41話 本当の話
『私の名前はナビ、この裏世界を案内する為にリュユ様により作られた存在です』
「裏世界…?」
『貴方方が居る世界とは別の次元に存在する異次元です。次元の関係により、この世界では特定の魔法が使えません』
「別の次元…?」
『今我々が存在する世界には様々な異次元が存在します。今私達が居るこの世界は時間が緩やかに流れています』
凄い…このナビって人、面倒くさがらずにしっかりとこの世界について説明してくれる…
「あの、ナビさん。この世界は何の為に作られたのですか?」
私はようやく床から立ち上がると、ナビさんにこの世界について質問をしてみた。
『この世界は、広い学校内を時を消費せずに移動する為に作られました。テレポートの魔法を可視化した世界…と言ったら分かりますか?』
「テレポート…はい、多分分かったような気がします…」
つまり、此処に来れば学校内なら何処でも一瞬で移動出来る…って事だよね?
それって物凄く便利じゃん!この世界がどうなっているのか詳しく調べてみたいなぁ…!
『カター様、ユリコ様、ロイワ様、目的地をお教え下さい』
ナビは無表情のまま、じっと私達を見つめている…
(えー…ユリ、ロイワ、どうする?何か目的地言う流れになってるんだけど…)
(さっきナビが移動目的で作られた場所とか言ってたから、多分この世界に来る人はみんな移動目的なんだろうね…うーん…見習い市場の前とかでいいんじゃない?)
『見習い市場の前ですね、かしこまりました』
「えっ!?まだ目…」
私は慌てて目的地を訂正しようとナビのいる方を向いた瞬間、目の前の景色が一瞬で変化した。
先程まで真夜中のように暗かったのに、今は外も校内の明かりも普通の明るさに戻っていた。
「も、元の世界に戻った…?」
「あっ、みんな見て!此処…見習い市場の前だ…!」
先程まで休憩室に居た筈なのに、私達はいつの間にか見習い市場の大きなゲート前で立っていたのだ。
「本当だ…しかも、最後に休憩室に居た時から時間が全く経ってない…」
凄い…本当に時間を掛けずに移動出来たんだ…
「……とりあえず、見習い市場に入りましょうか」
「そうだね…」
凄かったなぁ、あの別次元とナビの人…今度また1人で別次元に行って、あの裏世界とナビを詳しく調べてみよ…
こうして休憩室から見習い市場に移動した私達は、学生達で賑わう個性溢れる店内をゆっくり見て回った。
ある程度店内を回った所で、近くにあったお洒落な喫茶店に入り、各自好きなジュースやデザートを頼むと、私達はさっき見て回ったお店の話を始めた。
「楽器屋や武器屋の品揃えが豊富でしたね」
「うん、商売する相手は学生しか居ない筈なのに、サービスも品揃えも手を抜かないんだね、凄いよ」
「うん!欲しい道具も沢山買えたし、大満足だよ!」
「ロイワ、最後に寄った工具店で沢山道具を買ってたよね、ズボンのポケット大丈夫?」
「大丈夫、私のズボンのポケットは既に改造済みでね、ポケットの中は小型のドラゴン1匹は入れられる大きさになってるんだよ」
「それは凄いですね…!ロイワ、もし良かったら今度、私のポケットも改造してくれないかしら?勿論、仕事に見合った報酬はお支払いしますよ?」
「いいよ!もし実験に付き合ってくれるならタダで改造してあげるよ!」
「ふふっ、ロイワって勉強熱心なんだね。さてと…ちょっとお手洗いに行ってくるね」
「はい、行ってらっしゃい」
カターはゆっくり席を立つと、お手洗いのある場所へと静かに歩いて行った。
「ロイワ」
カターが遠くまで離れるのを確認したユリコは、真剣な表情で私に語りかけてきた。
「…先程からカターに元気が無いようですね」
「えっ?そうなの?」
さっきからずっと元気だったように見えたけど…
「はい、私達に心配をかけないように無理矢理元気を出しているようです」
「そうだったんだ…カター、一体どうしたんだろう…」
「……恐らくですが、ロイワとの勝負が原因だと思います」
「えっ、私!?でも…私、カターに負けたよ?私が勝負に勝ったのならまだ分かるけど…」
「はい、確かにロイワはあの時カターに負けました。しかし……あの時ロイワは弱っていましたよね?魔人は魔力が少ないと身体能力も下がると聞いた事があります」
「……うん、リオとの勝負の際に魔力使っちゃったからね…形態変化させた上に派手に技を使ったから…でも、まだ動き回れる位には魔力は残ってたからさ、カターと勝負しても大丈夫かなと思って…」
「やはりそうでしたか…多分カターは、弱っているにも関わらず、ロイワを倒すのに少し手間取ってしまった事を気にしているのだと思います」
「カターが手間取ったって?5分以内で勝負に決着がついたのに?」
「いえ、5分も掛かってしまったんです。ロイワが弱っていたにも関わらず、すぐに決着がつけられなかったんです」
「そうだったの…?」
「ユリの言う通りだよ、ロイワ」
「あっ…カター…!」
いつの間にかお手洗いから帰って来たカターが、難しそうな表情を浮かべながら此方を見ていた。
「ロイワ、ごめん!」
「カター…」
「分かってたよ、ロイワが魔力不足で弱ってた事。でも…私、逃げちゃったんだ…」
「逃げた…?」
「ロイワが弱っている事に気付いたのはロイワと戦った後だよ。確か魔人は魔力が無いと碌に戦えないって話を本かラジオで聞いた事があってね…
でも、私…知らないフリしたんだ。もしロイワが魔力回復したら私は絶対に勝てなくなる。でも、このままロイワに勝ったって結果だけが残れば私は傷付かなくて済むってさ…」
「そんな…そんなのカターらしくないですよ…」
「うん、私もそう思ったよ。こんな勝ち方は卑怯だって…ロイワに勝った事にならないって…ごめんね、ロイワ……ユリもごめん、気を遣わせちゃったみたいだね…」
「カター…」
カターは暫くの間テーブルの前で無言で俯いていたが、やがて覚悟を決めたかのか、私の方に向き直って重い口を開いた。
「……ロイワ、今度…魔力が元に戻ったら…もう一度私と勝負してくれない?」
「……それは諦める為?」
「違うよ、私が前に進む為さ。もうロイワから逃げない為」
「……」
カター…カターは強い子なんだね…もし私がカターと同じ立場だったら、立ち直るのに時間がかかってたと思うよ。いや、もしかしたら謝罪すら出来なかったかも…
「…いいよ。私、カターの為に全力で戦うからね」
「…!ロイワ、ありがとう!」
私の言葉に、先程まで暗かったカターの顔がパアッと明るくなった。
「ふふふ…カター、良かったですね」
良かった…カターが元気になってくれたようで本当に良かった…
「あっ、もうこんな時間だ。そろそろ移動しないと…」
「本当だ!じゃあこのお店を出たら真っ直ぐ食堂へ…」
「おっと、残念だけど今からロイワさんだけは別行動だよ!!」
「誰!?」
お勘定を済ませる為に私達が席を立った瞬間、突然横から謎の赤髪の女学生が現れ、私をひょいと持ち上げて小脇に抱えてしまった。
「なっ…何するんで…」
「大丈夫!!今日はあたしが全部奢るから金の心配はしなくて結構!!じゃあね!2人とも真っ直ぐ食堂に行くんだよ!!」
謎の女学生は私の話を遮って一通り喋り終えると、私を担いだまま喫茶店の窓をすり抜け、何処かへ向かって走り去ってしまった。
「あっ!!ロイワが誘拐された!!」
「今日2年生以上の先輩方はまだ学校に来ていない筈…あの学生服着た方は一体誰なのでしょうか…」
「冷静に分析している場合じゃないよ!早くロイワ誘拐した奴を追いかけないと…!!」
カターが慌ててポケットから得物を取り出し、謎の女学生を追いかけようとしたが…
「心配しなくて大丈夫よ」
店の奥から『店のロゴが描かれたエプロン』を着けた蜂人の女性が現れ、カター達の前にゆっくりと歩いて来た。
「あの方はね、リュユ理事長の部下なのよ。だから友達の行方を探さなくても問題は無いわよ。あと、貴方達の勘定はあの方が済ませてくれたからそのまま店から出ても大丈夫よ」
「えっ!?あれ理事長の部下だったの!?」
「一体何の用でロイワを連れ出したのでしょうか…」
店員から女学生の正体を知らされたカターとユリコは、呆然としながら2人が去っていった窓を眺めたのだった。
一方、赤髪の女学生に攫われてしまった私は、女学生に連れられて屋上のてっぺんに到着していた。正確に言うと、屋上にあるスタジアムの屋根の上だ。
太陽は少し傾き、青色から橙色の空へと変わる瞬間の綺麗な景色が周りに広がっていた。
「あ、あの〜…一体何の用なんですか?スザクさん…」
確かこの私を攫った人って、地上の悪魔(?)達に精霊石やカードを配る為に呼び出された人工精霊だよね…
「あっ!あたしの事覚えてくれていたんですね!ひゃ〜、超嬉しい!!」
私に名前を呼ばれたスザクは、私を抱えたまま大喜びで屋根の上を器用に跳ね回った。
「わ゛ーーっ!?待って待って!!私持ったまま跳ねないで!!」
「あっ、ロイワさんごめんなさい!」
私の指摘に我に返ったスザクは、急いで私を屋根の上に下ろした。
「助かった……で、スザクさん。一体何の用で私を攫ったんですか?」
スザクがある程度落ち着いた所で、私は再び同じ質問をしてみた。
「あっ、そうそう!リュユに頼まれたからロイワ攫ったんだった!!待ってて!今すぐリュユに繋ぐから!!」
スザクはその場で直立すると、その場で静かに目を閉じた。
数秒後、スザクはカッと目を見開いて静かに私を見つめて来たが、何故かスザクでは無い別の人に見つめられているような…そんな感じがした。
『ロイワ、聞こえる?今私はスザクの身体を借りて発言してる』
スザクの声や口調が、急にリュユ社長そっくりに変わった。
「えっ…もしかしてリュユ理事長ですか!?」
『そう、今は無駄話をしている暇は無いから単刀直入に言う。ロイワにはこれから魔法使い検定を受けてもらう』
「ま、魔法使い検定…?」
『そう、魔法使い検定。魔法使いとして公式に認められる為には絶対に受けなければならない。
ちなみに検定にはレベルが存在して、そのレベルが高ければ高い程魔法使いとしての力が強いとされている。最大レベルは10』
「成る程…でも、何故私だけ魔法使い検定を受けるんですか?」
『ロイワは既に検定に合格出来る力を持っているから。
後、ロイワがこの検定を受ければ、例えロイワが子どもの姿でも他人に邪魔されずに自由に行動出来る。気になる事件に首を突っ込む事も、一般人には入れない施設に入る事も出来る。レベル次第では、一般人には買えない道具も簡単に買える』
「えっ!?それ本当ですか!?凄く便利ですね!」
子どもの姿のままでは色々と制限があるからね…特に一般人には買えない道具を買えるってのが1番魅力的だよね!
「分かりましたリュユ理事長!私、魔法使い検定を受けます!」
『ありがとう。では、検定を受けてくれるロイワにこの本をプレゼントする』
そう言ってスザクは、制服のポケットから分厚い本を3冊取り出し、私に手渡してくれた。
「こ、これは……」
本の表紙には『次元の壁』『自分だけの空間を作る』『精霊の性格形成』と書かれていた。これはまさか……
『ナビとあの空間を直接調べるより、本で勉強した方が楽』
「ありがとうございます…」
あっ…私達が休憩室から異空間に入った事、既にリュユ理事長にバレてたんだ……




