29話 魔王誕生
辺り一面瓦礫の山…時折瓦礫の下から呻き声のようなものが聞こえてくる…
「おいロイワ、どうしたんだヨ」
私が1番高い瓦礫の山をボーッと眺めていたら、ミュラーが瓦礫の上をぴょんぴょん跳ねながら私の隣まで移動し、声を掛けて来た。
「いや、さっきまであんなに騒がしかったのに急に静かになったなぁと思って…所で、センチとヘルはどうやってアレから逃げたの?」
「アレって巨大化したロイワとミュラーの事だよね?実はあの時…」
「我がこれで助けたんだヨ〜」
ミュラーは腰に提げていたおしゃれな布袋を手に取り、袋口を大きく広げて見せた。
「そうそう!私達さ、ロイワ達が巨大化する前に咄嗟にこの袋に入れられたんだよね。中は以外と広くて快適だったよ!」
ドスン!ドスン!
センチはあちこちに積もっている大きな瓦礫を思い切り踏み付けながら移動し、袋の中の出来事を楽しそうに話している。
「ああ、袋口からロイワとミュラーが大きくなった姿…の一部分だけ見えたな」
ヘルは飛び回るセンチを目で追いながら話を続けている。
「えっ?魔法袋って生き物を入れる事出来ないんじゃ無かった?」
「普通のやつは出来ないヨ、でもこいつは我が手作りした魔法袋だから何でも収納出来るんだヨ」
「成る程…所でさ、このマールの街?をどうするの?」
もう宿泊どころか買い物すら出来ないんだけど…
「人の気配は殆ど無いね、店の商品も殆ど潰れちゃったみたいだし…まあ別にこのまま放置でもいいんじゃない?今の所は外に元気な人間は居ないみたいだしさ、パパッとアレして黙って此処から去ればいいじゃん」
センチは1番高く積もった瓦礫の上であたりを見回し、めぼしい物が無いか探しているようだ。
「アレして放置は流石に…だが、此処まで崩壊してしまったら何処から手を出せば良いのやら…」
ヘルは瓦礫が積もっていない比較的綺麗な地面を歩きながら、地面に転がった巨大な鐘や装飾品を眺めている。
「ヨシ!とりあえずこの街にある珍しい物全部持ってっちゃおうヨ!」
ミュラーが両手で指パッチンをしながら、上機嫌で話し掛けて来た。
「この街にある物全て持ってくって…何か魔法使って楽に集めたりするの?いや、新しく生き物創って道具を持って来させるとか?」
魔法の大精霊ってどんな生き物を創り出すんだろう…物凄く気になる。
「1から作らずとも、この辺に既に出来上がっている生き物が居るからヨ…コイツらを働かせるヨ!」
「えっ?まさかマールの人々を?どうやっ
パァン!!
私が話し終える前に突然、ミュラーから物凄い破裂音と共に飛び出した黒い光がマールの街全体を覆った。すると…
……ガタン……ガラガラ……
風に吹かれてもびくともしなかった周りの瓦礫が、ガタガタと揺れ始めた。
「あっ!瓦礫が勝手に動き出した…?」
センチはあちこちで大き口揺れ出した瓦礫に驚き身構えた。
瓦礫の動きは段々と大きくなっていき…
ガタン!!ガラガラガラ…
ズドン!!
何と、大きな瓦礫を押し退けて下から現れたのは…
「これって…悪魔?」
何と地面から出て来たのは、ダボダボな衣類を身に纏い、頭に角が生えた物凄く美人な男性と女性。
「いたたた…一体何が起こったんだ…。お前、大丈…夫…あれ?お前…ヤヤか?」
「何言ってるんだい!アンタ、妻の顔も忘れちまったのかい!ちょっと顔変わった程度でガタガタ騒ぐんじゃないよ!ほら、とりあえず家を何とかするよ!」
「へーい…」
出てきた夫婦っぽい悪魔達(?)は愚痴をこぼしながら、足元にある重そうな瓦礫を持ち上げると、軽々と遠くまで放り投げた。凄い力だ…
「今の揺れ…一体何だったのかしら…」
「あれ?俺、死んだ筈じゃあ…」
辺りを見回すと、同じような美男美女の悪魔達がわらわらと地面から這い上がってくるのが見えた。
…これはまさか、人間が魔族に変わっちゃった感じのヤツ?
「そうだヨ、この辺の人間全員に魔力を与えて肉体がある悪魔を作り出したんだヨ」
「ああ、確か悪魔の身体はほぼ魔力で構成されているからな。実体を持つ悪魔は珍しい…あっ、こっちからはガーゴイルが出てきたぞ!」
「うわっ!物凄く大きなゴーレムが出てきた!」
センチとヘルの声がした方を向くと、石を寄せ集めて作られたような巨人や、人の姿をした石像のようなものが次々と瓦礫の山から這い出していた。
「この石像達は全てその辺の瓦礫から作り出したんだヨ。これで瓦礫の撤去作業がかなり楽になるヨ!さてと…」
ミュラーは一際目立つ高いゴーレムまで走って近付き、頭にぴょんと飛び乗った。
『皆の者!!よーく聞くんだヨ!!!』
街の隅々まで響き渡るような物凄く大きな声を出して皆に呼びかけると、先程まで騒ついていた悪魔達が全て黙ってミュラーに顔を向けた。
『今日からお前達を我々の仲間にする事にしたヨ!
そして…このマールの街を、今から我々の領土にする事にしたヨ!』
ミュラーの簡単でめちゃくちゃなスピーチが終わると…
ワーーーーーーーー!!
ミュラー様、バンザーイ!!!
ミュラー様、バンザーイ!!!
周りからミュラーを讃える、割れんばかりの喝采が辺りに響き渡った。
「うわぁ…これ、多分魔族にされた人間全員洗脳されてるよね…」
「うーむ、下手に恨まれるよりはマシなのか…?」
センチとヘルは、目の前で起こっている出来事をやや呆れた目で見つめていた。
…ミュラー、この街を丸ごと乗っ取るつもりだ…
ってか、これじゃあ私達普通の冒険者じゃ無くて…完全に魔王じゃん!?




