49話 最強無敵の…
「どんな敵も倒せる無敵で最強の生き物を考える会議…それって、私が出した意見を元にして新しい生き物が作られるかもしれないって事?」
「そうだよ。センチは既に勇者と戦った経験があるみたいだから、積極的に意見を出してくれると有り難いな〜って思ってね。後さ、もし本物の勇者がこの街に攻めて来た時にしっかりと守ってくれる子が街に居れば、兵士や警察の負担も減るし、みんな安心して暮らせるでしょ?」
「……うん、分かった。えーと…相手は物凄く速い上に強くて…2〜5人位でまとまって行動して役割分担をしてるから…うーん…とりあえず物凄く速く動ける生き物を作るのがいいんじゃ無いかなぁ…?」
「成る程…相手は連携攻撃を…生き物は物凄く速い子ね」
私はセンチの意見を忘れないよう、油性ペンを使用して鉄製のボードに「物凄く速い」「団体。連携に注意」と記入した。
「ごめん、生き物についての意見が全然思いつかないや。勇者の模造品作りに関わったラードさんならもっと良い案が出るんじゃないかな?」
「へぇ〜、ラードさんってそんな事もしてたんだ!それなら…」
私は円形の大きな鏡を作り出すと、鏡に向かって思い切り頭を突っ込んだ。
スッ…
鏡の向こう側には、先程まで私達が居た豪華な室内と、此方に背を向けて静かに話し合いをしているラードさんとリュユさんの姿があった。
「ラードさん!」
「あ、ロイワさん」
「うわぁ!?ロ、ロイワ様!?」
私が2人に向かって声を掛けると、リュユさんはマイペースに返事をしながらゆっくりと此方を振り向き、ラードさんは勢いよく此方を振り返りながら驚きの声を上げていた。
「あっ!それは先程私が通り抜けて来た鏡…!確かロイワ様は今日初めて学校に入学したと風の噂で聞きましたが…既に上級魔法である写の魔法を知っているとは、流石ロイワ様ですな!」
「あー…これはですね…さっきラードさんがやってたやつを見様見真似でやってみたら出来たんですよ」
「見様見真似…!一眼見ただけで覚えてしまうとは、流石大精霊様!」
この人私が大精霊様だからって持ち上げ過ぎじゃない?褒めても何も出ませんよラードさん。
「ロイワさん、どうしたの?」
「はい、実は今、勇者退治をする為に最強の生き物を作ろうと考えてて…勇者の模造品を作ったラードさんや色々と詳しそうなリュユさんにも話を伺おうと思って此処に来ました」
「何と!生物の創造に私の意見を取り入れて下さるのですか!何と名誉な…!分かりました、勇者の1番とも言うべき弱点をお教えしましょう。
実は、あの勇者達は自分の意思が殆ど無いようなのです。ですので、奴等の思考を乗っ取る力を持った生き物を作るのは如何でしょうか。例えば、この生物のように…」
そう言ってラードさんは、ローブの中から大きな鳥籠を取り出して目の前のテーブルの上に置いた。鳥籠の中には蛇をモチーフにしたやたら造りの良い銀細工の置物が入っていた。
「綺麗ですね…ラードさん、コレは何ですか?」
「コレは先程まで職員の頭に張り付いていた金属製の蛇で御座います。この蛇は職員の頭に貼り付いて思考を乗っ取り、ご主人に無礼を働いた人間を探していたのです。今はもう力を失っているので二度と動きませんが、中々危険で恐ろしい生物でした」
「へぇー…物騒ですね…でも乗っ取りは色々と便利そうですし、とりあえずラードさんの意見も取り入れてみますね」
何か…人の思考を乗っ取る生き物をポンポンと簡単に作るのは少し気が引けるなぁ…てか、もしも私が作ったヤバい寄生生物が野生化して街を襲ったりでもしたらどうするつもりなんだろうか。
「ありがとうございますロイワ様。あの…もし私の意見を取り入れた…思考を乗っ取る生物を作ったら1体私に下さると嬉しいですが…」
「いいですよ」
まあ自分の意見を取り入れた生き物は1体くらい手元に置きたいよね。……それが人の思考を乗っ取る生き物だったとしても欲しくなるものなのかなぁ…?
「ありがとうございます。今私はこの世に存在する寄生生物を研究しておりまして…もし研究が進めば、一般人でも簡単に催眠術や洗脳の類を防止出来る道具が作れるかもしれないのです」
あっ、意外とまともな理由だった。ヤバい人だと思ってごめんねラードさん…
「さて次は…リュユさんからも意見が欲しいんだけど…何かありますか?」
「ある。勇者には周囲の魔法をかき消す力がある。魔法を使用せず、頭を一撃で潰せば勝てる、以上」
「成る程…リュユさん、貴重なご意見ありがとうございます!」
「うん。ロイワさんなら勇者達を全て倒せる、頑張って」
「はい、頑張って全て倒して見せます!では失礼します!」
私はリュユさんとラードさんに向かって一言挨拶すると、その場から退散する為に鏡から頭を引っ込めた。
スッ…
「あっ、戻って来た。ロイワお帰り〜」
鏡の向こう側から戻ると、センチが立ち上がって呑気な口調で私を出迎えてくれた。
「ただいま!センチのおかげで2人からいい話を聞けたよ!さて次は…集まった意見を参考にした新しい生き物を作るよ!よっ…」
私は右手に力を流し込みながら強く拳を握りしめた。数分後、ゆっくりと握り拳を解くとそこには、1センチ程の大きさしか無い赤いスライムのような生き物が4体現れた。
生まれたばかりの赤い生き物は、ムニムニと水饅頭のような体を動かして私の掌の上を動き回っている。
「可愛い〜!これって小さいスライム?」
「見た目はスライムっぽいけど、勇者を倒す力が込められた物凄い生き物なんだよ!」
「こんな小さいのが勇者を…?所で、この生き物は何て言う名前なの?」
「名前ねぇ…折角だからこの場で正式名称も決めてみよっか!そうだねぇ…この世で1番頑丈な金属である「赤玉」を使用して生まれた小さいスライムっぽい生き物だから…『ミニアカダマスライムモドキ』とかどう?」
「長ったらしい名前がかなり正式名称っぽいね!ロイワ、確かとある生物を倒す為に生まれた生物って名前に「対〇〇」って付いたりするよね。この子の場合なら「対勇者」も付けた方が良いんじゃない?」
「あー!名前に対が入ってるの見た事あるかも!それじゃあ…『タイユウシャミニアカダマスライムモドキ』で決まり!」
「ロイワ様、少し宜しいでしょうか…」
申し訳無さそうな声が先程私が作った丸い鏡から聞こえて来た。机の上に置かれた鏡を覗くとそこには、悲しそうな顔をしたラードさんの顔が写っていた。
「ラードさん、どうしたんですか?」
「奴らの正式名称は改造人間です。元々、勇者は我々の国にも存在していたのです。勇敢に悪に立ち向かう姿から、平和の象徴として市民から慕われていたのですが…あの改造人間が勇者と呼ばれるようになってからは、勇者は「悪い強者」と言う意味で世間に広まってしまったのです。つまり、正式名称にするならば「タイカイゾウニンゲン」でお願いします」
「わ、分かりました…では…『タイカイゾウニンゲンミニアカダマスライムモドキ』で…」
「ラードどいて。ロイワさん聞こえる?」
鏡の向こう側では、ラードさんを無理矢理押し除けてリュユさんが姿を現した。
「あっ!今度はリュユさんが鏡に写ってる!どうしたんですか?」
「名前は対勇者のままで大丈夫。ここは皆が知ってる勇者の名前を使用した方が分かりやすいしきっと世間に広まりやすい」
「リュユ様…今はこの生物の正式名称を決めているのです。キャッチーな商品名を考える場では無いのですよ」
あっ、ラードさんが鏡の外から戻って来た。
「例え正式だとしても、周りの人に伝わる名前じゃないと意味が無い。ラードだってさっきからずっと奴らを勇者と言ってたくせに」
「……確かに世間では勇者と呼ばないと伝わりませんが、正式名称は改造人間であり…」
うわぁ…私が軽い気持ちで付けようとした正式名称についてラードさんとリュユさんが言い争いを始めちゃったよ…
「ごめんなさい!正式名称については詳しい人に任せますから!私はこのまま別の生き物を作る仕事に戻ります!センチ行こう!」
「う、うん!」
私はセンチの手を取ると、鏡から背を向け、鉄の塊に変わった元山に向かって全力で走り出したのであった。




