16話 ジェットコースター
「あの、ロイワさん」
「ヘルさんどうしたの?」
最後に残ったヘルが私に話し掛けてきた。
「数日後にやって来る予定の魔族達がある程度暮らせる施設を作っても大丈夫ですか?」
「必要な施設だね!勿論いいよ!」
この場に残っている虫達も前脚で丸を作る。OKのサインだ。
「虫達も大丈夫だって言ってるよ」
この場に居る虫達全員が、ヘルの希望する施設を建てる為に空いている土地に向かって歩き出した。
「ありがとうございます!」
ヘルは私にお礼を言うと、歩き出した虫達の後を追って走り出した。
「そうそう、この世界は基本的に魔族達に任せるからね!自由に建物建てちゃって大丈夫、できれば魔族の大工さんに建築のお願いしてね!
私は少しの間留守にするけど、しばらくしたらまたみんなの様子見に来るからね!」
私はヘルの背中に向かって、この世界の今後を魔族達に任せる旨を伝えた。
「ええっ!?今それを…わ、分かった!!後で皆に伝えておく!では!」
ヘルは驚きながら振り返るも、何とか私に理解を示すと再び虫の後を追って走り出した。
「さてと…ウルフくん!おいで!」
ブロロロロロロ……
目の前の大きな道路の向こう側からスポーツカーのウルフくんが物凄いスピードで走って来て、私の前で急停止した。
プップー
ウルフくんはクラクションを鳴らしながら運転席側のドアを開けてくれた。
「ありがとうウルフくん!」
私はウルフくんの体内に乗り込んでドアを閉めると
「じゃあ、とりあえず遊園地まで走って!」
プップップー
ウルフくんはクラクションで返事をすると、この広場でUターンをして方向転換し、この世界で私が作成中の遊園地に向かって走り出した。
「おー、作ってる作ってる!」
ウルフくんの運転席側の窓から外を眺めると、鉄骨や土を顎で運ぶ蟻、立てた鉄骨の周りに鉄の糸を出して骨組を作る蜘蛛、砂利や土のような物を混ぜてコンクリートのような物を作り出しては壁を作っていく蜂。
どうやら虫達はしっかり働いてくれているようだ。この調子なら一週間も掛からない内に建物は完成するだろう。
「主人!」
「ロイワさん、待っていましたよ」
作りかけの遊園地の前に到着すると、普通サイズの吸血鬼とセレセルの2人が豪華な門の前で出迎えてくれた。
「主人が居ない間も作成を続けた結果、この遊園地はほぼ完成致しました。安全確認も試運転も済んでおります。後は施設で働く人を募集するだけです」
「流石吸血鬼!ありがとう!」
「魔族の皆様はこんな施設を見るのは初めてでしょう。まずは魔族数人を招待してこの遊園地の楽しさを知ってもらい、噂を広めてもらうのは如何でしょうか」
セレセルさんガチだね!ガチで遊園地の運営について考えているんだね!
「それもいいかも!セレセルさん、ありがとうございます!てかセレセルさん地上の魔族達全員集め終わったの?」
「はい、無事に避難し終わりました。漸くあの危険な大陸から離れる事が出来ました。他の大精霊達も自分の作り出した魔族達を連れてこの世界に避難して来るでしょう。
貴方が居なければこんな広い世界を作れませんでした。魔族を代表してお礼申し上げます」
「いや〜、皆んなが平和に暮らせるならこれくらい軽いですよ!私も敵しか居ない地上で生活するのは嫌だったし」
「はい、あの人間達とは2度と関わり合いになりたく無いです…」
「うん、私もあいつらには力貸したく無いかも。
この世界作るの手伝ってくれた他の大精霊達みんな地上の人間から嫌がらせ受けてたみたいだし…」
「吾輩もあの人間達の前に現れただけで問答無用で攻撃されました…」
「吸血鬼まで…」
「ですがそれも過ぎた話です。さあ、嫌な思い出は全てジェットコースターに乗って忘れましょう…」
そう言いながら私と吸血鬼の手を引いて遊園地の中に向かって歩き出した。
セレセルさんすっかり遊園地の虜になってるね…
「セレセルさん、自然の大精霊なのに人工物好きなんだね」
「私から言わせれば建物も遊園地も全て自然を元に作り出した自然物に過ぎません。さあ、遊園地のジェットコースターエリアに行きましょう…」
「分かったよセレセルさん、遊園地の中にあるジェットコースター全部に乗って嫌な事全部忘れよう!」
この時、私達が交わした会話が原因で地上に大事件が起こるとは…まあいいや、今はジェットコースター乗って全部忘れよう!
こうして私と吸血鬼とセレセルさんの3人は心行くまでジェットコースターに乗りまくったのであった…
数週間後…
「いや〜楽しかったね!遊園地!」
「空を飛べる吾輩でも楽しめました!」
「あの3回転するジェットコースターは最高でしたね」
私達は遊園地の休憩スペースにあるベンチに座りながら取り留めのない会話をしていた。
「さて…私はこの世界で暮らす魔族達の様子を観察してきます」
セレセルさんはベンチから立ち上がると、空に向かって勢いよく飛んで行き、やがて見えなくなった。
「さて、私もヘルさんやセンチさんの様子を見に行ってこようかな?」
私も立ち上がり、遊園地の出入り口に向かって歩き出した。
「お気をつけていってらっしゃいませ」
吸血鬼は立ち上がって姿勢を正し、深くお辞儀をして私を見送ってくれた。
プップー
出入り口前ではウルフくんが、運転席側のドアを開けて行儀良く待っていてくれた。
「ありがとうウルフくん!じゃあ魔族達の様子を見る為に駅前に出発!」
プッププップー!
私が運転席に乗り込みドアを閉めると、ウルフくんは元気よく返事をして駅方面に向かって走り出した。




