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34話 通学と入学式

馬が地面を蹴って走っていた時は物凄く揺れて乗り心地は最悪だったが、宙を飛んでからは座席は全く揺れなくなったので随分と快適になった。


私がようやく馬の乗り方に慣れた頃、私達を乗せた馬達はロイヤルタウンの街中を走っていた。


時間が経ち、朝日が昇るにつれて段々と街が明かるくなっていく。

輝きが増す太陽に遠慮するかのように明かりが薄くなっていく街灯の上を、メリーゴーランドの馬が通過する度に街灯がチカチカと点滅している。

そんな不自然に点滅する街灯を1人の猫人が不思議そうに眺めていたが、すぐに興味を無くして街灯から視線を外し、再び街中をゆっくりと歩き始めた。どうやらあの猫人には私達が乗る馬が見えていないようだ。


「さてと…そろそろかな?」


トス先生が、乗っている黒馬の頭を3回程撫でると、撫でられた黒馬が大きな声で嘶いた。

周りで走っていた馬達も黒馬と同じように嘶くと、私達の周りに居た無人の馬が四方八方に散らばり、やがて姿が見えなくなった。

「どっか行っちゃった…」

残った馬は私が乗る白馬とトス先生が乗る黒馬、ナイトメアのアトだけになった。

「みんなは生徒を迎えに行ったんだよ!あっ、そうだ!ロイワさんに一言だけ言いたい事があってね…」

「えっ?何ですか…?」

一体何を言われるんだ…まさか、もう私の正体がバレたの!?


「学校に入学してくれてありがとう!」


「……トス先生、そういう話は生徒が全員揃ってからするものではないんですか?」

「ほら見て!さっき散らばった馬達が新入生を乗せて戻って来たよ!」

この先生私と会話してくれないんだけど???


とりあえず先生との会話(?)を中断して辺りを見回してみた。すると、先程まで無人だった馬の上に私と同じ歳くらいの多種多様な少年少女が乗っていた。エルフ、ダークエルフ、獅子人、蝶人…全員私服姿で真新しい学生鞄を背負っており、ある者は期待と興奮で目を輝かせ、またある者は目の前に広がる景色をただひたすら眺め続け…この状況に対する反応は様々だった。


そうそう、まだ制服が支給されていないからみんな私服姿なんだよね。ちなみに私は赤いTシャツに黒の長ズボンを履いているよ。シンプルイズベスト。


「よし、新入生全員揃ったようだね!それじゃあいよいよ学校に向かって出発するよ!!」

周りの新入生達に向かってそう発言すると、トス先生が乗る黒馬が急に走るスピードを上げてみんなが乗る馬達の前へと躍り出た。

黒馬のスピードがぐんぐんと上がっていき…


黒馬が空に向かって大きく跳んだ。


黒馬が跳ねた瞬間、私達が乗っている馬も同じように跳ねた。


「わーーーーーっ!?!?」


先生が乗る黒馬の背後を追って空に飛び出していく馬達(物凄いスピードで上昇しているにも関わらず、身体に重力のような負担は全く掛からなかった。)。

足元に見える街がどんどん小さくなっていく。



馬は雲の上辺りまで移動すると、飛ぶのをやめて再び走り始めた。


果てしなく広がる大空を真っ直ぐに駆ける馬の大群。

目の前から青白い雲が現れては次々と通り過ぎていく。

じわじわと上へと昇る太陽が私達を明るく照らしている。


「綺麗…」

私が周りに広がる景色に感動していると…


「おい!目の前に何か見えてきたぞ!!」


辺りを漂う雲が全て晴れ、宙に浮かぶ巨大な建物が現れた。

前に青龍から貰ったパンフレットに写っていた建物と同じだ。きっとこの建物が私達が通う魔法学校なのだろう。


「着陸するよ〜!心の準備しといてね〜!」


ゴタン!!ゴトンゴトンゴトンゴンゴンゴン……


馬は学校の前にある石畳のシンプルな広場に着陸し、衝撃を弱める為にある程度の距離を歩き続け、やがて馬は不自然に直立したまま動かなくなった。


「はい、お疲れ様!」

「お疲れ様!空の旅は楽しめたかしら?」

「今回は随分と生徒の数が多いな…」

学校の玄関から先生らしき大人(ケンタウロスや梟の魔族が居た)が数人現れて、私達の前に現れた。どの大人も、私服の上に黒いコートを着ていた。


「はいはい、無理せず降りるんだよ!」


先生に手伝われながら次々と馬から降りていく生徒達。中には自力で降りる生徒も居たが、勢い余って転んでしまう生徒も少なからず存在した。


私も馬から降りようと準備をしていると…


「よし…っと」


何者かが背後から私の胴を掴み、馬から下ろしてくれた。

「あっ、ありがとうございマ゛ッ゛!?」

降りるのを手伝ってくれた先生にお礼を言おうと背後を振り返った瞬間、私の口から物凄い声が出てしまった。

「ん?どうかしたのか?」

白くて長い髪に犬のように尖った耳が頭に生えた顔の白い獣人…

何と、私の目の前にいる人物はヘルだった。

そうだ…確かヘルって前から学校で先生の代わりとして手伝いとかしていたって言ってたよね…まさか今はこの学校で手伝いをしていたとは…何という偶然…

「い、いえ…何でもないです…ありがとうございます…」

「そうか、それならば問題無い」

こっちにとっては大問題なんだけど…?


もしも私の正体がバレて学校内で噂にでもなってしまったら、周りの魔族に気を遣われて学園生活どころでは無くなってしまう…!

みんなの為にも自分の為にもヘルの為にも、ヘルとはあまり関わらないようにしとこ…


やっと生徒全員が馬から降りると、生徒達は先生の前に雑に集められた。

「ほら、みんな静かに!」

ケンタウロスの老女が両手をパンパンと叩いてざわつく生徒を静かにさせ、周りの注目を集めると大きな声で自己紹介を始めた。

「はい、初めまして。私の名前はエクレア、占いの先生をしています。えーっと、これからこの場で入学式を始めたいと思います」

えっ、此処でやるの?


「えーっと…皆さま、ロイヤルタウン中央魔法専門学校への入学おめでとうございます」

…えっ!?これで終わり!?


「入学式に時間を取られると、学校内の案内が今日中に終わらないとの事なので…」

学校内ってそんなに広いの?

「後、本当は此処で理事長からお言葉を貰う予定でしたが…時間が合わないとの事で省略する事になりました」

それ省略するの!?

「理事長の言葉は後で行う歓迎会の中で貰う運びとなりました。さてと…」

エクレア先生はポケットから小さな袋を取り出すと、袋の中から模様が刻まれた金色の丸いバッジを取り出して、生徒1人に1つずつ配り始めた。


「今配ったのは学校の制服です。そのバッジを胸の中央辺りに置いて…バッジの中央にある赤い石を押してみて下さい」

私は先生に言われた通りにバッジを胸辺りに移動させると、バッジにある赤い石を押した。


カチッとボタンの音がしたかと思ったら、いつの間にか私は赤いリボンがついたブレザーを私服の上に纏っていた。


自分が着たブレザーをよく見ると、右腕辺りに「1」の数字が書かれていた。

「制服には数字が書かれていますね。その数字は貴方が入る組の数字です。もし制服に3と書かれていたら1年3組、2だったら1年2組、1だったら1年1組…」

成る程…つまり私は1年1組に入る事になるんだね。


「それでは早速、貴方達を教室に案内します。3組の生徒達は3組の担任の先生である私について来て下さい」

エクレア先生が3組の生徒を呼び、パカパカと蹄の音を立てながら学校に入っていった。

3の数字が書かれた制服を着た生徒は、大人しくエクレア先生の後ろを追って学校内に入っていった。


「それでは…2組の生徒は私の後ろに…」

梟の先生が2組の生徒を呼び、エクレア先生の時と同じように生徒を引き連れて学校に入っていった。


もしかして…1組の担任はアト先生だったりするのかな?ヘルって一応軍の人だし、完璧な先生では無い筈…


「よし、残った1組の生徒は私の後ろについて来てくれ」


1組の担任はヘルなの!?


「いってらっしゃい!また美術の授業の時に会えるのを楽しみにしているよ!」

トス先生はそう言うと、ナイトメアのアトを連れて学校内に入っていった。


残った1組の生徒は、歩き始めたヘルの後ろに静かに並んで後をついて行った。

学校に入り、奥にある「5階」と書かれたゲートをくぐって5階に移動。そこから更に歩き続け、1年1組と書かれた扉を開けて教室内に入った。

教室には机や椅子の類は一切無く、大きな窓から入る太陽の光が教室全体を隅から隅まで明るく照らしていた。

「何も無いな…」

「此処、随分と日当たりがいいですわね…」

「外の景色が最高だね」

「生徒達、色々と気になる物はあるだろうが…とりあえず先生の周りに集まってくれ」

教室の感想を呟く生徒達を集めるヘル先生。

私達生徒は、とりあえず呟くのをやめて教壇に上がったヘル先生の周りに集まった。


「よし、全員揃ったな。では早速私の自己紹介をするとしよう。

私は狼人のヘル、元軍人だ。基本は魔法の実技の方を担当している」

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