38話 生徒との交流(中編)
「……えっ?」
「聞こえなかったか?ならもう一度言うぜ…ロイワ!俺と精霊でバト」
「大丈夫!聞こえてるよ!」
ってか声がデカすぎてみんなこっち見てるんだけど!?リオは恥ずかしくないの?
「ならハイかイイエのどちらかで返事してくれ!!」
当の本人リオは、周りを気にせず大声で話を続けている。リオ、もう少し声量下げてくれないかなぁ…話を聞いてるこっちの方が恥ずかしくなってくるんだけど…
……てか、先生はこの喧嘩止めてくれないの!?
私は不思議に思い辺りを見回してみたが、先程まで居た筈の先生方は何処にも居なかった。
「先生なら理事長に呼び出されて留守だぜ。さあロイワ、俺と戦え!!」
「いや、急に戦えって言われても…先約があるから無理だよ!」
「そうだよ!ロイワはね、先に私と戦う約束してるんだよ…今日は諦めな!」
「カターの言う通りです、速やかにお引き取りください」
カターとユリコが私とリオの前に立ち、怒り顔のリオを説得してくれたが…
「ロイワと一回戦うだけでいいんだ!それに、俺はロイワとの戦いをすぐ終わらせられる自信があるぜ…5分以内でな!!」
話を聞いてくれない…しかも5分で終わらせるって…
「…頼み込む側なのに、随分失礼な物言いをするのですね」
ユリコは大胆な発言をするリオに対し、怒りを通り越して呆れてしまったようだ。
「…ロイワ、どうする?」
カターは此方を向いて、私の発言を待っているようだ。
「……分かった。じゃあ2分以内で終わらせる」
「……何だと?」
リオは私の発言を聞いて不機嫌そうに眉をひそめた。
「今すぐにレオと戦って、2分以内で終わらせて先生にバレないように直ぐに食堂に戻るんだよ。それなら午後にカターと戦う時間も出来るよ。カター、ユリコ、それでいいよね?」
「…まあ、リオは引き下がらないだろうし、ロイワがいいならそれでいいよ」
「右に同じです」
どうやらカターとユリコは、私の意見に同意してくれたようだ。
「ほぉ…おもしれぇ…出来るもんならやってみろ!!」
私に2分で終わらせると言われたレオは、怒り混じりの笑顔を向けながら私に大声を飛ばしてきた。
めちゃくちゃ怒ってる…でも、先に似たような発言をしたのはリオの方でしょ?
「ロイワ、本当に2分以内で終われるの?」
「出来るよ。カター、私を信じて」
私は、近くのテーブルに置かれていた大きなサンドイッチを1つ取ると、リオと精霊バトルをする為に食堂の出入り口に向かって歩き出した。
「此処なら大丈夫かな?」
私達が向かったのは、学校の外にある広いグラウンドの真ん中。
「何何?喧嘩?」
「今から精霊バトルやるみたいだよ?」
周りにはいつの間にか1年生が数人集まり、私達を遠巻きに眺めていた。
「ロイワ、何があったの?」
聞き覚えのある声のした方を向くとそこには、ダークエルフのルーサが困り顔で此方を見つめる姿が見えた。
「あっ、ルーサ!今私ね、リオに精霊の勝負を挑まれちゃってね…でも大丈夫!直ぐに終わらせるから!」
「それは大変だったね…頑張って!僕はロイワを応援するよ!」
「ありがとうルーサ!行ってくる
「待って下さい!」
リオと勝負をする為に野次馬の群れから離れようとしたら突然、金髪の少年エルフに声を掛けられた。えっ、このエルフ誰だっけ?
「私は1組のエドゥアルです!ロイワさんに一言謝りに来ました!」
「…あっ、確か将来の夢が会社員の…」
謝るって、一体何の事だろう…
「実はですね…私、少しですが占いが得意でして…つまりですね…リオに占いをしたのは私なんです…申し訳ございません…」
「あー…1番精霊が使える人、だっけ?」
成る程、つまりエドゥアルは自分の占いの所為で喧嘩が発生してしまった…と。
「大丈夫、心配しないで!エドゥアルの占いが無くてもいずれは勝負する羽目になってたと思うし!」
「本当に申し訳ございません…」
「大丈夫だって!じゃあ行ってくるね!」
私は2人に向かって手を振ると、少し距離を取ってリオと向かい合った。
「1対1の真剣勝負だ!ロイワ!卑怯な真似をしたら失格だからな!!」
「そんな事しないよ!」
仮に私が卑怯な真似をするとしても、人が見てる前でそんな真似出来ないでしょ!
「よし!行ってこいジャック!」
リオはポケットから精霊カードと精霊石を取り出すと、勢いよくカードを精霊石に差し込んだ。
ユラユラ…ユラユラ…
カードを差し込んだ瞬間、リオの前に現れた精霊は…ジャックオランタンだ。
顔の形にくり抜かれたオレンジ色のカボチャの頭、大きな口からは時折火が漏れ出ている。
大きな頭にボロボロの服を着た小さな胴体がくっ付いており、支え切れないのか頭が常に不気味に揺れていた。
「ゴーくん!」
私もポケットからカードと精霊石を取り出し、カードを精霊石に差し込んだ。
ズン!!
私の目の前にゴーレムが現れた。前にヘルと戦った際に活躍したあのゴーレムだ。このゴーレムには『剛』と言う、実に安直ではあるが名前をつけて可愛がっている。
「ゴーくん、頑張ってね!」
コツン
お互いに握り拳を作り、ゴーくんとグータッチをした。頑張ってねとは言ってみたけど、まあ本気で頑張らないといけないのは私なんだけどね。
「そのゴーレムの名前はゴウクンと言うのか…ロイワ、中々良い名前を付けるな…!」
一方リオは、此方を睨みつけながら精霊石の操作をしている。あの指の動きは多分…ジャックオランタンの形態を変化させて強化するつもりのようだ。
「ジャック!第3形態だ!」
リオが精霊石の操作を終えた瞬間
ボン!!
突然ジャックが爆発した。モクモクと上がる黒い煙の中から現れたのは、しっかりした身体がついたジャックオランタンだった。先程のフラフラした頼り無い動きは一切せずハキハキと動き、ボロボロの服からカラフルでお洒落な燕尾服に変わっていた。
精霊は形態変化で力を強化する程、姿形を維持する為の魔力や、攻撃の際に使用する魔力も増加する。
まだ11歳なのに、精霊の形態を2段階も上げるなんて…どうやらリオは本気で私を5分以内で片付けたいようだ。
だけど、ジャックの攻撃を避けていれば時間経過と共にジャックは弱体化していき、やがて倒しやすくなるとは思うけど…全力で2分以内で片付けるって言っちゃったからなぁ…
「精霊の形態が2も上がった…アイツ、以外と頭いいんだね」
「あの人、知識だけはあるようですね」
カターは変化したジャックを驚きの眼差しで眺め、ユリコは呆れながらリオの方を見つめていた。
「これは真剣勝負だからな!遠慮するんじゃねぇぞ!!」
「よし、じゃあ私も…」
私もリオと同じように、精霊石に付いているボタンを操作してゴーくんの強さを2段階上げた。
ガシャン!!ガシャガシャ…
私の目の前でゴーくんの姿が変化していく。
あの丸みを帯びたボディから人に近い形に変わり、材質も岩から光沢を帯びた金属に変わっていった。
「あのゴーレムが…鎧みたいな姿に…」
「すごい…まるで鉱石人のようですね…」
先程まで丸い岩だったゴーくんは、銀色に輝く大きな鎧のような姿に変わった。
「ほぉ…そっちも第3形態に変われるのか!だが動きは鈍そうだな!!」
リオ、思い込みは失敗を招くよ。
「リオ、ロイワ、準備は整ったようね。では…試合開始!!」
予想以上に長くなったので3つに分けました。




