55話 学校生活の始まり
リュユ理事長と共に学校に戻った後、私は学生寮にある自分の部屋に閉じこもり、『精霊の人格形成』の本を片手にある物を作っていた。
「で…出来た!ついに出来た!!」
朝食の時間が始まるまで寝ずに(睡眠は取らないタイプの種族なので大丈夫)作った物、それは…
チチチチ…
「動いてる…!私が作った小鳥がひとりでに動いて囀っている…!!」
私の手の上で鉄細工の小鳥1羽が辺りを見回したり、頭を傾げたり、ピョンピョンと跳ねて指と指の間を移動している。
そう、私は初めて大精霊の力を使用せずに(本の知識は借りたが)生き物を作成出来たのである!
それにしても、小鳥1羽を作成するのに物凄い時間を消費してしまった…
道具を使用して鉄を細工し、小鳥の模型を作るのは簡単だったが、小鳥の模型を自立して動けるようにするのは非常に難しかった。生き物を作るのがこんなに大変だったなんて…
でも、無事に作成出来たんだし、これならいつか自分の力のみで人工精霊を作成できる日も遠くないかも!
パタタタタ…
小鳥の飛び方はまだぎこちないが、飛ぶ回数を重ねていく内に効率の良い動きを自分で学習し、いつか上手に大空を羽ばたける日が来るだろう。
「あっ、そろそろ朝食を食べに行かないと…」
コンコン!!
休憩室に移動する為に立ち上がるのと同時に、自室の扉を軽く叩く音が聞こえて来た。
「はーい!」
私は小鳥をズボンのポケットの中に仕舞い、私服の上に制服を羽織りながら扉を開けた。
「ロイワ、おはよう御座います」
「ロイワ、おはよう!今から一緒に朝食食べに休憩室へ行かない?」
扉の向こう側に居たのはカターとユリコ。どうやら私を誘いに来てくれたようだ。
「カター、ユリコ、おはよう!うん、私も丁度朝食を食べに行こうと思ってたんだよ!行一緒に行こう!」
「ロイワ、昨日は突然連れ去られていましたが、大丈夫でしたか?」
休憩室へと続く廊下を移動中、ユリコに昨日の誘拐事件について尋ねられた。
「うん、私は何とか無事だったよ」
内容については詳しくは語れないけど、とりあえず大丈夫だったよ…
「良かった…昨日、ロイワがいきなり連れ去られたから私物凄く心配したんだよ。そうそう、昨日と言えばさ、大精霊様が仲間を連れて暴走した勇者を止めたって話知ってる?」
えっ?その事件もう話題になってるの?
「朝のニュースで出ていましたね。まさか私達が生きている間にこのような凄い大事件が起こるとは…人生何があるかわかりませんね」
「だよね。大精霊様に呼ばれた沢山の光妖精が夜空を飛び回る姿、見たかったなぁ」
「そ、そうだね…」
まさか仲間の招集を私がやりましただなんて言えやしないし…いや、言った所で信じて貰えないだろうけどさ…
「ロイワ…」
2人と会話をしながら歩いていると、背後から聞き覚えのある声で私の名前を呼ばれた。
「あっ、リオ!おはよう!」
「おう、おはよう!……じゃ無い!!ロイワ、精霊で勝負だ!!」
えっ?またやるの?
「リオ、またやる気?ロイワとは昨日勝負が着いたでしょ?それに、私達これから朝食を食べに行くんだから邪魔しないでよ」
カターは嫌そうな顔をリオに向けながら不満を口にしている。
「ああ、昨日は確かに俺は負けた!だが、昨日のバトルを振り返ってしっかり対策を練って来たんだ!今日は俺が勝つ!!」
「……私達の話、全然聞いていませんね」
ユリコは呆れながらリオを見つめている。
リオ、もしかして昨日交わした『次戦う時は事前に相手の用事を確認してから』って約束を忘れているのでは…?
「昨日の約束は覚えている!ロイワ、これから朝食を食べに行くんだろ?なら朝食を食べ終わった後で俺と勝負してくれ!!」
「……分かった。リオがそこまで言うなら、朝食食べ終わった後で勝負してもいいよ。この廊下の先にある広い場所で待ち合わせして、その場で勝負しようよ」
「よし!分かった!!ロイワ、勝負から逃げるなよ!!」
カターとユリコと共に休憩室で朝食を食べ終えた後、私達は廊下にある広めの場所に移動してリオと合流した。
「ロイワ、待ってたぞ!!…で、カターとユリコは何しに来たんだ」
「何って…ロイワの勝負を見に来たんだよ」
「リオが負ける姿を見に来ました」
「おい!!そこの蝶人!!今なんて言いやがった!?」
「リオが負ける姿を見に来ました」
「くそぉ!!絶対にロイワに勝ってやるからなぁ!!」
「はいはい……ゴーくん、頼んだよ!」
私はリオの言葉に適当に返事を返しながらゴーレムの精霊を召喚した。
呼び出されたゴーレムのゴーくんは、私にちらりと視線を向けながら軽く手を振ってくれた。可愛い。
「ゴーレム…ゴウクンの必殺技は強力だが、動きは鈍臭い…つまり!ロイワはゴーレムを動かし慣れていないと言う訳だ!つまり必殺技を撃たれる前に倒せば勝てる!!行けっ!ジャック!!」
シュッ!!
カボチャ頭のジャックはその場に召喚されるや否や、直ぐにゴーくん目掛けて思い切り飛び込んだ。
グルン!
ゴーくんはジャックの突進を回転しながら華麗に避け、ジャックの背後にピタリと張り付いた。
「なっ!?速…
ガシッ
バキィ!!
「ジャックーーーーーー!?!?」
ゴーくんに掴まれた上に思い切りバックドロップを決められ、ジャックのカボチャ頭はあっという間に砕かれた。頭を失ったジャックはその場に倒れ込み、やがて消滅してしまった。
「ロイワ…何だあの動きは…!?昨日と全然違う……いや、負けは負けだ!!ロイワ!次はこうは行かないからな!!」
リオは捨て台詞を吐くと、休憩室に背を向けて何処かへと走り去ってしまった。
リオ…潔いのは良いんだけど、所構わず勝負を仕掛けるのはどうにかしてくれないかなぁ…
リオと勝負した後、私達は1限目の授業を受ける為に1年1組の教室に移動した。授業が始まるまでの間、隣の席に座っているルーサと会話をする。
「1、2限目は魔法の授業、3、4限目は実技の方の魔法の授業で…今日は魔法漬けだね」
「魔法専門の学校だからね。ロイワは授業の中で1番楽しみにしている科目はある?」
「あるよ!私は魔法実技の授業が1番楽しみなんだよ、ルーサは?」
「僕も魔法実技が楽しみかなぁ、今まであまり魔法に触れた事が無かったから座学の方も楽しみだよ」
「はーい、皆さん!今から魔法の授業を始めますよー!」
ルーサと会話をしていると、声が低くて背の高い青色の鉱石人が教室に入って来た。
(あっ、あの鉱石人が魔法の先生かな?)
(へぇ〜あの先生、リリハ様を信仰しているみたいだね)
(リリハ様?)
(知らない?動物寄りの自然の大精霊様で、セレセル様の妹だった…)
(えっ?セレセル…様に妹が居たの?)
「はいはい皆さんお静かに!さてさて、これから皆さんには
『迎えに来ました、ロイワ様』
先生に視線を向けた瞬間、周りに居た生徒はいつの間にか消え、外は真っ暗になった上に目と鼻の先に女性の顔が現れた。
「うわああああああああああああ!?!?」
『大丈夫ですか?ロイワ様』
突然目の前に顔が出て来たら誰だって驚くでしょ!?!?
「って…あ、貴方はナビさん!?」
成る程…ナビさんに裏世界に連れてこられたから周りが急に暗くなったんだね。
『はい。リュユ様から伝言を預かったので伝えに来ました』
「伝言…ですか?」
伝言を伝えに来たって…せめて授業が終わった後で伝えに来てくれれば良いのに…
『えー…[ロイワさんは既に『技術師』の資格を持っている為、『魔法座学』の授業を受けなくても良い]』
「……えっ?」
『簡単に説明しますと、ロイワ様は既にこの学校で学ぶ魔法の知識を全て持っていた為、魔法座学は必要無いと判断されたようです』
「…マジで?」
『本当です。なので、ロイワ様は魔法座学の授業に参加しなくても大丈夫です。魔法座学の授業中はご自由にお過ごし下さい。自室で研究するのも良し、図書室で勉強するのも良し…』
そんな事ってあるんだ…まあいいや、こうなったら自室に戻って人工精霊の研究の続きでもするかな。
『ロイワ様、もう1つ伝言です。[ロイワさん、人工精霊の研究は何処まで進んでる?]』
「人工精霊の研究ですか…そうそう、リュユ理事長がくれた本のお陰で…ほら、とりあえず小鳥1羽を作り出せる位には研究が進みました!」
私はポケットの中に入れていた小鳥を取り出してナビさんに見せた。
リュユ理事長がくれた本の内容の中に[小鳥作りは『精霊作りの基本中の基本!』]
…とか書かれていたから、人工精霊の基本的な部分は出来る様になったって感じかな?
『えっ?もうそこまで出来たの?』
「えっ?」
今、ナビさんの口調が変わったような…
『いえ、何でもございません。ロイワ様、少々お待ちを…』
予想以上に進んでんなぁ…えーっと…小鳥を作成した後…あった、コレコレ……へぇ、リュユ様はこれを見越してコレを……
『お待たせしました。この封筒の中身をご確認下さい』
今、確かにナビさんの口調が…
「は、はい…」
私は恐る恐るナビさんから封筒を受け取り、封を開けて中の手紙に目を通した。
[ロイワさんに試練……と言う名のお仕事の依頼。
勝負に強い『悪魔』の人工精霊を作って下さい。
報酬は高めに払います]
え……こ、これって……
人工精霊を作るお仕事の依頼!?
「ナビさん!?な、何故私にこんな依頼が!?」
『えっ?ロイワ様はご存知無いのですか?今この世界で人工精霊を…そして、人工精霊の基本となる『小鳥作成』が出来る人物が
指で数えられる程度しか存在しない
からで御座います』




