65話 リオとカター
「え……?カムヤナ国って……既に無くなってたの……?」
「簡単に申し上げますと…旧大陸のカムヤナ国?もといカムヤナ人達は旧大陸に蔓延る呪いのせいで既に壊滅寸前ですし、本国は既に消滅……と言う感じらしいですね!まあ噂に聞いた程度なので多少異なるかもしれませんがね!」
と言う感じですねって…えっ!?向こうの大陸ってそんなヤバい事になってたの!?
「特に本国の消滅については謎が多いようで…栄えていた国の中身が突然消えてしまっただとか、異次元からの干渉の跡があったとか……」
「あの…色々と聞きたい事が多過ぎるんだけど…旧大陸に蔓延る呪いって何?」
「ああ、それは確かカムヤナ人の…特にエルフが掛かりやすいと言われている謎の呪いです!この呪いに掛かったエルフは、日に日に姿が変わっていき…やがて目も当てられない化け物へと……」
バーーーーーン!!
「ピヒーーーー!!」
「「うわーーーっ!?!?」」
ピヒ先輩の話を聞いていると多目的室の扉が勢いよく開き、外から黒肌で白毛の羊人が中に入って来た。
「あっ!マムマム…鍵を掛けた筈なのにどうやって此処に…!?」
「どうやって此処に?じゃ無いのよ!!!そろそろ授業が始まるってのに、下級生をこんな所に拘束して……!!ほら!下級生に謝って!!」
「ご、ごめんなさい…」
この人、何か押しが強い感じがするなぁ……
「あの…先輩、私は大丈夫で「ごめんね!この子ったらいつも自分勝手で…そうだ!お詫びに貴方を魔法で好きな場所まで運んであげるわ!貴方の次の授業は何?何処に行くの?」
「えーっと…次は数学で、自分の教室に……」
「分かったわ!貴方はその制服からして1年1組の生徒よね?じゃあね!ちゃんと授業受けるのよ!!」
パ ァ ン !
気が付くと私は、1年1組の教室内へと移動していた。(私が突然現れたにも関わらず、周りを見回しても誰も驚いていなかった)
結局、向こうの大陸に何が起こっているのかはよく分からないままだったなぁ……
午後の授業の時間、私達1年1組はヘル先生の指示で、教室の隣にある広大な庭の中に集められた。
「今日の特別授業は、大自然感謝祭の後に控えている学校行事『旗取り合戦』の練習を行う」
大自然感謝祭って確か…自然の大精霊であるセレセルさんに感謝を伝える為の大きなお祭り…で、その大自然感謝祭の後って…すぐ先の話じゃん!!
「ヘル先生!旗取り合戦って何ですか?」
「旗取り合戦とは、その名の通り旗を奪い合うゲームだ。土地と人を赤チームと青チームの2つに分け、自分の陣地に立っている1本の旗を守りつつ、敵陣に立っている旗を奪うんだ。敵陣にある旗を奪って自分の領地に持ち帰ったチームが勝利となる」
つまり敵が持ってる旗を奪って自分の土地に持ち帰れば勝利って事だね。名前のまんまじゃん。
「組対抗で行われるこの旗取り合戦は、道具の持ち込みは一切無し。上から支給される魔道具のみで戦う。土地にある植物等を使用するのも有りだ。学んだ魔法をフルに活用して合戦に挑め。……他に質問がある者は居るか?」
シーン………
「……よし!ではこれより旗取り合戦の練習を行う!チーム分けをする為に、これから皆にクジを引いてもらう。私の前に番号順に並び、赤い玉なら赤い枠、青い玉なら青い枠の内側に集まるように」
ヘル先生の話が一通り終わると、周りに居た生徒はあっという間に順番ごとに並び、ヘル先生が持つ四角いクジ箱から玉を取り出し始めた。
「玉の中に呪文の使用を補助する為の手袋が入っているから、玉は持ったまま枠に移動するように」
「俺赤か〜」
「私は青ですか…」
次々とチームが決まり、ヘル先生の背後にあるグラウンドに書かれた赤い枠と青い枠の内側に収まっていく生徒達。
「次はロイワの番だ」
「はい!」
直ぐに私の番になった。私はヘル先生が持つクジ箱に手を入れ、手前辺りにあった玉を掴んで箱から取り出した。
私が引いたのは……赤の玉だ!
「ふむ、ロイワは赤のチームだな」
私は玉を持ったまま、急いで赤い枠の内側に入った。
「あーあ、ルーサは青に行っちまったみてーだな……おっ、ロイワは俺と同じチームか!」
「リオ!」
何と、私のライバルであるあのリオと同じチームになったようだ。
「赤チームにロイワが居るのは心強いな!お互い頑張ろうぜ!」
「勿論!練習でも気を抜くつもりは無いよ!」
「おう!」
リオ、昨日の会話の時から思ってたんだけど…個人的な勝負が絡んでいない時は結構良い奴なんだね。
更に……
「カター!カターも赤チームだったんだ!」
「ああ、ロイワ……」
カターとも同じチームになれたのだが、カターの元気が無い。一体どうしたんだろう……
もしかしてユリコと別チームになったから落ち込んでるのかな?
「よし、全員チームが決まったようだな。まずはゲームに慣れる為に、このグラウンドで練習を…」
「先生」
「ん?カターか。どうしたんだ?」
「先生、私とロイワはリオが居ないチームに入りたいのですが…」
「なっ……!!」
「ちょっ!?」
何とカターがリオの目の前で堂々と爆弾発言!?
「カター、残念だが既にチームは決まっているんだ。だから…」
「先生は知ってますよね?入学当初にリオがロイワに喧嘩を吹っ掛けた話。例えゲームでもあんな自分勝手な奴とチームを組みたくありません」
「ちょっ…!?ちょっとカター!!いくら何でもそれは…!!もうリオは謝罪したし…」
「私は許してないよ。そもそもアイツは最初から気に食わなかったし。ロイワはいいなら私だけでも出てくから」
ああ、どうしよう…このままじゃリオが…
「カター…」
「あっ、リオ…!」
「何?私は先生と話をしてるんだけど…」
ヤバい…!リオがカターに近付いて来た!!このままじゃ2人が大喧嘩……!
「ごめん」
「……は?」
「あの時は俺が悪かった。普段は頑張って我慢してたが、あの時はどうしても我慢が出来なくてついロイワに嫌な態度を取っちまった…いや、喧嘩売った件に関しては許してくれなくてもいい。本当に申し訳なかった」
「リオ…」
リオが真剣な表情でカターに謝罪をしている…
カターは、まさかリオの口から謝罪の言葉が出るとは思わなかった呆気にとられているようだ。
「……私は許すつもりは無いからね」
カターはリオに低い声で一言告げると、早歩きで赤い枠の中に戻っていった。
うーん…とりあえず喧嘩が始まらなくて良かった…のかな?
「……とりあえず、簡単にゲームを理解して貰う為に広いグラウンドで練習をする。私について来てくれ」
広いグラウンドに到着すると、グラウンドを2つに分け、赤チームと青チームが分かれてグラウンドの隅へと移動した。
ヘル先生から作成会議をする為の時間を10分与えられ、私達赤チームは輪になって作戦会議をしているのだが……
「よし、軽く自己紹介が済んだら、まずは旗を守る奴を決めるぞ」
「やっぱり旗を守るなら強い人の方がいいよね」
「そうだな。足に自信がある奴は旗取りに出すとして……」
「じゃあ、僕が旗を守るよ。僕、足に自信無いし…」
「そうだな、シンなら結構力が強いし…」
「………」
先程からカターが全く会話に入らない。
「旗の守りを固める為に、カターには此処に残って貰う方が良いのかな?」
「分かった」
「いや、カターは強い上に足が速いから、旗取りに行かせる方が良いと思う」
「分かった」
駄目だ……今のカターは誰とも話をする気が無いみたいだ……チーム分けの時からずっと機嫌が治ってないみたいだし……
(歳が歳だし、軽く思春期入ってるかもしれないなぁ……)
うーん、リオとカターの仲が良くなる方法とか無いかなぁ……例えば、大きな障害を共に乗り越えるとか…?
……よし!こうなったら私が2人の障害物を作るしかない!!
よし!善は急げだ!
私はポケットの中にある呪文書を片手で操作し、自分の真下に移動用の魔法陣を設置した。
(さてお次は…)
少し離れた場所にある森の中、辛うじで目視出来る地面に魔法陣を設置すると、私は魔法陣を用いて急いで森の中に瞬間移動した。
一瞬で目の前の景色が森の中に変わると、私は急いで森の奥に駆け込みながら呪文書を外に取り出し、気配を消す魔法を自分に掛けた。
ガサガサガサガサ……
誰にも気付かれないように急いで森の奥まで移動すると、地面に向かって素早く呪文を書き込んだ。
サラサラサラサラ……
よし、ゴーレム10体完成!後は地面に呪文を流し込めば……
「何してんの?」
「うわーっ!?!?」
何と、私の背後にスザクさんの姿が!?今気配消している筈なのに何故バレたの!?
「今は授業の時間なのに、ロイワさんが皆んなから離れてるなーって思ってさ。今暇だったからつい声掛けちゃった!」
スザクさん今日は暇だったんだ…何だか楽しそうに話すなぁ…
「あのですね……実は…リオとカターが……」
私はスザクさんにリオとカターについて話し、2人を仲良くさせる為の障害を作っている事も明かした。
「何それ!!超面白そうじゃん!!それ私も手伝うよ!!」
「えっ?いいんですか…?」
「良いよ!今って特別授業だしある意味自由時間みたいなもんでしょ?」
少し違うと思うけど……
「よし!まずは皆んなを外に出れないようにしないとね!少し失礼!!」
スザクさんは地面にあった丁度いい石の上に座ると、目を閉じてぶつぶつと呪文を唱え始めた。
「………よし!理事長からの許可も得たし、これで1年1組の生徒とヘル先生は外に出れなくなったよ!」
「うわぁ…かなり本格的ですね……ええっ!?リュユ理事長の許可得たんですか!?」
「当たり前でしょ!あの2人は結構大事なキーパー……あっ」
キーパー……?
「口が滑っ……いや、生徒の仲を良くするのも私の務め的な!?うん!!よし!!じゃあ次は1年生でも簡単に潰せる雑魚とそれなりに強そうなボスを作らないとね!!ロイワさん、おいで!!」
「うわーっ!?!?」
私を素早く担いだスザクさんは、魔力を込めた足で地面を2回程踏むと、物凄い速さで森の中を駆け抜けたのだった……




