46話 ゴーレムの逆襲
鉱石迷宮の最下層にある巨大な城の前、やって来た私達を取り囲むかのように集まった沢山の金属製ゴーレム達。
全身鏡のゴーレム、金ピカのゴーレム、やたら背の高いゴーレム等々…(見た目が)個性豊かなゴーレムが目の前にずらりと並んでいる。
【あの人が大精霊様…】
【なあ、挨拶ってどうすればいいんだ?】
【そもそも我々は何の為に集められたんだ…?】
ゴーレム達は私達に対する敵意は全く無いようだが、どうやら私達にどう接したらいいか分からないようだ。
『どうやら僕達を攻撃するつもりは無いようですね…』
『ひとまず安心しました。でも、ゴーレム達がこんなにお喋りが出来るだなんて知りませんでした』
センチの足元に居る3匹のスライム人達は、威圧感のあるゴーレムの群れに多少戸惑いつつも、この現場を冷静に分析しようとしているようだった。
『セーチ、どうします?』
「だから私はセーチじゃ無くてセンチだって…それにしてもこのゴーレム達、一体何の為に此処に集められたんだろうね」
【私が説明しましょう】
一際綺麗な声が辺りに響き渡るのと同時に、 目の前に居たゴーレムの群れが左右に割れた。
ゴーレムの群れにより作られた道の真ん中から、魔導師のような格好をした人…の姿をしたゴーレムが現れ、私達の前まで歩いて来た。
青のローブに金属製の赤いブーツ、青い長髪の綺麗な顔立ちの人型ゴーレムだ。
【大精霊ロイワ様、初めまして。私の名は「ロイヤル」と申します。この鉱石迷宮の全てを管理する為に造られました】
鉱石迷宮の全て…もしかしてロイヤルさんはこの迷宮のボスなのかな?
「ロイヤルさん初めまして、ロイワです。少し訳があって此処に来ました。えーと…私達を匿ってくれませんか?」
【ロイワ様、事情は大方把握しております。是非この鉱石迷宮を隠れ家としてご使用下さい。我々は大精霊様御一行を心から歓迎します】
「ロイヤルさんありがとうございます!はぁ〜…助かった…」
とりあえず隠れる場所が見つかって良かった…
【では早速、おもてなしの準備を…ゴーレム達、この迷宮内にある全ての食料と酒を此処に持って来なさい】
「ロイヤルさんお気遣いなく!とりあえず追っ手が来ない場所さえあれば十分ですから!」
そもそもゴーレムの食料ってどう考えても燃料の類でしょ…
【そうですか…分かりました。では、この迷宮内で1番安全な場所に案内します。私に付いて来てください】
「分かりました!」
ロイヤルさんは私達を巨大な赤い城の中に入れてくれた上に、壁や天井が金属や宝石で装飾された中々豪華な部屋に案内してくれた。
【この椅子にお掛け下さい】
『ありがとうございます!』
『高そうな机に高そうな椅子…座るのに躊躇してしまいますね…』
「うわぁ〜!凄く高そうな部屋だね!こんな場所、魔王城以外で見た事無いよ!」
「凄い部屋…ロイヤルさん、城の中に入れてくれた上にこんな豪華な部屋に入れてくれてありがとうございます」
【喜んでいただけて光栄でございます、大精霊様。あと、厳密に言えば此処は城では無くて私の身体なのです】
「身体!?」
【はい、この大きな身体を操作して侵入者と戦うのです。普段はこうして精神と身体を切り離して行動しています】
「へぇ〜、つまり今私達がいる場所はロイヤルさんの体内で、目の前に居るロイヤルさんは精神の部分って事なんだね!」
【その通りでございます】
凄いなぁ…もし普通にこの鉱石迷宮を攻略しようとしたら、このお城と戦う羽目になってたんだ…
「それにしてもさっきは凄い数のゴーレムだったよね。あれはロイヤルさんが呼んだの?」
【はい、あのゴーレム達は大精霊様方を歓迎させる為に私が呼びました】
「ロイヤルさんが全部呼んだの!?」
【はい、私はこの鉱石迷宮内の仕掛けやゴーレム達全てと繋がっているのです。1体1体に別々の指示を出す事も出来ます】
「凄い…」
ロイヤルさん、一体どんな仕組みで動いてるんだろう…ああ、私の本体がこの場にあればロイヤルさんに触るだけで全て理解出来る筈なのに…!
『それにしても今、外はどうなっているんですかね…』
『そうです!確か今はグロウって言う猫人の所為でロイワさんが全受験者に狙われているんでした!』
『まだロイワさんを探しているんですかね…』
【外の様子をご覧になりますか?】
「えっ、此処から外見れるの?」
【はい。少々お待ち下さい】
ロイヤルさんは椅子から立ち上がると、懐から大きな鏡を取り出し、光沢のある表面を私達に向けた。
向けられた鏡を覗き込むと、鏡の中に映る私達の顔がゆらゆらと揺れながら溶け出し、やがて先程まで私が受験者と追いかけっこしていた草原が映し出された。
『あっ!』
『こ、これは…』
『酷い…』
鏡の中に映っていたのは、害獣そっちのけで受験者同士が争う光景だった。
数え切れない程の魔法が辺りを飛び交い、負傷した受験者達が白い衣類を身に纏った救急隊員の手によって次々と運ばれていく姿が見える。
「…えっ!?何で受験者同士で戦ってんの!?目的は私じゃないの!?」
「多分、1つしか無い獲物を求めて仲間割れしてるか、『ロイワの捕獲』に疑問持った奴らがロイワを捕獲しようとする奴らを説得する為に足止めしてるんだと思うよ」
「そんな…」
『見てください!岩で出来た大きなゴーレムが草原で暴れ回っています!』
草原の中心には、一際目立つ岩製のゴーレムが大きな手をブンブンと振り回し、魔法使いをなぎ倒す姿が見えた。
あれは私が作ったゴーレムだ。ピンチになったら地面に潜って隠れるよう指示を出してたんだけど…まだまだ大丈夫なようだね、良かった。
「げっ!草原付近の森が全て焼き払われてんじゃん!!」
草原の近くに存在した筈の森は跡形も無く消え去り、灰色の大地と黒く焼けた木の残骸以外何も残っていなかった。
【37分前に赤色の魔術師が巨大なサラマンダーを呼び出し、森を全て焼き払ってしまったのです】
赤い魔術師…最初に私に火の玉ぶつけようとした奴だ。あの人、私が潜り込んだ森を焼き払う為に精霊呼び出したんだ…子供相手に本気出しすぎだよ。
【酷い有様です】
「ホントだよ!グロウの勘違いが原因で年に数回しか無い検定を台無しにされるなんて!」
ヤバい…急いでこの勘違いによる受験者達の暴走を止めないともっと被害が出て大変な事になりそう…それにこの検定がずっと終わらなかったら私、明日の学校に遅刻してしまう!入学して早々遅刻するのは嫌だ!
「急いで皆んなを止めないと…ロイヤルさん!このお城…じゃなくてこの身体を貸して下さい!」
【はい、喜んで。元々私は貴方様を元に作られた存在です。ご自由にお使いください】
「ありがとうございます!」
私はロイヤルさんに一言お礼を述べると、椅子に座ったまま目を閉じ、建物全体に意識を集中させた。
ガタ…ガタガタガタ……
ジャラジャラ…ジャラジャラジャラジャラ……
周りに置かれている高価そうな家具がガタガタと音を立てて揺れ、天井にぶら下がるシャンデリアはジャラジャラと音を立てながら点滅を繰り返していた。
ブーーン……
「あっ、マナタンクが動き出した音がする」
『マナタンク?』
「工場とか魔力を大量に使用する施設にはよく置かれてるんだよ」
『ロイワさん…いや、ロイワ様はマナタンクを使用して一体何をするつもりなんでしょうか…』
ガタガタ…ガタガタガタ……
ボ ォ ン ! ! !
『うわっ!?』
突然、物凄い爆音が城中に響き渡り、城全体が大きく揺れた。
『い、今のは…』
「ん?これ何の光?」
バサッ
センチはカーテンから覗く謎の光に疑問を抱きつつ、高価そうなカーテンを掴んで左右に思い切り開いた。
「おーっ!いい景色!!」
『セーチさん、一体何が見え…ええっ!?』
『し、城が…』
『飛んでる…』
赤い城が空を飛んでいる。
先程まで洞窟の最下層に鎮座していた赤い城を、私が無理矢理飛ばして地上の上空へと移動させたのだ。
「よし、上手くいったようだね。じゃあ次は…」
◯
一方、受験者達が争い合う草原では…
「はあっ!!」
ボォン!
赤い魔術師が杖から放った複数の光の球が、黒スーツ姿のミノタウロスへと一直線に飛んでいく。
「危ない!」
スーツ姿のミノタウロスが盾に似た大剣を斜めに構えて光球を弾いた。
「くそっ!ミノタウロス!いい加減にそこを退きなさい!」
「駄目に決まっているだろう。あの子を魔法を放ちながら追いかけ回すような危ない奴を放っておく訳にはいかない」
「何であの赤髪を庇うの!?あの子がどんな悪い事したのかアンタも聞いたでしょ!?」
「あの猫人の言う事を鵜呑みにするのか…そもそもあの子からは悪い気は一切感じ取れなかった。むしろ怪しかったのはあの猫人の方だ」
「…アンタ、そうやって私を宥め賺しておいて、熱りが冷めた後であの赤髪をこっそりと探す気だね?」
「そんな訳が無いだろう」
「はん!アンタの言う事なんざ最初から聞いてないんだよ!いいかい、もし其処を退かなかったらもう一度此処にサラマンダーを呼び出し
ボ ォ ン ! ! !
突然、辺りに物凄い爆音が響き渡り、草原中を大きく揺らした。辺りで争っていた受験者達は皆、謎の揺れに足を取られて動きを止めた。
「むっ!?」
「な、何!?」
あまりにも凄い衝撃に、赤い魔術師もつい片膝をついてしまった。
「一体何が起こったの…?」
赤い魔術師は何とか立ち上がり、不審に思いながら辺りを見回すと…
「何なのあれ!?」
「赤い城が宙に浮いている…!?」
皆が争う草原から見える大山よりも遥か上に、巨大で真っ赤な城が不自然に浮いている姿が見えた。
「城…?」
「何だ?新しいイベントか?」
「どうなってんだアレ…」
辺りに居る受験者達も全員攻撃の手を止め、空に浮かんでいる赤い城に奇異の目を向けていた。
バキバキバキ…
「城が割れていく…?」
「違う、あれは形を変えているんだ!」
皆が見ている前で、赤い城はゆっくりと姿を変え始めた。大きな城は次第に縦長になっていき…
赤い鎧の巨人に姿を変えた。
「あ、ああ…」
「あれは一体何なんだ…?」
受験者達が唖然としながら宙を見つめる中、赤い鎧の巨人は近場にあった大山に向かって右手を翳した。巨人の右手が怪しい光を放つと…
メキメキメキ……
巨人の右手の先にあった大山がみるみる内に銀色に染まっていく。山全体が鉄に変化しているのだ。
山を覆ってしまった鉄は、受験者達が居る草原手前で侵蝕を止めた。
「て、鉄臭い匂いがする…?」
「う、うわぁああああ!?!?」
「地面が!?」
「みんな、逃げろォォ!!ぼやぼやしていたらみんな鉄に変えられちまうぞ!!」




