42話 魔法使い検定
「はい、試験会場に到着〜!」
「ありがとうございました…」
私は魔法使い検定を受ける為に、スザクさんの背に乗って「学校」からロイヤルタウンの中にある超大型ショッピングセンター「ユグドラシル」の屋上駐車場に移動したのだった。
はぁ…スザクさんに乗って移動するの大変だった…スザクさん、私が背中に居るのにも関わらず突然急降下したり、物凄いスピードで空中を何回転も回ってみたり…(しかも人型のままで空を飛んでいた)。
まあ、なんやかんやで楽しかったけど…
「ごめんねロイワさん。いやぁ〜、こういうのって安全だと分かると楽しいもんなんだけどねぇ〜…あっ、そうそう…ロイワさんの荷物持ってきたよ!武器が無いと試験受けられないからね!」
スザクは私を背中から下ろすと、学生服の懐から学生鞄をヒョイと取り出し、私に手渡してくれた。
うん、確かにこれは私の学生鞄だ…よし、私の武器も呪文を書き込む為の呪文本も入ってる!
「スザクさん、ありがとうございます!」
「いいってことよ!さあ、中に入ろっか!」
「はい!」
ショッピングセンター「ユグドラシル」の中は、平日であるにも関わらず大勢の魔族でごった返していた。此処は相変わらず混んでるなぁ…。
「はいはい、ちょっとどいてね〜!」
スザクさんは周りのお店には目もくれず、人混みの中をただひたすら進み続けている。私はスザクさんとはぐれないように頑張って後を追った。
スザクさんは店内の1番端にある大きな本屋さんに入ると、本棚と本棚の間をデタラメに移動し始めた。真っ直ぐ進んだかと思ったら突然引き返したり、急に右に曲がったり左に曲がったり…まるで迷路の出口を探しているかのようだった。
だが、本屋の中を進んでいく内に、周りに不自然な変化が現れ始めた。先程まであんなに居た客の姿が突然見えなくなり、店員の姿まで消えてしまったのだ。
(何か不気味だな…)
私とスザクさん以外に誰も居なくなった本屋を歩き続ける事数分後…
「ほら、この扉を開けた先に会場があるよ!」
本棚の迷路の突き当たり、そこには本屋には似合わない程にやたら豪華で不自然なドアがあった。
「さてと…ロイワさん、両手貸して!」
「はい!」
スザクさんに差し出された右手に私の両手を軽く乗せると、急に自分の身体が軽くなったような感覚がした。これはもしかして…スザクさんが私の体内に魔力を流し込んだ?
「よし!魔力の回復完了!これで魔法使い検定に全力で取り組めるね!」
「わぁ!まるでラスボス前の回復ポイントみたい!スザクさんありがとう!!」
「いいのいいの!じゃあ頑張ってね!!」
「はい!行ってきます!!」
私はスザクさんに手を振ると、行き止まりにある豪華な扉を開けて試験会場へと進んだのだった。
「いらっしゃいませ。此処は魔法使い検定の会場です。貴方はロイワさんですね?」
扉を開けた先には、とても豪華で広々とした屋敷のエントランスがあり、執事服を身に付けたスタッフと思しき白い鳥人が私を出迎えてくれた。
「はい!試験を受けに来ました!」
「分かりました、では準備室まで案内します。私の後に付いてきて下さい」
鳥人の後を追って、やたら長くて薄暗い廊下を歩き続ける私。
(なんかこの廊下…複数の人に見られている気がして落ち着かないなぁ…)
『強ち間違いでは無いかもよ?』
(誰!?)
私の右側からこの場には居ない筈のスザクさんの声が聞こえた。恐る恐る右肩の方を見ると、なんと私の肩に赤い小鳥がちょこんと乗っているのが見えた。
(えっ、まさかスザクさん…?)
『当たりー!いや〜、試験が始まるまでロイワさんは暇でしょ?だからこうやって小さくなって潜り込んで、ロイワさんの話し相手になってあげようと思ってね!!てか今暇でしょ?』
(まあ、今はただ歩くだけだから暇だけども…)
『やっぱりね〜!あっそうそう、ロイワさん…今日学校の外でリオとの精霊勝負やってたでしょ!しかも真剣勝負なのに手を抜いたよね』
(…スザクさん、あの勝負見てたんですか)
『見たに決まってるじゃん!リュユも褒める程の腕前なんだよ!?あのロイワさんの物凄い精霊操作が見れるのかと思ったんだけど…』
まあ、あの形態変化した私のゴーレムだったら一瞬で相手の頭を引きちぎって試合を終わらせる…なんてえげつない真似を子供相手に出来る訳無いでしょ!!
(いやぁ…流石に子ども相手にそんな真似出来ないよ)
『そっかー…あたしは真剣勝負を望む相手に手加減なんてしないけどね!相手にも失礼だし!』
「此処が準備室です」
『あっ、到着したみたいだよ!』
薄暗い廊下の突き当たりにあったのは、先程までの豪華な内装とは違ってやたらシンプルなデザインの、人以外に何も無いやたら広い部屋だった。
周りには試験を受けに来た魔族が沢山来ており、ある者は緊張し、またある者は試験が始まるのを静かに待ち構え、またある者は会場内に居る人に話しかけたりと…各自、思い思いの時間を過ごしているようだった。
「此処では、時間が来るまではご自由に過ごしていただいても結構です。持参した参考書を読んでも大丈夫です。身体を動かしたいのなら、看板に『練習室』と書かれた扉の向こうでどうぞ。では、私はこれで」
鳥人は、私に準備室の説明を一通りし終えると、元来た廊下を引き返していった。
へぇ〜此処、本読んでもいいんだ。それじゃあ…リュユ理事長から貰った本を読もうっと。確か制服の右ポケットの中に…
「初めまして!」
「えっ?」
『精霊の性格形成』の本をポケットから取り出そうとしていたら、正面からやって来た見知らぬ狐少女に突然大声で話し掛けられた。
「私、セロリって言うの!貴方はなんて言うの?」
「私はロイワだよ」
「ロイワ、宜しく!お互いの名前を知ったから、これで私とロイワは友達だね!ロイワ、私と一緒に同じレベルの魔法使いになろうね!私達は友達なんだから抜け駆けなんてしないよね?」
な、なんなんだこの子は…急にやって来て抜け駆けするななんて…友達同士ならばむしろ、切磋琢磨してお互いの力を高め合ったりとかするものじゃないの!?そもそも試験に抜け駆けも何も無いんじゃ…
「いやぁ…それはどうかな…」
此処は曖昧に返事をして、さっきの話は聞かなかった事にしよう…
「えー!?もしかしてロイワは私を裏切るつもりなの!?酷いよ!!最低!!」
だが、私の発言を聞いたセロリは突然激怒し、人目を憚らず大声でぎゃーぎゃーと喚き始めた。
ええ…私1度も裏切るなんて言ってないんだけど…
…仕方が無い、此処は私が折れてあげるとしよう。
「違うよ、私とセロリでは力の差があり過ぎるって事だよ。私、まだ1年生だしさ」
これでどうだ…?
「……あーそっか!そうだよね!もしかしたらロイワは試験受けられずに終わっちゃう可能性もあるし…ごめんね!じゃあね!」
私の発言に気を良くしたセロリは、私に一言謝ると、此方に背を向けて何処かへと走り去ってしまった。
(はぁ、やっとどっか行った…)
『あいつ、かなり身勝手な奴だったね。自分より上のレベルになるなとか言っといてさ、いざ自分が逆の立場になったら「ごめんね」で済まそうとするなんてさ!あたし、ああいう礼義知らずの人間大嫌いだよ!』
(まあまあ、相手はまだ何も知らない子どもなんだし…)
『知らな過ぎだよ!でもさあ、あの子…人を見る目が絶望的に無さ過ぎて逆に笑えてくるよね!あはははは!!』
(ははは…まあ、これで静かに本を読めるよ)
私は近くに置かれていた椅子に座り、制服から再び本を取り出していたら…
「貴方がロイワ?」
「えっ…誰?」
またまた知らない人に声を掛けられてしまった。
今度は3人のグループで、猫人と蜘蛛人の女の子を引き連れた白髪のエルフの少女だ。
「狐の子が「此処に碌に魔法を知らない奴が入り込んでる」って、周りに言いふらしていたので…どんな子が居るのか気になって会いに来ましたの」
あのセロリって子…そんな事言いふらしてたの?
『さっきまで友達とか言ってた癖に…あのセロリって奴、ホント迷惑で救えない奴だよね!あはははははは!!』
(スザク、笑い過ぎだよ…)
「あの…確かに私はロイワですが…私に何の用ですか?」
とりあえず返事をしてみよう…いい子達だといいなぁ。
「私達が来た理由?それすら分からないなんて…貴方って本当に何も知らないのですね?」
見ず知らずの人にいきなりディスられた…
「おいチビ!アタシ達は3年生なんだよ!?もう少し礼義正しくできないのか!!」
「その通りだよ、ガキ。ちょっとはマシな返事をしたらどうなんだい?」
エルフの背後に居る取り巻き連中の口悪っ!?
『ロイワさんより遥かに弱い癖に口だけは達者なんだねぇ〜』
スザクさんは3人の連中を眺めながらクスクスと笑っている。
「そもそもの話、貴方は私が誰なのかご存知無いようですわね…」
この子、有名人なの…?いや、その割には周りの人にあまり話し掛けられていなかったように見えたけど…
とりあえず正直に返事しとこ。
「はい、知りません」
ズ ド ン ! !
「おいチビ!!アタシらの前で失礼な真似するなって言っただろうが!!潰されてぇのか!!」
私の知りません発言にキレた猫人が突然怒鳴りながら、右手に持っているハンマーを床に向かって思い切り叩きつけた。ハンマーの頭が当たった床には、小さなクレーターが出来上がっていた。
「ガキ、よく聞きな。この方はね、魔法使い検定の5レベルに最年少で見事合格した、『白銀の女王』と言う異名を持つ天才魔法使い…ライム様なんだよ!!」
「……」
(あの…スザクさん、あの人知ってます?)
『えっ?あたし10レベル以外興味無いから、あんな弱っちい奴知らないよ?』
スザクさんも知らないんだ…
「……」
「ふふふ…今更気付いた所でもう遅くてよ?」
どうやらライムは、私が恐怖のあまり黙ってしまったものだと勘違いしているようだ。
「ロイワ、折角ですから貴方に勝負の仕方を教えてあげますわ」
「えっ?」
「チビ、まさかライム様の御指導を断る気じゃないだろうね」
「ガキ、お前に選択肢は無いよ。諦めてライム様から丁寧で素晴らしい指導を受けな」
ライムの取り巻き連中も、私を睨みながら指導を勧めてくる。
『ねえねえ、折角彼奴らが指導してくれるって言うんだからさ、ここは喜んで自称最強のライム様と勝負してみたらどう?勿論手加減は一切無しでさ!あたし、ロイワさんがあいつらを無残に切り裂くトコ見たいなぁ!あっははははは!!』
(流石に少しは手加減はするよ、可哀想だし…うーん…ここは軽い準備運動も兼ねてOKしちゃおっかな?)
「分かりました。やります!」
「ふふふ…ロイワ、逃げなかっただけでも褒めてあげますわ。では、誰も居ない『練習室』まで移動しましょう」
そう言うとライムは取り巻きと共に私を囲んで逃げ道を無くすと、そのまま私と共に『練習室』まで移動したのだった。




