25話 トンデモ幼女と異世界転移
異世界へ行く為の準備も出来たし、遊術師のショーも観れたし、後は異世界転移するだけとなった。(地上は猿人に近い奴らしか居ないから、猫人のハーフのセンチと狼人のヘルは魔法道具を使用して猿人の姿に見えるようにしている。)
私とセンチとヘルの3人は集合時間よりも早めに屋上に集合し、取り留めのない話をしながら全ての元凶であるセレセルさんを待っていた。
「見て!普通の食料の他に、ブロックポテト(サイコロ型に切られた芋を揚げた食べ物)を沢山買ってきたんだよ!これなら地上で飢え死にする事は無いよね!」
「うわっ!センチのバッグの中、ポテトの袋だらけじゃん!」
「センチ、またお前はそんなものばかり…そんなにブロックポテトを食べると太るぞ?」
「大丈夫だよ、食べたらその分動けばいいんだしさ!それに地上の食べ物には手を付けるつもりは全く無いんだし、これくらい大量に持ってかないとむしろ危ないでしょ?」
「まあ、地上には我々が食べられない食べ物が普通に街中に売られているだろうが…だからってそんなものばかり持ってかなくてもいいだろう…」
この世界、既にハンバーガーにフライドポテトが流行ってたんだよね…まさかこの料理、異世界転生した人が流行らせたのかな…
「それにしても異世界転移かぁ、大丈夫かな…」
「ロイワさん、一体何を心配しているんだ?荷物の確認、この場でもう一度やっておくか?」
「荷物の心配じゃないよ。あのさ、地上って魔族を敵として認識する人間が居る上に謎の生物が居るんでしょ?私は大丈夫だけど、もしもセンチとヘルに何かあったらと思うと…心配で心配で…」
「ロイワ…もしかして私達の事を心配してたの?」
「ロイワさん、我々なら大丈夫だ。大精霊様の命令でも、出来ない依頼だったら受けないからな。
そもそも我々は魔王軍に所属しているんだ。その辺の魔族より強い自覚はある」
「そうなんだけどね、もしもの事があるかと思うと…」
「ロイワってば心配し過ぎだよ!あっ、セレセルさん達が来たよ!」
「おはようございます」
「おはヨー」
セレセルさんは緑のドレスと綺麗な装飾を身に纏い、まるで女神のような姿で私達の目の前に突然現れた。
……ん?セレセルさんの隣に見慣れない謎の幼女が…
何かサーカスのピエロみたいな…ゴスロリのような…そんな不思議な服装の可愛い幼女が、腕を後ろで組みながら私達に向かってフラフラと歩いて近付いて来た。
「ヨッ!久しぶりだヨ!」
幼女が私に向かって笑顔で声を掛けて来た。
えっ…誰?私に幼女の知り合いなんて1人も居ないんだけど…
「ロイワは久しぶり、そこのセンチとヘルとは初めましてだヨ。
我はミュラー。皆からは魔法の大精霊と呼ばれているヨ。今日はセレセルに誘われて仕方無くやって来たんだヨ」
…えっ!?これ魔法の大精霊なの!?
普段はもっと黒くてゴツくて角生えてて…めちゃくちゃ悪い魔王みたいな姿してたあの大精霊なの!?
「なっ…魔法の大精霊様!?」
「えっ!?ミュラーって確か…絵本の中では真っ黒な丸の訳の分からない姿してたあの!?」
「こらセンチ!!大精霊様に失礼だぞ!!」
どうやらセンチとヘルもミュラーさんの見た目に困惑しているようだ。
「皆、この姿に疑問持ってるようだから一応説明しとくヨ。この姿はセレセルからの要望だヨ。
冒険する仲間の中に、小さい女の子1人は絶対必要なんだとヨ。因みに今の我の職業は曲芸師だヨ」
どうやらセレセルさんの我儘が原因のようだ…
「ミュラーさんは曲芸師なんだ!そうそう、ちなみに私はアサシン、ヘルは魔法使い、ロイワは剣士なんだよ!」
確かセンチとヘルの服は、地上の人間が着ているやつをマリさんがわざわざ再現して作ってくれたんだよね。
私は体を少し太めに変えて、色も銀色に変えたよ。本当は人間の姿にしたかったんだけど…何故か人間に姿を変える事が出来ないから仕方無く鎧姿のままだよ。
「こらセンチ!大精霊様に向かって馴れ馴れしいぞ!!」
「いいヨ、むしろ冒険中は我の事を呼び捨てにしてくれないと困るヨ」
ヘルの注意に対し、ミュラーはニコニコしながらヘルを窘めている。
「分かったよミュラー!宜しくね!」
「おいセンチ!まだ冒険は始まっていないぞ!」
「うるせぇなぁ…こっちはいいって言ってるんだヨ。ヘル、もしもこれ以上騒ぐようなら貴様のその自慢の知識を全部吸い取って廃人に変えてやってもいいんだヨ」
ヘルの2度目の注意にミュラーがキレた。幼女の姿のまま、物凄く怖い顔でヘルを睨みつけている。
「ひっ…!も、申し訳ご…申し訳無い、ミュラー…」
「分かればいいんだヨ♪さて…既に準備は整っているようだし、今から地上に出発するヨ!」
「皆さん、いってらっしゃい」
「えっ!?もう出発するの?てかセレセルさんは行かないの!?」
「私は女神役として、この世界から貴方達の活躍を見届けるのです」
ええ…言い出しっぺの本人なのに、安全な場所から私達を見るだけって…
「どうせ何言ったってあのスタイルを変えるつもりは無いだろうヨ。ほら、セレセル以外は皆こっちに来いヨ」
「はーい!」
「わ、分かった」
私達は荷物をしっかりと掴みながらミュラーに集まった。いよいよ異世界に出発だね。ドキドキする…
「では…出発だヨ!!」
パ ァ ン!!
ミュラーの掛け声と共に軽い破裂音が響き、辺りは真っ白な光に包まれた。白い光は次第に弱まっていき……
「ん?何だか空気が湿っぽいな…」
「ここは…森の中?」
辺りの景色がビル群から鬱蒼と茂った森の中に変わった。空からは木々の隙間を縫って光が漏れ出ている。
「辺りに生えている植物…どれも見た事が無いな…」
「植物どころか、虫も動物も見た事無い奴らばっかりだよ…前来た時はこんな奇妙じゃ無かったのに…」
「ああ、我々大精霊がこの大地を見捨てたからこの大地は可笑しな事になったんだヨ。更に、この地上を荒らすモンスターまで湧くようになっちまってヨ、地上の人間共は皆迷惑しているようだヨ」
ミュラーは、キョロキョロと辺りを見回しながら私達に現在の地上の説明をしてくれている。
「えっ、大精霊が見捨てた…?どういう事?」
「言葉の意味まんまだヨ。ほら、噂をすれば奴らが来た…ヨッ!」
私の質問に答えながら、ミュラーがとある大きな茂みに向かって拾った石を投げつけると…
ギャッ!!
ガサガサガサッ!!ドスドスドス……
茂みが大きく揺れ、中から狼と熊を混ぜたような巨大な生き物が数体飛び出して来た。遅れて一体がゆっくりと茂みから姿を現し、ドスンと音を立てて地面に倒れ込んだ。頭を貫かれた跡がある…どうやらこいつはミュラーが投げた石が原因で既に死んでしまったようだ。
グルルルル……
残った3体の巨大な化け物が私達を睨み付けながら、じわじわと距離を縮めてくる。これ、完全に私達をターゲットにしているよね…
「異世界転移して早速戦闘か…」
「こいつら、仲間が一撃でやられているのを見てるのに怯みもしてないよ!」
ヘルは大きな杖を、センチは両手にナイフを構えながら目の前のモンスターを睨み付けた。此方も戦闘する気満々のようだ。
「見た事無いモンスターだけど、このモンスターは倒しても大丈夫な奴なのかな…」
私も背負っていた大剣を構えて戦闘に備える。一応センチとヘルと一緒に戦闘訓練をしてあるから、それなりに戦闘は出来るよ…多分。
「大丈夫だヨ、そもそもアイツら含むこの大地に生息しているモンスターは悪い感情と魔力と混ぜられた元地上の人間で、頭はイカれている上に自分以外の生き物が絶滅するまでこの世を荒らしまくる、迷惑極まりないモンスターだからヨ」
「「「!?」」」
結構重要そうで、物語でも最後に語られるようなヤバそうな話をこの初戦闘の前で言うの!?
ミュラー…この地上の事をどれだけ詳しく知っているの…!?




