12話 自由な魔族達
「ロイワさん!」「ロイワ様!」
久しぶりに洞窟の奥から地上に出て来た私をセンチとヘルの2人が出迎えてくれた。
「良かった…!我々は二度とロイワ様に会えないのかと思っていました…」
「洞窟の奥が塞がれていたからロイワさんの様子を見に行けなかったし…凄く心配したよ…」
ヘルとセンチは最近姿を見せなかった私を物凄く心配してくれていたようだ。
「2人ともごめんね!ちょっとした物作るのに時間がかかってさ…そうだ、私が居ない間に何か事件とかあった?」
私は2人を宥めつつ、地上で起こった出来事について尋ねてみた。
「あります!実は数日前に魔王様と連絡が取れたのです!水の大精霊様がわざわざ魔王様の住処にある噴水と、この森の泉を繋いで下さったお陰で!」
「わざわざ魔王様ご本人が出て来てくれたんだよ!」
2人は目を輝かせ、興奮しながら私に魔王様との出来事を教えてくれた。
「ホント!?それは良かったね!って事は、2人共元居た場所に帰れるのかな?」
私が気になる部分についてさらに尋ねてみた所
「あー、それがねー…少しおかしい事になってね…」
センチは歯切れの悪い返事をした。
「? センチさんどうしたの?」
「うーん…とりあえず私について来て、説明するから」
そう言うとセンチは私を引き連れ、森の拓けた場所にある広場に移動した。
「101、102、103…」
「そこだっ!裏を取って隙を突け!!」
「大変盛り上がってまいりました、さて現在は右が6回左2回…」
「よし、次はこの鏃を飛ばしてみな」
「スミス、少しいいか?この矢の先端について話があるのだが…」
「はぁ…良いデザインが中々思い浮かばないわねぇ…」
何だこれ…
広場にはテントのようなものが張られ、その周りで色んな種族の魔族が思い思いの時間を…ってこの人達何処から来たの!?
「あのー…センチさん、この方達は一体…」
「うん、この人達はね…
魔王様が送り込んで来た魔王軍の一部だよ」
何で???
「えっ?センチさんやへルさんが向こうの大陸に帰るんじゃなくて?向こうから人を送り込んで来たって事?」
「うん…多分魔王様の占いが原因じゃないかと思うんだけど…」
「ええ…」
魔王様の占いが原因で此処の人達はわざわざこの危険な大地に連れてこられたの…?
「魔王様の占いは外れた事がありませんからね…」
「あっ、ヘルさん」
私達の後ろからヘルさんがゆっくり歩いて来た。
「ロイワ様、この辺の人達について簡単に説明をしましょうか?」
「助かるよヘルさん、じゃあ…あのスライムに囲まれながら大きな剣を素振りする鎧を纏った骸骨は誰?」
「あれは体の表面が骨で覆われている骨人の男、ダンさんです。剣の腕前は最高で、かなり強い人ですね」
成る程、身体が骨じゃなくて表面に骨が出てる人なのね。あの人周りに居るスライムが邪魔にならないのかな?
「へぇ〜、じゃあ次は…あのデカいコマを眺めている2人」
赤髪の短髪で元気な青年と、黒髪の褐色肌で黒い翼が生えた美人を指差した。
「あのデカいコマは金属スライムです。
右側に居る猿人の男はカガさん、多種多様な武器を扱う戦士です。
左に居る翼人の女性はアリアさん、暗号を解読して仲間に伝える係の人です」
えっ!?あれ金属スライムなの!?ただのコマかと思った…
「成る程…じゃあ、緑色のスライムに鏃飲ませたおじいさんは?」
白髪で立派な髭が生えた背の低い老人を指差した。
「あの方はドワーフのスミスさんです。普段は鍛冶屋で武器を作っています」
スライムは飲み込んだ鏃を小さい的に向かって勢いよく発射した。スライムから飛び出した鏃は見事に的の真ん中を射抜いた。
お〜、スライムってあんな特技あったんだね、知らなかったよ。
「あのデカい矢を持っているエルフのおじさんは?」
黒髪で髭が生えた顔がいいおじさんを指差した。
「棒に跨って空を飛ぼうとしている変人、ブラッシュです」
………それだけ?
「じゃあ最後の…目が大きな女性」
濃い紫の長い髪を後ろに束ねた、胸が控えめのやたら目が大きい女性を指差した。
「あの方は蝶人のマリさんです。主に服のデザインを考えたりする人です」
「成る程…」
「121、122、123…」
骨人のダンさんは素振りを続けている。
「そこだっ!アッパーを決めろ!!」
「右8回、左5回…」
回る金属スライムを見続ける猿人のカガと翼人のアリアさん。
「よしっ、中々いい出来だな!」
ドワーフのスミスさんはスライムを撫でながら上機嫌で的を貫いた鏃を拾い上げた。
「この矢の先端は尖り過ぎている。このまま飛んだら衝突事故の際に甚大な被害が出る、何とかしてくれないか」
エルフのブラッシュさんはスミスさんに近付き、手に持っているデカい矢の改善を求めているようだ。
「はぁ…」
蝶人のマリさんは溜息を吐き、テントの中に入り込んでしまった。
「あのさ…
この人達って島流しでもされたの?」
「いえ、厄介払いの類では無いようなんですよ…
魔王様は数週間後、更に部下を送り込むとか言っていますし…」
ヘルは困り顔で目の前の自由過ぎる魔族達を眺めた。
「ねえ、その魔王様大丈夫なの?」
「大丈夫です、大丈夫ですが…」
「このまま魔族達が増えても、皆んなが安全に住める場所が無いよね?」
センチは一番の心配事を打ち明けた。
「成る程…もうアレの出番が来るなんてね…
ヘルさん、センチさん」
私は両隣に居るヘルとセンチを交互に見た。
「はい!」「どうしたの?」
「此処に送り込まれた人達を全員例の洞窟の中に集めてくれるかな?私ちょっと準備して来るよ」
そう言うと私は洞窟に向かって走り出した。
◯
ヘルとセンチは魔族達を引き連れて洞窟の中にやって来た。
「大精霊様が我々に用があるとは本当なのか?」
骨人のダンは洞窟内を見回しながらヘルに胡乱げな目を向けた。
「本当だ、とりあえず大精霊様が来るまで待っていてくれ」
ヘルは怪しむダンを宥めながらロイワを待ち続けた。
しばらくすると
ズズズズズ……
突然、奥にある大きな壁が上に向かって持ち上がり始めた。
「ん!?何だあの壁!?」
猿人のカガが驚きながら勝手に動き出した目の前の壁を凝視している。
「洞窟の先に何かあるのか…?」
エルフのブラッシュは壁の先をじっと見つめ続けている。
壁が全て上がった先にあったのは…
「な、何なのあれ…」
蝶人のマリが驚きの声を上げた。
壁の向こう側に広がっていた景色、それはなんと…
人工の施設だった。
綺麗に敷かれた白の四角いパネル、大きな白い柱、綺麗な白い壁、その奥には横に広がる謎のトンネル…
「遺跡…にしては奇妙過ぎるな…」
ドワーフのスミスは目を丸くしながら奥に広がる綺麗な謎の施設を凝視していると…
「これはね、駅って言うんだよ!」
「ロイワ様!」「ロイワさん!」
洞窟の奥からロイワが歩いて来て、驚き固まる魔族達を明るく出迎えた。
「みんなお待たせ!これからみんなをそれなりに良い場所に案内するよ!!」
ロイワは洞窟の奥に魔族達をご招待した。




