62話 部活動見学(後編)
「そっか〜…リオも見学した部活動がイマイチだったんだ…」
見習い市場へ移動する途中、私とリオは先程見学した部活動の愚痴を零し合っていた。
「ああ、俺は将来実家のレストランを継ぐつもりだからな、料理研究部に入部して料理の腕を上げる予定だったんだけどよぉ…あの料理研究部、結構ゆるい感じでなぁ…いや、楽しく料理をするならアレで良いと思うけどよぉ…」
「成る程…今、リオは修行先を探している感じなんだね」
「そうだ、逆にロイワは楽しく道具作りが出来る場所を探しているんだよな?」
「そんな感じかな。もし無かったらもう帰宅部でも良いかなぁ…」
「寧ろその方が良いかもしれねぇな…だが、何処にも所属してないと上級生の部員に影からこっそり勧誘され続けそうだけどな」
「そうだった…やっぱり何処か良い部活動に入らないと駄目かぁ…」
リオって結構普通に会話できるんだね…争いが絡んでなければ大丈夫なのかな?(短気な奴をライバルにするのはやめとけって言葉からして、リオにも自覚があるっぽいし…)
はぁ…リオが怒りんぼじゃなかったらいいのに…
「あっ、着いた。俺は此処を見学するんだ」
「えっ?此処は…」
リオとの会話を『ロートス』と書かれた看板が掲げられた、店の前に来ていた。この店、どう考えても高級料理店だよね…
「まさか校内にこんな洒落た店があるとは…」
「この店、料理は結構値が張るがかなり評判が良いんだぜ?遊園地に住んでるロイワなら余裕で来れるだろ」
リオも私が住んでる場所知ってるんだ…
「いや、親の金で来るのはちょっと…こういう店は自分で稼いだお金で行く事にするよ」
「ロイワって結構真面目なんだな…じゃあな、ロイワも早くいい場所見つけろよ」
「うん!此処まで一緒に来てくれてありがとう!じゃあね!」
「おう!」
私はリオにお礼を告げると、自分の目的地である魔導製品店に移動する為に背後を振り向いた。その瞬間
「いらっしゃ〜い!」
高級料理店から白兎人の可愛いウエイトレスが現れた。
「お客様2名はアルバイトの面接に来た方々ですかぁ?」
この白兎人のウエイトレス、やたら高い声を出すなぁ…
「いえ、面接を受けるのは俺1人です!俺の名前はリオ、料理人になる為に此処に来ました!料理のレベルは6です!」
「「えっ!?」」
リオもレベル持ちだったの!?それにレベル6って結構高くない!?
「やっぱり〜!?もしかしなくても君って料理レベル持ちのリオさんだったの!?大変大変!料理長を呼んでこなくちゃ!?料理長〜!!」
「そんなに騒ぎ立てなくても聞こえますよ。リリーさん、呼びましたか?」
ウエイトレスに呼ばれて店の奥から現れたのは…
うわぁ!!顔がめちゃくちゃ整ってらっしゃる!!!
長身で白髪オールバックに白い角が生えた、物凄い美形の男が現れた。角の生え方からして恐らく彼は龍人だ。
「料理長〜!料理仲間の間で超話題のリオさんがこのお店に来たんですよぉ〜!!しかも料理人希望ですって!!」
「そうでしたか…分かりました。では、今からリオさんには料理人の採用試験を受けて頂きます。どうぞ此方へ…」
「はい!!」
リオはウエイトレスと料理長に案内され、高級料理店の奥へと入って行った。
あの料理長、見た目だけでなく対応もしっかりしていたなぁ…
さてと、私も魔導製品店に行こっと。
魔導製品専門店『タロス』には魔導製品のレプリカが沢山展示されている。
「いらっしゃいませ〜…あっ、君は……!?」
そんな賑やかな店内から現れたのは、声が低くて背の高い青色の鉱石人…あっ、この人『魔法座学』の先生だ。
「すいません、このお店で働きたいんですけど…」
「勿論君なら大歓迎です!ですが…ロイワさん、部活動はもう決めたんですか?」
「いえ、技術部があまりにもアレなんで…とりあえず部活避けの為に此処に来ました…」
「えぇ……いや、気持ちは分かりますよ。あの技術部、去年アニーさんが部長になってから少し雲行きが怪し……いや、技術部の運営が上手く出来ていないようで……私は一応、技術部の顧問なのですが、彼は部活動について全く相談してくれなくて……」
そうだったんだ…
「それに、技術部部長の技術レベルは6…いや、レベル6は一般人の目から見ればかなりハイレベルなのですが、既にレベル10で技術師であるロイワさんとは比べ物にならないと言いますか…」
「そうだったんですか……」
あの技術部部長、私よりレベル低かったんだ…
「大丈夫ですよ!ロイワさんが8年生になればレベルの高い部活動に入れますから!」
「あ、ありがとうございます…あの、此処で働いている学生って居るんですか?」
「一応居るけど、今は殆ど技術部に行ってるよ…去年は技術レベルが高い人が居たんだけど、8年生になった途端に辞めちゃってね……まあ学校が別になるから当たり前なんだけどね」
この学校って8年生になったら別の学校に移動する事になるのかな…?
「だからこそこのお店にロイワさんみたいなハイレベルな人が入ってくれると物凄く助かります!今、このお店には魔道具を修理できる人が不足しているので…とりあえず簡単に面接をするのでお店の奥まで来てくれますか?」
「はい!」
数分後…
「簡単に受かってしまった…」
いや、面接って言っても、物凄く簡単な受け答えだけだったし…
しかも、労働時間や仕事がある日が圧倒的に少ない…!それでちゃんとした給料が出るなんて…!
「いやぁ〜本当にありがとう!!明後日から宜しくね!!」
「はい!ありがとうございました!!」
これで部活動見学は終わり!!だけど、まだ部活動見学の時間が残ってるんだよね……折角見習い市場に来たんだし、このお店の商品でも覗いていこうかな?
「先生!お店で買い物してもいいですか?」
「勿論!自由に見てってください!……あ、そうだ。ロイワさん、もし良かったら不用品回収場も覗いてみませんか?」
「えっ?不用品回収?」
もしかして要らない道具を譲ってくれたりするのかな?
「とりあえず、私について来て下さい…」
先生にお店の奥に通され、その先で見たものは……
「魔導製品が沢山…!?」
そう、少し古い型の魔導製品が沢山置かれている物置だ。
冷蔵庫とか照明器具とかバイク(棒状の空飛ぶ乗り物。少し前まではアローと呼ばれていたが、今やアローはブランド名として広まっている)とか…どれも一般人が簡単には買えないような物凄い額の商品が沢山並べられている……
「凄い!どれもまだ使えるようですが…この魔導製品は一体どうしたんですか!?」
「これはねぇ…新しい製品を購入した際に、前に使ってた道具を置いてったものなんですよ…まだ新しいし十分に使えるのに……」
「ええっ!それは勿体無いですねぇ……」
いや、新しい商品に目が行くのは分かるけど……この場に置かれている物はどれも新品同様に見えるのに、これはあまりにも勿体無さ過ぎる。この魔導製品、持って帰れないかなぁ…
「先生!この道具、いくらか持って帰っても宜しいでしょうか?」
「はい、諸々の事情で譲れない道具は既に別の場所に置かれていますし、ロイワさんが欲しい道具がありましたら、この場の物をタダで持って帰っても大丈夫ですよ!他の上級生が持って帰っても尚、数が減らないので困っていたんですよ…」
「本当ですか!?やったー!!」
どれ持っていこうかなぁ〜!バイクは絶対に持ち帰るとして…うわっ!イベントでよく見かける壁掛け式の自動販売機!こっちにはバスタブを軽く覆えるような大きなシャワーヘッドまで!?何故こんな物が……よし!これも持って帰ろっと。
コトン!
床に置かれていた何かに自分の足が軽くぶつかった。足元を見ると、そこには掌サイズの小さな宝箱が置かれていた。全体が金色で、随分と綺麗な細工が施されているが……
あっ、この宝箱鍵が掛かってる。しかも呪文書でパスワード打たないと開かないやつだ。折角だし、ちゃんと開くかこの場で確認しようかな。もし開かなかったとしても直せば問題無いし。
私はポケットの中から呪文書を取り出し、この場で金の宝箱の解錠を試してみる事にした。
スッ…スッ……
宝箱に素早く呪文を入力していくと……
カチッ!
軽い音と共に宝箱の蓋が跳ね上がり、空っぽの中身が……あれ?底に小さく折り畳まれた紙が入ってる!
そっと中身を取り出して紙を開くと、中には謎の文書が書き込まれていた。
『この文書を入手出来た君には怪盗部へ入部する権利が与えられる。入部するかどうかは君次第だ。
もし怪盗部に入部するのならば、『夜の5時』、自室の窓にこの手紙を貼り付けておくように。 怪盗部より』
何だろうこれ…
「先生、この学校って怪盗部なんて存在するんですか?」
確か先生から貰った部活動を記した紙には『怪盗研究部』があったけど…それとは別物なのかな?
「怪盗部?……ああ、一応この学校の部活動として存在しているとは聞いてはいますよ。ですが、怪盗部に部員は何名存在するのか、そもそも誰が怪盗部の部員なのか先生にも分からないんですよ。知っているのは一部の先生のみらしいのですが……」
一応存在するんだ……
「噂によると、怪盗部には物凄く優秀な方々が集まっているのだとか…まあ、私もよく知らないんですけどね」
「そうなんですか…」
だとしたら…この文は誰かの悪戯かな?
だけど、何故かこの手紙の内容が気になるんだよね…念の為、この手紙を宝箱と一緒に一応持ち帰ってみる事にした。
「ただいま〜」
部活動見学も何とか無事に終わり、夕ご飯も食べた後、学生寮の自室に移動した。
「お店で色んな道具貰っちゃったなぁ…最高!!早速道具を分解したいけど、まずは仕事の続きでも……ん?」
自室に見慣れない扉が設置されている。
おかしいなぁ…昼休みの時にはこんな扉無かったのに…もしかして、新しい部屋が追加された?
私は恐る恐るドアノブに手を伸ばし、扉を開けてみると…
「何これ!?!?」
新しい部屋の中にはなんと、技術関連の最新機器がズラリと並べられていた。
「凄い!ありとあらゆる会社の呪文書が…あっ!この装置、カードに呪文を細かく描き込めるやつだ…!!」
こんな凄い部屋を揃えてくれるなんて…!これ、どう考えてもリュユ理事長の仕業でしょ!流石社長!!
机の上に、手紙が2つ置かれている。1つ目の手紙の中に書かれていたのは……
『技術師専用の技術部屋プレゼント 理事長より』
……それだけ?いや、手紙はもう1つあるし…しかもカードまで添えられている。えーと、何々……?
『ガワはこれで大丈夫です。最高でした。 理事長より』
これ仕事の返信だ……どうやら私が作った悪魔のガワがリュユ理事長のお眼鏡に適ったようだ。
それにしてもリュユ理事長が書く文章、短過ぎない…?まあ、リュユ理事長は色々と忙しい人だからなぁ……仕方無いか。
でも、この技術部屋のおかげでリュユ理事長からの依頼も捗るし、良い道具がつくれそうな予感!!早速機械に触ってみよーっと!!
でも、その前に……
1度技術部屋から離れ、庭が見えるガラス扉に近付くと、私は興味本位で怪盗部の手紙をガラス扉に貼り付けた。
まあ、嘘かもしれないけど…本物では無いとも限らないし…念の為に試してみようかな……
シーン……
手紙を窓に貼り付けてから数十分経過したが、周りには何の変化も起きない。もう夜の5時を過ぎてるのだが、一向に何かが起きる気配が無い。
やっぱりただの悪戯だったかな?そもそもドアを通らずに自室に侵入するなんて至難の技だし…いや、一応明日の朝まで様子を見る事にしよう。さて、技術部屋に引き籠る準備を……
パァン!
私がガラス扉に背を向けて歩き出した瞬間、夜の帳が下りた庭から謎の破裂音が鳴り響いた。
「えっ…何?」
僅かだが、庭に人の気配がする。まさか本当に怪盗部が!?
背後を振り返ってガラス扉から外を確認すると……
地面から黒い足が生えていた。
違う、正確に言うと人が地面に突き刺さって……
いや、何あれ!?!?あの一瞬で何が起きたの!?
「あたた…一体何が起こったんだ…?」
足が喋った……と言うか本人も何が起こったのか理解出来てないんだ…
「んんん?もしかしてそこに居るのはロイワ君かな?」
えっ!?地面に突き刺さったままでも私の事が分かるの!?何なのこの人!?
「ロイワ君、初めまして!私は怪盗部部長だ!!よくぞあの難しいロックを解錠出来たね!!約束通り怪盗部が直々に迎えに来たぞ!!」
足がご丁寧に自己紹介を……えっ!?アレが怪盗部の部長なの…!?




