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33話 初めての通学

セレセルさんの異世界転移ごっこから数ヶ月後…



ここはロイヤルタウンから少し離れた場所にある、私が所有している遊園地。

朝型と夜型の魔族が皆家に籠る夜明けの時間帯なので遊園地は既に閉園している。


「ノームは大地の精霊で土魔法。ウンディーネは水の精霊で水魔法…」

そんな明かりが消えた遊園地内にある、休憩スペースにある小綺麗な白いテーブルの上に大きな精霊百科を広げ、隣に置いた小型太陽ランプの光を頼りに本を熱心に読む1人の人間。

金色が混ざった長い赤髪を一本の三つ編みにした、赤目でつり目の吸血族の少女…の姿をした私。

そう、私はミュラーに教えてもらったアバター作成の力を使って、吸血族の少女のアバターを作成したのだ。ちなみに吸血族は哺乳類では無いらしいので私の胸は一生平たいまま…らしい。

(現在、私の本体はこの遊園地内の地下室に大切に保管されています)


頑張って勉強した甲斐もあり、無事に『ロイヤルタウン中央魔法専門学校』の試験に合格出来た。

そして通学初日の今日、私は学校から迎えの人が来るまで遊園地で大人しく本を読んで時間を潰していたのだった。


「ロイワ、そろそろ通学の時間になるから広げた物を片付けておきなさい」

「はーい」

隣にいた吸血鬼のダンデ(私の親役)に促され、私は精霊百科を閉じて隣に置いていたランプの明かりを消し、隣の椅子に置いていた自分の学生鞄を開けてランプと本を仕舞い込んだ。

「さてと…確か、この遊園地に魔法学校からの迎えの人が来るんだよね?」

椅子から降りて、学生鞄を背負いながらダンデに集合場所を改めて確認してみた。

「その通りだ。場所はメリーゴーランド前となっていたな…ロイワ、吸血族とは言え暗い場所を1人で歩くのは危険だ。ほら、私の手を掴みなさい」

「大丈夫だよ、周りは普通に見えてるから」

「そうか…そうだ、小腹は空いてないか?先程料理人に作らせた肉サンドがあるぞ?食べるか?」

「……ダンデ、私の親役として頑張ってくれているのは十分分かるんだけどさぁ、流石にそれは過保護過ぎない?」

「吾輩もそう思う…だが、例え仮でもいざ我が子を持ってみると、どうしてもこうなってしまうんだ…」

「まあ、気持ちは分かる気はするよ…私もダンデと同じ立場になったら、きっと私も過保護になると思うし」

ダンデと話をしながら歩き続け、ようやく大きなメリーゴーランドの前に到着した。

周りの建物やアトラクションには一切明かりが点いていないのに、目の前のメリーゴーランドだけは普通に明かりが点いていた。


「まだ誰も来ていないね…あっ、誰か来た!」

メリーゴーランドの近くにあるベンチに近付き、座る為に腰を下ろそうとした瞬間、メリーゴーランドに向かって小走りで走ってくる人影1人と子馬1匹の姿が見えた。

黒に近い色のローブ、灰色の巻き毛に羊のような角が生えた優しそうな男性の後ろを、真っ黒な毛並みにギラギラと不気味に光る赤い目の子馬がトコトコと後を追っている。


男性1人と子馬1匹は私達の手前で足を止めた。きっとこの目の前にいる男性が、学校から来た「迎えの人」なのだろう。


「初めまして!僕の名前はトス!学校では美術の先生をしているよ!ちなみに僕の後ろにいる子馬はナイトメアのアトって言うんだ!宜しく!」

「初めまして、トス先生。私の名前はロイワって言います」

私はトス先生の前まで移動し、簡単に自己紹介をした。

「君が吸血族のロイワだね?名前の響きが鉱石の大精霊様であるロイヤル様と似ていて縁起が良いね!」

これは私が受験の為に勉強をしてから分かった事だけど、魔族の間では鉱石の大精霊の名前が「ロイヤル」になってるんだよね。つまりロイヤルタウンは「鉱石の大精霊の街」って事になるらしいんだよね。

「えーっと…遊園地から出発する学生さんは…ロイワだけだね!」

「はい!先生、宜しくお願いします!」

「元気があって大変宜しい!じゃあ、早速学校に行く為の準備をしないとね!すいませーん、ダンデさん!メリーゴーランド動かす準備をお願いしまーす!」

「うむ、分かった」

トス先生にお願いされたダンデは、メリーゴーランドを起動させる為に近くにある機械をいじり始めた。

「それじゃあロイワ、メリーゴーランドの馬に乗ろうか!好きな馬に乗っていいよ!」

「えっ?まさか…このメリーゴーランドの馬に乗って学校に行くんですか?」

私は疑問を抱きつつも、先生に促されるままにメリーゴーランドの白馬によじ登った。

「勿論!あっそうそう、もし乗せたかったら自分が持っている精霊も自分が乗っている馬に乗せてもいいよ!因みにロイワは精霊や精霊石って知ってる?」

「知ってます!最近始まった精霊のアニメも見てますし、自分の精霊は持ってますが…私のゴーレムは馬に乗れそうにないので出すのはやめときます」

「そっかぁ…残念!まあ先生の精霊も馬に乗れないんだけどね!」


そうそう、数ヶ月前にリュユ社長の会社から精霊石が発売されてから、物凄い精霊ブームみたいなのが巻き起こったんだよね。子どもからお年寄りまで皆んな精霊石を買って、好きな精霊を飼育して…

テレボでは毎日のように精霊や精霊石の話題が出てくる程だし、もう精霊石を知らない人が居ないんじゃないかってくらいに魔族の間に浸透していると思う。


最近始まったアニメと言うのは、リュユ社長が精霊石の宣伝の1つとして絵本関係の会社に作らせた精霊使いのアニメの事だ。

ストーリーやキャラクターは1から綿密に考えられて作成されており、中々見応えのある素敵な作品に仕上げられている。


「因みにアトはメリーゴーランドを外から眺めるのが好きでね…って、無駄話してたらまた時間が無くなっちゃう…すいませーん!準備が整ったので宜しくお願いしまーす!」

トス先生は私の前にある黒馬に颯爽と跨り(ナイトメアのアトは先生の隣で停止した)、ダンデに向かって再びお願いをした。

「分かった。では…出発進行!!」


♪〜 ♪〜 ♪〜


ダンデの号令が飛び、愉快な音楽と共にメリーゴーランドが動き始めた。周りの景色がゆっくりと動き、作り物の馬達は上下に動いている。

暫くの間普通にメリーゴーランドは動いていたが…


ガタン!!


物凄く大きな音が辺りに響いた。不思議に思って辺りを見回してみるが、特に何も不審な点は見つけられなかった。

「よし、皆んなの準備は整ったみたいだね!じゃあ、改めて出発進行!!」

トス先生が人差し指を前に突き出し、大きな声で合図を出した瞬間


ドスン!ドスン!ドスン!


何と、メリーゴーランド内で回っていた作り物の馬が、自分の脚で走り始めた。

動き出した馬は1匹、また1匹と自分の持ち場を離れてメリーゴーランドの外に向かって脱走し、暗い園内を走り出した。

「うわっ!」

先生が乗っている黒馬(隣にいたナイトメアのアトも)も、私が乗っている白馬も、開いていた出入り口から勝手に飛び出し、全力で走り出した。


「ロイワ!学校生活を十分に楽しんできなさい!」

「ダンデ!行ってくるねー!また手紙書いて送るからねー!」

精一杯に手を振って見送りをするダンデに、私も手摺につかまりながら全力で手を振って応えた。


外に飛び出した作り物の馬の大群は、明かりの消えた遊具達の間をドスンドスンと音を立てながらひたすら走り続けた。

やがて遊園地の開いた門を通り抜けると、馬達は明かりがついた街灯の少し上までゆっくりと浮かび上がり、目の前に見える夜明けの静かな街に向かって宙を蹴って走り続けたのだった。

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