別視点 始まりの森の悲劇
ドルトの街から始まりの森に続く道を歩く2人の冒険者。1人は大きな斧を背負った大男。もう1人は右手に青い籠手を装備した眼鏡の男。
「なぁ…始まりの森が上級者向けになったって話、本当か?俺は未だに信じられねぇんだけど…」
大男は辺りを見回しながら眼鏡の男に尋ねる。
「始まりの森ってよぉ、スライムとかゴブリンとか…とにかく弱い敵しか居ない森だよなぁ?
オークに気を付ければ初心者1人でも安心して入れるから、狩りの練習しに来るガキが沢山集まって来てうるせぇんだよなぁ…」
大男は後ろで本を読みながら歩く眼鏡の男に話し続ける。
「ドルトの街の様子を見て分からなかったのか…?
人気の宿屋の予約はあっさり取れる上に料金が安くなっているし、道具屋で売られている薬の値段が前より高くなっているし、ギルドに来る人が殆ど居ないし…
さらに始まりの森に向かう際、ギルドに買わされた転移石を見てもまだ分からないのか?」
眼鏡の男は苛立ちながら大男の質問に答える、
「冒険者が殆どこの街を離れちまったから宿屋やギルドから人が居なくなったんだろ?
薬の値段が高くなったのは原料のスライムが中々取れねぇからで…
ヤバい強敵が出る狩場に行く時はギルドで転移石を買わないといけねぇんだろ?
後で転移石をギルドに戻せば使った金が全部戻って来るのも知ってるぜ?」
大男は眼鏡の男を見ながら歩き続ける。
「分かってるなら聞くな…今私は始まりの森の新しい情報が記載されている本を読んでいるんだ」
「本よりも実物見れば分かるだろ?ほら、もう始まりの森に到着したぞ?」
大男は目の前の看板を指差した。
「何っ、もう到着したのか…分かった、探索を始めよう。
いいか?絶対に敵にバレないよう静かに進め、分かったか?」
「大丈夫だって、ほら行くぞ〜」
眼鏡の男の指示に呑気に反応しながら森に向かって歩く大男、それを見た眼鏡の男はため息を吐きながら後に続いて始まりの森に入ったのであった。
(おっ?ありゃ何だ?)
大男は少し開けた場所に集まる魔物を発見したのだが…普通のゴブリン2体、金属のような光沢がある、手足の小さい変な生き物が2体…
(見た事ねぇ奴が居るな…なあ、アレは何だか分かるか?)
大男は鉄色の二足歩行する謎の生き物を指差して質問をする。
(あれは鉄小人と言うらしい…最近この森に現れた新種だ)
(マジか!アレ倒したら金になるかな?)
大男は背中に背負った斧を構えようとしたが…
(待て、鉄小人の情報をもっと知るためにこのままあいつらを観察する…絶対に攻撃はするな)
(分かったよ…)
大男は渋々頷き、ゴブリン達の動向を観察する。
「ギィギィ」
「ギギィ!」
ゴブリンが鉄小人2匹を向かい合わせに置き、その場から離れて近くの木の上に登った。
何してんだアイツら…
鉄小人はゴブリン達が離れたのを確認すると
シャッ!!
(うぉっ!!首の周りに剣みたいなヤツが沢山生えた!)
(姿をある程度変える事が出来るのか…)
驚く大男を無視し、眼鏡の男は興味深そうに鉄小人を観察をしている。
首辺りから複数の剣先のような物が飛び出した鉄小人達は
クルクルクルクル…
その場で綺麗に回転をし始めた。
回転は段々と速くなっていき…
ブーーーーーーン……
物凄い速さで回転をする鉄小人2匹はお互いにじりじりと近付いていき…
ギィン!!!
何と、回転している鉄小人同士が衝突し始めたのだ。何度もぶつかっては衝撃で離れる鉄小人達を見てギィギィと声を上げるゴブリン達。
(げっ!!)
(何だ…?仲間割れか?)
大男と眼鏡の男は驚きながらもこのとんでもない光景を眺め続けた。
キン!キン!
ギィィン!!
片方の鉄小人がもう片方の鉄小人に思い切り激突した瞬間
シュッ!!
ゴッ!!!
弾かれた鉄小人が冒険者2人の真横を飛び、後ろにあった木に深く突き刺さった。
あまりの出来事に顔を青ざめる冒険者2人。
(や、やべぇ…あんなの直撃したら死んじまう…)
(奴らに気付かれない内に逃げるぞ…)
大男と眼鏡の男は静かにこの場から離れた。
(おっ!あれってスライム…なのか?)
次に見つけたのは、鉄小人のスライムバージョンのような見た目の魔物1匹だった。
(あれは小人、と言うらしい…スライムのような弾力のある身体を持っているのでスライムの新種だと言われているようだ)
小人は木に実っている赤い果実をじーっと見つめている。
(へぇ…でもスライムはスライムなんだろ?アレ倒してギルドから大金貰おうぜぇ!)
大男は背中に背負った斧を構えると、スライムに向かって思い切り振りかぶった。
(おい!早まるな!)
眼鏡の男が攻撃を止めようとしたが間に合わず、大男は小人に向かって大きな斧を叩きつけた。
ドスン!!
「速っ!こいつスライムの癖に足が速い!」
小人は大男の斧を横っ飛びで軽々と躱すと、身体から赤い玉を大男に向かって勢いよく飛ばした。
パァン!
「なあっ!」
赤い玉が大男の顔面に当たり、大男は思わず斧から手を離してしまった。
「大丈夫か!?今助け「ボッ!!」ええっ!?」
眼鏡の男が呪文を放つ為に右手を小人に向けた瞬間、眼鏡の男の袖に火の玉がぶつかり燃えた。
「今…スライムが魔法使った…!?」
眼鏡の男は袖の火を地面に擦り付けてもみ消しながら目の前の小人を見た。
火の玉を放ったスライムと思しき小人は、顔を手で覆っている大男に向かって走り出し、そっと足に引っ付いた。
「あ…ああ……」
小人にくっつかれた大男は唸り声をあげながら地面に倒れ込んでしまった。大男の顔は真っ白を通り越して真っ青になっていた。
「!?」
眼鏡の男は慌てながら魔物避けの小瓶を取り出し、大男に駆け寄った。小人は小瓶を見た瞬間急いでこの場から逃げ出した。
(これは…悪魔に魔力を流し込まれた時の症状とよく似ている…いや、そんなまさか…)
眼鏡の男は小瓶を大男の近くに置き、急いで転移石をカバンから取り出して森からの脱出を図った。
「何事です?」
森の奥から突然、謎の美女が大男達の前に現れた。
真っ白な身体に真っ白な髪を持ち、純白のドレスを身に纏った美しいお姫様のような見た目をしていた。胸元には赤い宝石で作られたブローチが輝いている。
「は…?」
眼鏡の男は突然現れた美女に驚き戸惑っている。
(この女は魔物だ!それなのに何故魔物避けが効かないんだ!?)
眼鏡の男は魔物避けの小瓶と美女を交互に見ながら冷や汗をかいている。
「貴方達、この森の「うわあああ!!」
話を終える前に眼鏡の男が美女に向かって右手を翳し、特大の輝く火の玉を放った。
スッ……
放たれた火の玉は全て美女の右手に吸い込まれて消えてしまった。
「あ…」
驚き呆然とする眼鏡の男。
美女は魔法を吸い込んだ右手を天に掲げると
ボン!!
さっき眼鏡の男が放った輝く火の玉を右手から空へと飛ばした。
「あああ…」
男はあまりの出来事に腰が抜け、そのまま地面に座り込んでしまった。
「いいですか?これが最後の警告です…
今すぐこの森から出て行きなさい」
美女は真っ赤で美しい剣を大男達に向かって構えた。
美女の周りには怒った顔をした真っ白な妖精達が沢山集まっている。
「あ…ああ…分かった、すぐ出てく…」
眼鏡の男は何とか自分の意思を伝えると、転移石を地面に置いて右手で思い切り割った。
その瞬間、大男と眼鏡の男の周りの景色が森の中から建物の内部に変わる。
「あ、悪夢だ…」
そんな言葉を呟き、眼鏡の男は気絶して地面に倒れ込んでしまったのだった。




