45話 鉱石迷宮
青い空、色取り取りの花が咲き乱れる素敵な草原、遠くには深い緑の森…
ダダダダダダ……
そんな大自然溢れる第1試験の会場内を全速力で駆け抜ける私。
何故全速力で走っているのかと言うと…
「そこの赤髪止まれぇ!!」
「そこの金髪混じりの赤毛!止まらないと撃つよ!!」
「駄目だ!これ以上速く走れねぇよ!!」
魔法使い検定の受験者達に追われているからだよ!!どうしてこうなったの!?
ゴオオォォ……
うっ…後方から物凄い音と熱気を感じる。チラリと後ろを振り返ってみると…
「げっ!?」
私を追いかける真っ赤な魔法使いの女性が掲げる杖の先に巨大な火の玉がくっついている…うわっ!火の玉持った魔法使いの周りに生えている草木が暑さにやられて茶色く枯れてる…あんなヤバそうなやつを私にぶつけられたくない!!
「ほら、3つ数える内に止まらないとコイツを飛ばすよ!!」
「おい!子ども相手にその魔法は流石にやり過ぎだろ!!」
「だけどあの子、金に物を言わせて裏でズルしてたんだよ?だから親の代わりに私が少しお仕置きしてあげるんだよ!3!2!1!」
カウントダウン早っ!?
どうやらあれこれ考えている暇は無いようだ。仕方が無い、本当は仮の姿のままであの技は使いたくなかったけど…
「とうっ!!」
私は目の前の何も無い地面に向かって、魔力を乗せた全力のドロップキックをかました。
ドォン!!
私が思い切り踏みつけた地面が大きく盛り上がり、ひび割れた地面の中から岩で出来た巨大なゴーレムが姿を現した。そう、これは大精霊が使える特技『命を生み出す力』を地面に向かって使用したんだよ!
「何だぁ!?」
「地面から壁が迫り上がって…いや、あれは…!ゴーレム!?」
「あの小娘、この試験会場の中にいつの間にあんな物を仕込ませてたのか!?」
受験者達は突然地面から現れたゴーレムに驚き狼狽えているようだ。
「くっ…とりあえず発射だ!」
ヒュン!
ボォン!!
赤い魔法使いの放った大きな火の玉がゴーレムの腹に命中したが、ゴーレムの身体には風穴どころか傷1つ付いていないようだ。
「駄目だ!ゴーレムが固過ぎて魔法が効かない!」
よし!この強度なら私が逃げる時間をある程度稼いでくれるかも!
「ゴーレム!あの人達を足止めしといて!」
『分かった〜!』
ドスン!ドスン!ドスン!
巨大ゴーレムは私の指示に頷くと、私を捕まえようとする受験者達に向かって、重い身体を揺らしながらゆっくりと歩き始めた。
「おいゴーレム!そこを退きな!!」
『駄目〜!ロイワ様いじめるやつ全員許さない〜!』
「よし、今の内に…」
受験者達がゴーレムに気を取られている内に、私は前方にある森に向かって一目散に駆け込んだ。
ダダダダダダ……
森の中、道の無い不安定な場所をひたすら走り続けた。辺りには可愛らしい小動物が走り回り、立派な角が生えた草食動物の群れは大人しく草を食んでいる姿が見える。
次第に辺りが苔生した岩だらけになり、やがて岩に囲まれた大きな洞窟の前で私は足を止めた。
(此処まで来ればもう大丈夫かな…)
はぁ…とりあえず追っ手を巻けたのはいいけど、これからどうしよう…急いで蝙蝠に化けて逃げた際にパソコ…呪文本が入った鞄置いて来ちゃったし…
「…とりあえず目の前にある洞窟に入ろうかな?」
『洞窟に入るんですか?』
「えっ!?誰!?」
私以外に謎の声が聞こえ、びっくりして思わず辺りを見回したのだが、周りには人影どころか動物すら見つけられない。
『此処でーす、私達はこの検定の関係者でーす』
「あっ!?スライム人!!」
私が入ろうとしていた洞窟の中から赤、青、銀色のスライム人が3人現れ、カラフルな大箱を頭上に掲げながら私を取り囲んだ。
『セーチの言う通りでしたねー!ロイワさん、迎えに来ましたよー!』
「えっ?迎えに?」
『色んな種類のアイスを持ってきましたよー』
『お菓子もありますよ〜、面接室に来ればもっと沢山のお菓子がありますよ〜』
「お菓子に…面接室…?」
「はい!ロイワさんはちょっとした間違いで普通の試験に参加してしまったようなので〜、僕達が迎えに来たんです!えーっと…とりあえず棒アイス食べますか?」
赤いスライム人は持っていた箱を地面に置き、箱の中から棒状に固められた冷たいぶどうアイスを取り出して私に手渡してきた。
間違い…?一体どう言う事なんだろう…
「あ、ありがとう…でも今はそれどころじゃ無くて……」
とりあえず渡されたぶどうアイスを受け取り、今の状況を手短に説明しようと口を開いたのだが…
「洞窟にまだ誰かいる…?」
洞窟の中に僅かだけど謎の気配が…まさか私の追っ手がもう此処まで来たの!?
「おっ、漸く気付いてくれたね!」
「センチ!?此処に!?」
明るい声と共に洞窟の中から人が姿を現したのは、猫の耳に猫の尻尾、よく焼けた小麦色の肌が見える少し変わった猫人…間違い無い、この人は私の友人のセンチだ!
「やっぱりあの大精霊のロイワなんだね、思った通りだったよ!ロイワ、久しぶり!今、私は試験官のバイトをしてるんだよ。魔法使い検定は人手不足だから、それなりに腕の立つ奴を雇いたいとか言っててさ…とりあえず受験番号146のロイワさんを迎えに来たよ」
「センチ!良かった〜…センチは私の味方のままで良かったぁ…」
「ロイワ…何かあったの?」
「あの…実はね…」
私はセンチとスライム人と一緒に洞窟に避難しながら、先程起こった出来事を全て話した。
『えーっ!何でそうなるんですか!!』
『酷い話です!ロイワさんが可哀想です!』
『こんなに素敵な才能持ってる人を悪く言う奴が居るなんて…』
「はぁ…そう言う事か。その勘違いしたの、多分グロウって奴だよ」
「あの猫人、グロウって言うんだ…」
「あいつ…自分に才能があるとか言い訳して碌に努力しない癖に、影で努力して上に這い上がって来た年下を見ると僻むんだよ。まさかあいつがこんな大事にするなんて…ごめんね、ロイワ」
「大丈夫だよ!でも、これからどうしよう…」
多分この洞窟もいずれ発見されるだろうし…それにしてもこの洞窟、妙な力を感じるね…
「隠れる場所ならこの洞窟を使うといいよ。ロイワだったらこの洞窟を自由に使えると思う」
「えっ!この洞窟…?」
「うん、この洞窟は『鉱石の魔導師』が作った『鉱石迷宮』…って言う設定がついている大きな地下遺跡でね、その地下遺跡には魔導師が作ったって設定の…沢山のゴーレムがウロウロしている場所らしいんだよ」
「成る程!そのゴーレムを仲間にして匿ってもらうんだね!」
「その通り!鉱石迷宮の入り口はこっちだよ、おいで!」
そう言うとセンチとスライム人達は、暗い洞窟の奥に向かって早歩きで進み始めた。
洞窟の一番奥の壁には、金属で作られた謎の四角いパネルがくっついていた。本来はこのパネルを操作して鉱石迷宮の入り口を見つけるのだろう。
『鉱石迷宮に行くためには鍵が必要なんです』
『外にある宝箱や強敵が持ってます』
『我々はスタッフなので一応鍵を持っています。ロイワさん、使います?』
「大丈夫、ここは私に任せて!」
私はスライム人達を避けつつ壁にくっついている四角いパネルに近付いた。そして私はパネルに右手でそっと触れながら
「すいませーん。鉱石迷宮に入れてくれませんか?」
と、ストレートに尋ねた。
『え…?直接尋ねるのですか…?』
『いや、そもそもこの扉は鍵でしか開かないもので…』
『このパネル自体に意思は無いのでお喋りは出来ないのですが…』
「ロイワならきっとあれで大丈夫だよ、見てて」
『大精霊ロイワ様。ようこそ『鉱石の魔導師』が作り出した…と言う設定の『鉱石迷宮』へ。今から最深部まで案内しますので、その場で少々お待ちください』
私の目の前にあるパネルが淡い緑色で輝き出し、意思を持って喋り出した。
「ね?ロイワなら大丈夫だったでしょ?」
『出入り口が喋った!?』
『あの鉱石迷宮が『鉱石の魔導師が作った』って設定だと理解してたんですね…』
『しかもいきなり最深部に案内…関係者でも最深部に行くには許可やら何やらと色々必要な筈なんですけれども…うわっ!』
「おっと…動き出したみたいだね」
みんながパネルの前であれこれと喋っていると、急に洞窟がガタン!と大きく揺れ、私達が乗っている地面がゆっくりと沈み出した。
『凄いです…こんな仕掛けがあったなんて…!』
「おお〜、結構下まで移動するんだね」
『はい、この迷宮は上級者向けで…初心者が普通に此処に来たらあっという間にやられるか、最深部への道が分からず迷宮内を迷い続ける事になります』
「それは大変だね…」
『はい、この迷宮内をうろつくゴーレムも中々凄くて…魔力無しで火を噴くゴーレムや、石を真っ二つに出来る水鉄砲を持つゴーレムや…とにかく色んなゴーレムが居るんです』
「おっ、どうやら最深部に到着したみたいだよ」
地面へと沈むスピードが段々と遅くなり、目の前の壁が岩から綺麗な金属製の壁へと変わった。
金属製の壁が真っ二つに割れて左右に開き、目の前に物凄い景色が現れた。
巨大な城だ。赤い金属で出来た巨大な城が私達の目の前にあるのだ。だが、その巨大な城の前には…
『わぁぁ…ゴーレムが沢山…』
そう、金属で作られた様々な姿をしたゴーレムが城の前で待ち構えていたのだ。
『これ、迷宮に居るゴーレムが全部集まっているのでは…?私達を攻撃する為に…』
『まさか、最深部まで運ぶって話はあの扉が思い付いた罠だったんですかね…』
「いや、大丈夫みたいだよ。だって…」
[あれが大精霊ロイワ様…]
[すげぇ…俺、大精霊様を生まれて初めて見た…]
[俺も…]
[大精霊様ってどうやって歓迎すればいいんだ?]
[おい、誰か代表として大精霊様に挨拶した方がいいんじゃないか?]
「どのゴーレムからも敵意を一切感じないからね…」
とりあえず最悪な状況から脱する事は出来た…のかな?




