別視点 地上大混乱
ここは薬の街ドルト。
「始まりの森」で大量に取れるスライムを使った回復薬が有名であり、そのドルト産の回復薬を求めて一般市民から冒険者に商人、果てには物凄く偉い王様まで…その質も量も最高級の回復薬を求めてドルトの街に訪れる。
そう、訪れる筈なのだが……
突然始まりの森の魔物達が強くなり、初心者冒険者が皆ドルトの街から離れた。更に上級冒険者までスライムの討伐どころか始まりの森に入るのを嫌がった結果、回復薬の原料の仕入れが非常に困難になった。
街中では価格が高騰した回復薬が売られ、その残りわずかな回復薬を求めて薬局に国中の冒険者や商人が殺到。
果てには薄めた回復薬に、回復薬の偽物まで広まり、ドルトの街どころか国中が大混乱に陥った。
そんな大混乱の中、更にとんでも無い大事件が世界中を襲った。
今まで当たり前のように存在していた魔物達が突然姿を消した。
そう、謎の怪奇現象・魔物消滅が世界中に起こったのだ。
魔物の素材を中心に地域経済を回していた街や村が大損害を受け、ドルトも例に漏れず非常に危うい状況に立たされていた…
「そうか、このドルトの街も被害を…」
ガンガールの大国にあるギルド本部から調査の為に派遣されて来た男性、ハーブはドルトの街中を歩きながら周りの惨状を嘆きつつ、手元の紙にありのままの現状を正直に書き留めていた。
「はい…もう回復薬はこのドルトの街に存在しません。それどころか更にとんでも無い出来事が…」
そのハーブの隣で歩いているドルト街の村長が今の状況をため息混じりに説明していた。
「とんでも無い出来事?まだ問題があるのか?」
「はい、あれは確か…魔物消滅が起こった次の日辺りでしょうか…始まりの森に自生している植物が全て枯れてしまって…」
「何っ!?」
「なので始まりの森で取れていた果物や野菜と共に調味料の価格も高騰しているんです…この街の一般家庭どころかレストランでさえまともな食事を出せる状況では無いんです…」
「これは酷い…」
「はい…なので是非、ドルトの街にも勇者を派遣し、このとんでもない事件を早急に解決して下さい!!お願いしますハーブ様!!」
村長は衰弱したドルトの街を立て直したい一心でハーブに必死に懇願していた。
「ふむ…これ程の損害が出ているのならば、この街に勇者を派遣する許可は出せるだろう」
「本当ですか!?ありがとうございます!!」
ハーブの言葉に村長の暗く沈んだ顔がパーッと明るくなった。
「そうと決まれば早速ギルド本部に連絡しよう、この街のギルドは何処だ?」
「はい!ギルドはこの道を真っ直ぐ進んだ先です!」
村長は興奮により頰を紅潮させながらハーブをギルドまで案内した。
「ん?何だか暗いな…」
今はほぼ機能していない活気の無いギルド内部に入ると、周りに設置されている机の上に大きくて派手な色をした蝋燭がほんの気持ち程度に建物の内部を照らしていた。
「これは祭で使う蝋燭だな…今日はドルトの街で祭り事でもあるのか?」
ハーブは周りを見回しながら目の前に居るギルドの受付嬢に尋ねた。
「いえ…今朝頃から太陽石が光らないので仕方無く…この現象はギルドだけには留まらず、町中の太陽石も全てこんな感じらしくて…」
「ドルトの太陽石が全部!?」
太陽石は暗い場所で勝手に光り、エネルギー無しで500年は光り続ける上に鉱山から大量に取れる鉱石だ。
太陽石は照明器具に加工されてあちこちで安く売られ、もはや生活の必需品となっているのだが…
「太陽石が今日突然全て消える…?そんな馬鹿な…」
「あとギルドに設置されている念話石も駄目になってしまったらしくて…」
「なんだと!?それでは本部に連絡が取れないではないか!!」
「そんなぁ!一体どうしたら…」
「まあ待て、連絡手段が全て途絶えた訳では無い!とりあえず…
バン!!
「助けて!誰か助けて下さい!!」
ギルドの扉を乱暴に開け、満身創痍の冒険者2人が入って来た。それなりに使い込まれた立派な武器や防具を装備している、恐らく上級冒険者だろう。
「シーザ!」
「あっ!ハーブさん!助けて下さい!」
シーザと呼ばれた黒髪の男は急いでハーブに駆け寄り助けを求めた。シーザの隣に居た金髪の女性も小走りで駆け寄って来た。
「どうしたんだ!とりあえず落ち着け!」
「すいません…ですが…始まりの森で……」
気が動転してまともに話が出来ないシーザの前に、女性の冒険者が割って入った。
「私が説明します。私達は最近起こった魔物消滅の原因を探る為、始まりの森…いえ、今はすっかり枯れ果てて酷い有様になっていますが…その始まりの森があった場所を探索していました。
正直言うと何も発見出来ませんでした…魔物どころか動物の遺体すら見つからなくて…日も暮れてきたのでそろそろ探索を終えようとした瞬間、突然森の奥辺りから謎の水晶が地面からせり上がって来て…そう、あれはまるでお城のような…」
「「城?」」
「ああ、あれは確かに城だった。
俺達は魔物消滅と何か関係があるかもしれないと思い、白い水晶で作られた城を探索しようとしたんだ…」
少し落ち着いたシーザが女性と共に説明をし始めた。
「水晶の城に入ろうとした瞬間、突然空から声が聞こえて来ました」
「空に羽つけた女の姿をした魔物が俺達を見下ろしていたんだ。その魔物は「今すぐこの森から出て行け、さもなくば恐ろしい目に遭う」と俺達に忠告して来たんだ。
俺は質問をした。「この世から魔物が消えたのはお前の仕業か」と。そしたらあの女は「この世から魔族が消えたのはお前達の仕業だ。私達は手助けをしたに過ぎない」と訳の分からない答えを返して来たんだ」
「ですが、魔物を消すのを手助けしたと言う事は確実にこの女性は魔物達が何処に消えたのか知っている…なので私達は浮いている女性の姿をした魔物から詳しく話を聞く為に戦いを挑みました…」
「ど、どうなったんだ…?」
「結果は惨敗です…」
「惨敗どころか奴に指一つ触れる事すら出来なかった…あいつはリーナの左腕を吹き飛ばし、ガーターを……くそっ!!」
「な、何という…」
あまりの悲痛な話にハーブは顔を顰めた。
「リーナは今左腕を縫い合わせる為に診療所に居ます。そして……とりあえず外に来て貰えますか?」
ハーブと村長は冒険者に言われるままにギルドから外に出た。
「何だコレは…」
白い水晶の塊がギルドの前に置かれていた。その水晶の周りを様々な専門家が難しい顔をしながら専門の機器でそっと塊に触れている。
「コレを見れば分かると思います…」
シーザが水晶の平たい部分を指差し、ハーブと村長がその部分を覗き込んだ。
「「……?」」
八の字のような謎の模様が見えた。どうやらその部分だけ水晶とは違う物質で作られているようだが…
「これ、靴底です」
「…!?」
シーザの一言で謎の水晶の中身を理解したハーブの顔が一瞬で青ざめた。
(な、何という事だ…シーザ率いる勇者一行ですらまともに太刀打ち出来なかったとは…!)
ただ今別に書いている文(?)がある為、少し投稿ペースが下がると思います。最低でも一週間に1話更新できればいいなと思っています。




