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28話 消滅

「お前達、とりあえずギルドがある町まで案内して欲しいんだヨ」

「……分かったよ。(くそっ!俺を召使いみたいにこき使うつもりかよ…後で絶対に仕返ししてやる……! )」

うわぁ…ただ道案内頼んだだけなのに、心の中でめちゃくちゃ逆ギレしてるよこの人…これ大丈夫なのかな…


「そうそう、道案内してくれるお前にコレをやるヨ」

ミュラーはポケットから小さな袋を取り出すと、背の高い男の手にポンと手渡した。

「ん…?何だよ……って、おおっ!!?」

「これ、銀貨だよな…しかも5枚…」

「そうだヨ、案内料とお前の武器を駄目にしちまったお詫びだヨ。町に入ったら更に銀貨5枚やるヨ」

「おおーっ!アンタいい奴だな!分かった、俺が嬢ちゃん達をしっかり道案内してやるよ!」

「やったなミレン!しばらく金に困らなくて済むぞ!!」

ミュラーが金を渡した途端、男2人は大喜びで道案内をし始めた。現金な人達だなぁ…


(ミュラー、何であんな奴らが大喜びする程のお金あげたの?私達を騙そうとした上に襲いかかってきた屑じゃん…)

森の中を道案内する男達を後から追いかけている最中、センチはミュラーに先程の行動についてこっそりと質問をしていた。

(ああ、彼奴らが私達に恨みを持ってたみたいだからヨ、トラブルになる前に奴らのご機嫌取りをしたんだヨ。ああいう奴らは基本、痛い目見たら気が済むまでやり返すタイプだからヨ)

(へぇ〜トラブルを先に回避したんだね!それにしても、地上で初めて出会った人間が詐欺師とはね…幸先が悪いね)

(ロイワ、こういう詐欺は地上では珍しい事じゃ無いヨ。しょっちゅう起こる上に、これよりもっと酷い詐欺師も…

『魔法の大精霊ミュラー、鉱石の大精霊ロイワ…聞こえますか……』

『あっ、セレセルさんの声だ』

『どうしたんだヨ』

『さっきから黙って見てみれば…何なんですかアレは。最初に現れた山賊狩りの倒し方はまだ許容範囲内です。ですが、次に現れたあの詐欺師達の処遇があまりにも軽過ぎます。片腕を切り落とすとか足を吹き飛ばすとか…派手な魔法や力を見せつけるとか…』

『いや、流石にやり過ぎだよセレセルさん…』

セレセルさんって、あの見た目の割に以外と性格が野蛮って言うかワイルドって言うか…

『あんな雑技団の芸を見せる為にこの地上に現れた訳ではありません。そもそもこの大地に入り込んで来た余所者はあの正義を語る人間共の方です、何故古くから住んでいる我々が気を利かせなければならないのですか…

ミュラー、何故この森一帯を灼熱で焼き払わないのですか。ロイワ、巨大化した腕を敵に飛ばして攻撃する技はどうしたのです。もっと派手に暴れ回ってくれないと、見ている私は退屈で退屈で…』

『こらこら、そんな事言うもんじゃ無いヨ。逆に目立ち過ぎたらトラブルに巻き込まれる確率が高くなるだけだヨ』

『……今回は白い魔女の塔まで冒険してもらう予定でしたが、この調子ではいつ塔に到着するのやら…』

「おーい、嬢ちゃん達!マールに到着したぞ!!」

背の高い男に呼ばれたので、セレセルさんとの会話を中断して前を見ると、石で作られた大きくて頑丈そうな城壁が近くに見えた。

「よし、今の時間帯は空いてるみたいだな!」

「嬢ちゃん達、今の内に門を通り抜けようぜ!」

男達は私達と顔を見合わせながら、上機嫌で目の前に見える門に向かってずんずんと近付いていく。

「ほう、物凄く立派な城壁だな」

「でかい壁だね!!マールって名前の街、って事?何か人の名前みたいだね」

「人の名前みたい、では無くて人の名前なんだヨ。この街を作った人の名前がマールさんだからマールって名前が付いたんだヨ」

「この街を作った人…ふん、随分と下らない名前の付け方をするんだね」

「こら、センチ。今は口を慎め」

「はーい」

ヘルに注意され、センチは顔を顰めながらも渋々頷いた。

センチ…さっきからずっと不機嫌のままだね…

元々この大地は魔族のものだったって聞いてたし、後から入ってきた敵が我が物顔でこの土地を占拠してるのがセンチには気に食わないんだろうね…


(この門の衛兵は他の街より検問の時間が長いって専らの噂だけどさ、俺が説得して検問の時間が少しでも短くなるようにしてやるからさ!)

(おお、有難いヨ。ありがとうヨ)

(へへっ、あんな大金くれた礼みたいなもんだ!お安い御用だって!さてと…)

「衛兵さーん!」

背の高い男は門の前で待機している鎧の男に向かって元気な声で呼び掛けた。

「ん?どうしたんだ?」

「聞いてくださいよ!この人達は俺達を山賊狩りから守ってくれた上に、襲い掛かってきた山賊狩りを一捻りしてくれたんですよ!」

背の高い男は私達を指差しながら、衛兵に先程の話を簡潔に説明した。

「ほう、君達があの迷惑な害獣を駆除してくれた上にマールの住人を助け…」

衛兵が私達に顔を向けた瞬間、不自然に会話が止まってしまった。

「?」

「衛兵さん、どうしたんすか?」

「…いや、何でもない。とりあえず初めてマールに入る君達に簡単に審査をする。全員俺に付いて来い」

「???」

不思議がる男2人を門の前に置き去りにして、衛兵は私達を城壁の中にある薄暗い部屋に案内した。


「一体どうしたんだろうね…」

まともに日の光が入らない部屋の中、私達は雑に置かれた古い椅子に座りながら衛兵が来るのを今か今かと待ちわびていた。

「此処で待ってろって言われてから1時間以上は経ってるよね。私達、いつになったら街に入れるんだろうね」

「センチ、残念だけど我々はこの街に入れないみたいだヨ」

「えっ…ミュラー、それどう言う事…」

「動くな!!」

私がミュラーに理由を聞く前に突然、怒声と共に乱暴に開けられた扉から沢山の衛兵が私達の居る部屋に雪崩れ込んで来た。

入って来た衛兵は全員重装備で、各々が構えている剣や銃を全て私達に向けていた。

「えっ?何これ?」

「とぼけるな魔族共!!貴様ら、罪の無い住民を騙して我々の街に入り込もうとしただろう!!」

「魔族…?」

「予想外の出来事に驚いているようだな…先程貴様達をこの部屋に案内した衛兵はな、魔族と人間の違いが分かる目を持つ男だったんだよ」

「はぁ…」

成る程、さっき不自然に会話が止まったのは私達が魔族だって気付いたからだったんだね。


「賢い手を使ってこのマールに侵入しようと画策する頭はあったようだけど、どうやら君達は運に見放されたようだね」

衛兵の群れの中から、一際目立つ綺麗な衣装を着込んだ金髪蒼目の綺麗な男性が現れた。

「ん?アンタ誰?」

「汚い口を利くな!このお方はマールの領主様、フルー様だ!!貴様ら底辺の魔族とは無縁の高貴なお方だ!!」

近くに居たやたら声の高い衛兵(女性)が、センチを銃で脅しながら丁寧に領主様の紹介をしてくれた。

へぇ〜、この人がこの街の偉い人かぁ〜。

そんな偉い人が私達の前にのこのこと現れて大丈夫なの?

「いや、知らなくて結構だよ。そもそも君達の名前を覚える気もないからね。さてと…」

そう言いながら、フルーと言う人物は懐から四角い宝箱のような物を取り出し、私達に見えるように掲げて見せた。

「今君達を守り正体を隠す魔法がかかっているのは分かっているんだ。

見たまえ、この装置を使えば、君達にかかっている魔法が全て解け、私達の前で本当の姿を晒す事になるのさ。君達を守る魔法が全て解けた瞬間、君達の身体は蜂の巣になるよ」

成る程…あの装置を使うと私達は元の姿に戻るのか…


……ちょっと待って?確か本来の私って物凄く大きくなかった?


もしあの装置をこの場で使われたら…このマールって街、潰れてしまうのでは?

……一応本当の事話しとかないと。

「あの…私って本当はあまりにも巨大な姿してるからさ、もし此処でその装置を使った瞬間、このマールって街自体がマジで消える可能性があるよ?」

………


「…ふっ、あはははは!!聞いたかい諸君!!この巨大な都市であるマールが消える程の大きさになれるんだとさ!!」

フルーの一言と共に、周りの衛兵がドッと一斉に笑い出した。まあ普通は信じないよね…

「おい貴様…その装置を我々に使うって事は、このマールって都市を滅ぼすのと同義なんだヨ。やめておいた方が世の為人の為だヨ」

ミュラーも、真面目にフルーを説得しているようだが…

「ふん、そんな大ぼらを吹く暇があったら逃げる準備でもしておくべきだったね……さよなら」


パカッ!


フルーが宝箱のような装置を開けた瞬間


ボ ン ! ! !


物凄い音と共に薄暗かった景色が一瞬で変わった。


明るい太陽に照らされた綺麗な山々。

隣には私と同じ大きさをした、黒い毛のようなもので覆われた謎の生き物。

周りには物凄く小さくて美しい鳥が飛び回り、遠くには青く輝く湖が見える…


って言ってる場合じゃ無い!!早く元の大きさに戻らないと!!集中集中…


地面との距離を縮めるような、自分が小さくなるようなイメージをすると、また周りの景色がパッと一瞬で変わった。


「おっ、ロイワが戻って来たヨ」

「ロイワお帰り!大丈夫だった?」

「ロイワさん!!無事か!?」

周りには建物の残骸、さっきまで私達が座っていた椅子、そして近くには普通の大きさのミュラーとヘルとセンチの姿…


どうやら私は元の平均的な大きさに戻ったようだが…


さっきまであった筈の城壁も、都市の姿すらも無く、周りが全て瓦礫の山と化しているんだけど……


もしかして…マールの都市滅んだ?

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