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59話 上級生

「ルーサ、四限目が終わった後に何が起こるの…?」


「大体はエドゥアルから聞いた話なんだけどね…四限目が終わった後にあるのは昼食、昼休み、そして部活動見学…昼食の間に上級生が学校に登校…つまり、今日登校して来た『部活動に所属する上級生達』がロイワを始めとしたレベル持ちの新入生を狙って猛スカウトしに来るんだって…」

猛スカウト!?

「ちょ、ちょっと待って!ルーサ、上級生はまだ学校に来てないんだよね?そもそもの話、今日学校に登校した上級生達はまだ私の事は知らない筈……」

「いや、一部の上級生は休みを寮で過ごしてるんだよ。でね、残った上級生の一部は先生にバレないようにこっそりと新入生の情報をかき集めるんだって。部活動に優秀な生徒を集める為にね」

「えぇ…」

上級生達、部活動に対して本気過ぎない?

「でも私、まだ上級生とは接触してないよ?見習い市場にも上級生らしき生徒は居なかったし……」

それにレベルを持ったのは昨日の事だし……


……あっ!ヘル先生は既に私が『技術師』である事を知ってた!!多分上級生は先生から情報を集めてるんだ!!


「多分新入生の情報は先生から集めてるんだと思うよ。寮に残った上級生が新入生との接触に遅れてるのは『抜け駆け禁止』とか言うやつらしくて…」

「抜け駆け禁止…」

確かに寮に残った生徒の方が先に新入生に接触出来るし、卑怯と言えば卑怯だけども…

「僕ね、今日の朝食前にエドゥアルと一緒に新聞の更新をしに見習い市場に移動してたら、偶然上級生の会話を聞いちゃったんだよ。今年の新入生はロイワと……」


「皆、静かに!!」


ヘル先生の号令に、周りの生徒が静かになった。

「そろそろ時間なのでこの世界から脱出する。

バスの中でも言ったが、この『春の草原』は初心者向けの世界とダンジョンがあり、レベルが無くても入れる場所が沢山あるのが魅力だ。

また気が向いたら個人で来てみると良いだろう。では…」

ヘル先生はポケットからピンク色のチケットを取り出すと、その場でチケットを真っ二つに引き裂いた。



フッ……



私達はいつの間にか大自然博物館の中に移動していた。世界に入る為に使用したチケットを破るだけで元の世界に帰れるなんて、物凄く便利だね。

「よし、全員帰って来れたな?では、四限目の鐘が鳴るまで館内の展示物を好きに見て回るように。では……」


「ヘル先生!!」


「ん?エドゥアルか、どうした?」

「あの、ヘル先生……博物館の外に沢山の上級生が……」

「何!?」

ヘル先生が驚きつつ、早歩きで博物館の出入り口へと移動する。ついでに私もこっそりとヘル先生の後を追ってみる。すると…


「なっ!?!?」


大自然博物館の外には、何と上級生らしき魔族達が沢山ひしめいていた。上級生、既に学校に登校済みだったのか…


「是非、郷土料理部にリオを…」「ロイワを魔法研究部に…」「料理研究部…」「カターは絶対に我々ダンジョン部の部員に迎え入れる!」「優秀な奴らを皆遊術部に…!」


ひぃ…上級生達が本気過ぎる……


「マズい!新入生の情報が既に上級生の間に出回っていたか…!」

こうなったのは多分、さっきのヘル先生みたいな口の軽い先生が原因なんだろうな…

私がヘル先生を呆れながら見つめていると……


ヒュン!


スタッ!!


「み、みーつけた…ヒヒッ……」

突然、宙から現れた蜥蜴族っぽい女性が私の前に不格好に着地すると、ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべながら私に向かって短い杖を構えた。

「えっ……誰ですか?」

目の前の人、この学校の制服を着ているから多分上級生なんだろうけども……あまりにも怪し過ぎる。私は咄嗟にポケットに手を突っ込み、中にある煙幕を掴んだ。

「申し訳無いけど…こ、これもルールだから……」


そう言うと、私の前にいる謎の上級生の目が怪しく輝き


「ロイワ!!」


聞き覚えのある声と共に、手鏡を構えたヘル先生が謎の上級生の前に素早く現れ、上級生の眼前に鏡を突きつけた。

「スニーク、初対面相手に石化の魔法とは随分なご挨拶だな……」


ミシミシミシ……


「あ……か…鏡に反射した自分の目、見ちゃった……」


謎の上級生の足がみるみるうちに変色している……さっきヘル先生が石化の魔法とか言ってたけど……まさかこの上級生、私を石に変えようとしたの!?


「ロイワには石化の魔法が通用しなかったようだな…良かった。……スニーク!!これは何の真似だ!!」

ヘル先生は私を庇いながら変色していく上級生、スニークに向かって声を荒げた。

「せ、先生、知ってるんですよ…其処にいる新入生からレベルの証を奪い取れば……その…新入生を問答無用で……自分……の………部……活動に…………」

スニークの身体が変色していくにつれて次第に動きが鈍っていき、やがて完全に停止してしまった。


ドンドン!!ガタガタ!!


「おい!オカルト部の部長が抜け駆けしやがったぞ!!」

「こうなったら俺も…!!」

「いや、私が先に!!」


ガタガタガタガタ……!!


博物館の出入り口に居た上級生が扉を激しく叩いている……


「予め鍵を掛けておいて良かった…ロイワ、出入り口から離れるぞ」

「は、はい!!」

私はヘル先生に手を引かれながら、上級生でひしめく出入り口から離れたのだった。




ヘル先生は生徒全員を引き連れて博物館の中にある、物が一切無い広い避難所に移動した。

生徒達は外の出来事を察したのか、突然の移動に対して不平不満を一切言わず、先程ヘル先生から配られたボリュームのある非常食を静かに食べている。


そんな中、私とヘル先生は生徒達からある程度離れた場所に移動し、非常食を食べながらこっそりと話をしていた。


「新入生が持つレベルの証を奪い取れば、新入生を部活動に入れる事が出来る……?そんな話、聞いた事が無い……」

「先生!!それよりもあのスニークって人は大丈夫なんですか!?」

「大丈夫だ。奴は時間が経てば元に戻るだろう。それよりも…今学校内で妙な噂が蔓延っているようだ。ただでさえレベル持ちの新入生に対する勧誘が激しいと言うのに……ロイワ」

「はい、なんでしょうか」

「技術師であるロイワに頼みがあるのだが…今、呪文書は持っているか?」

技術師の私に……まさか先生から頼まれ事を受けるとは……

「はい、持ってますよ。呪文書で何をするんですか?」

「今から暴走した上級生を止めに行く。その呪文書で上級生が使用する魔道具を止める事は出来るか?魔法を封じる事は出来ても、相手が使用する道具自体をどうにかする事は出来ないんだ。出来れば魔道具を破壊したくないのでな……」

「勿論出来ますよ!ちょっと待って下さいね……」


私は自分のポケットの中から鉄製の掌サイズのゴーレムを取り出した。


「これは…ゴーレム?」

「はい、色んな改造を施したゴーレムです。このゴーレムを遠くから操作してヘル先生をサポートします!私が直接出る訳じゃないので、ヘル先生は私に構わず上級生を止められますよね?」

「ああ、これは非常に助かる……よし、皆!集まってくれ!!」

ヘル先生は私からゴーレムを受け取ると、周りに散らばった生徒達を集め始めた。


「私はこれから上級生と話をしてくる。外は危ないから、私が良いと言うまでこの避難所から出ないように!!」


「「「「「「はい!!」」」」」」


ヘル先生は元気な声で返事をした生徒達に頷くと、上級生を止める為に避難所から出て行った。


ヘル先生が外に出て行った後、私は避難所の奥にある個室にそっと入り込み、呪文書を開いてゴーレムを起動させた。


スーッ……


呪文書に博物館のジオラマが映る。これはゴーレムが現在進行形で見ている景色だ。どうやらゴーレムの起動に成功したようだ。

周りの景色から察するに、今ゴーレムはヘル先生の肩の上で座っているようだ。


『……ロイワ、聞こえるか』

「はい!先生の声も、周りの景色もはっきり聞こえます!!」

『おお、私もロイワの声がはっきり聞こえるぞ!凄いな…』

「いやぁ…それ程でも…」

『そう謙遜しなくていい。これ程の技術を……


ガシャーン!!


「うわっ!何!?」

呪文書から物凄い騒音が聞こえた。騒音に混じって悲鳴も聞こえる。

『どうやら出入り口を壊されたようだな。では…これより暴走した上級生の拘束を行う!!』

「はい!!」

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