68話 大逃走
全力でゴーレムの群れから逃げるリオ達。
そんなリオ達の背後を、周りに生えている植物を踏みつぶしながらゆっくりと追いかける5体のゴーレム達。
「何でゴーレムが魔法使えるの!?オイ…僕、ゴーレムって土木作業みたいな力仕事で使われるイメージしか無かったから…あんなの初めて見た!!」
「おかしいな…土で作られたゴーレムがあんな呪文使える筈が……一体どうなってるんだろう」
ゴーレムから少しずつ距離を離しながら、魔法を使用するゴーレムについてあれこれ話し合っていた。
「あっ!!オイラ…僕、絵本で読んだ事あるよ!確かゴーレムの体の何処かに書かれている『印』を消せばゴーレムが消滅する筈…!」
「シン、駄目だ!雑用ゴーレムの印なら簡単に消せるかもしれねぇけど!戦闘用ゴーレムの印は簡単には消せねぇんだ!!」
「リオ、魔法は厄介だけど、土製のゴーレムなら何とか体の一部を壊せるんじゃないかな?腕を壊せばゴーレムの魔法を封じる事が出来る筈…」
「いや、多分だが今の俺達にはあのゴーレムを破壊出来ねぇ!!皆んな!先に進め!とにかくあのゴーレムから逃げ切るぞ!!」
「分かりました!」
リオの指示により、ありったけの魔力を身体強化に使い、全速力で更にゴーレムから距離を離していく。
「リオ、ゴーレムについて何か分かったんですか?」
「ああ。多分あのゴーレム、表面は土製だが……」
「……土で作られたゴーレム……それなら……!」
リオの話を聞いていたシンが突然、その場から引き返してゴーレムの群れに向かって全速力で走り始めた。
「シン!!何をする気だ!!」
「オイラ…いや、身体強化した僕の力ならあのゴーレムを破壊出来る!!」
「やめろ!!今の俺達じゃあのゴーレムは壊せない!!」
「大丈夫!!前に大きな岩を真っ二つにした事があるんだ!!僕なら出来る!!」
他のゴーレムに比べて1番足が速いゴーレムの足元に到着したシンは、ゴーレムの大きな片足を両手で掴んで思い切り上へ持ち上げた。
グワァ……
ズドーン!!
不意に片足を上げられバランスを失ったゴーレムは、周りの木々を巻き込みながら背中から倒れ込んでしまった。
リオ達を追いかけていた残りのゴーレム達は、先頭を走っていたゴーレムの転倒を見てその場で足を止めた。
「今だ!!」
シンは仰向けになったゴーレムの腹に飛び乗ると、右手を高々と振り上げ、小さな山のような腹部目掛けて重い一撃を放った。
ド ォ ン ! !
ゴーレムの腹からピシピシと入ったヒビが体全体に広がっていき、ゴーレムが音を立てて少しずつ崩れていく。
シンは、ゴーレムの腹から飛び降り、崩れていくゴーレムを見つめながら歓喜の表情を浮かべていた。
「や、やった……!僕の手でゴーレムを……………あれ?」
ゴーレムの崩れた体の内側から、ギラリと鈍い光を放つ銀色の壁が現れた。
ズズズズズズ……
倒れていたゴーレムが、体中に纏っていた土を落としながらゆっくりと起き上がっていく。
「な、何だこれ……」
シンに殴られたゴーレムが完全に起き上がる頃には、先程まで土色でまん丸だった体とは対照的な、金属製のスリムで機敏性に優れた近代的な姿に変わっていた。
「くそっ!やっぱり中身は鉄製ゴーレムだったのかよ!!強い魔法を使っても体が崩れない訳だ!
リオは、銀色になったゴーレムを見て呆然とするシンを背負うと、ゴーレムの群れから一目散に逃げ出した。
ズドドドドドドド……!
ガシャガシャガシャガシャ!!
リオは持てる魔力を全て身体強化に使って金属製ゴーレムから逃げるが、金属製ゴーレムはそれ以上の速さでリオ達に差を詰めていく。
「まずい!このままじゃリオとシンが……!」
金属製ゴーレムに追い付かれてしまう。そう思った瞬間
ヒュン!!
バキィ!!
突然何処からともなく飛んで来た鋭い槍が、金属製ゴーレムの首に深く命中した。
槍が飛んで来た方角から人影が現れた。人影は金属製ゴーレムの動きが停止したのを確認すると、シンを背負って走り続けるリオに急いで駆け寄った。
「リオ!シンを貸して!!全力で逃げるよ!!」
人影の正体はカターだった。特に目立った外傷は無く、魔力も十分にあるようだった。
「カター…!ああ、シンを頼む」
リオはカターにシンを預けると、前方を走るルーサとユリコに追い越してただひたすら先に進んだ。
カターも自分より背の高いシンを背負ったままリオ達に追い付き、時折後方を確認しながら頑張ってリオ達の後を追った。
「もう大丈夫だね……」
ゴーレムの群れを振り切り、敵が居ない事を確認すると、リオ達は近くの木陰に避難して休憩を始めた。
「カター!無事で良かった…!!」
「ユリ、心配掛けてごめんね」
「本当ですよ!私がどれだけ心配したと思って……!」
「本当にごめんね、あの時はどうしても飛び出さずにはいられなくって……」
「分かってます…本当に無事で良かった……」
カターはユリコと抱き合い、お互いの無事を喜び合っていた。
「それにしても…カター、よく僕達の場所が分かったね」
「遠くから物凄い爆発音が聞こえて来たから、もしかすると後から入ってきた子がゴーレムに見つかって攻撃されたんじゃないかと思ってさ、急いで戻って来たんだよ。
アタシ、最初はリオ達に気が付かなかったんだけどさ、違和感がある場所を目を凝らしてよく見たら、何故かみんなが見えるようになったんだよね」
「そうだったんだ…あの金属のゴーレム…さっきカターが一撃で倒してたよね、凄いなぁ……」
「ああ、あれね。アタシさ、前に家の警備用ゴーレムを壊しちゃった事があってさ……だから、アイツらがどうしたら壊れるのか何となく分かってたんだよ。シンも力が強いし、コツを掴めば簡単にあのゴーレムを潰せるよ」
「そ、そうかなぁ…!」
「出来るよ、何なら破壊するコツ教えてあげるからさ」
カターがみんなと仲睦まじく話をする中……
「………」
リオは皆から少し離れた場所に座り込み、先程から全く喋らない。
「(リオ…大丈夫?)」
ルーサは無言のまま俯くリオにそっと近付き、こっそりと声を掛けた。
「(……ルーサ、残念だが俺はここで抜ける)」
「(リオ……)」
「(……さっき、シンを守りながら全力で走ったから、魔力がもう残り少ないんだ……後、逃げる時に腕をやられちまってな……多分、ゴーレムの体から飛んで来た破片か何かで切っちまったんだろうな……俺、まだまだだな……)」
「(……そんな事無いよ。あの状況の中、リオはよく頑張ったよ……)」
魔力不足の所為か、先程からリオに元気が無いようだ。そんなリオの外傷を治す為に、ルーサはリオに自分の魔力を少しずつ渡しているようだ。
「リオ、大丈夫?さっきから元気が無いみたいだけど……ちょっと!腕に怪我負ってんじゃん!?」
カターがリオの怪我を見るや否や、ポケットから簡易の救急キットを取り出して傷の手当てを始めた。
「………」
それを見て何かを悟ったルーサは、無言でこっそりとリオとカターから離れてユリコとシンの元に移動した。
「魔力不足で傷の治りが遅くなってる…はぁ、常に救急キットを持ち歩いていて良かった……」
「カター…こんな俺も心配してくれるんだな…」
「当たり前でしょ………いや、こんな状況だからこそ話せる……じゃなくて…………さっきはごめん。リオが素直に謝ってたのに、機嫌が悪かったせいで……いや、これじゃただの言い訳にしかならないね……リオ、本当にごめん」
「それを言ったら俺だって……感情を抑えきれなかった所為でロイワ達に嫌な絡み方しちまった……」
「……謝ったからもう許すよ。逆に、勝手に飛び出して心配させてごめん」
「………俺、リーダーとして先頭に立ったつもりだったが、碌にみんなの面倒を見れなくて……逆に仲間を危険に晒しちまった……」
「………」
「1人で飛び出したカターを助けるつもりが、逆にこっちがピンチになって…そこをカターに助けられて……カターって強いんだな……」
「……出来る事と出来ない事を理解して行動してるだけだよ。リオ、さっきみんなと話をしたんだけど……みんなはリオを褒めてたよ。あの状況の中よく頑張ってたってさ」
「……そうか」
「私もそう思うよ……よし、治ったよ。リオ、腕に違和感は無い?」
「大丈夫だ、魔力も回復したからまだ参加出来そうだ」
「分かった。でも、少しでも違和感が出たら直ぐにアタシに言って、アタシに出来る範囲で何とかするから」
「……カター、ありがとな」
「……お礼を言うならロイワとヘル先生を助けた後にしなよ」
「……ああ、それもそうだな!カター、宜しく頼むな!!」
魔力が回復し、ようやく元気を取り戻したリオは、カターにそっと右手を差し出した。
「うん、こっちこそ宜しく。絶対に2人を助けるよ!」
カターは差し出された右手を掴むと、リオと力強い握手を交わした。
「リオ…大丈夫……?」
シンが、カターとリオとの会話が終わるのを見計らってリオに話し掛けてきた。
「休憩中ずっと元気が無かったから心配で……怪我もしていたって聞いたし……それに、さっきリオの話をよく聞かずに飛び出しちゃって……リオ、ごめん……」
「シン、許すよ。次からは俺の話をしっかり聞いてくれるとありがたいな!」
「うん!次からは周りの意見をしっかり聞く事にするよ」
「よし!それじゃあ、そろそろ休憩を切り上げて救出作戦を再開するぞ!!」
「「「「おーっ!!」」」」
『はぁ……一時はどうなるかと思ったけど、全員無事で本当に良かった……』




