69話 監視
リオとカターが合流する少し前に起こった出来事…つまり、トレビアさんを作成してから数分後の出来事。
トレビアさんが1年1組の生徒達にちょっかいを掛けに行っている間、私はスザクさんに教えてもらいながら、ゴーレムのゴーくんを改造していた。
「………でね?人間の知識には限度があるでしょ?」
「はい」
「だから人間と情報を共有させるより、精霊本体に大量の情報を詰め込んだ方が遥かに効率が良いし、簡単に最強の精霊を生み出す事が出来るんだよ!ロイワさん、此処までは分かるよね?」
「はい」
「……ロイワさん、さっきから上の空だね。やっぱりカター達が心配?」
「当たり前じゃないですか…何かの間違いで同級生が大怪我する可能性だってありますし……まあ、仲直り作戦を思い付いたのは私自身だけど……」
「まぁ、何やかんやであの子達はまだ1年生だしね〜。しかも入学したばかりだし。でも大丈夫!トレビアさんが適度に難易度変更してくれるし、私がいるから不慮の事故で大怪我してもすぐに回復出来るし!」
駄目だ……スザクさんの話を聞いていたら更に心配になってきた……
「……私、様子見に行ってきます!」
「もしかしてロイワさんが直接見に行くの?だったらロイワさんが作った人工精霊に監視させれば?」
「成る程…それなら私の正体がバレずに皆んなの様子を見れますね!じゃあ早速小鳥を……」
「いや、そっちもいいけどさ…折角だし、今ロイワさんが作成中の悪魔のやつを使ってみようよ」
「……えっ?それって…私がリュユ理事長に依頼されて作成している人型の人工精霊の事?」
「うん、それ」
「いや、流石にそれは……そもそも、これはリュユ理事…リュユ社長に依頼されて作ってる人工精霊ですし…!?その大切な人工精霊を、いわゆる私事で勝手に使用するのはどうなんですかね……」
「大丈夫!まだリュユの手に渡ってないからリュユのものじゃないしさ!……その人工精霊の動作確認の為に試運転してみるってのはどう?」
試運転って…この人工精霊に自我はまだ無いんだけど……でも、この人工精霊の身体がしっかり動くかどうかをテストするのは悪い事じゃ無いよね……
「分かりました。じゃあ、試運転でこの人工精霊に監視させてみますね」
私はポケットから人工精霊の情報が入っているカードを取り出すと、人工精霊を召喚する為に精霊石にカードを挿入した。
ヒュン!
私の目の前に、長身で渦巻き状の角が生えた長髪の男が姿を現した。肌が青白い上に、白目の部分が黒の悪魔らしい悪魔の姿だ……と、思う。(もしリュユ社長からの指示さえ無ければ、獣人で超ゴツい悪魔を作るつもりだったんだけどね)
もっと作り込めば、用途に応じてエルフの姿と悪魔の姿を使い分ける事が出来るようになるんだけど…今の所、この人工精霊は悪魔の姿にしか変化出来ない。
「おおーっ!これが今ロイワさんが作成中の人工精霊!」
「まだ中身は未完成ですけどね…」
「いやいや、結構良いペースで出来上がってると思うよ!では…人工精霊の悪魔!1年生を監視しに行ってらっしゃい!!」
「……まだ中身が出来上がっていないから、私がこの人工精霊を操作して監視しに行くんですけどね」
スザクさんに返事を返しつつ、私は精霊石を介して悪魔の操作を始めた。悪魔には既に周りの空間を把握出来るシルフの能力を入れていた為、1年生達が何処に居るのかは何となく分かった。
『………』
スタタタタタタタ……
悪魔は私達に背を向けて静かに走り出し、あっという間に私達の前から姿を消した。
スタタタタタタタタタ……
ゴーくんを改造しつつ、悪魔を操作して1年生の集まるグラウンドへと急いで移動する。
(足は結構速いけど、身体が少し動かし辛いかも。後で調節しとかないと……)
悪魔を操作し、常に悪魔が見ている景色が頭の中に入り込む上に、ゴーくんの改造までする私……更に、私にとって気になるものが……
『森の中に誰か居る…』
そう、森の中に1人の人間の気配がするのだ。
スザクさんの話では確か、私とヘル先生が敵役のトレビアさんに捕らえられたって設定で、グラウンドに残った1年生の誰かが私達の元まで辿り着けば、トレビアさんは私達を解放してくれるって話だった筈……つまり、今この森の中に入っているのは私達を助けに来た誰かって事?
でも、救助する人はトレビアさんが容赦なく邪魔をするって……たった1人で救助しに行くのは非常に危険では?
私は急いで1人で森の中を移動する人間の近くまで移動した。
(あっ!あれは……カター!!)
何と、1人きりで森の中を移動していたのはカターだった。カターは精一杯気配を消しながら、森の中を物凄い速さで駆けていく。
まずい……カターの行く先にゴーレムの群れが集まっている……!
『おやおや!男前な不審者が居るかと思えば、貴方はロイワ様ではございませんか!!』
『えっ!?』
カターを追いかけていると、突然、私の背後に見知らぬ男が現れた。私は驚いてその場に立ち止まり、背後を振り返った。
『やあ、初めまして!私はトレビア様により作られた精霊でございます!』
白いタキシードを身に纏い、虹色の髪をオールバックにした男……あの虹色の髪はまさか……
『……もしかして、トレビアさんの横を飛んでいた虹色の鳥ですか?』
『はい!私はトレビア様の命により、森の中に入り込んだ人間をあの手この手で邪魔をしているのですが……まさかこの場でロイワ様に出会えるなんて……!こうして出会えたのも何かの縁、もし宜しければ私に名前を授けて下さると嬉しいのですが……』
この人…いや、この精霊、めちゃくちゃ喋るなぁ……
『いや、名前をつける前にですね!今、カターがゴーレムの群れの中に……!』
『カター…とは、もしや先程この森に侵入して来た少女の事でしょうか?大丈夫!この私がゴーレムを操作しているのです、そうそう不味い事は起こりませんよ!』
『カター、大丈夫かな…』
私はもしもの場合、いつでもカター手助け出来るよう、急いでカターの後を追った。
「はあっ!!」
バキィ!!
追いついた先に見たのは、ゴーレムの群れが放つ猛攻を華麗に躱し、カターが装備している腕輪から飛び出した『輝く槍』が的確にゴーレムの急所を貫く光景だった。
地面に突っ伏したまま動かない2体のゴーレムの首をよく見ると、土製の外装が割れて中の金属に穴が空いているようだ。
『つ、強い……』
『どうやらカター様は、武術の心得がある上に非常に強力な武器を所持していたようですね』
ヒュン!!
「しつこいよ!」
ボォン!!
ベキィ!!
カターはゴーレムから引っこ抜いた槍でゴーレムが放った魔法を近くに居たゴーレムに受け流し、魔法を放ったゴーレムの首に向かって思い切り槍を投げ飛ばした。魔法をモロに食らったゴーレムと、槍を刺されたゴーレムはその場に倒れると、ピクリとも動かなくなった。
あ、あっという間だ……あっという間にゴーレム達が潰されていく……
『このままでは次に来る学生達にぶつけるゴーレムが……退避!ゴーレム達!急いでカターから離れなさい!!』
虹の鳥が号令を飛ばすと、ゴーレム達は両手をバタバタと振りながら急いでカターから離れていった。
「ふん、大した事無かったね」
カターは慌てて逃げ出したゴーレム達を鼻で笑うと、森の奥に向かって再び走り出した。
その場に残された、地面に転がる5体のゴーレム達……
即席で作ったゴーレムを簡単に蹴散らすとは……カター、中々やるようだね。
でも、即席で作ったとは言え、私が作ったゴーレム達が負けたのは少し悔しいね……
ミシ……ミシミシミシ……
『マ……ケタ………』
『ク……ヤ…シイ……クヤ……シイ……』
『リベンジ……アイツ…二……リベンジ……』
ミシミシミシミシ……!
先程カターに潰され地面に転がっていた5体のゴーレムの体が勝手に修復され、外装が強化されて武器まで作成している。
『まずい!ゴーレムが意思を持ち始めている……!』
『これがロイワ様のお力……素晴らしい!これならあの学生達に、更にハイレベルな嫌がらせが出来るではありませんか!!』
『やめて!せめてもっと手加減してあげて!!』




