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51話 全員集合

此処はロイヤルタウンにある、マジックカードを取り扱う会社。

今は夜行性の社員達が集まり、机の上に置かれた呪文書を広げて黙々と仕事をしている真最中であった。


リーン…リーン…


社内に休憩を告げる鐘の音が優しく響き渡り、社員達は仕事を一時中断する。


「ふぅ、漸く休憩か…」


コートを羽織った銀色の鎧が呪文書から手を離し、仰け反って自分が座っている椅子に思い切りもたれ掛かった。

「レアンさん」

隣に座っている赤髪眼鏡の男、グリルに声を掛けられた銀色の鎧…もといレアンは姿勢を直して赤髪の男に顔を向けた。

「すいませんレアンさん、この呪文について少し聞きたい事が…」

「グリル、今は休憩時間だ。この休憩時間が終わったら教えてやるから今は休め」

「ですが…仕事中に聞いたら仕事をする時間が…」

「グリル…そんな馬鹿真面目に仕事しなくても大丈夫だ、休憩中なら休めよ。それに、わざわざ休憩中に仕事の話してたらお前も俺も休憩する時間が減るだろうが」

「あっ…そうでした。申し訳ございません…」

「分かればいいんだ。それにしてもお前は本当に真面目な奴だな…グリル、休みの日はしっかり休んでいるのか?気分転換にどこか遊びに行ったりしてるのか?」

「はい、休日に体を休めないと仕事に支障を来すので…気分転換なら、人通りが少ない道をぶらぶら歩いたりしますね。偶に大通りから裏道に入って、マイナーそうな飲食店を見つけては入ったりします」

「裏道って…その辺はあっくんがよく居る場所だろ…あっくんが運営する変な店入ってぼられても知らねぇぞ?」

「あっくん…?」

「悪魔だよ、あの辺はよく悪魔がたむろしてんだ」

「レアンさん、悪魔とは魔人の一種です。悪魔の誕生については諸説ありますが、冥府の王ミュラー様がこの世に増え過ぎた魂を回収する為に作り出したと言う説が1番有名です。悪魔は人々を誑かす、この世にとって非常に迷惑な存在であり…」

「いや、今俺が話をしているのは裏道の悪魔の話で…」

「時の流れと共に悪さをしない悪魔が増えた為、近頃では彼等を一纏めに悪魔と呼ぶのは間違いと言われるようになりましたが、最近では悪い人を纏めて悪魔と言うようになったとか…先程レアンさんが言った悪魔は魔人の名称では無く悪い人の方ですよね?」

「わざわざそれを聞く為にあんな長い説明をしたのかよ…そうだよ、よくテレボでやってるだろ?変な店入ったら金やたま取られたとか…」

「はぁ…テレボは家に無いのでよく分かりませんが、新聞でそんな話を見たような…」

「いや、そう言う話聞いてるなら裏道に……って、おい!?お前ん家テレボ置いてねぇのかよ!」

「はい…情報については新聞や本を読んでいるので十分かと」

「いやいやいや…お前、それマジで言ってるのか!?今時家にテレボ置いてないとか、田舎の爺さん婆さん家じゃあるめぇし…」

「大袈裟ですよ…テレボが無くても普通に生活出来ま……」

「………?」

突然会話が中断し、グリルの身体が不自然に止まってしまった。

「…グリル、どうしたんだ?」

「失礼します」

グリルはレアンが心配して掛けた声に対し碌に返事を返さずにその場で急に立ち上がると、とんでもないスピードで走り出して部屋から飛び出してしまった。


『あ〜ビックリした…レアンさん、さっきグリルさんが物凄い速さで屋上に向かって走ってったみたいだけど、グリルさんに何かしたんですか?』

「いや、俺も分からねぇよ…普通に会話してたら急に走り去ってったんだからな」

グリルと入れ替わるように入って来た青いスライムがレアンに事の顛末を尋ねて来たが、レアンには心当たりが無い為返答に困っているようだった。


「おい皆んな外見てみろ!!すげー事になってんぞ!!」


誰かが窓際で叫んだ声にスライムとレアンが振り向くと、いつの間にか窓際に社員達が集まり、一様に窓から外を食い入るように見つめる姿が見えた。

『ん?どうしたんだろう…』

「何だぁ?祭りでもやってるのか?」

レアンとスライムが窓際に近付き、窓から外の景色を眺めてみると…


「何だこれ!?」


真夜中であるにも関わらず、夜空が異常に明るくなっていた。空を照らす無数の白い光をよく見ると、羽の生えた人の形をしていた。

「ありゃ大量の光妖精だな、よく見るとみんな同じ方向に向かって飛んでるみたいだが…」

「光妖精に混じって蝙蝠が飛んでるのが見えるわ」

「おおっ!道路をウルファグーンの大群が走ってるぞ!!すげぇ!!」

「気のせいかな…さっき空に巨大な顔が見えたような…」

『誰かカメラか鏡持ってない!?』

「さっき鎧百足が全部駅から走り去るのが見えたよ」

「はぁ!?百足が居なかったら家に帰れないじゃないか!!」

「工事の虫達もどっか行くのが見えたぞ…一体何が起こってるんだ…?」

「これはまさか…大精霊様に呼ばれているのか?」

「何だそれ?」

「歴史の本に書かれてたんだよ。大精霊様が助けを呼ぶと、大精霊様に作り出された生物が全部大精霊様の為に集まるってやつ」

「大精霊様の為に…つまり今、大精霊様の身にとんでもない大事件が起こってるって訳か…?」




一方、魔法使い検定会場内では…


「外から白い魔女まで来てるみたい。やはり大変な事になった、ロイワさんが作った生き物がみんな此処に集まってるらしい」

空に浮かぶ城の中で待機するリュユは、水を張った洗面器が映し出す外の景色を見て溜息混じりに呟いた。

「まさか鉱石の大精霊様が放った一言でこんな事になるとは…集まった生物が全部この会場内に来てしまったら、敵が勇者だけでは足りなくなる!こうなったら…この会場内の生物全てを暴走させるしか無い!!」

「ラード、わざわざそんな事するの?」

「当たり前です!大事な仕事を放棄させてまで集めてしまった魔物達…いや、わざわざ魔物達を呼んでくれた大精霊様が大恥をかいてしまいます!味方が怪我をしない程度に暴走させるので大丈夫です!

よし、この「会場内の生物大暴走」もグロウが引き起こした事件と言う事にして…よし、私は少し失礼する」

そう言うとラードは、近くに置かれた鏡に頭から体全体を突っ込み、やがて鏡の中へと消えてしまったのだった。



一方、会場内の草原付近に居るロイワとセンチは…


「もっと!もう少し強く押し込んで!」

「えぇ〜…これ以上強く押したら鞄の中身が潰れるんじゃないの?大丈夫?」

私は会場に持って来ていた大きな鞄を隠す為に、自分の頭を外して首の部分から鞄を突っ込んでいた。

「よし、これで大丈夫かな」

流石に私1人で作業をするのには無理があった為センチにも少し手伝って貰い、ようやく鞄を私の体内に隠す事に成功したのであった。

「よし、準備完了!後は勇者を待つだけだね」

私は頭を元の位置に戻し、改めて気合いを入れ直して勇者を待ち構える姿勢に戻った。

「うん、ロイワから貰った武器もあるし、戦闘用の精霊も既にスタンバイさせてあるから私も準備万端だよ。勇者なら多分、飛んでる奴が先に来ると思うよ」

飛んでる奴…魔法で空を飛んでるのかな?

「ロイワ、噂をしたら勇者が来たよ」

「えっ、マジ!?どこどこ?」

私はセンチが指差した方向に顔を向け、空に勇者の姿を探し…

「……えっ?何あれ…」

青い空に黒くて丸い物体が1つ浮かんでいる。どうやら円盤状になっているようだが…


「あれが勇者だよ。今はもう存在しない、昔話でしか存在を語られていない謎の兵器であり、複数姿が存在する勇者の中の1つ、円盤型勇者だよ」


「ええええええぇっ!?!?」

確か昔、ヘルがした敵国の話でとんでもない兵器がどうとか言ってたけど…あれは勇者じゃ無くてもはやUFOじゃん!?しかもセンチの話ぶりからしてまだ別に兵器並みの恐ろしい勇者が居るみたいだ…


まさか此処までとんでもない兵器が昔に存在していたとは…昔の魔族達が勝てなかった訳だよ…

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― 新着の感想 ―
[良い点] 勇者って人形ですらなかったんですね… 対魔兵器とでも呼んでいいかな
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