぁ……
……あっ、そうだ!ご褒美にゴーくんに家を作ってあげれば良いんだ!!
そう閃いた私は、部屋に掛けられていた鞄の中から一枚のタブレット型の装置を取り出した。
これは、沢山の本を簡単に持ち運ぶ為に作った装置で、装置内に取り入れた沢山の本の情報をいつでも簡単に検索して読める夢のような道具……
として活躍する筈だったんだけど……
(でも、前にこのタブレットに本の情報を入れようとしたら大変な事になったんだよね…)
だって、試しに魔法学の本の情報をこのタブレットに取り入れた瞬間……タブレット内に見た事無い程にバグりまくった森の景色が表示され、更に野良の精霊まで湧いてしまった。
後々タブレット内を詳しく調べた結果、タブレット内に生えた植物は本に記載されていた様々な『呪文』である事が分かった。
(つまり、このタブレット内には呪文の情報のみで構築された新しい世界が広がっていたんだ。この中で野良の精霊が飛び回っていたのなら、同じ精霊であるゴーくんも普通に活動出来る筈……!)
こうして私はゴーくんと一緒に、時間を忘れてタブレットの改造に没頭した。
数時間後……
「出来たーーーー!!!」
窓から眩しい朝日が差し込み始めた頃に、ようやくゴーくんのお家である『魔法のタブレット』が完成した。
ついでに、本来の使い道として作った『本の情報を取り入れるタブレット』も完成した。
(ゴーくんが手伝ってくれたおかげで早く完成した…!)
この『魔法のタブレット』は、取り入れた本の情報によって、タブレット内に色んな世界が作られる夢のような装置だ。
「最初は優しい本から世界を作ってみようかな?」
私は本棚の中から『良い子の優しい自然学・初級』の本を取り出し、本をタブレットの上に置き、情報をタブレットに取り込んでみた。
本の情報を入れた瞬間、タブレット内にまっさらな地面が生まれ、その地面に見た事の無い草花や石が生え、川まで流れ始めた。
「綺麗な場所……!」
僅か数分で、タブレット内には随分と過ごしやすそうな自然豊かな世界が生まれていた。
同時に野良精霊も生まれていたが、物凄く小さいので対して問題にならないだろう。
「早速、ゴーくんをタブレットに入れたい所だけど……試しに1日、他の精霊を入れて放置してみよっか」
試しに他の精霊を数分間だけタブレットに入れても、特に何も問題は無かったけども……精霊を長時間タブレットに入れても大丈夫か実験しておかないと……
私は実験台としてノームの精霊をタブレット内に入れ、1日だけ放置してみる事にした。
魔法のタブレット、上手く作動してくれるといいなぁ……




