52話 勇者の力
真っ青な青空に浮かぶ円盤状の黒い物体、あまりにも不自然で物凄く不気味だ…気色悪いなぁ…
「いや待って!!あの円盤も勇者って、そもそもあれは人間な……センチが居ない!?」
先程まで隣に居た筈のセンチの姿が忽然と消えていた。どうやらセンチは既に戦闘態勢に入り、姿を消して何処か別の場所に移動したようだ。
それにしても違和感無く静かに消えたなぁ…魔法を使用した気配がほぼ無いから多分、改精霊(精霊を改造して使いやすくしたもの。知識の共有も形態変化も出来なくなったが、自由に魔法や特技を追加できる上に未改造の精霊よりも魔力の使用量が大幅に減った為、かなり使い勝手が良くなった)の力を使用したんだろうけども。
…って、そんな事考えてる場合じゃないよね。
「よし、ミニスライム達!早速仕事を…」
スッ……
「UFOが消えた!?」
UFOが音も無く綺麗さっぱり消えた!?
…いや、私の真後ろに…何も見えないけど謎の気配がする!
「そこだっ!!」
私は素早く振り返り、背後に浮かぶ謎の気配に向かって右手を翳し、UFOを握り潰す感覚を想像しながら翳した掌を強く握り締めた。
ゴキッゴリゴロメキメキメキィ…!
辺りに物凄い大きな雷鳴のような音が響いた瞬間、グシャグシャに潰して丸めたアルミホイルのような形をした赤錆色の物体が私の目の前に現れ、ガタンと大きな音を立てて地面に落ちた。
「こ、これって…さっきのU
ボコン!!メキメキメキ…
「うわぁ!?びっくりした!!」
さっきまでゴミ屑のように丸まっていた物体が一瞬にして円盤の形に変化した(穴や細かい傷まで綺麗に塞がっているようだ…)。
やはりこの物体は、先程空に浮かんでいたUFOだった物体のようだ。
「傷が一瞬で…自動的に修復出来るって事なの…?」
だが、目の前に鎮座するUFOはピクリとも動かない…どうやら壊れてしまったようだ。
こんな技術が既にこの時代に…?いや、前に向こうの大陸に行ったけどあの国は大して発展してるようには見えなかったし、下手したら魔王国より遥かに文明が劣っているようにも見えたしなぁ…
それにしてもステルス的な機能に瞬間移動まで…魔族達はよくこんな訳分からん技術を再現出来たね…
……ん?魔族達が作った模造品って事は…もしかしてこのUFO、呪文を描き込んで作られた物なのでは?
もしそうなら、触れるだけで道具に描き込まれている呪文を理解出来る私の力でUFOから謎の力を取れるかもしれない!
そう考えた私は、ちゃぶ台並の大きさしか無いUFOを片手で思い切り掴んで持ち上げてみた。すると…
ググググググ……
(よしっ!思った通り!!)
予想通りUFOには呪文が描き込まれており、UFOから手を通して膨大な呪文が次々と流れ込んで来るのが分かった。
(この呪文を自分に描き込めば、UFOの力を取り込めるかもしれない!)
私はステルスと瞬間移動などの便利な能力を得る為に、UFOから取り出した呪文を次々と自分の頭に描き込んだ。
ブワァ……
呪文を全て頭に入れ終えた瞬間、今までに感じた事の無い感覚と共に数多の情報と景色が脳内に飛び込んで来た。
果てしない砂漠の上を、シンプルな白マネキンの大群が列を一切乱すこと無く行進している光景が見える。
更に遠くには巨大な円盤が浮かんでおり、円盤からUFOが次々と外へと飛び出しているのが見える。
私を囲うように浮かぶ27体のUFOの姿がはっきりと見える。
センチは先程まで平原を走っていたかと思ったら、いつの間にか海岸に姿を現し、かと思えば鉱山付近に姿を現し…位置情報が次々と変わっているようで、本物のセンチが何処にいるのか全く分からなかった。
「これは…この会場内に居る人達の情報…?」
(城の姿が見えない…どうやらラードさん達は勇者の目が届かない安全な場所へ避難したみたい…それにしてもセンチは一体どんな能力を使っ…
………
私勇者達(?)に囲まれてるーーー!?!?
いや、正確に言えばUFOなんだけど…って訂正している場合じゃ無い!
えーと…さっきのUFOから取り出した力の中に敵を攻撃出来る能力…能力を…
「えーい!どうにでもなれ!!」
テンパった私は慌てて両手をバッと上に突き出し、身体全体に全力で力を込めた。
カ ッ
私の頭がかつて無い程に眩しく輝き、辺りを眩しい光で覆った。
「ギャーーー!?!?何コレ!?何コレ!?何で光ったの!?って、そんな事してる場合じゃ…あれ?」
私が突然のフラッシュに慌てふためきながら、空に浮かぶ敵を確認する為に辺りを見回したのだが…
先程まで居たUFOが全て、跡形も無く消え去っていた。
「上空に浮かぶ27体のUFOが…消えた?ま、まさか…」
さっき私の頭から放たれた光がUFOを全て消し去ってしまったの…?




