66話 仲良し大作戦
「丁度いい感じの広場に到着〜!」
スザクさんに担がれ運ばれた先にあったのは……
周りは木に囲まれ、中央には木漏れ日で煌めく綺麗な泉のある素敵な場所だった。
「綺麗……」
「でしょ!?どの教室の庭にもこの場所があるんだよ!皆んなのお気に入りなんだ〜!!」
スザクさんは先程から楽しそうに笑いながらその辺を走り回っている…
「あの〜…そろそろ本題に入らないと授業が……」
「あっ、そうだったね!!さて、先ずはリオとカターを困らせる悪役を作らないとね!!やっぱり悪役なら派手な奴が良いよね!派手派手な上司に、美人な部下とか大柄な部下とか、とにかく個性が強い仲間を作りたいよね〜」
「いや、ボスを作るって……そもそも1年生相手ですし、とりあえず1人だけで良いんじゃ……」
スザクさんはどれだけ話を大きくするつもりなんだ……
「うーん…そうだね。じゃあ今回は派手上司の仲間、美人部下でも作りますか!!」
「上司が派手なのは確定済みなんですか…?」
「気分で変わるかも!じゃあまずはね〜、美人幹部の身体の元作って!私はガワと魂の方を作るから!」
「身体!?」
「うん!金属製で色んなギミック搭載の、物凄いゴーレム作って!なるべく細めのやつね!!」
「無茶振りが凄すぎる……いや、いい感じのやつを作るにしても最低5時間は必要なんだけど……」
そんな事してたらあっという間に授業が終わってしまう…
「5時間でギミック搭載のゴーレムを作成出来るって言える時点でロイワさんも相当凄過ぎると思うけどなぁ〜」
「いや、それ程でも……あっ、そうだ!!確かポケットの中に……」
私はポケット中を漁り、中から銀色の小さなゴーレムを取り出して地面に置いた。
「小さいゴーレムだ!しかもかなり中身が作り込まれてるね!!」
「このゴーレムはギミック沢山搭載してるし、ギミックの仕掛けは呪文のみだから外見を変えるだけなら全然大丈夫だよ!」
「凄い!でもさ、こんな凄いの使っちゃって大丈夫なの?」
「このゴーレムのスペアは複数あるし、なんの問題も無いですよ!それっ!」
私は呪文書で周りの地面を金属に変え、金属を操作してゴーレムに肉付けをしていく。
「こんな感じかな?」
小さなゴーレムが『普通のファッション店』に設置されてそうな『普通のマネキン』に変わった。うん、我ながら中々いい感じだ。
「おおーっ!既に錬金術まで…!流石技術師!!」
「スザクさん、こんな感じで大丈夫ですか?」
「うん!良い感じ!!じゃあ後は私の力で…!!はぁっ!!!」
スザクさんがマネキンに向かって掛け声を放つと、銀色のマネキンが虹色の炎に包まれた。
やがて炎が収まり、中から現れたのは……
毛先が虹色に輝く不思議な赤髪、腕に虹色の羽が生えたスタイルの良い美女だった。
「うわぁ…凄く綺麗……」
「貴方達が私のボスね?」
虹色の美女は、長い髪を揺らしながら私達の前に優雅に歩み寄った。生まれたばかりなのに、既に所作の一つ一つがとても美しい。
「あ、初めまして……いや、確かに私達がボスみたいなものだけど、ボスはもっと派手な奴になる予定です…」
「?」
「私達がボスのボスだよ!!君、やるべき事はもう分かってるよね?」
「ええ。リオとカターの絆を深める為に、1年1組の生徒達に試練を与えるのね?」
「そう!1年生でも突破出来るような丁度良い試練を与えるのが君の仕事…なんだけどさ、その前に……」
「ん?スザクさん、どうしたんですか?」
「いや、先にこの人の名前決めないと…呼ぶ時に困るし、皆んなに名乗る時に名無しのままだと本人も困りそうじゃん?」
あー…確かに……
「えーっと…じゃあ、トレビア…ってのはどう?」
「トレビア…もしかしてトレビアンが元ネタ?それ分かりやすくていいんじゃない?それにしようよ!じゃあ君は今日からトレビアだね!!」
「トレビア……素敵な名前をありがとうございます。では、早速生徒達に挨拶を……」
「あっ、そうだ!トレビア、皆んなへの挨拶がてらにヘル先生を拐って来て!!そうそう、さっきロイワさんが森の中にゴーレム10体作ったから、それも使っていいからね」
「分かりました。では…」
ファサァ……ファサァ……
バサバサバサバサ!!
トレビアは両腕に生えた翼で宙を優雅に煽ぐと、翼から虹色に輝く2羽の火の鳥が姿を現した。
「トレビアさん、生徒達の場所は分かる?」
「勿論です。此処から東に10キロ程離れた先にあるグラウンドの周りで、ロイワ様を探し回る先生と生徒達の姿が見えます」
此処からそんなに詳しく見えるの!?
「ロイワ様、スザク様、行ってまいります」
バサバサバサ……!!
トレビアさんは私達から少し離れると、大きく翼を広げて物凄い速さでこの場から飛び去った。
「ロイワさん!これからどうなるか超楽しみだね!!!」
「そ、そうですね……」
ああ…何故こんな大事になってしまったんだろう……
一方その頃、1年1組が集まるグラウンドでは……
「ロイワーーー!!!」
「ロイワ!!何処行ったんだーー!!!」
突然皆んなの目の前から消えたロイワを、先生を含めた全員が必死になって探し回っていた。
(他の先生に応援を頼みたいのだが、庭から出られない上に外への連絡手段が全て途絶えている……一体何があったのだろうか……くっ、先生として不甲斐ない自分が恥ずかしい…!)
「……これってさ、ロイワもリオと一緒に居るのが嫌だったから逃げたんじゃないの?」
「なっ……!」
カターの一言に、リオはあからさまに顔を顰めた。
「カター!今は仲間割れしている場合では無い!」
「……先生、生徒の意見をしっかり聞いていればロイワも逃げ出す事態にはならなかったんじゃないですか?」
「カター…流石にそれは……」
「ユリだってそう思うでしょ?元はと言えば……
「あら、随分と生きの良い魔族達ね」
「なっ……!?」
空から謎の女性の声が降って来た。その場に居た全員が空を見上げると、そこには毛先が虹色に輝く派手な女性の姿が。
その女性の両隣には、女性の毛先と同じように虹色に光り輝く大きな火の鳥がヘル先生を睥睨している。
「ゆっくり手を下げろ!空から降りて目を瞑れ!貴様は誰だ!!」
「あら、そんなに事細かに指示を出されたら反発したくなるじゃない」
ヒュン!
ガシャガシャガシャガシャ!!!
「!?」
虹色の女性が右手をヘル先生に向けた瞬間、ヘル先生の足元から鈍い銀色の棒が複数現れてヘル先生を囲んだ。
やがて銀色の棒はお洒落で大きな鳥籠の形になり、ヘル先生はその鳥籠の中に囚われてしまった。
「何をする!開けろ!!」
ヘル先生は両手を掲げて必死に鳥籠を破壊しようとするが、先程からヘル先生の魔法が発動しない。
「くっ…!(魔法が効かない…!)何なんだコレは!!」
「ヘル先生!?」
周りに居た生徒は、虹色の女性相手に一切太刀打ち出来ないヘル先生の姿に驚き狼狽ている。
「ちょっと!先生に何するの!?」
「大丈夫、先生には何もしないわ。先生は金髪混じりの赤毛の少女と一緒に私のアジトに連れて行って私の忠実な部下に変えるだけよ」
「!?」「あれ絶対ロイワの事だ……」「アイツ誘拐犯かよ!!」
「何っ!?貴様、その子に何をした!!」
「へぇ…あの子、ロイワって言うのね。ロイワにはまだ何もしてないわ。森の中で困っていたから私がわざわざ保護してあげただけよ?
そうそう、ロイワには悩み事があったみたいね……確か、カターがリオの事を誤解しているから、2人の仲を良くしたい……とか言ってたかしら?」
「……!」
「貴方達の事は、ロイワの記憶を通して視たわ……獅子人の子は貴方に大人の対応をしたにも関わらず、貴方が一方的に毛嫌いして相手を知る機会を逃したのね。これじゃあ一生あの子の願いは叶わないんじゃない?」
「………」
「おい虹色!それ以上喋るな!!ロイワとヘルを返せ!!」
「リオ!危ないから下がれ!!」
学生達が謎の敵に狼狽る中、リオは一切臆する事無く最前線に飛び出し、虹色の女性を大声で怒鳴りつけた。
それを見たヘル先生は、鳥籠から身を乗り出して必死にリオを引き留めようとしている。
「あらあら、威勢がいい子は嫌いじゃないわよ?そうね…今私、物凄く退屈なの。折角だから2人の運命はゲームの勝敗で決めない?」
「ゲームだと…?」
「そう、ゲームよ。ルールは簡単、貴方達は70分以内に森の奥に閉じ込められたロイワと先生を探し出せば勝ち。その場でロイワと先生は返すわ。それでいいでしょ?」
「……はぁ?それだけかよ?」
「そう、それだけ。私も多少は貴方達を妨害するけど…お子様相手に本気出したら可哀想でしょ?」
「なっ…くっそーーー!!あの野郎、俺達を馬鹿にしやがって……!!」
「リオ!敵の罠に掛かるな!落ち着け!!」
ヘル先生は必死になってリオに声を掛けるが、リオの耳には全く届いていないようだ。
「(リオ、落ち着いて!相手が油断しているのは
逆にチャンスだよ!)」
「くっ……!そ、そうだな……ルーサの言う通りだ……落ち着け……落ち着け俺……」
リオはルーサの言葉に耳を傾け、必死に自分を宥めようとしている。
「うふふ…まあいいわ。参加しない子はグラウンドに残って、参加する子は森の中に入るといいわ。無抵抗な子には手を出すつもりは無いから、安心してね。じゃあね〜」
ヒュン!!
虹色の女性は学生達に向かって軽く手を振ると、虹色の女性は火の鳥と鳥籠に閉じ込められたヘル先生と共に一瞬で姿を消してしまった。
「絶対に俺がロイワとヘル先生を助け出してやる…!!」
『………』
森に向かって2人を助けると誓うリオ、それを木の陰から静かに見つめる1人の謎の男の姿があった。




