3話 猫人と犬人
妖精と大体同じサイズの小人2人が起き上がる。
「イタタタ…私達、助かったの…?」
「そもそも此処は一体…」
小人2人は辺りを見回している。
1人は緑色の髪をショートカットにした、褐色に近い肌をした女性だった。黒の半袖のジャケットに短パンで、手足が少し大きめの人だ。よく見ると猫耳が付いている。
もう1人は白くて長い髪に狼のような耳が生え、黒い軍服のようなものを身につけた女性だった。肌は白くて…ん?この子顔に毛が生えてる?この人も普通の人より手足が少し大きいようだ。
とにかく不思議な獣人2人組が私の居る洞窟に無理矢理運び込まれて来たようだ。
その無理矢理運び込んだ張本人のウルフくんは部屋の隅に寄り、その辺に生えている赤い鉱石をガリガリと齧っていた。栄養補給しているのかな?
「あっ!めちゃくちゃでかい人発見!あれ鉱石人じゃない?」
猫耳の子が私を指差しながら犬耳の子に尋ねている。
「でかい人……なっ!?」
犬耳の子が私の顔を見るなり物凄く驚いた表情で固まった。
そんな犬耳の子を見て不思議がる猫耳の子。
「ん?ヘルどうしたの?そんなに驚いちゃってさ。大きい人なら巨人のマーズさんで見慣れて」
「違う!!この方の雰囲気、気配、魔力、これは間違い無く大精霊様だ!!逃げるぞ!!」
犬耳の子は叫ぶなり猫耳の子の手を引っ張って近くの穴に向かって走り出した。
「待って!何で逃げるのさ!大精霊って出会えたら超ラッキーな存在なんでしょ!?」
猫耳の子は必死に抵抗しながら犬耳の子を説得している。
猫耳の子頑張って犬耳の子を説得して!主に私の話し相手獲得の為に!
「違う!我々は今敵に追われている!もし我々が此処にいる事が敵にバレたら大精霊様にも迷惑がかかる!!」
犬耳の子は必死になりながら抵抗する猫耳の子を引っ張るが…力が足りないのかさっきから1ミリも動かないようだ。
「ちょっと待った!」
私は小人2人組に声を掛けた。2人は驚き目を丸くしながら私を見る。
「もし追われてるのだとしたら今外に出るのは尚更やめた方がいいよ!だって此処から君達が出る所を敵に見られたりしたら、私が君達を匿ったとか思われて話がややこしくなるかもしれないでしょ!?」
私の言葉に犬耳の子がハッとする。
「そうでした…気が動転して正しい判断ができていませんでした…申し訳ございません」
非常に悲しそうな顔をしながら、私に向かって丁寧に謝罪をしてきた。よく見ると頭の上にある耳が垂れ下がっている。
「いいのいいの、むしろ今丁度暇だったからさ、少しの間私の話し相手になってくれると嬉しいなぁ〜」
私は遠回しに2人を匿ってあげる事を伝えた。
まあ、本当に話し相手が欲しかっただけなんだけどね。
それにこの2人、なんか悪い人に見えないし…
「いいよ!私達が知ってる範囲で色々教えてあげるよ!」
猫耳の子は私に近付き、笑顔で返事をしてくれた。
「おいセンチ!大精霊様に馴れ馴れしい真似はやめろ!口の利き方もなってないぞ!大精霊様、申し訳御座いません!」
犬耳の子は猫耳の子を叱りながら私に謝る。
「えーっ、私ヘルが大精霊さん相手に喋ってる神官みたいな話し方できないし…」
猫耳の子は犬耳の子に不機嫌になりながら答える。
もしかしてこの世界には敬語って概念が無かったりするのかな?
そもそも私は生まれたばかりなのにこの2人が喋ってる言葉を理解できる上に、2人に自分の意思をしっかりと伝える事ができるのって中々凄いのでは?
「そうだ、大精霊さんの名前は何て言うの?」
猫耳の子は私に尋ねる。
「私?さっき生まれたばかりだから名前は…いや、一応クロイワって名前があるよ」
名前じゃ無くて苗字だけどね。
「えっ!この世に生まれて間もないのですか!?」
犬耳の子は驚いているが…
「ロイワさんって言うんだ!私の名前はセンチ!こっちの子はヘル!宜しくね!」
猫耳の子、センチは何事も無く普通に接してくれた。
「私はロイワじゃ…いや、ロイワでいいや。センチさん、宜しくね!」
「やったー!初めて大精霊さんと知り合いになったよ!」
センチは私の前で尻尾を振りながらぐるぐると走り回っている。
「こら!名前はクロイワ様だ!間違えるんじゃない!申し訳ございません大精霊クロイワ様!」
「いいんだよヘルさん、それよりもこの世界とか此処に避難するまでの経緯とか…尋ねる前にちょっといいかな?」
私はヘルに1つ質問をしてみる事にした。
「はい」
「あの…もしかして私ってめちゃくちゃデカイ?」
「私達人間と比べたら物凄く大きいよ!巨人のマーズさんよりも大きい!」
「こら!今私に質問されたのに何でセンチが答えるんだ!クロイワ様、確かにセンチの言う通り我々人類よりも遥かに巨大である事は確かです」
私の質問にセンチとヘルが答えてくれた。
やっぱり…この2人見た時にまさかとは思ってたけども…
私超デカい姿で生まれたのか…作る生き物が小さくできる理由もなんとなく理解できたような気がする。私と同じサイズの人作成するのが難しい訳だよ。
そっか〜、こんなに大きいんじゃ外出れない上に街にも行けないよね。それなら…
私は自分の身体を小さくするイメージを頭に浮かべた。目の前の2人組と同じくらいに…
すると直ぐに周りの景色が変わり始める。洞窟は少しずつ広がり、天井が遠ざかり、地面が近付いて2人の顔がはっきり見えるようになる。
「凄い!私達と同じくらいのサイズになった!」
「流石大精霊様…」
私は目の前の2人と大体同じサイズになった。
「よし出来た!さて次は…」
私は両手を地面に翳す。両手から赤い金属の液体が出て地面に落ち、液体は形を変えて少し大きめの丸いテーブルに変わった。
「おお…」
「凄い…」
私は更に金属の液体を出し、脚が4本ある椅子を3つ作ってテーブルから少し離しながら綺麗に置いた。
よし!物凄く上手に出来た!
なんか今の私、物凄く精霊っぽくてカッコ良かったのでは?
「さあ座って!とりあえずこの世界とか色々と話してくれないかな?」
私は2人を席に座るよう促した。
「凄い!ロイワさん超凄いよ!」
「あ、ありがとうございます!」
センチとヘルは私が作った椅子に座った。
さて私も…
私は目の前の椅子の背もたれに体重をかけるようにして座った。
バキッ!
私が座った椅子の後脚2本が折れ、背中から思い切り倒れ込んでしまった。
ドン!
私の頭が地面にぶつかった瞬間、頭を中心に大きなクレーターのようなものができた。
「おわっ!」
「なっ!」
突然地面が揺れ、2人は椅子ごと傾いた。
「…」
私は直ぐに起き上がると
「今すごい揺れがあったね、2人とも大丈夫?」
何も無かった事にして話を進める事にした。
「私は大丈夫だよ!それにしてもさっきの揺れ、一体なんだったんだろうね…」
センチは私の意図を理解したのか、空気を読んで接してくれた。
「いや、さっきクロイワ様が「一体何だったんだろうね!」あ、ああ…」
ヘルは何かを言いかけたが、センチが食い気味に話しかけてヘルを止めてくれた。
ありがとう…センチさんありがとう…なんかごめんね…
「さてと、そろそろ話を」
私がテーブルに手を置いた瞬間
ドン!
テーブルが台の部分を地上に残し、棒の部分が全て地面に埋まってしまった。テーブルから少し離れて椅子を置いたおかげで2人は怪我をしなかったようだ。
「……準備は整いました。さて、話をしましょうか」
そう言うと私はテーブルの上に乗り、その場で体育座りをした。