63話 怪盗部
前回のあらすじ:自室の庭に生えた足の正体は怪盗部部長だった。
「くっ…!中々穴から抜け出せない!!…………ロイワ君、このまま話を進めてもいいか?」
ダメに決まってるでしょ……なんか変な人だなぁ……
でも、扉から入らずに私の庭に侵入出来るとはね(ユリコの話では、瞬間移動等で寮の室内に侵入は出来ないらしい)。この人、中々腕が良いようだね。
「……その反応からして、どうやら駄目らしいな。仕方が無い……よいしょ!!」
スポッ!
怪盗(?)がようやく地面から抜け出した。だが、抜け出した拍子に怪盗が身につけていたマスクと帽子とカツラが外れた。
「あっ!しまった!?穴の底に衣装が……そう簡単に取れないように呪文が描き込まれていた筈なのに……!」
怪盗は咄嗟に自分のマントで顔を隠し、穴に落ちた衣装を必死に回収しているが……
見えた。僅かだが、怪盗部部長の素顔が見えた。
「り、料理長…?」
ピタリ
私の呟きを聞いた怪盗の動きが止まった。
「……あ、もうバレた?」
で、ですよねぇ……まさかアレが料理長だなんて……
えっ……
ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇええええええ!?!?
顔が整っている上に性格が良さそうなあの料理長の正体がこの変な怪盗だったの!?!?
「事故とは言え、怪盗部に入部する前にあっさりバレてしまうとは…」
ようやく衣装を回収し終えた怪盗は、黒いスーツに黒い帽子、長髪の白髪を1つにまとめた仮面の男の姿へと戻っていた。だが、先程まで地面に埋まっていた為、上半身が泥で汚れていた。
「いや、どうせ後々正体が判明する上に、例えバレたとしても我々にとって何ら問題は無い!ロイワ君!!」
「は、はいっ!!」
「君の事は事前に調査していた!魔法使レベルが10である事も、11歳であるにも関わらず、既に技術師である事もね!!」
「……それ、先生から聞いたんですか?」
「そうだ!!」
やっぱり……この学校の先生、口が軽すぎるよ……
いや、もしかしたら先生を相手に高度な呪文を掛けたとか?言葉巧みに誘導して聞き出したり?
「別件で職員室を張り込みで調査をしていたら偶然聞けたんだ」
……それ、調査してたって言わないよね?
「……とりあえず本題に入ろうか。実は、我々怪盗部が『タロス』に『怪盗部への招待状』を置いたのはね、君のようなレベルの高い技術師を見つける為だったんだ!!」
成る程…別に私を狙って勧誘して来た訳ではないみたいだね…
「あの箱を開けられるような素晴らしい腕を持つ生徒を怪盗部に入れる為、3年前からずっと『タロス』に複雑なロックが掛かった箱を置きっ放しにしていたのだが…今まであの箱を安全に開けられた人は居なかったんだ。1分以内に開けられなかったら中身が消滅する仕組みだったんだ」
「そうだったんですね」
「反応が軽いな…流石は技術師と言った所か…さて、いよいよ本題に入る訳だが……」
まだ本題じゃ無かったの?
「あの手紙を窓に貼り付けてくれたと言う事は、つまりそう言う事なのだろうが一応確認をしておこう……ロイワ君、是非我々の怪盗部に入ってはくれないか?」
あー…確か『怪盗部』に入部する気なら手紙を窓に…的な文が書かれてたよね…
私は既に『タロス』で働く事になっているが、料理長も仕事しながら怪盗部に所属しているみたいだし…でも、一応どんな部活動をしているのか確認してみよう。
「あの〜……怪盗部では具体的に何をすればいいんですかね…」
もし危ない内容だったら丁寧に断っておこう…
『怪盗部はね…まあ、その名の通り誰かに奪われた道具を取り返したり…ダンジョンにレアアイテムを取りに行ったりしているね!だが、とりあえずロイワ君には怪盗に役立つ物作りをして欲しい!!
出来れば仕事に役立つ道具を作って欲しい所だが……基本何を作っても大丈夫だ!自由に物作りをしてくれ!君が望むのなら道具の実験体にもなろう!」
「えっ!?」
怪盗部なら自由に道具作りが出来る…!?しかも作った道具の実験台になってくれるとは……!
「部活動自体は自由参加制、参加したく無ければ呼びかけに応じなくても大丈夫だ!」
結構自由なんだ…
「……分かりました。私、怪盗部に入部します!!」
部活動は自由参加、私はただ道具を作るだけで良いみたいだし、更に道具の実験台になってくれる人が居るとか…最高じゃん!!
「怪盗部へ入部してくれてありがとう!良かった…!もしロイワ君がこの誘いを拒否してたら記憶操作をして一連の出来事を無かった事にしていた所だ…」
不時着して地面に埋まった時の記憶だけ消せば良かったのに…
「ありがとう!だが、怪盗部に入る際に1つだけ注意して欲しい。もし自分が怪盗部に所属している事がバレたら…その場で即退部だ!分かったかな?」
「分かりました!」
「いい返事だ!さてと…入部届は明日貰いに来るとして…今日の所はひとまず引き上げるとしよう!さらばだ!!」
この人、また私の庭に来るのか…
「…………」
さらばだと言ってから20分経過したが、先輩は一向に帰る気配が無い。此方に背を向けて何やら作業をしているようだが…
「……先輩、帰らないんですか?」
「いや、それが…帰れなくなったんだ。おかしいな…ロイワ君、もしかして…この部屋のセキュリティを弄ったりしたのかな?」
「何もしてませんよ?リュユ理事長が開発したセキュリティは既に強力ですし…多分、先輩が私の部屋に無理矢理侵入した際、再び侵入されないように内外共に更にセキュリティが厳重になったんだと思いますよ?」
「………ロイワ君、早速で悪いのだが…私を助けてくれないか?」
「……分かりました」
この人、本当に怪盗部部長なのかな……




