50話 本番10分前
「鉄の山に到着!」
「うわぁ〜物凄い鉄の匂いがする〜」
鏡の中に映る2人から逃げるように移動し、私…いや、ロイヤルさんの力で鉄塊へと変わってしまった大きな山の麓へと到着した。
山に生えていた植物も全て金属に変わっていたが、動物や虫などの形をした金属は一切見つからなかった。
「その辺に生えてる草木も鉄に変わってるね!ロイワ、この鉄も何かに利用するの?」
センチは鉄色の地面にしゃがみ込み、その辺に生えている鉄製の若葉を指先でつつきながら山の処遇について尋ねてきた。
「うん、折角だからこの山も何か新しい生き物に変えようかなと思って…」
「山の生き物かぁ…きっと物凄く大きな生き物が出来上がるんだろうなぁ…」
「どんな生き物になるかは…とりあえず見てれば分かるよ」
そう言って私は、目の前にある大きな鉄の山に意識を向けた。
ブワァァアアア……
風のような音と共に目の前にある山が天辺から少しずつ削れ、塵状になって辺りに広がり始めた。
「えっ…?山が消えてく…?」
山が完全に消えると、辺りに広がった塵状の物体は空中で大きな球状にまとまり、ブンブンガサガサとやたら大きい音を立てながらゆっくりと私達に近付いて来た。
バババババババ……
「げっ!この銀色の球体全部虫じゃん!?」
「その通り!あの山の金属を全部使って小さい虫を沢山作ったんだよ!」
銀色でザワザワしながら浮遊する山のように大きな球体、会場内を照らす太陽の光を浴びて表面の虫達がキラキラと反射する様は、さながら目の細かいミラーボールのようだった。
バババババババ……
「ねえロイワ、この虫達はどうやって戦うの…?」
「とりあえず戦う姿を見せてあげるよ、それっ!」
私が少し離れた位置にある草原に向かって力を込めて指を差すと、指を差した草原の地面から色とりどりの金属で作られた鎧が5体現れた。
「あれを勇者だと想定して……攻撃ーーっ!!」
遠くに見える金属の鎧に向かって指を差して虫達に指示を出した瞬間
ズババババババババ!!!!
虫の玉は物凄い音を立てながらあっという間に鎧の元へと飛んでいき、5体ある鎧が虫の大群にあっという間に飲み込まれてしまった。
ブワワワワ……
やがて虫の大群は草原から離れ、ゆっくりと私達の前へと戻った。先程鎧が立っていた草原に目を移すと…
「よし、想像通りにやってのけたね」
「うわぁ…えげつな…」
先程まで鎧の形をして草原に突っ立っていた金属は、見る影もなくボロボロに食い荒らされていた。鎧を構成していた金属の小さな屑が辺りに散らばっている。
「この虫達はこんな風に金属を食べてくれるんだよ。虫達に指示を出せば仲間同士でくっ付いて剣や槍になって空から落下して攻撃したり出来るし…後ね、この虫が1匹でも人間の体内に侵入すると……人間の体を乗っ取っちゃうんだよ」
「えっ!?ちょ、ちょっとロイワ!?そんなヤバいやつこんなに沢山作って大丈夫なの!?」
「大丈夫!この虫達は私の指示以外では一切動かないようにしてあるから!あと勝手に増えないようにもしてあるから安心してね。さて次は……よっ!」
私は掛け声と共に両手を合わせ、手の中に思い切り力を込めた。
ボンッ!!
両手を離した瞬間、手の中から深緑色のグローブが現れた。
「センチ、このグローブ着けてみて!」
「うん、分かった」
センチが私からグローブを受け取り、黒い手袋の上に私が作った手袋を丁寧に装備した。
着けたね。じゃあ次は、何も無い場所に向かって水平に両手を突き出して…自分の得意な武器を思い浮かべながら両手に力を込めてみて!
「ん〜……『ボンッ!!』うわっ!?」
センチが両手を突き出して力を込めた瞬間、深緑色のグローブから長くて鋭い鉤爪が飛び出した。
「凄い……これ、自分が想像した通りの武器が飛び出すの?」
「そうだよ!想像して力を込めれば剣にも盾にも鎖にもなるよ!それセンチにあげるね」
「えぇーーーっ!?いいの!?」
「うん!本当は私が学校に行く前にセンチとヘルの2人に何かあげるつもりだったんだけど…ヘルに「大精霊様が無闇に人に物をあげたら駄目」って言われてあげられなかったんだよ。今回は勇者退治と言う重大任務があるから遠慮無くあげられるからね。今までの恩も込めてこのグローブをセンチにプレゼントするよ!」
「ロイワ……ありがとう!一生大事にするよ!!」
センチは力を抜いてグローブから飛び出した鉤爪を引っ込め、飛び切りの笑顔で私に思い切りハグをしてくれた。
「そうしてくれると私も嬉しいよ!」
くっついて来たセンチに対し、私も笑顔(鎧なので全く変わらないとは思うが)を浮かべながらハグ返しをした。
「ロイワ様!」
「あっ!この声は…ラードさん!」
私を呼ぶ声のした方を向くとそこには、先程私が作り出した鏡が宙に浮き、此方に向かってスーッと移動して来る姿が見えた。鏡の中にはラードさんの顔が映っている。
「ラードさん、どうしたんですか?」
「どうやら先程、勇者が起動したようです。あと10分程で此方まで来るかと思われます、ご注意下さい」
「えっ!?もう来るんですか!?」
時間があれば思い切って迷宮とか作りたかったんだけど…10分じゃ流石に間に合わないかな。残念。
「はい、とりあえず我々は戦に巻き込まれないように城ごと遠くに移動しますので…では失礼いたします」
「分かりました、報告ありがとうございます!」
「いえいえ、今の私に出来る事はこれくらいしかございませんので…では」
ラードさんが一通り話し終えた途端、鏡は力を失って雑草の上に音を立てずにそっと落ちた。鏡の中にはラードさんの姿は無く、ただ綺麗な青空を映し出していた。
「ロイヤルさんの真っ赤なお城がいつの間にか見えなくなってるね…はぁ、いよいよ勇者と会うのかぁ…」
あの凄い技術を持った強そうなリュユさんも「強い」と言った勇者…一体どんな奴らなんだろう…
「うん、でも私は奴らに負けるつもりは微塵も無いよ。ロイワだってそう思ってるよね?」
「うん勿論!全員で勇者を倒すよ!!」
「おぉーーーっ!!!」
ピョンピョン!
ブブブブブブブブブン!!!!
私の掛け声にセンチが大声で返し、私の肩にくっ付いていた4体のミニスライムと大量の虫達もその場で跳ねたり大きく動き回ったりして掛け声に応えてくれた。
よし!いよいよ本番だ!!
「あっ…」
「ん?リュユ様、どうかしましたか?」
「ラード…今のロイワさんの発言、嫌な予感がした」
「嫌な予感…?」




