30話 テレボと…
「さて、とりあえず…散らかってしまった街を掃除するんだヨ!もし珍しい物があったらとりあえず我々に見せに来るんだヨ〜、以上!!」
ミュラーの命令に従い、次々と瓦礫の山の除去を始める元マールの住民達。魔族に変わったおかげなのか、明らかに重労働である瓦礫除去作業がサクサクと進んでいる。
そんな中私は、元執事だと名乗る老人悪魔と共に瓦礫除去の作業中に出て来た色んな道具を吟味していた。
「執事さん、これは何?」
私は山のように積まれた道具の山からフライパンのような道具を取り出して執事さんに見せた。
「これは特殊な魔術が施されたフライパンでございます。火を使用せずに食材を加熱出来る優れ物です」
火を使用しないフライパンはロイヤルタウンで既に販売されてるんだよねぇ…
「成る程…じゃあこの黒い石は?」
次に私は、地面に転がっている真っ黒な丸い石を指差した。
「ロイワ様、それは太陽石だった物で御座います。本来は照明として使用されていましたが、数年前にこの世の全ての太陽石が光を出さなくなってしまったのです…」
全ての太陽石が光を出さなくなったの?ロイヤルタウンではまだ元気に光を出しているんだけど、こっちでは太陽石は役立たずになってしまったのかな?てか、光を出さない太陽石なんてただの石ころじゃん…
うーん…あまりめぼしい物が無いなぁ…
「じゃあ…あっ、この薄汚れてるけどロイヤリティー溢れるこの衣装は?」
土埃で汚れているが、青色の綺麗で豪華な衣装だ。襟の部分を掴んで道具の山から丁寧に引きずり出した。
「ロイワ様、それは前まで我々を支配していたゴミ領主様でございます」
へぇ、この国を支配していた領主ねぇ…
ん?
あっ!この服、よく見たら人がくっ付いてる!気付かなかった!
「き、貴様…は……」
服にくっついている、もとい着ている人が、私達を睨みつけている。
この人、土埃で汚れているけど、怪我どころかかすり傷一つもついて無い上に、魔族に変わっていない…よく見ると服も綺麗なまま…もしかして、この服のおかげで怪我をして無いのかな…
「この人、さっき私達の前に現れたフルーって奴だ」
「この人間はですね…簡単に説明致しますと、やたら高い税金をマールの民に納めさせたり、税金を無駄遣いしたり、挙げ句の果てには勝ち目の無い戦争を仕掛けようとしたり…とにかく酷い人間なので御座います…」
「成る程、このフルーと言う男は、とにかくマールの民に色々と酷い仕打ちをして来たのですね…」
「うわっ!?セレセルさん!?」
何で急にこの場に現れたの!?
「分かりました、このフルーと言う男はマールの人達に渡します。フルーの処遇は貴方達が自由に決めなさい」
セレセルさんは、私からフルーを奪い取ると執事の悪魔に手渡した。
「あ、ありがとうございます…」
「や、やめろ…」
「フルー、とりあえずマールの人達に貴方を引き渡します。観念しなさい」
「うぅ…」
フルーは執事の悪魔に雑に引き摺られながら、悪魔達が集まっている場所まで連れて行かれたのであった…
「さてと…ロイワさん、とりあえず私はロイヤルタウンに帰りますね。さようなら…」
「さ、さよなら…」
セレセルさん…一体何しに来たの?まさか暇つぶしの為に顔出したの?まあいいか…
さてと…確かミュラーは道具の吟味に飽きたから、街にある噴水広場に居るんだったかな?私も今丁度暇になったし、ちょっと覗きに行こっと。
「右!左!右!左!」
ブン!ブン!ブン!ブン!
元噴水広場に移動すると、悪魔の指示通りに腕を振る巨大なカマキリの姿があった。
「そう、そのままうつ伏せの状態で…」
「……」
あの暴れん坊の山賊狩りが、悪魔の前で大人しくうつ伏せをしている。
「おっ、ロイワか。何しに来たんだヨ」
「あっミュラー!これってさぁ…悪魔がモンスターを操作してるの?」
「そうだヨ。魔石を体内に持つ我々はヨ、あの害獣達をある程度自由に操作する事が出来るんだヨ。今は操る方法を大人達に教えている所だヨ」
「ええ…そんな事が出来たのならさ、あの山賊狩りと戦わずに済んだんじゃないの…?」
「まあ、あの時はセレセルがヨ…それよりも、このちびっ子供を大人しくする道具を出して欲しいヨ。ちびっ子をこのままほっといたら物凄く危ないヨ」
「ちびっ子?」
「ほら、アレ見てみろヨ」
「?」
ミュラーが指を指した先にあったのは…
「わぁー大きぃー!」
「あっ、こら!そんなに害獣の側に寄ったら危ないぞ!」
「パパー!遊んでー!」
「ごめんな、今お父さんは仕事で忙しいんだ。友達と遊んで来なさい」
そこには、仕事をする悪魔にまとわりつく小さな悪魔の姿が…
「あー…確かにこのままじゃ危ないね…でもさ、ミュラーって結構色んな知識を持ってるよね?」
「おう!だからロイワが子供を大人しくさせる道具を持っているのを知っているんだヨ!」
成る程〜!そう来たか〜!
「分かった!丁度いい暇つぶしの道具を出してあげるよ!」
私はその場で物凄く大きなテレボを作り、旅の為に持って来たリュックの中から一枚のカードを取り出した。
「これが暇つぶしの道具…大型テレボとアニメが入った記録カード!」
「記録カードって、主に映像を記録する際に使用されるあのカードかヨ?」
「そう!このカードの中にはね、面白い物語が入っているんだよ!とある少年少女とモンスターとの絆を描いた物語でね…子供はきっと気にいると思うよ!」
そう、このカードにはね…前世の私が見ていたアニメが入っているんだよ。昔見たアニメの内容を思い出してはこのカードに頑張って記録していたんだよ。まあ、一部うろ覚えな部分もあったりするんだけどね…
「へぇ〜、前世のロイワが見た映像…物凄く気になるヨ!さあ、早速皆で観てみようヨ!」
「えっ、ミュラー今何て言った?」
「みんな集まれ〜!今から面白い物やるヨ〜!」
ミュラーは私の質問をガン無視して周りに居る子供をテレボの前に集めた。
「この鏡何〜?」
「バカ、違うよ!これは街に飾るオブジェだよ!」
「こらこら、お前ら喧嘩すんじゃないヨ〜。ほらみんな、その場で座って静かにするんだヨ〜!」
テレボの前に集まった子供を宥めてその場に座らせるミュラー…えっ、ミュラーもテレボの前に座るの?しかもそんな前に座るの?流石に前の席は子供に譲ってあげなよ…
私は子供の為に、急いでミュラーを持ち上げてテレボから遠ざけた。
「ちぇー、我も前の席で観たかったヨ〜」
「子供の為だよ、我慢してあげてね…さてと、みんな静かになったね!じゃあテレボ点けるよ!」
「おっとその前に…みんな、これからこの石像に絵が出てきて音楽が流れるけど、慌てず静かに観て欲しいヨ〜!それでは…始めるヨ!」
カチッ!
♪〜 ♪〜 ♪〜
スイッチオンと同時に、テレボにアニメのオープニングが映し出された。ああ、懐かしい…
ざわざわ…ざわざわ…
すげー…
何だこれ…
絵が…動いてる…?
「精霊使い…?ロイワの居た世界には精霊使いが居るのかヨ?」
「精霊使い???」
「うん、タイトルに出てたヨ」
「いや、あれは精霊じゃなくて…いや、この世界にはまだアレが無いから説明難しいね…まあ、精霊でいっか!」
「まあ何でもいいヨ。それにしてもこの映像、良く出来ているヨ!」
ミュラーが子どもみたいにはしゃぎながらアニメを観ている…周りに居る子供以上にアニメ楽しんでない?
「とりあえず私、街のみんなが住めるマンション建ててくるね」
「いってら〜」
「行ってきま〜す」
ミュラーの適当な返事に適当に返しながら、私はマールに住むみんなの為のマンションを建てに向かったのだった。
「はぁ〜…マンション、みんなに喜んで貰えて良かった〜!」
人が住めるマンションを3本程建て、マールの悪魔達からの感謝の言葉を浴びまくってきた私は、再び元噴水広場に足を運んだ。そろそろアニメが終わった頃かな?みんな飽きてないかな?
色々考えながらアニメ上映をしている場所まで歩いて…ん?何か人、多くない?
ざわざわ…ざわざわ…
子供だけじゃなくて大人も沢山テレボの前に集まっている…皆テレボに映るアニメを夢中で観ている…
あっ!テレボの数が5つに増えてる!しかもどのテレボもアニメ映してる!何で!?
「あっ、ロイワお帰り!」
「マンション建設お疲れ様」
「センチとヘル!ただいま!ねえ、これどういう事なの?」
「ああ、実はな… 今テレボでアニメと呼ばれる映像を流していてな…この精霊使いのアニメが中々面白いんだ」
「精霊ってさ、「自然の残りカス」ってあだ名が付けられているくらいに嫌われてる屑なのにさ…アニメが面白かったからつい最後まで観ちゃったよ…」
この世界の精霊、話が通じない上に碌でもない奴らだけどさ…幾ら何でも嫌われ過ぎでしょ…
「てか、センチもロイワもあのアニメ、最後まで観たんだね」
「観たよ!ロイワも観てきなよ!今、1番右のテレボでアニメが始まったばかりだよ!」
「いや、あのアニメ出したの私だよ」
「あっ、そうだったの!?」
「ロイワさんが作ったのか…凄いな…」
「いや、私が作った訳じゃ無いよ。元々あったものを持って来ただけで」
「ロイワ…」
センチとヘルと普通に会話していたら、突然ミュラーが私達の間に入って来た。
「うわっ!ミュラー!?どうしたの!?」
「ロイワ…アニメ面白かったヨ…あと我、さっきいい事考えたんだヨ…だからヨ、ちょっと元の世界に戻っていいもん持って来るヨ…」
パチン!
物凄い音と共に、ミュラーはその場から煙のように消えてしまった。多分ミュラーはロイヤルタウンに戻ったのだろう。
ミュラー…一体何をするつもりなの…?
まさか精霊捕まえて此処に持ってくるつもりじゃ無いよね…?




