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48話 無理ゲー大作戦

「勿論やるよ!私、勇者退治の練習するよ!」


「ロイワならそう言うと思ったよ、勿論私もこの勇者退治に参加するからね!」

「センチ!」

「私も一応魔王軍に所属してるんだよ、参加するのは当たり前でしょ?それに、勇者退治をロイワに任せっきりにするのも悪いじゃん?」

「センチ……ありがとう。センチが居てくれると心強いよ」

「ロイワにそう言って貰えて良かった〜!ねえラードさん、私もこの勇者退治に参加してもいい?」

「ふむ…センチならそれなりに実力もあるし、ロイワ様の邪魔にもならないだろう。よし、許可しよう」

「やったー!ラードさんありがとー!!」

勇者退治の許可を貰い大喜びしたセンチは、賢者ラードさんに素早く近付いて思い切りハグをした。

「こら!よさんか!若いモンがむやみやたらに男に抱きつくんじゃない!」

「ラードの言う通り、こんなお爺さんにハグしても何も得がない。時間の無駄」

「リュユさん…何もそこまで言わなくても…いや、時間の無駄である事には変わり無いのは事実か。

ロイワ様、グロウが目的地に到着し、勇者を起動させるまであと50分です。それまでに勇者討伐に必要な準備を済ませて下さい。とりあえずこちらを……」

ラードさんは自力でセンチを振り解くと、懐から見覚えのある大きな鞄を丁寧に取り出し、私に優しく手渡してくれた。

「あっ!私の鞄!良かった…中身も無事だ……」

「スタッフがグロウに奪われる前に急いで回収したとの事です」

「ありがとうございます…!よし、早速勇者退治の準備をしに行ってきます!」

私は鞄を背中に背負い、みんなに向かって大きく頭を下げた。暫くして再び顔を上げた私は、鞄から黒い蝙蝠傘を引っ張り出すとバッサバッサと何度も開閉しながら広い室内をぐるぐると歩き回った。


バサバサ……バサバサ……


「…ロイワ、それ何?」

「センチ、見てれば分かるよ。とりあえず私に捕まる準備しといて!」

リュユ理事長とラードさん以外のみんなから困惑の眼差しを向けられる中、私は構わず傘を開閉し続けた。すると……


バサバサバサバッサバッサバッサ!!


傘の黒い布の部分が大きく広がり、まるで生き物のように羽ばたき始めた。

傘は見る見るうちに形が変わっていき、やがて傘は本物の巨大な蝙蝠へと姿を変えた。

「センチ行くよ!捕まって!!」

「分かった!」

センチは急いで私に駆け寄り、外に向かって羽ばたき始めた巨大蝙蝠の足の部分をしっかりと掴んだ。


バッサバッサバッサバッサ!!


私とセンチに掴まれた巨大蝙蝠は、力強く羽ばたいて大きく開けられた窓から外へと飛び出し、焼けた森の隣にある平原目掛けて一直線に飛び始めた。

「面白い傘だね!コレってロイワが作ったの?」

「そう、私が作った生き物だよ!普段は傘の振りをして大人しくして、いざとなったら正体を現して獲物を仕留める生き物なんだけど…この子はさっきみたいに傘を開閉させないと起きないタイプなんだよ」

「そっかぁ〜この子はのんびり屋さんなんだね〜…おっと!」

蝙蝠に捕まりながら話をしている内に、草が生茂る青い地面が足元ギリギリまで接近していた。


ズザザザザーー……タッタッタッ…


センチは片手で私を抱えながら綺麗に地面に降りると、蝙蝠を持った私をそっと地面に下ろしてくれた。

「到着!センチありがとう!アンくんもありがとう、鞄の中でゆっくり寝ててね」

巨大蝙蝠の背中を優しく撫でると、蝙蝠は段々と小さく細くなっていき、やがて元の傘へと戻った蝙蝠…アンくんを自分の鞄に仕舞った。

「あっ!ロイヤルさんに身体を貸してくれたお礼を言うの忘れてた!」

「勇者退治が終わってから改めてお礼言いに行けばいいよ。さて、どうやって勇者を迎え撃つの?」

「それについてなんだけど…センチ、ちょっと待っててね、今元の体に戻るから…」

私は鞄を地面に下し、鞄とセンチから少し離れた場所に移動すると、遠くにいる自分の身体を意識しつつ、身体中に思い切り力を入れた。


ゴォオオオ……


ボ ォ ン ! ! !


突如私達の頭上に現れた、目に追えない程の速さで移動する赤い物体が、私に向かって思い切り衝突した。衝突した衝撃で謎の濃煙が辺りを覆う。


やがて煙が晴れ、中から現れたのは…


「センチ、お待たせ!」


先程まで居た赤毛の女の子は姿を消し、代わりに現れたのは真っ赤な鎧の私…つまり元の姿に戻った私の姿だった。

「あっ、いつもの姿のロイワだ!」

「勇者は相当強いって聞いたから本体を引っ張って来たんだよ。あの姿のまま闘っても多分勝ち目は無いからね」

私は久しぶりに使用(ほんの数ヶ月だが)する身体を軽く動かすと、駆け寄って来たセンチに軽くハグをした。

「成る程〜で、ロイワはどんな作戦で勇者を撃退するの?」

「作戦はもう決めてるよ、題して……無理ゲー大作戦!!」

「ムリ…ゲー…?」

「そう、クリアするのが無理なゲームだから無理ゲー!つまり、勇者ですら攻略不能な迷宮や、討伐困難な生き物を作り出すんだよ!」

「……?」

私なりに分かりやすい説明したつもりだが、センチの微妙そうな表情を見るに今一ピンと来ていないようだ。

「…それって、物凄く難しい仕掛けがある迷宮や、めちゃくちゃ強い生き物を作るって事?」

「センチ、少し違うよ。物凄く強い物を作るんじゃ無くて、勇者がどうあがいても倒せない無敵の物を作り出すんだよ!と、言う訳で……」

そう言いながら私は、芝生が生えた地面に向かって軽く蹴りを入れた。


ボォン!


鉄製の大型ボード、鉄製の教壇、鉄製の椅子と机…とにかく学校で使用するような道具が新品同様の状態で地面から迫り上がった。

「うわっ!何コレ!」

「はいはい、今から作戦会議を始めるからね、其処に座ってね」

センチをボードと向かい合わせに置かれている椅子に座らせ、私はボードの前にある教壇の上へとゆっくり上がった。


「えー、まず最初に…どんな敵も倒せる上に無敵である最強の生き物を考える会議を始めます!」

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