58話 違法シール
「あー楽しかった!」
あの後私達は、花畑で珍しい花を摘んだり、緑色の液体が入った「スライムの実」と呼ばれる謎の植物を発見し収穫したりと、不思議で楽しい時間を過ごした。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、そろそろ集合時間が近付いて来た為、私達は集合場所である広場に向かって歩いていた。
「はぁ、まさか拡張石が手に入るなんて思ってもいなかったよ。普通に買うとそれなりに値が張るからね〜」
「へぇ、そうなんだ。…あっ、拡張石で思い出したんだけどさ。私が持ってるこの念話石って、装備している私以外には音が聞こえない筈なんだよね。さっきロイワは私から音が聞こえるって言ってたけど…」
「うん。何故かカターから音が聞こえたんだよ」
確かに使用者以外に音が聞こえるなんておかしな話だよね。もしかしてカターの念話石、故障でもしてるのかな?
「ねえ、カターが持っている念話石貸してくれない?この場で直すよ」
「えっ?良いの?」
「うん、さっきスライムの実を回収するの手伝ってくれたし。そのままだと私もモヤモヤするし」
「ありがとう。じゃあ宜しくね」
カターは靴に付いている赤い念話石を取り外し、私に手渡してくれた。
私はポケットからモノクルを取り出して装着し、カターから借りた念話石をじっくりと観察する。
うーん…ひび割れや汚れも無いし、特におかしい所は…
「……あっ!!これは…!?」
念話石に描かれている模様の中に、周りより少しだけ浮き出た模様を発見した。どうやらシールのようにピッタリと張り付いているようだ。こ、これは…間違い無い…
「大変だよカター!!カターの念話石に違法パーツがくっ付いてるよ!!」
「違法パーツ?何それ?」
「違法パーツ…最近は違法シールとも呼ばれているんだけどね。この違法シールを魔道具や杖に貼ると、魔道具に新しい能力を追加させたり、物凄い威力のある魔法が魔術を知らない素人でも簡単に出せるようになったり…とにかく、このシールは魔道具の性能を簡単に改造してしまう恐ろしいパーツなんだよ!!」
「それは危ないですね…」
「えっ?ロイワ、それって物凄く便利じゃないの?シールを貼るだけで簡単に強力な呪文を出せるんだよ?」
「安全なものなら良いんだけどね…このシールの技術は中途半端なものが多くて、これを貼ると高確率で道具に不具合が生まれるんだよ。
道具の一部が焼け焦げたり、人体に害を与えたり、最悪使用者が命を落とす事もあるし…後、このシールは違法だから警察に見つかると…」
「……何となくヤバいって事が分かったよ。とりあえず先生に報告しなくちゃ」
「でも他の人に聞かれたら色々と誤解されそうだから…とりあえず先生を此処に呼ぼう!ちょっと待っててね…」
私は先生を呼び出す為に、ズボンのポケットからコンパクトサイズの魔道具を取り出した。
「ロイワ、それは何ですか?」
「コレは私が作った携帯念話だよ」
「えっ!作ったって…それ念話器なの!?こんな小さいので念話が出来るの!?」
「うん!近くにある念話器にしか掛けられないけど…先生は念話器を持ってるっぽかったし、此処で使用すれば絶対ヘル先生に掛かると思うんだよね。あ、後もう一つ……ユリコが持ってる念話石貸してくれないかな?少し試したい事があってさ…」
「いいですよ」
更に私は頭に着けていた赤い髪飾りを外し、ポケットから拡張石を取り出すと、髪飾りと拡張石をユリコの念話石と交換した。
「これは?」
「アカダマで作られた髪飾りと拡張石だよ。私の考えが正しければそれで……よし、とりあえず先生に念話掛けるね」
一通りやる事を済ませると、私は携帯念話の通話ボタンを押した。
カチッ…
リーン……リーン……
『はい、私です』
「あっ!ヘル先生こんにちは!!私です、ロイワです!!」
『なっ!?ロイワ、何故私の念話器に!?』
「その話は後です!先生、実は…」
私はヘル先生に、カターの念話石にくっ付いていた違法パーツについて簡単に説明した。
『何!?最近学生の間で違法パーツが流行しているとは聞いていたが…まさかカターが被害に遭うとは…』
「この違法パーツは中古の魔道具をくり抜いて作った物のようですし、コレを貼った犯人を探し出すのも難しいと思います」
『そうだな…』
「はい。とりあえず、ヘル先生にこの違法パーツをこっそりお渡しようと……」
『いや、そのままにしておけ。その違法パーツの特徴からして恐らく、コレを貼った犯人は近い内に自ら名乗り出て来るだろう。
それにしても、僅かな違和感だけで違法パーツを発見するとは…流石ロイワだ!国が認めた技』
「わーーーーっ!!ヘル先生!そう言うのは表で堂々と言うのは…!!とりあえずそう言う事ですので!!では!!」
『なっ!ロイワ、そんなに慌てて一体どう…』
カチッ!!
「はぁ…はぁ…カター、シールはとりあえずそのままにしておいて、だってさ…」
「ロ、ロイワ…大丈夫?何があったの…?」
「まあ色々とね……そうだ!ユリコ、さっきどうだった?ヘル先生の話聞こえた?」
「えっ?ユリは今、念話石持ってないからさっきの会話は聞こえないんじゃ…」
「はい、聞こえました」
「えっ!?何で!?」
「さっきユリコに渡した拡張石とアカダマの金属のお陰だよ。多分、さっき私がカターの念話石の音が拾えたのもそれのお陰だと思うんだよね」
多分私の身体を構成しているアカダマと、外に生えていた拡張石と反応したのが原因で、カターの念話石から聞こえる僅かな音も拾えたんだと思う。
「そうだったのですか…そうそう、話の最後にロイワと国がどうとか言ってましたが…」
「いや、それはいつか2人に話すよ……今はちょっと話辛いと言うか自慢みたいで何かアレと言うか………ごめんね」
「そうですか…それなら仕方ないですね」
「うん、ロイワが言いづらいなら無理に言わなくて良いよ。とりあえずそろそろ時間になるし、早歩きで広場に戻ろうよ」
「そうだね…ユリコ、カター、ありがとう…」
ああ、カターとユリコが良い子で良かった…
私は念話石をユリコとカターに返し、ユリコから髪飾りと拡張石を受け取ると、2人と共に集合場所である広場に向かって走り出した。
「ねぇねぇ先生、さっきのは何の話だったんですか?」
「いや、あれは……」
広場に到着すると、女子生徒達に囲まれて質問攻めされるヘル先生の姿が。何だか嫌な予感…
「さっき国がどうとか言ってたけど…」
「ロイワさん国から何か言われたの?」
「何々〜?先生、何の話?」
「いや、ロイワは表で堂々と言うのは嫌だと……」
「え〜?ロイワって表で言えないような事してるんですか〜?」
「ちっ、違う!!そうでは無い!!」
やばい、さっきの念話の所為で私に対する誤解が生まれている……女子の噂の拡散力は半端じゃ無いからなぁ…此処で変に誤魔化したら私に関する変な噂が…ヘル先生は誤魔化すのが下手だし……ああどうしよう…
「ロイワ、どうしたの?何か女子達がロイワの話をしているみたいだけど…」
私がヘル先生と女周りの生徒を遠巻きに眺めていると、広場に居たルーサが私に声を掛けて来た。
「あっ、ルーサ!いや、実は色々あって…私に対する誤解が現在進行形で生まれている最中なんだよ……」
「……よく分からないけど、あの女子達の会話をロイワから逸らせば良いんだよね?」
「そんな事出来るの?」
「出来るかどうか分からないけど、とりあえず頑張ってみるよ」
ルーサ何する気なの!?
ルーサは私の心配を他所にして、さっさとヘル先生の下に駆け寄った。
「ヘル先生!」
「ん?ルーサ、どうしたんだ?今忙しいから話なら後に……」
「いや、少し気になる事があって…ヘル先生、そのネックレスは誰から貰ったんですか?」
ヘル先生にネックレス…?あっ!昨日私がヘル先生のプレゼントとして作ったネックレス付けてる!!センチいつの間に渡してくれたの!?
「ネックレス……?あっ、ホントだ!ねぇねぇ先生、それって誰から貰ったんですか?」
「もしかして彼氏から貰ったんですか?」
「えっ?先生彼氏いるの〜?」
「ちっ、違う!!断じて彼氏では無い!!これは大切な友人から貰った首飾りなんだ!!」
「大切な友人ねぇ…」
「ヘル先生、凄い慌ててる〜」
「何か怪しい〜」
ルーサの一声がきっかけで、いつの間にか話の中心は私からヘル先生の彼氏の話に…女子ってこう言う話好きだからなぁ…
「先生、その大切な友人ってやっぱり…」
「こら!!大人を揶揄うんじゃない!!そろそろ授業が終わる15分前だ!!!お喋りしてないでさっさと並べ!!!!」
「はーい」
「え〜」
「良い所だったのに〜つまんないの〜」
ヘル先生の一言で、周りに居た生徒達が次々とヘル先生の元から離れていく。どうやら私に対する変な噂はいつの間にか消え去ったようだ。代わりにヘル先生が犠牲になっかけどね……
「ルーサ、ありがとう!お陰で助かったよ…!」
「いいよ、困った時はお互い様だからね。それよりも…上級生の噂で聞いたんだけど、ロイワってレベル持ってる?」
「えっ!?知ってるの!?」
何故上級生が私がレベル持ちだと……いや、ただレベルを持っているだけなら認めても大丈夫かな。変に否定しても新たな誤解が生まれそうだし…
「……うん、一応持ってるけど…レベルがどうかしたの?」
「やっぱりか……ロイワ。今日の後半の授業ってさ、部活動見学をしてから入る部活動を決める日でさ。同時に上級生が登校してくる日でもあるよね」
「うん…」
「あのね……ロイワ、四限目が終わった後は気を付けてね……」
………えっ!?四限目が終わった後何があるの!?




