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26話 初戦闘と…

「ふーん、迷惑極まりないモンスターなら遠慮は要らないよねっ!」

そう言うとセンチは、武器を構えたまま一番近くに居る熊モドキに向かって全力で走り出した。


グオォオオ!!


仲間を倒されて怒り狂った熊モドキ達は、唸りながら後ろ足で立ち上がり、物凄い速さで大地を駆けるセンチに向かって思い切り前足を大きく振り翳した


だが、前足が振り下ろされる前にセンチは熊モドキの懐に素早く入り込むと


ズバァン!!


両手にナイフを構えたまましゃがみ、腹部から喉元に向かって目にも留まらぬ速さで斬り上げた。

抉るような斬り上げ…あれはかなり痛そうだ。


タンッ!タンッ!タンッ!


センチは斬り上げるのと同時に何度か宙返りを決めて敵から距離を取った。

宙返りをした際、熊モドキが中途半端に振り下ろしていた腕にも斬撃をかましたらしく、熊モドキの両手が体液を吹き出しながらボトリと地面に落ちた。


グッ…ゴボッ…ボッ……


両手を失った熊モドキは喉元から変な音を出し、苦しみもがきながら地面に倒れ込み、やがてピクリとも動かなくなった。


「あの図体の割に以外と弱っちいね、とりあえず1体始末完りょ…ん?」

さっきセンチが仕留めた敵が、変な霧を出しながら煙のように消えていく。敵はその場に「黒い石」と「大きな肉の塊」を残して跡形も無く消えてしまった。

「ああ、コイツらの身体の大部分は魔力で作られているから死ぬと魔力を保てなくなって消えるんだヨ」

……ん?でも、最初にミュラーが仕留めた熊モドキはまだ残り続けてるよね。って事はコイツまだ…いや、これ以上考えるのはやめておこう…

「魔力…さっき吹き出した煙、呪いのような酷い感情のような…あまり良くない魔力で構成されているようだな」

「ヘル、お喋りしてる暇は無いよ。ほら、残り2体はヘルとロイワで倒してみなよ!」

「そうだな…では私は右の敵を倒す、ロイワさんは左の敵を頼む!」

「分かった!頑張ってみるよ!」

一仕事終えたセンチは軽く走りながら後ろに下がり、センチと入れ替わるようにヘルと私が前線に出た。


オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!


未だに怒りが収まらない熊モドキは、前に出た私達に向かって巨体を揺らしながら勢いよく突進して来た。

「はっ!!」

ヘルは構えている杖を敵に向かって突き出すと、掛け声と共に杖の先から真っ白に光り輝く球を1発撃ち出した。


シュッ!!


輝く玉は敵の頭と身体を一直線に貫いた。

体に穴が空いた熊モドキは、バランスを失って倒れる前に煙と共に消えた。消えた後には、さっきと同じように黒い石と大きな肉が転がっていた。


ヘルはちゃんと敵を倒せたみたいだね!さて私はどうやって倒そうかな…よし、周りに仲間以外に人が居ないみたいだしアレやってみようかな!


私は構えていた大剣を左手で持つと、右手に力を込めて作り出した液体の鉱石を銃の形に整えた。

出来た!ロイヤルタウン製の冷凍庫の技術を応用して作成した銃、名付けて『瞬間冷凍銃』!!

実はロイヤルタウンで暮らしている間、センチのデパート内にある魔力製品店に入ってはマジックカードが使用されている商品を触らせて貰い、商品の形と含まれる魔法を次々と記憶。

そして家に帰っては記憶した魔法を応用した道具を色々と生み出していたんだよね。ミキサーの技術使って巨大なドリルや丸鋸作ったり、フライパンのみ暖かくする技術を使って真っ赤に輝く剣を作ったり…


そう!丁度今の状況みたいに強敵と戦う日に備えて色んな便利道具をいつでも作成出来るようにしていたんだよ!


「喰らえ!!」

私は瞬間冷凍銃を目の前の敵にしっかり向けて、素早く引き金を引いた。


フッ


軽い音と共に、冷凍銃が命中した熊モドキの顔が少し白く変わった。そして…


グラッ……ゴトン!!


中途半端な姿勢のまま、熊モドキは重そうな音を立てて地面に転がった。


「そして…トドメの一撃!!」


両手に構え直した大剣を、不自然な体勢で地面に転がっている熊モドキの首元目掛けて勢いよく振り下ろした。


バキン!!


頭が飛ぶのと同時に熊モドキは煙に変わり、その場に石と肉を残して跡形も無く消えた。


「やった!あの熊モドキ倒せたよ!!」

私は大剣を仕舞い、冷凍銃を懐に仕舞いながらみんなの元に駆け寄った。

「今のは見事だったな、あの大剣の構えと振りが物凄く綺麗だったぞ。だが、ロイワさんなら冷凍銃無しでもあの敵を倒せたのではないか?」

「いやぁ〜、どうしてもあの冷凍銃を敵に試してみたくて…他人が居る時は真面目に大剣で戦うからさ!」

「他人が居なければロイワの面白道具を敵に試し放題だったのにね!」

「まあ今回は我慢してくれヨ。とりあえずヘルとセンチとロイワは敵が落とした石と肉の回収を頼むヨ。我はさっきの敵…山賊狩りの巣を探してくるヨ」

山賊狩り…さっきの熊モドキってそんな名前だったんだ。それにしてもミュラーはその山賊狩りの巣に何の用があるんだろう。山賊狩りの隠したお宝でも探しに行くのかな?


「ねえミュラー、その山賊狩りの巣探しに私も付いて行ってもいいかな?」

「ん?ああ、センチならいいヨ。ではヘルとロイワ、この袋に荷物の回収頼んだヨ。その石と肉は後でギルドで売るからあまり汚すなヨ」

そう言ってミュラーはヘルに革製の大きな袋を手渡した。これはどんなに重い荷物でも、この袋に入れれば楽々と持ち運べてしまうという便利な魔法袋だ。

「では行って来るヨ」

「行ってきまーす」

センチとミュラーは、山賊狩りがやって来た方向に向かって草木を掻き分けながらずんずんと進み、やがて姿が木々に覆われて見えなくなった。


「それにしても…この元人間の肉とか本当に売れるのかな…」

私が周りの黒い石や大きな肉を運ぶ役、ヘルが荷物を入れやすいように袋の口を開ける役で役割分担をして荷物を回収している間、肉についての疑問をヘルと共に議論していた。

「恐らく普通に人々の食卓や店に出回っているのだろう。あまり想像したくないがな」

「……私、この世界の食事絶対食べないようにするよ」

「同感だな」

せっせと石や肉を運び、やがて全ての荷物を回収し終えたのだが……

「…この山賊狩り、どうするんだろうね」

私達の目の前には、頭から体液を流し、形が残ったまま動かない巨大な山賊狩りが1体。

「うーむ、恐らく生きたまま我々の世界に送るのではないか?」

そっか、それじゃあこの山賊狩りにトドメを刺さない方が……


『あっ、アレって他所から来た冒険者かな?』


……ん?後ろから他人の囁き声が聞こえて来る。それなりに若い男性の声だ。

どうやらヘルも気付いたらしく、真剣な表情のまま杖に手を掛けて臨戦体勢を整えているようだ。


『へぇ、あの山賊狩り倒したんだ。奴らは相当強いみたいだな』

もう1人の男性の声も聞こえて来た。どうやら相手は2人いるようだ。

『……俺、いい事思い付いた』

『お前まさか…またあのギルドの詐欺のやつをやるつもりなのか?』

『当たり前だろ!あいつら見た目や持ち物からして明らかに金持ちのボンボンみたいだし、世間知らずって感じだし、絶対引っかかるって!ほら、行くぞ!』


へぇ〜、私達これから詐欺に会うんだ。

まあいいや、話次第ではこの隠し持った冷凍銃の錆になるけどね!まあこの冷凍銃は錆びる素材で作られてないんだけどね。


「あのー!すいませーん!!」

後ろからさっきの囁き声と同じ声の男性が私達に声を掛けて来た。

声のした方を向くとそこには、フードを深く被り、冒険者っぽい装備をした2人組の男性が居た。

「あっ、詐欺の方ですか?」

「「えっ!?」」

あっ、間違えちゃった。危ない危ない…

「いえ、そうじゃなくて…貴方達、この近くのギルドにまだ寄ってないですよね?」

背の高い方の男性が、私の発言を気にする事なく話を続けて来た。

「ああ、それがどうかしたのか?」

申し訳無さそうにしながらもこちらに寄って来る男達を警戒しながら、ヘルは男の質問に簡単に答えた。

「あちゃー、それはマズイですよ!この深緑の森は特別な場所でね、地元の人か地元のギルドに認められた人以外の狩猟は禁止されているんですよ!」

「えっ?そうなの?」

襲われたのに倒しちゃいけないの?

「はい。貴方達、この森に住む山賊狩りを許可無しで狩猟してしまいましたね?

これがギルドにバレたら罰金の対象になりますからねぇ…」

「多分、この山賊狩りはタダでギルドに回収され、お姉さん達は多額の罰金を支払う上に違反ポイントも加算されてしまいますし…このままじゃ損するだけですよ?」

「ええ…じゃあどうしたらいいのさ…」

これが詐欺なのは分かるけど…とりあえず男達がどう出てくるのか確かめてみようか。

「大丈夫ですよ!我々は地元のギルドから許可を得ているので、我々がこの山賊狩りの荷物を持っていけば罰金無しで換金出来ますから!

まあ、多少の仲介手数料は頂きますけどね、罰金よりは遥かに安い手数料ですから安心して下さいよ!」

成る程…コイツらは私達の手柄の一部を横取りするつもりなんだね。随分と狡くて下らない奴らだね…


さて、この男2人をどうしてやろうか…

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