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24話 イセカイテンイ?

私がロイヤルタウンのマンションに住み始めてから数年後……


此処はヘルさんが所有するマンションの屋上。

綺麗な青空に心地良い風、爽やかな朝の日差しを浴びながら、私は軽い準備運動をして身体を動かしながら周りの景色を眺めていた。

隣にはシンプルな黒スーツにサングラスを掛けたセレセルさんが、木製のロッキングチェアに座りながら静かに読書をしている。


辺りは個性豊かなビルが沢山生えており、遠くには一際目立つ、物凄く高くて私の身体と同じくらいに真っ赤な塔「ロイヤルタワー」が見える。

屋上の端にある柵に手を置いて、そこから真下を見下ろしてみる。

道路には最新型のアローや空車(地面から少し浮いている車のようなもの)が走っている。

今は通勤ラッシュの時間なので、街中を移動中の魔族達は皆ジャケットに長ズボンの姿をしている。


この街に移り住んで早数年、私がのんびりと過ごしている間に色んな出来事が起きた。


テレボの発売と共に本格的にテレボ放送が始まったり


遠くの人と話が出来る道具「念話機」(持ち運び不可)が発売されたり


一般人向けの地上用アローが発売し、あっという間に普及したり


ウルフくんの外見を真似て作った浮遊する空車「アルファグーン」が最近発売されたり


私が作り出した吸血鬼の分身の一部が独立し、分裂して数を増やしていった結果、吸血鬼が新しい魔人「吸血族」として国に登録されたり…


だが、この世界には私が求めるもの、つまりゲームがまだ作られていない……

もし5年経ってもゲームらしき物が作成されなかったら、自分の力で一からゲームを作成するしか……



「イセカイテンイしませんか?」


「へ?」


私がゲームについて色々と妄想をし始めた時、セレセルさんが突然椅子から立ち上がって私に謎の言葉を投げかけてきた。

「い、異世界転移…?」

「はい、イセカイテンイの異世界転移です」

「?」

まさかセレセルさん、日本語で異世界転移って言ってる?いや、そんなまさか…

「セレセルさん、突然どうしたの…?」

「ああ、実はですね…この本に影響されて…」

そう言ってセレセルさんは手に持っていた少し色褪せた本を私に手渡して来た。

手渡された本をよく見ると…

(えっ…日本語…!?)

この本の題名には、この世界の標準語で

『イセカイテンイ』

と書かれていた。…えっ!?これってどういう事!?

「それはこの世で知る人ぞ知る書物で、世界3大不思議文書の一つとしても知られています。

この本の内容はですね…魔法が存在しない上に猿人以外の種族が存在しない惑星「地球」に住む一般人の男性が、我々の住む世界にやって来て世界を救ったりハーレムを築き上げたりする話です」

本当に異世界転移物だった上にハーレム物だった…って地球の話が出てるんだけど!?

まさかこれ書いた作者、地球出身!?

「この男性が自分の世界にしか存在しない常識や知識を使ってこの世界を生きていく姿が中々興味深くて…なので我々もイセカイテンイ…では無く異世界転移してみませんか?」

異世界転移よりもこの本を書いた人の方が気になる…いや、それよりも…

「セレセルさん、さっきから異世界転移って言ってるけど…一体何処に転移する気なの?」

まあ、何となく分かってるけどさ…

「転移先は既に決まっています、地上です」

やっぱり…

「…地上って、魔族を嫌う人達とか正義とか勇者が居る方の世界だよね?」

「そうです。最近地上の様子が大きく変わってしまった上に実体のある悪霊が出たらしいので、地上人の振りをして地上を冒険し、それを討伐しに行きたいのです。ロイワさん、一緒にいかがですか?」

成る程…確かに私も、変わってしまった地上とか悪霊は気になるけど…

「今日夜の3時頃からテレボで遊術師(見た目が綺麗な魔法を使って見世物をする人)のハープって人のマジックショー観たいからまた今度でいい?」

「遊術師なんてその辺の空き地を探し回れば幾らでも見れるじゃないですか…」

「いや、そんな子供騙しのレベルの遊術師じゃなくて…」

「……異世界転移、してくれませんか?」

セレセルさんはどうしても異世界転移をしたいようだ…

「……分かったよセレセルさん、私も異世界転移に付き合うよ。変わってしまった地上の様子も気になるしね」

「貴方ならそう言ってくれると信じていましたよ。

では、他に異世界に旅立ってくれる仲間を探しに行きましょう…」

「えっ?他にも誰か巻き込むの?」

普通の人を巻き込むのは少し気が引けるんだけど…

「そもそもこの本の主人公は一般人です。なので一般人の仲間を…


ガチャ


「おはよー!!セレセルさんにロイワ、朝っぱらから屋上で何してるの?」

話の途中に突然、右手に新聞布を持ったセンチが屋上に入って来た。

センチは黒いTシャツに緑の付け袖に不思議な形のズボンを履いた姿をしていた。付け袖は最近流行りだしたファッションアイテムだ。

「あっ、センチ!」

あれから数年間、センチとヘルと私の3人で共にこの世界を遊んで回った結果、私とセンチは敬称無しで呼び合える仲になっていた。ヘルからは「流石に恐れ多い」と言って、未だに敬称を付けたままで呼ばれている。

それにしても、まさかのタイミングで一般人であるセンチがこの場に来てしまった…これはまさか…

「センチさん、我々と異世界転移しませんか?」

ああ…センチに白羽の矢が立ってしまった…

「えっ?異世界転移って何?」

「センチ、実はね…」


私はセンチに、先程の会話と異世界転移について説明をした。


「へぇ〜、地上の悪い奴を倒しに行くんだ。

いいよ。私も付いてくよ」

「えっ!?センチいいの!?地上だよ?正義の奴らが居るんだよ!?」

「いいよ、地上人の振りして地上とか奴らの情報とか色々と仕入れる事が出来るいいチャンスだからね」

そうだ、確かセンチは魔王軍に所属してるんだったね。

「成る程、スパイ活動をするのですね。いいでしょう。さて後は…」


ガチャ


「すまないロイワさん、忘れ物を……セレセル様にセンチ、皆で集まってどうしたんだ?」

あ…ヘル…何故このタイミングで家に帰って来たの……

「ヘルさん、貴方も我々と共に異世界転移しませんか?」

「えっ?異世界転移??」

「ヘル、異世界転移って言うのはね…」


センチは、さっき私から聞いた話を全てヘルに説明した。


「大精霊様の御導きならば断る理由はありません。私も異世界転移に参加致します!!」

どうやらヘルも異世界転移に参加するようだ…

まあヘルも魔王軍に所属してるんだし、大丈夫だよね…多分。

「決まったようですね…ではこれより異世界転移する為に準備する時間を与えましょう。

異世界への出発は明日の1時、再びこの場所に集合と言う事で宜しいですね?」

あ、テレボの遊術師見る時間あるじゃん、ラッキー

「分かったよセレセルさん!じゃあこれから私達は必要な道具を買い揃えに行ってくるね!!ヘル、ロイワ、行こう!!」

「あ、ああ…そうだな」

「そんな遠足に行くような感覚で準備するの??」


そんなこんなで私達は、異世界へ行く為の準備をする事になったのだった…

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