27話 泥棒2人と…
目の前の冒険者のような身なりをした男性2人の処遇について悩んでいた所、ヘルがこっそりと魔法を使って私の脳内(?)に直接語りかけて来た。
『ロイワさん、今ならこの男2人以外に人間は居ないようだ。奴らを魔法で操って我々が有利に立ち回れるよう仕向ける事も出来るが、どうする?』
『あっ、それいいかもね!ヘル、コイツらの洗脳任せちゃってもいいかな?』
『勿論だ』
「あのー…どうしましたか?」
私達が魔法で会話していると、目の前に居た2人の人間が少し躊躇いながらも私達に話しかけて来た。
「いや、何でも無いよ!実はね…」
「ただいま〜…え?何コイツら…」
「どうしたんだヨ?」
あっ!コイツらを洗脳する前にミュラーとセンチが返って来た!
「ああ、実はな……」
ヘルは、さっき男2人に言われた深緑の森での狩猟
と罰金の話をセンチとミュラーに説明した。
「ふーん…随分と怪しい話だね……」
話を聞き、かなり不機嫌になったセンチが男2人をギロリと睨みつけた。
「「ひっ!!」」
睨みつけられた2人は、恐怖により悲鳴を漏らして僅かに肩を揺らし、蛇に睨まれたカエルみたいにその場に立ち尽くしてしまった。
センチは滅多に怒らないけど、怒ると物凄く怖いからね。お気の毒様。
「まあまあ、そんなに怒るなヨ。で、お前達は…」
ミュラーは静かに怒るセンチを軽く宥めると、恐怖で固まっている2人にゆっくりと顔を向けた。
「な、何だ…?」
「いや、さっきの罰金の話だけどヨ…この森は素人が無闇に立ち入って狩猟するのは良くないって話は知っているけど、良くないってだけで狩猟そのものを禁止とか罰則するとか…そんな話は一切無い筈だヨ?我々何か間違った事してるのかヨ?」
「あっ…そ、それは…」
ミュラーの話を聞き、急に焦り出す泥棒2人。
「我々はコイツに襲われ、危なかったから始末したんだヨ。だからコイツは我々の物だヨ」
ミュラーってそんな知識まで持ち合わせてたんだ、良かった〜!ミュラーのおかげで、この泥棒2人を洗脳せずに済みそうだよ!
「だ、だがよぉ!!あの山賊狩りと戦った割にはこの辺の地面や植物が、余りにも綺麗過ぎるだろうが!アレと戦ったら此処はもっと荒れる筈だ!!あの山賊狩りの頭、見た事無い傷跡付いてるし…
お前ら、絶対にヤバい武器使ってズルしただろ!!」
背の高い方の男が、ミュラーの説明に対して声を荒げて反論をし始めた。
こいつ、さっきまであんなに丁寧に喋っていたのに急に口が悪くなったね。しかもめちゃくちゃ喋るし…
「お、おい…この人達を相手にするのはもうやめた方が…」
背が低い方の男が焦りながら背の高い男を宥めるが…
「お前は黙ってろ!!なあ嬢ちゃん達、悪い事は言わねぇ。あの山賊狩りを倒すのに使用した武器を俺に寄越しな!さもねぇと…」
そう言うと、背の高い男は腰に下げていた剣を鞘から抜き出して構え、戦闘態勢に入った。
まさかコイツ…私達と戦おうとしてる?
「おいミレン!流石にやり過ぎだぞ!!」
「黙ってろって言ったろ!……俺はな、ギルドのランクが銀なんだよ。ズルして旅して来た嬢ちゃん達とは違って地道にコツコツと鍛えてきたんでな。
お前達がその武器を構える前に、俺の剣が嬢ちゃんの可憐な両手を吹っ飛ばしちまうぜ?さあどうする?(どんな武器が出てこようとも、この女達相手なら楽に潰せる筈…あわよくば金と荷物も奪って……)」
ええ…コイツ、私達を倒して武器を奪おうとしてるよ…しかも荷物にまで目を付けてるみたいだし…ってランクが銀って何?
『ああ、ギルドには冒険者の実力を示す為のランクってのがあってヨ…1番下の白から始まって、次に赤、銅、銀、金って感じにランクが上がって行くんだヨ。ランクの銀は上から2番目、つまりこの男はそこそこの実力があるって事だヨ』
『脳内に直接話し掛けて来た!?いやそれよりも…ねえミュラー、あいつどうするの?』
『まあ、返事次第では見逃してやるつもりだったんだけどヨ……欲張りな此奴には少し怖い目見てもらうヨ!』
『怖い目?』
ミュラー、一体何するの?と質問をする前に、突然後ろからドスン!と音を立てて何かが動き出す気配がした。
「ん?何だ…ってああっ!?」
「た、倒れていた山賊狩りが起き上がった!?」
何と、さっきミュラーがその辺の石ころで仕留めた筈の山賊狩りが、突然動き出したのだ!
『まさかミュラー、あの山賊狩りを操作しているの?』
『そうだヨー、まあこの男達を少し驚かす程度にするから安心しろヨ』
ミュラーに操られた山賊狩りは、後ろ足で立ち上がってゆらゆらと揺れながら、こちらに向かってのっしのっしと歩いて来ている。虚ろでどこ見ているのか分からないあの目が何か怖い…
「ま、まさかお前ら、山賊狩りを仕留め損ねたのか!?」
「いや、死体がそのまま転がっていたからおかしいなーって思ってたけどな!って言ってる場合じゃないって!!ミレン、どうするんだよ!」
さっきまで威勢の良かった男も、それを止めようとしていた男も一様に驚き狼狽えていた。
「た、頼む!嬢ちゃん達はあの山賊狩りを一度仕留めてるんだろ!?あれ何とかしてくれよ!!」
「えー…でも私達が狩猟したら違反ポイントと罰金があるんじゃないの?」
センチは相変わらず機嫌が悪いまま男達を睨みつけている。
「いやいや!そんな事無いって!!」
「それよりも貴様ら、その深く被ったフードを取って私達に顔を見せたらどうだ」
そう言いながらヘルは男達に向かって杖を構えた。
「今それ所じゃねーよ!!ってか今の敵はあっちだって!!」
「た、助けてくれー!!」
私はとりあえず男達に向かって助けを求めるフリをしてみた。
「いや、こん中で1番重装備なのはアンタだろ!!害獣に襲われても助かる可能性ある奴お前だけだろ!?」
「お前、銀ランクならこの山賊狩りとそれなりに戦えるんじゃ無いのかヨ?」
「いや、俺…実は仮銀なんだよ!ギルドで銀の試験受けてねぇんだ!!
他人から奪った獲物をギルドに提出し続けた結果、自動的に銀ランクになっただけだから銀ランクの実力は俺には無いんだよ!!」
「え?そうなの?」
「あっ……いや、そんな事より目の前の山賊狩りを何とかしてくれ!!さっき山賊狩りを横取りしようとした事は謝るから!!」
こいつ、ついに自白したね…まあ、素直に罪を認めて謝ってくれた事だし許してあげようか。
「じゃあ我とロイヤルが何とかしてやるヨ。ロイヤル、助走つけて走ってあの山賊狩りの頭上をジャンプしろヨ」
「えっ、私?」
「お前以外にロイヤルって名前は居ないヨ、ほら走れヨ!」
名前が少し違うよ…ってか、元の名前から間違って覚えられてるから、今更少し変わったって別にいっか。
「しょうがないなぁ〜」
一つため息を吐いた私は、早歩きしてみんなと山賊狩りからある程度離れると…
ズダダダダダダ!!
二足でフラフラと歩く山賊狩り目掛けて全力で走り出した。
「なっ!?」
「あの鎧姿で、デカい武器背負ったままあんなに速く…!?」
2人の男が驚き眼を見張る中、仲間と男2人の間を全力で駆け抜けて山賊狩りと距離を詰めていく。
「さて…お前、その剣貸せヨ」
「あっ!?」
ミュラーは背の高い男が構えていたシンプルな剣を奪い取った。
「ほれ!この剣でトドメ刺せヨ!」
そう叫びながら、ミュラーは奪い取った剣を山賊狩りの頭上目掛けて素早く投げた。
「よっ!!」
私は山賊狩りの前でジャンプして頭上まで飛び上がり、ミュラーが飛ばした剣をキャッチすると
「とうっ!!」
狙いを山賊狩りの頭に定め、私の全体重(剣が折れないよう手加減した)を掛けて思い切り剣を突き刺した。
ドス!!
私に思い切り剣を突き刺された山賊狩りは、謎の煙を身体中から出して、あっという間に消えてしまった。
「「………」」
一部始終を見ていた男2人は、眼を見開いて口をポカンと開けたまま、さっきまで山賊狩りがいた場所をじっと見つめていた。
「よし、山賊狩りが落とした荷物は回収したよ〜」
「ロイヤル、ありがとうヨ。さてお前ら……何か言う事は無いかヨ?」
ミュラーの問いに男2人は
「あ、あの…さっきは生意気な口聞いて申し訳御座いませんでした……」
「あの…ミレンの詐欺行為を止めずにただ見守ってしまい、すいませんでした……」
「よし!お前ら、とりあえず許してやるヨ!」




