54話 ボスUFO
「こんなに人員増加してしまった以上、簡単に勇者退治を中断させる事は出来ない。ロイワ、勇者のボスを倒して。今すぐ」
「分かりました!因みにボスって、あの山の向こう側にある砂漠を越えた先の上空に浮かぶ巨大なUFOだったりする?」
「その通り。アレを倒せば他の勇者は全て停止する。ロイワさん…もしかして、勇者に刻まれた呪文を読み込んで自身に使用した?」
「そうですが…もしかして、あまり良くなかったですかね?」
「ロイワさんが正常なら大丈夫。むしろボスからも呪文を読み込んだ方がいい。ボスが機能停止したら、今ロイワさんが持っている勇者の力の殆どが役に立たなくなる。
周りがよく見えるのも、知らない場所に瞬間移動が出来るのも、瞬時に照準を合わせる事が出来るのも、遠くからボスが情報を送っているから」
そうだったんだ…いや、これって下手したら私もボスに操られてた可能性もあったよね…
「分かりました。では急いでボスを…」
「主人!ご無事でしたか!」
いつの間にか普通の人間サイズに変わったダンデが私達に駆け寄ってきた。先程からずっと害獣と戦っていた筈なのに、怪我どころか擦り傷すら付いていなかった。
「私は大丈夫だよ。私は今からこの会場のラスボスを倒しに行ってくるから、ダンデは此処の害獣の退治を頑張って!この子達の事も頼んだよ!じゃあね!!」
「主人!?この子達は一体…?」
私は自分の肩に乗っているミニスライムを全てダンデの肩に乗せる。その後、急いで探知機を起動してボスUFOの数メートル前にある開けた場所に立つ自分の姿をイメージした。お願い!成功して…!
スッ……
「消えた!?主人が音も無く綺麗さっぱり消えた!?」
「よし!瞬間移動成功した!!」
周りの景色が一瞬で変化し、先程探知機で映したボスUFOの数メートル前にある開けた場所と同じ景色が周りに現れた。真前には例の巨大なUFOが不自然に浮かび上がっている。
物凄く大きい…だけど、私はもっと大きくなれるもんね!!
私よ、元の大きさに戻れ!!
ゴゴゴゴゴゴ……
周りの景色が段々と小さくなり、空に近付いていくにつれて巨大UFOが次第に縮んでいく。
やがて私が元のサイズに戻った時には、巨大UFOが手頃な小皿サイズになっていた。
フッ…
ボスUFOが私の目の前から消えたが、探知機のおかげで姿を消したボスUFOの姿も瞬間移動先も全て理解出来た。
「よっ!」
グシャリ!!
瞬間移動したボスUFOを思い切り鷲掴みし、再び瞬間移動で逃げ出せないようにギリギリ形を保てるレベルまで押し潰した。
シーン…
ボスUFOは逃げ出す素振りを全く見せない。だが、いつ元の姿に戻って逃げ出すか分からない。
(よし、今の内に…!)
私はボスUFOに書き込まれている呪文を急いで読み込んでは私の体に刻み込んだ。
ググググググ……
今までに無い感覚が身体中を駆け巡っていく。物凄い情報量が私の身体の中に刻まれていく。
やがて全ての呪文を身体に刻み終えると
「勇者、私に新しい力をありがとう!じゃあね!!」
パァン!!
ボスUFOを鷲掴みしたまま全力で手を合わせた。
手を合わせた瞬間、掌が一瞬だけ輝く。
再び両手を開くと、手の中には何も残っていなかった。
た、倒した…!勇者のボス、巨大UFOをこの手で…!!
ボス退治の後、来てくれたみんなにお礼を述べる為に再び試験会場の出入り口まで瞬間移動すると、あっという間に夥しい数の魔族達に囲まれてしまった。
皆は口々に私を褒め称えるような発言をしていた(中には帰りの運賃やら褒美やらを催促する人も居たが)。
リュユさんが周りの魔族を何とか落ち着かせながら私を魔族の群れから連れ出し、浮遊する赤い城、つまりロイヤルさんの体内に再びやって来たのだった。
因みに城内ですれ違ったラードさんには『移動する度に弾丸のように飛び回って敵に風穴を開ける絶対に潰れない頑丈なミニスライムと、金属を喰らい相手に寄生する銀虫』を管理する権利を差し上げました。
「ロイワさん、勇者討伐おめでとう」
「ロイワなら大丈夫だと思ってたよ!おめでとう!!」
「リュユさん、ありがとうございます…!センチ、あんなにヤバい相手だって知ってた筈なのに、それでも勇者退治を手伝ってくれてありがとう!!」
一時はどうなるかと思ったけど…ボスも討伐出来たし本当に良かった!
「いや〜、まさか勇者の力を自分の物にするなんて……ロイワ、その胸どうしたの!?」
「えっ、胸?……あっ!?」
センチに指摘され、私の胸の中央を見るとそこには…
「あ、穴が開いてる…」
「これ、ボスが開けた穴」
「えっ!?」
私、いつの間に撃たれてたの…!?
「私がボスに撃たせた」
「「ええっ!?」」
リュユさんの衝撃発言に私もセンチも驚いた。いや、リュユさんあのボス操作出来たの!?
「私、本当はロイワさんを負けさせようとした。ロイワさんが27体のUFOを倒した後、油断してる所を思い切り攻撃させた。勿論死なないよう、かつ戦場の続行が不可能になるよう調整した。これも1つの修行として、負けた悔しさをバネにしてもっと強くなってもらおうと思って。だけど失敗した。ロイワさんは想像以上に頑丈で、既に勇者の力を取り込んでたから更に頑丈になってた。だからそんな穴しか開けられなかった」
あ…私が新しい力を試してた時だ…。あの時、うるさいからって探知機を切らなければボスが私を攻撃する瞬間を見逃さなかったのに…!もし本当の戦場だったら、私はどうなっていたのだろうか…
「しまった…完全に私のミスだ…確かにあの時油断していました…」
「ロイワさんが理解出来たなら大丈夫。あと、これ」
リュユさんはポケットから白くて丸い懐中時計のような物を取り出し、私に手渡した。
「ん?これは…」
「これは魔法使い検定を合格した証。今面接官は色々と忙しいみたいだから私が渡す。『大精霊様の加護』『呪文の知識』『戦闘力』等を総合して考えた結果、ロイワさんは晴れてレベル10となり、『魔法使い』と『技術師』の資格を得た」
「レベル10!?私が!?本当に!?」
「そう。『魔法使い』はこの検定をレベル10で合格出来た人である証。呪文の実践的な知識と技術が足りなかったから『魔術師』にはなれなかったけど、呪文を刻んで使いこなす『技術師』の資格を得られたのは非常に大きい。これからの頑張りに更に期待」
「あ、ありがとうございます…!」
「技術師!確か呪文で動く道具やら設備を作ったり直したりする人だよね?それが公式で認められたとなると…ロイワ、これは物凄い事だよ!!」
「マジで!?」
「うん!私はどう凄いのかは詳しくは分からないけど…ロイワおめでとう!!」
「センチありがとう!!」
センチは大喜びで私を思い切り抱きしめ、頭を撫で回してくれた。
「はぁ…(あの時、ロイワさんが居てくれたら…)」
「ん?リュユさん何か言いましたか?」
「何も。ロイワさん、そろそろ帰らないと学校に遅刻する」
「そうだった!ちょっと待ってくださいね…はっ!!」
ボ ォ ン ! !
破裂音と共に現れた赤い煙が私を包み込む。煙が晴れると、そこには『金色が混ざった長い赤髪を一本の三つ編みにした、赤目でつり目の吸血族の少女』の姿の私。
体内に入れていた大きな荷物を背中に背負い、右手の親指には赤い指輪。この赤い指輪は私の本体だ。本当は再び遊園地の城内に置いていくつもりだったが、勇者との戦闘後、いつ何か起こっても直ぐに元の姿に戻れるように私の手元に置いておこうと思ったのだ。
「やっぱりロイワだったんだね〜、雰囲気や動作がまんまロイワだったから直ぐ分かったよ!」
「センチ…!ごめんね、大精霊なのに今更学校に通うって伝えるのは何だか恥ずかしくて…そうだ。センチ、後でコレをヘルに渡してくれないかな」
私はズボンのポケットから丸い石が付いている赤いペンダントを取り出し、センチに手渡した。
「戦闘が始まる前にも言ったけど、本当は学校に通う前に何かしらヘルにあげるつもりだったんだよね…コレは何の力も込めてないから大丈夫な筈!」
「分かった!絶対にヘルに渡すよ、任せて!」
「センチ、ありがとう!また何処かに遊びに行こうね!」
「うん!私楽しみにしてるよ!!またね!!」
「またねー!!さてリュユさん、学校に戻りましょう!」
「うん、帰りは青龍に乗って帰る」
「帰りは青龍さんかぁ。あの人は見た目からして常識人に見えるし、かなり安全そう
ガシッ!!
「!?!?」
突然、背後から現れた巨大な青い手に胴体を思い切り掴まれた。
見上げてみるとそこには、真っ青で胴体が長いタイプの龍の姿が。
「リュユさん、これは一体…な……?」
慌ててリュユさんを見ると、私と同様に胴体を掴まれている。
え?この手ってまさか青龍さんの手?この手の龍って手に玉を握ってるのは見た事あるけど、私達、玉と同じポジションなの?
『失礼します』
そう言うと青龍は、城の窓から外に向かって飛び出して全力で空を飛び始めた。
ゴオオオォォォォォォォォォォオオオ!!!!
「ああああああああああああああああ!?!?」
「やほー」
周りの景色が目まぐるしく変わり、気付いた時には既に学校の玄関前に到着していた。
リ、リュユさん…もしかして絶叫系大好きなのかな……




