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31話 精霊とリュユ社長

「もう夜になるね、そろそろ晩御飯の支度しないとね〜」

センチは、ポケットから小さな時計を取り出して現在の時刻を確認している。

「そうだな…ついでにマールの悪魔達の分も作るとするか。よし、手の空いている悪魔を集めて晩御飯の支度を始めるぞ」

へルはセンチが掲げている時計を横目で見ながら、鞄から調理に必要な道具とランタンを取り出している。

「私、使える食料を持って来るね!確か無事だった倉庫の中に無事だった食料を収納していた筈…」

「いや、晩御飯は私が持って来た惣菜パン支給しようよ!沢山持って来たんだよ!」

私は自分のリュックから惣菜パンを複数取り出してセンチとヘルに見せた。

「うわぁ!沢山持って来たね!」

「おお、そのパンを支給すれば倉庫の食料を使用せずに済むからかなり助かるな…街が全壊してしまった今、無駄に食料を使用するのは避けたいが…このパンを支給してもいいのか?」

「いいよ!そもそもの話、私が街壊しちゃったようなものだし…少しでも役に立たないとって思ってたからさ」

「…分かった、では今からパンの支給を始めるとするか」

ヘルは私の話に頷くと、出した調理器具を片付けてパンを支給する準備を始めた。



「はーい、各自1列に並んで下さい!」

「パンは1人1つずつでーす!」

私達は、周りにいた女性の悪魔達数人に手伝って貰いながら、マールの住民全員に惣菜パンを配っていた。

「そう言えばさ、精霊って魔族からかなり嫌われてるけどさあ、何でこの世界の精霊はあんなに嫌われてるの?」

私は、列に並んで次々とやって来る悪魔達にパンを配りながら、精霊についての話をヘルに尋ねてみた。

「ああ、ロイワさんは大精霊だからな…実際に奴らを見た事が無いから分からないのだな?分かった、説明しよう」

確かに私は精霊を生で見た事無いけど…精霊って、大精霊の前には現れない生き物なのかな?

「精霊はな、その辺で吹く風、木々、海などの自然の中から勝手に生まれてくる肉体を持たない生命体だ。簡単に言えば、魔法の擬人化のようなものだな。

風の中から生まれるシルフ、古い家や古木から生まれるシルキー、小さな薪の火から生まれるサラマンダー…とにかく色んな自然現象から生まれて来るのだが…こいつらは考える頭が無いのか、とにかく自分勝手に行動をするんだ。

その精霊達の自分勝手な行動は本当に酷くてな…森を全焼させたり、突風で作物を荒らしたり、家から家主を追い出したりと、後先の事を考えずに行動する本当に迷惑極まりない奴らだ」

「しかもね、この精霊を放って置くとさ、精霊の力がどんどん強くなってねぇ〜…酷い時はただのそよ風程度のシルフが家屋を崩壊させる程の大災害レベルの暴れん坊になる事だってあるんだよ」

「ひぇ…それはとんでもないね…」

「そうそう…ちなみに現在はね、出来るだけ精霊を発生させたり建物に侵入させたりしないように色々と魔法使いが頑張っているんだって!」

「そうだな。そして、精霊を操る職業の人は勿論この世に存在するのだがな…精霊は知識を蓄えないので同じ間違いを繰り返す。だから仕事は勿論、戦闘でも殆ど役に立たないんだ。しかも、少しでも行動を間違えれば精霊は怒って暴れ出すのでな…精霊使いになるより、精霊払いの仕事をした方が遥かにマシって事だ」

「成る程ね…」

「そうだったんだ…」

「精霊使いは夢のまた夢なのかな…」

「僕、精霊使いになりたいのになぁ…」

「…ん?誰だ?……ひぇああ!?」

知らない声がした後方を振り向いたヘルは、物凄い数の子供達が座って話を聞いている光景を見て変な悲鳴を上げた。

「結構前から集まってたよ?ヘル、気付かなかった?」

「そうそう、みんな大人しく座って真面目にヘルの話を聞いていたんだよ?健気だよねぇ〜!」

「センチ…この状況を面白がってないか…?」

「先生、そのまま精霊の話を続けて下さい」

「せ、先生って…私はそんな…」

「先生、精霊使いになる事は出来ないの…?」

「いや、違う!精霊使いには頑張ればなれる!だが、精霊の扱いが難しいだけでな…」

こうしてヘルは、目の前の悪魔達にパンを配りながら後ろにいる子供達に精霊の話をする羽目になったのであった…



「それにしてもさ、魔法や道具で上手く人間に化けたつもりだったんだけどね…まさか魔族を見分ける力を持った人間に見破られるとは思いもしなかったね」

パンを配り終えたセンチとヘルは、新しく建てられたマンションの上で、ロイワに手渡された惣菜パンを食べながら取り留めのない会話をしていた。

ちなみにロイワは、パンを配り終えた途端に突然現れたミュラーに攫われてロイヤルタウンに戻ってしまった。

「確か、そのような不思議な力を持つ者の事を「超能力者」と言うらしいな…」

「あー、超能力者って最近本やテレボで取り上げられてるよね。魔力を一切使用せずに遠くの物を持ち上げたり、握り潰したり…」

「魔力を使用せずにそんな力を…まさに夢のような能力だな…」

「センチ!ヘル!」

「朗報だよ!」

「うわぁ!ってミュラーにロイワさん…どうしたんだ急に…」

「ふっふっふっ…実はヨ…ロイヤルタウンで良いもん作ってる奴を発見してヨ…」

「2人とも、とりあえず噴水広場に集まって!」


ガシッ!!


ミュラーはヘルとセンチを持ち上げて小脇に抱えた。

「あのー…ミュラー、何するつもり?」

「嫌な予感が…ロイワさん、助け…」

「それじゃあレッツゴーだヨ!!」


ズドドドドドドド!!!


元気な掛け声と共にミュラーはマンション内に突入し、全力で螺旋階段をグルグルと駆け下りた。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

「何でご丁寧に階段から降りるの!?ねぇ!?何で!?」

「2人共頑張って!」

そんな絶叫マシーンと化したミュラーを全力で追いかけるロイワは、叫ぶ2人に励ましの声を掛けていた。

「ロイワ!頑張ってって何!?」

「頼む!頼むから普通に運んでくれ!!」




マンションから無事に降りた私達。私は、ふらふらと歩くセンチとヘルを両手で支えながら悪魔達が集まっている噴水広場に向かった。夜の帳が下りた噴水広場には、私が作った照明が周りを明るく照らしていた。

「やれやれ、酷い目に遭ったよ…」

「ああ、全くだ…ん?」

噴水広場には、マールの悪魔の他に見慣れない男女が居た。男性は物凄い背が高く、青い着物を着込んだ長い髪の魔族、女性は普通の身長で、綺麗な柄が入ったパーカーを着たショートカットの黒髪の人間(エルフ?)、2人は人集りから少し離れた場所で静かに待機していた。

「えっ?ロイワ、あの人達誰?あの男女の…」

「ん…?あっ!?あれは…本当に本物なのか!!?」

あの2人を見た途端ヘルは、物凄く驚き狼狽始めた。

「ヘル、あの人達の事知ってるの?」

「センチ、知らないのか!?あのお方はなぁ!最新技術であるマジックカードを作り出したリュユ社長だ!!」

「リュー…?あの10代っぽい、明らかに学生みたいなあの女性が社長なの?」

「リュユ社長!そして、社長の隣に居る背の高い男性はリュユ社長の秘書、セイリュウさんだ!」

「セイリュウ…?」

「ああ…しかしあの社長が何故こんな所に…?」

「まあ細かい事は気にしない!とりあえずそこで静かに話を聞くんだヨ!」

そう言うとミュラーは、リュユ社長とセイリュウさんのいる場所まで駆け足で移動した。


「地上なのに魔族が沢山、ミュラー、また何かした?」

静かに佇んでいた女性、リュユ社長は、近付いて来たミュラーに一言声を掛けていた。リュユ社長の話し振りからしてこの2人は知り合いなのかな?

「いやぁー、まあ色々とあってヨ。それよりも…みんな!大切なお話を始めるヨ!」

ミュラーは水の出ない噴水の上に登り、小さな両手をパチパチと鳴らして皆んなの視線を集めた。

「まずはヨ…この新マールの街を統一してくれる奴を連れて来たヨ!ほら、皆に挨拶するんだヨ!」

そう言ってミュラーが噴水の上に上げた男は…

…?あれってまさか…元領主のフルー?

「その辺で「マールの領主だ」と自称するボロボロの人間が落ちてたからヨ、そいつに我の力を与えて魔王に変えてやったんだヨ」

魔王に変えたの!?

いや、あのフルーって男は、執事の悪魔の話ではかなり酷い領主の筈…そんな奴がこの新マールを統一できるのかな…

「フフフ…我の名は魔王フルー…我がこの新マールの領主になったら、税金を減らして民の負担を軽減しよう…更に、一般市民の為の学校を建て、民の学力向上を図るのだ…!」

魔王になって逆に良い人になる事ってあるんだ…

「本当はもっと語りたかったが、話が長すぎると倒れる民が出てくる可能性がある…詳しい話は後日、改めて伝えるとしよう…!」

そう言うと、魔王フルーは噴水から降りて、人々の間を掻き分けて何処かへと歩き去った。

魔王になって逆に優しくなる事ってあるんだ…

「さて次は…自己防衛についての話だヨ。

今このマールの街は、簡単に言えば魔法の力で隠されている状態だヨ。だけどヨ、いずれこの魔法も勇者や偉大な魔法使いに破られる可能性がなきにしもあらずだヨ。だからヨ…」

ミュラーは皆に向かって喋りながら、ポケットの中から白色の綺麗な八角形の石を取り出した。

「マールの住民が自衛出来る手段を皆に持って来てやったんだヨ!」


ざわざわ…ざわざわ…


「ふふふ…皆が言いたい事は分かっているヨ。ズバリ、コレが何なのか知りたがっているんだろうヨ。これはヨ…精霊と仲良くなる為の装置だヨ!」

「えっ!?」

「それは本当なのか!?」

ミュラーの話に辺りの悪魔達が驚きざわつき始めた。隣に居るセンチとヘルも驚いている。


「ここからは私が説明する」

先程まで隅で傍観していたリュユ社長が、青龍と共に噴水の前に現れた。

「この装置…通称『精霊石』は、魔族と精霊を繋ぐ為の装置。この装置に精霊が入ったマジックカードを挿すと、精霊と精霊石の所有者の知識を共有できる…つまり、精霊は人間並の知識を持ち、人間は精霊の能力を使用出来るようになる」

「マジで!?それ凄くない!?ヘル、私あれ欲しい!」

「私に言うなセンチ!それにしても凄い装置だ…だが、そんな商品があるなんて話、私は初めて聞いたぞ…」

「ちなみにこの青龍は私が作り出した精霊、つまり人工精霊」

「なっ…!?そんな…あのセイリュウさんが精霊だと!?あの頭脳明晰なセイリュウさんをリュユ社長は1から作ったと言うのか…!?」

そりゃヘルも驚くよね…てか、世の中にはもの凄い人が居たもんだよねぇ…

「ちなみにこの精霊石に入れた精霊は、精霊石の所有者の知識が多ければ多い程成長して強くなる。更に、精霊に自分の魔力を渡せば、精霊は自分で考えて勝手に魔法を使ってくれる」

「つまり精霊は主人と共に強くなり、共に戦ってくれると言う訳か…」

「普段は制御装置が作動しているから、精霊は他人を傷つける事は出来ない。だけど、非常事態の時は制御装置が解除され、人間や物に干渉、つまり人間を攻撃したり、物を壊す事が出来るようになる。

本来は数ヶ月後にロイヤルタウンで売り出す予定の商品だった。でも、ミュラーの為に今回は特別に、皆に無料で配る。テストプレイも兼ねているので、使用した感想等を後で教えてくれると助かる。今回は特別に精霊も用意した。好きな精霊を選んで、そして大切にしてほしい。話は以上」

話を終えたリュユ社長は、鞄から綺麗な模様の入った袋2つと本を取り出すと

「朱雀、玄武、手伝って」

リュユ社長は本に赤いカードと黒いカードを差し込んだ。


ボン!!


本から煙と共に、赤い着物を纏った赤髪の女性と、黒い着物を纏った白髪の老人が現れた。

「なっ…本から人が…!?まさかあの2人もリュユ社長が作った人工精霊なのか…!?」

「あれも人工精霊っぽいよ。ヘルは分からない感じ?」

「ロイワさん…残念ながら、私にはあの2人は普通の魔族と区別がつかないんだ…本当にとんでもない技術だ…」

ヘルは、私の問いかけにため息混じりに答えた。

あの物知りのヘルが驚くって事は、あのリュユ社長が作った技術は相当凄いって事だね…

「はい、これを皆んなに配って」

リュユ社長は、本から出てきた2人に持っていた袋を1つずつ手渡した。

「これを1人1つずつ配ればいいんだね!分かった!」

「お任せ下さい、無事にこの精霊を配り終えて見せましょう…」

赤い着物の女性は元気に答えながら袋を受け取り、黒い着物の老人は静かに答えながら袋を受け取った。

「人工精霊と普通に会話をしている…更に精霊に個性まで備わっているとは…」

「ヘル!驚いてる場合じゃ無いよ!あの精霊石、私達も貰いに行こうよ!」

「おいセンチ!そんなに引っ張るんじゃない!」


「はいはい!良い子の皆んな!慌てず騒がず静かに並んで!このスザク様が直々に君達に精霊石を配るよー!精霊が入ったカードはゲンブが持ってるから、精霊欲しい人はあの爺さんの前に並んでね!」

「はいはい、この中から好きな精霊を1つ選びなさい」

朱雀と玄武の前にはあっという間に列が作られ、次々と精霊石と精霊が入ったカードが配られたのだった。


「凄いなぁ…あの人…」

未だに精霊石を配り続けている朱雀と玄武から少し離れた場所で、少し前にリュユ社長本人から直接受け取った精霊石と、精霊が入ったカードを眺めながらため息混じりに呟いた。

「ああ…ロイワはあいつの凄さ、分かってくれるかヨ?」

「分かるよ。あのリュユ社長、私と同じ転生者でさ…神様から碌に能力を貰えなかったのにも関わらず、この危険な世界を自分の力のみで頑張って生き抜いた上に、あのマジックカードを作って精霊と共に生きる術を自力で見つけるなんて…本当に凄いよ!」

「でも…ロイワがマジックカードの原料を作り出す光水晶の妖精を作ったから、リュユ社長は有名になれたんだヨ?」

「いや、この妖精を作る力は貰った力だからさ、私自身の力じゃ無いよ。今回の冒険だって、私がもっとこの世界を知っていればマールの街は崩壊する事は無かったかも知れないからね」

「あれは…フルーの自業自得だろうヨ。で、今回は色々とやらかしたから冒険は一時中断って事になったけどヨ、この後ロイワは何するんだヨ?」


「私…ロイヤルタウンに戻ったら学校に通って、この世界の知識を一から勉強する事にするよ!」

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