4話 魔族とカムヤナ国
「世界や私達の話かぁ、どこから話をしたらいいかな…ヘル、説明できる?」
センチは隣に居るヘルに声を掛けるが…
「頭……テーブル……地面が……」
ヘルはさっきの珍事件のせいですっかり萎縮してしまったようだ。ごめんねヘル…
「ヘル、大丈夫?」
「!! だ、大丈夫だ!すみません大精霊様…」
ヘルはセンチの言葉で我に返ると、地面に埋まったテーブルの上で体育座りをする私に…
「あの…私達も地面に座りましょうか?」
「気遣いは無用です…さあ、お話をしましょう…」
「は、はい…」
そしてヘルは、私にこの世界について話をし始めた。
「私がよく聞いていた昔話をしますね。
昔、とある大陸には人間と魔人と魔獣…まとめて魔族と呼ばれている生き物が住んでおり、その魔族をまとめる魔族の王様、魔王様が魔族と共にそれなりに仲良く暮らしていました」
「魔人と魔獣?」
「大精霊様が作り出した生き物の事です。
魔人は人間に近い生物で、魔獣は人の姿を持たない生き物です。魚人やゴブリンやスライムや…とにかく色んな生き物が居ます」
「へぇ〜、つまり人間と大精霊が作った生き物が仲良く暮らしていたって事?」
「まあ、仲良くと言っても異種族同士で喧嘩やいがみ合いのようなものはあったようですが…それでも平和に仲良く暮らしていたそうなんです…別の大陸から来た人間がやってくるまでは…
ある日、海の向こうから大きな船がやって来ました。その船には、海の向こうに存在するカムヤナと言う国からやって来た人間達が乗っていたのです。
その国はエルフやエルフに近い種族を人間として認め、魔人や魔族を「世界の汚れ」として認識する…とても恐ろしい国でした。
カムヤナの国の人々は、魔人や魔獣と共に暮らす人間を見るや否や
「怪物と人間が混ざったような姿をしている!しかも怪物と一緒に暮らしている!気色悪い!」
と魔族を否定し、再び船に乗って自分の国に帰ってしまいました。
数ヶ月後…カムヤナの国は、軍隊を乗せた船を魔族の国に運び、魔族に戦争を仕掛けました。
カムヤナの軍隊は見た事も無いとんでもない兵器に、勇者と呼ばれる超人を使い魔族の命を沢山奪っていきました。
圧倒的な力の差を見せつけられた魔族は戦うのをやめて逃げ出し、大精霊様の力を借りて、手付かずだった別の小さな大陸に移り住んだのでした…
そんな私達魔族は今も小さな大陸で暮らしています。前に住んでいた大陸は既にカムヤナ国の領土になっている事でしょう…」
「そうだったんだ…」
「前に住んでいた大陸に居た魔族達は皆同じ事を言っているので、恐らく本当に起こった話なのでしょう。
しかも一部の魔族は前の大陸に残されたままだと言われているので…」
「とんでもない話だね…」
「さて、次はここまで来る経緯についてですが…
どうやって説明したらいいのやら…」
ヘルが頭を抱えていると、隣の席で座っていたセンチが話をし始めた。
「あのね、私達は魔王の国を守る為の軍隊、魔王軍に所属しているの。
私は「実践は良く出来ているが勉強が今ひとつだな」とか言われてたから、ヘルによく勉強を教えて貰ってたんだよ。
確か今日は…歴史について学ぶ為に古い地図をわざわざ買ってヘルの部屋に行ったんだ」
「そう、その古い地図を広げ、昔魔族が住んでいた大陸を指差した瞬間…気が付いたら私の部屋では無く知らない森の中に居たんです」
「えっ?ワープしたの?」
「恐らく、指差した地点に移動してしまったのでは…と考えてはいるのですが…」
「もしそうだとしたらそれって…」
「はい、今私達が居る土地は
カムヤナ国の領土内である可能性があります…」
「マジで!?それって不味いんじゃあ…」
「うん、かなりヤバイよ。
私達外で4人組のグループに「賢そうな魔族が居るぞ!街に入られる前に殺せ!」とか言われて追いかけ回されたし」
「こんな危ない人達は今まで見た事がありませんでしたし…これは間違いなくカムヤナ国に入り込んでしまったと考えてもいいでしょう。
そんな狂ったグループから逃げていた時にあの謎の赤い獣に食べられ、気が付いたらこの洞窟に居たのです…」
「そっか…それは大変だったね…2人共怪我は無い?」
「私は大丈夫です!」
「私も大丈夫!ロイワさん、助けてくれてありがとう!」
「いや〜それ程でも…」
魔王軍の2人とそんなやり取りをしていたら…
「きてきてきてきてーーーー!!」
白く輝く少女が壁の穴から飛び出して来た。私が作った妖精だ。
「うわっ!」
「うおっ!」
センチとヘルが妖精に驚き椅子から転げ落ちた。
「いきものやおもしろいものたくさんとれた!
きてきてー!」
そうだ!妖精や吸血鬼に洞窟の外を探索させてたんだった!
「ウルフくん!おいで!」
私は部屋の隅で休んでいたウルフくんを呼んだ。
私の近くまで来て停止する大型車サイズのウルフくん。
「大きい!」
「馬車のような…獣のような…」
2人が改めてじっくりとウルフくんを見て驚いている。
「ウルフくん!私達を乗せて外に連れてって!」
ウルフくんはプップーと返事をして両サイドのドアを開けてくれた。
「私達って…私達?」
センチは驚きながら私に確認をしている。
「うん、私が居ない間にこの洞窟にさっきのグループが来られても困るし…お願い!一緒に来て!」
私はウルフくんの体内にある座席らしき部分にゆっくり座りながら2人にお願いをした。
「いいよ!むしろ大精霊さんと一緒に居れば一番安全そうだし!」
センチは喜んでウルフくんに乗ってくれた。
「大精霊様が望むのでしたら従います!」
ヘルもウルフくんに乗ってくれた。
「凄い!椅子みたいに座れる場所があるし、体内から外がよく見えるよ!」
「改めて見ると物凄いですね…」
センチははしゃぎながら座席に座り、ヘルはあちこち確認しながら静かに座席に座った。
「みんな座ったね?よし!ウルフくん出発!」
私の命令に従い、ウルフくんは壁の穴から外に向かって走り出した。