44話 とんでもない誤解
「大精霊様が試験会場に…!大変です!急いでみんなに知らせないと!いや、その前に試験を中止に……」
バードは逸早く関係者に事情を伝える為に、室内に設置されている通信機をカチカチと操作しているが、突然の出来事に酷く動揺しており上手く通信機を操作出来ないようだ。
「バードさん、少し失礼する!」
「あっ!?」
中々通信を始めないバードを見兼ねた翼人の男性が、バードの手から通信機を奪い取ると、無理矢理機械を操作して通信をし始めた。
「管内の職員全員に告ぐ、受験番号146を至急確保しろ!以上だ!」
バチン!!
翼人の男性が報告を終えた瞬間、通信機の一部が壊れて火花が飛び散った。
「ああ…乱暴に扱った所為で通信機が壊れてしまったようです…この通信機、物凄く高いのに…!」
バードは翼人から取り返した通信機をガチャガチャと操作するが、通信機は完全に壊れてしまった為、うんともすんとも言わなかった。
「おいトリ頭!!何で『大精霊ロイヤル様を保護しろ』って言わなかったんだよ!?あれじゃ説明不足だろうが!!もし試験官が大精霊様相手に乱暴な真似でもしたらどうするんだ!!」
「サリー、私の名前はテラスであってトリ頭では無い。私は羽の生えた所謂エルフの亜種であり、鳥類でもトリ頭でも無い!今はとにかくロイワ様を迎えに行かねば…!失礼する!」
「おい!話は終わってねぇぞ!!」
「あっ、テラスさん!?待ってください!!」
ガチャン!!バタン!!
テラスは周りの制止を一切気に留めず、乱暴に扉を開けて視聴覚室から出て行ってしまった。だが…
「こ゛っ゛!?」
視聴覚室の扉が完全に閉じた瞬間、廊下からテラスの変な叫び声が辺りに響き渡った。
「い、今の何なの…?」
「……今の声、テラスのだよな…?」
「……やけに外が静かですね…嫌な予感が…あっ、開かない!?」
バードはテラスの後を追う為にドアノブに手を掛けたのだが、押しても引いても扉が一切開かなかった。
「バードさん!窓も非常口も開きません!!」
「すり抜けも出来ねぇぞ!どうなってんだ!?」
蜥蜴人とサリーも室内からの脱出を試みるが、どの出口からも出られなかった。
「テラスさん!返事をして下さい!外で何があったのですか!?」
バードは固く閉ざされた扉をガンガンと叩きながらテラスの安否を確認しているが…外から返事が返って来る事は無かった。
『ククク…ロイワ様の怨敵を助けた罰だ!そのままこの部屋と共に朽ちるがいい!』
◯
「えー…では、これから第1試練を始める前にルールの説明をします」
第1試練を始める為に準備室からダンスホールへと移動した受験者の前で、帽子を被ったゴブリンの試験官が面倒臭そうにしながら受験者に向かってルール説明をし始めた。
「えー…これからこの大きな扉の先に移動するのですが、この扉の先にある森にはありとあらゆる害獣がおりまして…これから諸君らにはその害獣を狩ってもらいます。
えー…狩る数は10匹で…どんな害獣を持って来ても構いませんが、害獣以外はカウントしません。狩の際には持ってきた道具を使用しても大丈夫です…が、試験中に道具が壊れても我々は一切責任を負いません。あとは…えー…」
やる気の無い試験官だなぁ…そう思いながら私はダラダラと説明を続けるゴブリン試験官を真剣に見つめる。
狩る数は10匹、どんな害獣を狩っても問題無し…
でもこれって、害獣と間違えて貴重な生き物を狩ったら失格になりそうだなぁ…そもそもの話、害獣自体をよく知らないと対処も難しいだろうし…
もしかしてこの第1試験って、自分の力量を見極めるだけじゃ無くて生き物の知識も無いと突破出来ないものなのかもしれない…
「えー…説明は以上です。それでは、第1試練を始めます。…が、その前に…番号146」
「えっ?私」
私の返事に、周りに居た受験者が一斉に振り向いて私を見つめた。
何?私、何かやらかした?もしかしてさっき倒れたライムについて何か言われるのかな…?
「はい、番号146は此処で少し待ってて下さい…」
「分かりました…」
しょうがない…とりあえず此処は試験官の指示に従って……むっ!?
私は突然向けられた鋭い殺意に気付き、鞄から素早く剣を取り出してその場で身構えた。
シュッ!
キィン!!
私は天井から放たれたナイフを構えた剣で弾いた。投げられたナイフは綺麗に真っ二つになり、軽い金属音を立てながら床に落ちた。
「おっと…まさか切られるとは思わなかったなぁ…」
上から声がしたかと思ったら、天井から謎の猫人の男性が顔を出して私をキッと睨んできた。
「まあとりあえず…大人しくお縄について貰おうかぁ…?ロイワさんよぉ…」
猫人は天井から降りて私の目の前で静かに着地すると、懐から取り出した数本のナイフを私に向けるようにして身構えた。
「…私が何をしたって言うんですか」
「さあね…まあ大方予想はつくさ。お前、裏で不正を働いて試験無しでレベル10になろうとしたんだろ?」
「…え?レベル10?」
「そうさ。お前は裏の審査にレベル10として合格してたんだ。だがお前はまだ魔法学校の1年生、まだ碌に勉強していないお前が突然レベル10になれる訳無いんだよなぁ…どう考えても金持ちの親が手を回したとしか考えられねぇよ」
「はぁ…?」
これは一体どういう事なんだ…まさか正体がバレ…てはないよね。大精霊だって事がバレたらもっと別の方法で接触して来る筈だし…
「ふん!!」
シュッシュッ!
「わっ!?」
キィン!キィン!
私が考え事をしている間に猫人から鋭いナイフを投げられたが、再び剣を振って飛んで来たナイフを弾き飛ばした。
(うわっ、これは何を言っても相手に話が通じないパターンだ…!!此処はとにかく逃げるしか無い!!)
パァン!!バサバサバサ……
「なっ!?」
私は急いで身体を分解して無数の赤い蝙蝠に化けると、ゴブリン試験官の背後にある第1試練の大きな扉まで全力で羽ばたいた。
バサバサバサバサ…
「うわっ!何だぁ!?」
「キャッ!?」
「うわっ、速っ!!」
驚く受験者を無視して素早く飛び続け、私は大きな扉の隙間をすり抜けて第1試練の会場へと移動したのであった。
「くそっ、逃げられたか…おい、受験者共!!あの赤髪の女を生きたまま捕まえたら問答無用で第1試練、第2試練を合格とする!!更に魔法使いレベル4以上確定だぁ!!捕まえる為に何をしても構わん!!行けぇ!!」
少女に逃げられた猫人は怒りで顔を歪ませながら、第1試練に勝手にとんでもないルールを追加した。
「何っ!?」
「4以上確定だと…!?」
「マジで…!?」
「ラッキー!これはやるしか無ぇな!!」
突然の追加ルールと報酬内容を聞いた受験者は一様にやる気を出し、扉を開けて第1試練の会場へと向かったのであった。
「生きたままあの子を捕まえたら問答無用で第1試練、第2試練を合格に、更にレベル4以上は確定…か」
皆がやる気を出して会場に向かう中、1人のローブを纏った老人は、冷静に今の状況を分析していた。
「なあ爺さん!俺達もあいつ捕まえに行こう!試練受けずに済む上にレベル4以上確定はかなりデカいって!」
近くに居た若いオーガの男性が老人に声を掛けるが、老人は全く動き出す様子が無い。
「これは罠だな」
「えっ?」
「あの子を捕まえた際の報酬がどう考えても割りに合わんよ。儂は降りる…いや、今回の検定を受けるのは辞める」
「ちょっ…待っ…それマジ?爺さんって確かレベル6だったよな…?そのレベル6の爺さんでも難しいって言うのか…?」
「無理だ。お前も今の内に帰った方がいい…この会場が地獄に変わる前にな」




