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32話 ロイワの才能

「今、学校に通うって言った?」

先程まで噴水の側に居たリュユ社長が、私の発言を聞いて一目散に駆け寄ってきた。てかリュユ社長足速っ!?

「あっ、リュユ社長!うん、私はね…自分の実力を身に付ける為に、学校に通おうと思ったんだよ!」

「良い心がけ、それなら私が作った学校に通うといい」

「えっ?リュユ社長が作った学校?」

「そう、ロイヤルタウン中央魔法専門学校。最新技術を取り入れたこの世で1番最先端な学校。ちなみに、11歳から通う事が出来る」

「おお…」

「テレボは勿論、我が社の最新技術を触り放題。今日配った精霊についての勉強も出来る。と言うか出来るようにする。こんな素敵な学校他に無いと思う」

「それは凄いね!是非とも入ってみたい…確か魔法専門学校ってさ、試験に合格しないと入れないんだよね?私、頑張って勉強するよ!」

「勉強頑張って。ロイワさんは絶対に我が校に入学して欲しい」

「えっ?私に…?」

「うん。ロイワさん、この作品を自力で作った」

そう言ってリュユ社長がポケットから取り出したのは…

「あっ!?それは…私が最近作った小型念話器!…の試作品!何でリュユ社長がそれを!?」

「ふふふ…ロイワが凄い技術持ってる事伝える為にヨ…我がリュユに渡したんだヨ!」

「勝手に持ち出して勝手に手渡したの!?」

「マジックカードは、私達の世界で言うプログラム。いくら沢山の魔法を覚えても、魔法の組み合わせをしっかりと考えて目的の道具を作成するのは非常に難しい」

「大精霊だからと言って、最初からカードに書き込む魔法の組み合わせが分かる訳無いヨ!これはロイワの実力なんだヨ!」

「ロイワさんは既にマジックカード関係の会社で働けるレベルの技術を持っている」

「いやぁ〜それ程でも〜…」

「今のはお世辞じゃ無い。ロイワさん、将来は立派な魔術技術者になる。是非私の学校に来て欲しい。青龍、あれ渡して」

「はい、これが我が校のパンフレットです。お納めください」

リュユ社長の呼びかけに素早く反応し、青龍がリュユ社長の前に現れた。青龍は私に学校のパンフレットを手渡すと、再びリュユ社長の背後に素早く戻って行った。

「あ、ありがとうございます…」

手渡されたパンフレットには、宙に浮いている学校の写真(今の時代にしては結構綺麗に写っている)と『ロイヤルタウン中央魔法専門学校』のシンプルな文字が書かれていた。

「ありがとうございます!私、頑張って勉強…」

「あ、あと最後に1つ」


ずいっ


「あの…リュユ社長、顔が近いよ?」

うわぁ…物凄い美人が私に顔を近付けていらっしゃる…物凄く緊張する…

「さっきテレボで流れていたアニメ、初代じゃなくて三つ目のやつだった。私、あのアニメの映像が欲しい」

「えっ?もしかしてリュユ社長…あのアニメに詳しいの?」

「欲しい」

ずいっ

「分かった分かった!ほら!これがあのアニメが入ったカードだよ!」

私は顔を赤らめ(元々顔は赤いが)、仰け反りながらリュユ社長にアニメ入りのカードを手渡した。

「ありがとう」

私からカードを受け取ったリュユ社長は…あっ、ずっと無表情だったリュユ社長が笑っていらっしゃる。だが、その笑顔は一瞬で引っ込んでしまい、再び無表情に変わった。

「じゃあ、今度会う時は始業式の日に。さよなら」

リュユ社長は、私から受け取ったカードを本に挟むと、青龍と共に何処かへと歩き去ってしまった。

「さ、さよなら…」

何と言うか…もの凄い人だったなぁ…



「えーっと…遊園地の運営で得たお金があるから入学金の類は心配しなくて大丈夫だから…親の役は私が1番最初に作った吸血鬼のダンデさん(名前付けた)に頼んで、後は…」

「後は容姿だヨ。ロイワは自分の姿を変えるのがあまり得意じゃないみたいだからヨ…ひょんな事がきっかけで正体がバレる可能性があるヨ。自分で化けるのが苦手ならば、もう1人の自分を…つまりアバターを作成すればいいんだヨ!アバターなら身長も種族もある程度決める事が出来るし、今日みたいに正体がバレる事も無いヨ」

「成る程…分かった!ミュラー、アバターの作り方教えて!」


「分かりました。一から丁寧に教えましょう。ですが…」

「ですが…?ってセレセルさん…いつの間に来たの?」

「先程手に入れたこの精霊でヘルと真剣勝負をしなさい。もしヘルに勝てたらアバターの作り方を教えてあげましょう」

「えっ!?ヘルと勝負!?」

「ほい、ヘル連れて来たヨ〜」

ミュラーの方を向くと、そこにはミュラーの小脇に抱えられたヘルの姿が…いつの間に持って来たの?

「あ、あの…これは一体…?」

「ヘル、ロイワと精霊を用いて勝負をしなさい。手加減は無用です」

「わ、分かりました…セレセル様…」

「くれぐれも手加減しないように。では、勝負が出来る広めの場所に移動しましょう」



マールの街中で1番広めの場所に到着した。撤去された瓦礫の山が所々に積み上げられている。一見散らかっているように見えるが、他の場所よりは片付いている方である。

広場に到着した私とヘルは、精霊が戦える広さを確保する為にある程度離れて向かい合った。

そんな私達を遠巻きに眺めるセンチとミュラーとセレセルさん…と暇を持て余したマールの住民。

「えーっと…精霊のみの一対一の勝負で…先に精霊が戦闘不能になった方の負け…って事でいいんだよね?」

「そうだヨ。センチ、どっちかが不利になっても手出しするんじゃねぇヨ」

「そんな事しないよ!何かロイワにとって、物凄く大切な勝負みたいだしさ!」

「その通りです。どんな争いが始まるのか楽しみですね」

「セレセルさん目が怖いよ…あっ、ようやくヘルが精霊を呼び出す準備を始めたみたい!」



「このカードを精霊石に…わっ!?」

ヘルが持っているカードを精霊石に挿し込んだ瞬間、ヘルの目の前に白いロングワンピースを着た可愛い少女が現れた。浮遊しており、常に風に吹かれているかのように髪やワンピースがゆらゆらと揺れていた。

「ヘルの精霊可愛い!ミュラー、あれ何て言うの?」

センチはヘルの前に現れた少女を指差しながら、隣に居るミュラーに名前を尋ねている。

「あれは風の精霊、シルフだヨ」

「へぇ〜、シルフってあんな姿してるんだ!始めて見たよ!そしてロイワの方は…何が出るかな?」


「えーっと…この精霊石にカードを差し込んで…あっ、出て来た!」

カードを精霊石に差し込んだ瞬間私の目の前に現れたのは、それなりの大きさの丸い岩…に大きな手と小さな足が生えた岩人形…ゴーレムだ!

可愛い!!物凄く可愛い!!

「あれって…ゴーレム?」

「その通りだヨ。中々愛嬌のある精霊だヨ」

「うーん…あれ強いのかな…足は遅そうだし、空を飛んでいるシルフに攻撃は当たらなそうだし…この勝負、ヘルの方が有利なんじゃないかな?」

「まあ、どう思うかは自分次第だヨ。とりあえず大人しく2人の練習風景眺めてみるヨ」



ゴーレムを召喚した瞬間、ゴーレムの操作方法や特技などが全て頭の中に入って来た。

折角だから、勝負が始まる前に少し操作の練習してみようかな。

(右…左…一回転!丸くなって転がる!)


タッタッタッ…タッタッタッ…ごろん。ごろごろ…


凄い…この精霊、自分か想像した通りに動いてくれるんだ…!まるで自分の頭がゲームのコントローラになったかのようだ!


「成る程…」

一方ヘルのシルフは、高く飛んでみたり地面すれすれを素早く飛んだりしていた。あのシルフは結構素早いようだね…


「ある程度操作出来るようになったかヨ?では位置について…」

ミュラーの指示に従ってお互いの精霊を前に出し、見合わせてその場に停止させた。


「試合開始!!」


ミュラーによる始まりの合図と共に、シルフの掌から鋭い音と共に小さな風の球が打ち出された。

(左!)

ゴーレムが左に飛び込む想像をすると、現実のゴーレムも私の想像通りに左に向かって思い切り飛び込んだ。


ボン!!


先程までゴーレムが居た場所に風の球が当たる。

危ない…シルフが掌をゴーレムに向けた瞬間に避ける指示を出していなかったら攻撃が当たる所だったよ。

…なんかこの勝負、前世でやってたゲームを思い出すなぁ…そのおかげなのか、相手のシルフが次にどこに移動して何をするのかが分かるような気がする。


「おっ!ロイワのゴーレムがヘルの攻撃を避けた!」

「中々やるみたいだヨ」


ゴロゴロゴロ…


ゴーレムは左に飛び込んだついでに体を丸めて球体になり、素早く転がりながら宙に浮いているシルフに近付いていく。

(右!)

ゴン!ゴロゴロゴロ…

私が指示を出した瞬間、ゴーレムは片腕だけを表に出して地面を思い切り殴りつけ、無理矢理進行方向を変えた。


シュッ!!


シルフの掌から再び風の球が打ち出されたが、ゴーレムに移動指示を出していたおかげで当たらずに済んだ。


「うわっ!?ロイワのゴーレム、シルフの速い攻撃を2度も避けたよ!」

「ヘルの攻撃がロイワに読まれているみたいだヨ!」

「この勝負、どちらが勝つか分からなくなってきましたね…」


さてと…そろそろこっちからも攻撃しなくては…

(シルフの正面を避けて斜め後ろに移動、真下辺りから地面を思い切り殴って飛び上がって体当たり!)


ドンッ!!


「なっ!?ゴーレムが飛んだ!?」

ゴーレムの動きにヘルが驚いているが、私は黙ってゴーレムに指示を出し続けた。

(着地する前にシルフの足を掴み、シルフを地面に思い切り叩きつける!)

ブンッ!!


ドムッ!!


(地面に叩きつけられて怯んだシルフに思い切りパンチ!)


ボン!!


ゴーレムが地面を思い切り転がり、勢いをつけた全力のパンチをシルフにぶつけた。ゴーレムの強力な一撃をもろに食らったシルフは、物凄い勢いで広場の隅まで吹っ飛んでいった。

(相手の攻撃が飛んで来る前に全力でシルフに近付き、真正面を避けて攻撃。シルフの振り向き様の攻撃の際は、あえてシルフに向かって飛び込み、腕に向かって一撃…)



ドン!ドスン!ドムッ!ドン!


ゴーレムはシルフの攻撃を避けては、次々と攻撃を繰り出していく。


ざわざわ…ざわざわ…


「凄いなあのゴーレム、シルフの攻撃を殆ど避けてるぞ!」

「ゴーレムってあんなに速く動けるんだな…」

「私、ゴーレム欲しくなってきたなぁ…」


「客席…もとい野次馬達は、ロイワが操作するゴーレムの動きに驚いているようだヨ」

「どうやらヘルのシルフは、ゴーレムから矢継ぎ早に繰り出される技に対応出来仕切れないようですね」

「ロイワのゴーレム、さっきから物凄い動きしてるんだけど!?何あれ!?」

「ロイワのゴーレム、精霊じゃ無かったら出来ない動きしているヨ。あっ、そろそろ決着が着くようだヨ」


パァン!!


ゴーレムの体当たりが炸裂した瞬間、破裂音と共にシルフが煙のように消えた。

「こ、これは…私は負けたのか…?」

「はい、どうやらシルフはゴーレムの攻撃に耐え切れず、ヘルの精霊石に戻ってしまったようですね。と、言う事は…」


「ロイワの勝利だヨ!おめでとうだヨ!」

ミュラーは大声で叫びながら、私に向かって飛び込んで来た。少し遅れてゴーレムも、両腕を広げながら小さな足でヨタヨタと歩いて来て、私の足元に抱きついてきた。可愛い。

「勝利出来たのはヘルが精霊の操作に慣れていなかった事と…あとは前世でこれとよく似たものをやっていたおかげかな…」

こんな事になるならもっと真面目にゲームしとくんだったよ…

「ゴーレムには体を大きくする特技があったにも関わらず、その特技を一切使用せずに勝利したのですね…流石です」

「まあそれは特技縛りって事で…とにかく、ヘルに勝利出来て良かったよ!ヘルの攻撃は全て避け切れなかったし、勢い余って余計な動作してしまったし、まだ改善すべき点は沢山あったけどね…」


こうして、何とかヘルに勝利出来た私は、アバターの作り方をミュラーとセレセルさんに教えて貰ったのだった。

「あっ、そうそう…あの時、リュユ社長は「精霊石は数ヶ月後に発売する予定」とか言ってたけどヨ…本当はヨ、リュユ社長は精霊石を販売する予定は無かったらしいヨ」

「えっ!?そうなの!?」

「やはりか…もし精霊石を数ヶ月後に発売するのなら、リュユ社長は商品が売れるように大々的に宣伝をしていた筈だからな」

「精霊石自体は人工精霊の為に独自で開発していただけでヨ…精霊石を販売する気になったのは、ロイワが持って来たアニメを観ている内に、あの精霊石売ってみようかな?って感じになったらしいヨ」

そんな適当な感じで発売を決める事ってあるんだ…

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