23話 新しい特技と…
「凄い高い!」
センチさんと別れた後、魔族が溢れ出る駅から離れて大通りを約数分歩いた先にあったのは、看板の類が一切無い物凄く高いビルだった。
「此処は将来アローの駐車場と発着場になる予定のビルだ。まだ関係者しか入れないので中はガラガラだな」
「へぇ〜、此処からアローが飛び立つんだぁ…凄いなぁ…」
私達は会話しながら目の前の建物の中に入り、無言で私達を見つめてくる警備員の前まで移動した。
「失礼する」
ヘルさんは真っ白な蛾のような姿をした女性の警備員に声を掛けた。
「はい、どうしましたか?」
「アローの自由飛行の許可を取りたいのだが大丈夫か?」
「はい、こちらの許可書に今日の日付けと時間、飛ぶ理由と運転手本人のサインをお書き下さい」
「分かった」
ヘルさんは1つ頷くと、警備員に手渡されたボード付きの用紙にサラサラと文を書いた。
「……よし、出来た」
「はい、確かに。そしてアローの貸し出しも許可します。この先の駐車場内に入り、今手渡したカードと同じ番号が書かれたアローをお使い下さい」
「ありがとう。ではロイワさん、行くぞ」
「うん、分かった」
私達は警備員の横を通り、その先にある広い駐車場に入った。
シンプルで少し薄暗い駐車場内を歩き、隅に置かれている車輪の無い細いバイクのような乗り物を1つ1つ順番に眺めていく。
「あった、このアローだな」
ヘルさんは持っているカードと同じ番号が書かれたアローに近付き、ハンドルを掴んで近くにある広い通路まで引っ張った。よく見るとアローは常に浮遊しているようで、少し押しただけで簡単に動かせるようだ。
「へぇ〜、これがアローなんだ!」
「ああ、これに乗れば道路も空も自由に移動出来る。よっと…」
ヘルさんは説明をしながらハンドル付近に持っていたカードを挿し、アローに跨って座席に座った。
「ロイワさんは後ろの方に座ってくれるか?」
「分かった!よっ…」
アローに乗る為に後ろの座席に手を置いた瞬間
ぐわん
「……」
「…?ロイワさん、どうしたんだ?」
座席に手を置いたまま動かない私を見て、ヘルさんが声を掛けてきた。
「いや、あの…私今このアローの情報?的な物を受信したような気がして…」
「…それはどういう事だ?」
「うーん、口で説明するのが難しい…ちょっと待ってて…」
私はヘルさんが乗っているアローからある程度離れると、両手から液体のように金属を出してある物を作り始めた。
金属はみるみるうちに形を変えていき…
ヘルさんが乗っているアローと同じ物が完成した。
「これは……!?」
ヘルさんは驚いて乗っているアローからカードを抜きながら降り、私が作ったアローに近付いた。
「そのアローとそっくりそのままのやつを作ったんだよ。中に入っているマジックカードもちゃんと再現したよ」
「そんなまさか…」
ヘルさんは驚きながら持っていたカードを複製したアローに挿した。
「動かせる…信じられない…」
「いや〜…何かミュージックカードを持った時も同じ感じのやつが来てね…あのカードに入っている音楽全部覚えちゃって…」
「…つまり、一度触れたマジックカードをそっくりそのまま覚え、更に再現まで出来るという事か…凄い力だ…」
「鉱石で出来ていたから作れたんだろうね。さて…行こっか」
私はヘルさんが持っていたカードを残し、作ったアローを全て分解すると、元のアローに近付いて後ろの座席に座った。
「そうだな。行こうか。(それにしても凄い技術だったな…)」
ヘルさんはぶつぶつと呟きながらアローに跨り、持っているカードをアローに挿すと
スーーーーーーッ……
アローをゆっくりと動かして建物の屋上に移動させた。
「物凄く綺麗…!」
屋上から見える夜景は、地上から見た景色とはまた違う…何というか…地上より沢山建物が見えるから物凄く…ただでさえ少ない語彙力を更に失うくらいに綺麗な景色だ。
「さて…空を飛ぶからしっかり掴まっててくれ。行くぞ」
ヘルさんはアローのハンドルをしっかり握りしめると
シューーーーーーーーー!!
私達が乗っているアローが段々と浮かび上がり、物凄い速さで進んで…
ブワァーーーーー!!
「飛んだぁ!!」
夜景の中に飛び込んだアローは、速度と高度を落とす事無くただひたすら目の前を突き進んでいく。
「凄く綺麗…!」
周りをよく見回すと、仕事をしている魔族が見える立派なビルから建設途中のビル、空をよく見ると黒い魔獣が大群で空を飛んでいる…下の方を見ると、街灯の明かりに照らされながら歩く沢山の魔族、道路には人力車に大きな魔獣…とにかく見るもの全てが明かりに照らされて輝いて見えた。
「もっと上に飛ぶぞ!!」
屋上から勢いよく飛んだアローは、周りにあるどの建物よりも高く飛び上がっていった。
ある程度アローで進んだ後、ヘルさんのお気に入りだと言う場所でアローを止めた。
宙に停止したアローに2人並んで座り、周りの景色を静かに眺めていた。足元には街、目の前には建設途中の大きな塔。
「ロイワさん、気配をある程度消す事が出来るようになったんだな。街中で久しぶりにロイワさんを見た際、本当にロイワさん本人なのか疑ってしまった位に上手に消していたぞ」
「うん!街で気配消さずに入ったら騒がれるから気配消す練習しなさいってセレセルさんに言われたからね!街に入る為に物凄く頑張ったんだよ!
それにしてもこの街、物凄い速さで発展してるよね〜!初めてこの街見た時、私びっくりしちゃったよ!」
「ああ、 私もこんなに早く技術が発展していくのは見た事が無いな。まあ、金持ちの奴らがこの街の事業に投資をしているのも原因の1つだと思う。今この街の事業に投資をすればほぼ確実に成功すると言われているらしいからな」
「投資かぁ…」
はぁ…この世界に住んでいる住人は私が思っている以上に賢くて、色々考えて行動しているんだなぁ…
もし私が大精霊じゃ無くて一般人としてこの世に転生していたら…多分碌な目に遭って無かっただろうなぁ…
「モラル不足、魔獣の雇用問題…この街はまだ不完全で問題が山積みだが、それでも一歩一歩、未来へと進んでいる。
いつか魔族達が正義の国の事を忘れて幸せに暮らす未来が来るだろう…」
「そっか…この街は、そんな幸せな世界を作っている途中って事なんだね…」
「ああ…そして、この目の前の塔が完成すれば一般人にもっと簡単に情報が届くようになる…いつか簡単に自分の知りたい知識が手に入り、役立つ日も来るだろうな…」
ヘルさんは、目の前の建設中の塔を通して魔族の未来を見ているようだった。
「いいなぁ…この世界…物凄く楽しそうだよ…」
「…ロイワさん、もし差し支えが無ければ…
私の所有するマンションの一室で暮らしてみないか?」
「えっ!?いいの!?」
「ああ、元々ロイワさんから貰った建物だ。1番上の階をロイワさんの為に取っておいていたんだ…どうかな?」
「うん!私そこで暮らしてみたい!ありがとうヘルさん!」
私はヘルさんに顔を向け、喜びながらお礼を述べた。
「…喜んで貰えて良かった」
ヘルさんはそんな私を見て、ホッとした表情を浮かべながらぼそりと呟いた。
「そうだ!ヘルさん、この街の色んな話をしてくれてありがとう!これお礼の遊園地のチケット!」
私は頭を少し持ち上げ、赤いカードを取り出してヘルさんに渡した。
「あぁ…ありがとう…一生大切にする…」
あれ?ヘルさんもその遊園地のチケット使わない感じ?まあいいや。
「そうそう、もしヘルさんが良ければだけどさ…
また一緒に色んな場所に出掛けたり、色んな知識の話してくれると嬉しいかなってさ…」
「…!勿論だ!むしろ私もロイワさんを連れて行きたい場所が沢山あるんだ!」
「本当!?物凄く気になる!」
街の上空、アローに座りながら2人で楽しく会話していると…
「2人とも楽しそうだね!何の話してるの〜?」
何と、近くのビルの屋上にセンチさんが!!
あのビル、明らかに関係者以外立ち入り禁止な感じなんだけど…どうやってそこまで来たの?
「わーっ!?!?センチ!!いつの間に!!」
「ヘルさん危ない!」
突然声をかけられて物凄く驚き、ヘルさんは危うくアローから落ちそうになった。危ない…私が支えていなかったらヘルさん、アローから落ちている所だったよ…
「ヘルが行きそうな場所なら直ぐに分かるよ!で、何の話してたの?」
「センチさん!あのね、次は何処に遊びに行こうか話し合っていた所なんだよ!」
「へぇ〜!凄く楽しそうな話してるね!私も一緒に遊びに行きたい!」
勿論!センチさんも一緒においでよ!
「少しでも人数が多ければもっと楽しくなるだろうからな、いいだろう」
「やったね!そうだ、折角だから此処で晩御飯食べようよ!物凄く景色良いし!」
「おいセンチ…流石に此処で食事するのは…センチ、まさか買ってきた食べ物全てジャンクフードだったりしないよな?」
「え?まさかのその通りだけど?」
「……センチ、今から晩御飯を買う為に買い物に行くぞ」
「えっ?あっ!」
シューーーー……
ヘルさんはセンチさんを屋上に置き去りにしたまま無言でアローを走らせた。
「ちょっ、ヘル!ロイワさん!待ってよー!」
置いてかれたセンチさんは、ビルの屋上から屋上へ器用にジャンプして移動して必死に私達を追いかけたのだった…
こうして私は、ヘルさんの所有するマンションに住んで、センチさんやヘルさんと一緒に色んな場所を訪れて回った。自然感謝祭と言うお祭りにも参加し、魔王領にこっそり遊びに行ったり、私の作った遊園地で遊び回ったり…
そんな風に魔族達と平和に過ごしていたらいつの間にか数年が経過していた。
……数年後の今日、セレセルさんの一言が原因であんな事をする羽目になるとは……
次回、ちょっとした冒険のようなものが始まる……予定です。




